「結局普通に朝になっちまったじゃねえか!? やっぱ夢じゃなかったのか!?」
大量のビールの空き缶が転がり、酒のにおいで充満されている探偵事務所の中、コナンは制服を着たまま起き上がった。
朝日が眩しく、今日もいい天気である。
「ぐご~~~、うう~~~ら~~ん・・・」
「にゅ~~、まことさ~~ん」
起き上がって部屋の中を見渡して目に入るのは、酔いつぶれて爆睡中の小五郎と園子。
昨日は蘭への失恋もあり、帰宅した探偵事務所で酒盛りをしていて既に酔っ払い状態の園子と小五郎の中に自分も入り込んで、少しヤケになって酒を飲んだ。
おかげで少し頭が痛い。
「か~~、こりゃあ完全に二日酔いだよ、・・・もう小学生じゃなくて高校生なのに・・・いや、高校生もダメか・・・いや、この世界的に実年齢は二十歳超えてんだし大丈夫か?」
少し痛む頭を抑えながら、苦笑する。
だが、その痛みがやはり現実なのだと思わせる。
「しっかし、寝て起きたら元の世界かと思ったけど・・・・どうやら違うみてーだな、・・・俺って本当にどうしちまったんだろ・・・・」
10年後の今の世界が現実だと、納得させられそうになる。
(まさか10歳若返ったと思ったら、今度は10年後の世界に居るなんて、俺ってどんだけ時の流れを捻じ曲げれば気が済むんだ~? おまけに・・・・幸せな未来じゃなさそうだし・・・・・)
そして、昨日蘭に失恋したことも、本当のことだと認めざるを得なくなる。
胸に残るチリチリとした切ない痛みが、幻のような世界の現実だった。
せっかく酒を飲んだというのに、朝からどうも暗い気分になってしまう。
昔なら「バーロ」なんて言って意地を張るが、負け惜しみも言う気にはなれない。
しかしコナンはシュンとしても仕方ないと思い、首を横に振って雑念を振り払おうとする。
「・・・ああ~~もう! とにかく本当に現状を確認したほうが良さそうだな。とりあえず・・・やっぱまずは博士に会って、本当のことを話したほうが良さそうだな」
自分が江戸川コナンになってからの最初の協力者である博士。
高校生が小さくなったことも信じてくれた彼ならば、このおかしな世界でも協力してくれるかもしれない。
「後は父さんと母さん・・・・それに灰原にも・・・・」
「哀ちゃんがどうかしたの?」
「うわッ!?」
指折り数えて呟いていた自分の背後からいきなり声がした。
振り返るとそこにはようやく帰宅したのか、蘭が居た。
「おはよう、コナン君」
爽やかに微笑む蘭からは、昨日のわだかまりも何も感じさせない。
昔から見てきた江戸川コナンに対する接し方だった。
もう十分泣いたのだろうか、いつもと変わらないその笑顔にホッとする一方で、胸が締め付けられる思いがした。
(まっ、そんなこと今更言っても仕方ねーんだけどな)
だから自分も江戸川コナンとして、挨拶する。
「おはよ、蘭ねーちゃん」
そして蘭はもう一度微笑んで頷いてくれた。
「ふふ~ん、それにしてもコナンく~ん?」
「えっ、・・・・何?」
「いつから君はお酒を飲んでいい年になったのかな~?」
「あっ!? い、いや・・・そ、それは!?」
「高校生がお酒飲んじゃダメでしょ!!」
イタズラをしている子供を叱るような蘭の言葉。高校生になっても子ども扱いを受けている事に、苦笑せざるを得なかった。
やがて蘭の声に小五郎も園子も目を覚まし、探偵事務所に朝から蘭の声が響き渡った。
「まったくお父さんまで~・・・・私やお母さんが仕事で居ないからって・・・・大体園子もよ!?」
「あ~~もう、悪かったって。ボーズが思いのほか酒飲めるもんでよ~、な~んか調子に乗って騒いじまったんだよ~」
「そ~そ~、ゴメンって蘭。でもね、次々と知り合いが結婚していく中で、とうとう幼馴染の蘭まで結婚するのよ? 酒飲まなくっちゃやってられないって」
「まったくも~、これじゃあ心配でお嫁に行けないじゃな~い。お母さん一人に任せるのは心配だし・・・」
まったく反省している様子のない園子や小五郎を叱りながら、蘭はため息をついた。
(はは、この構図は何年経っても変わらねーんだな)
だらしない父親や、不真面目な親友を叱る蘭。何年経っても変わらぬ光景が、うれしく、そして切なく見える。
だが、そこであることに気づいた。
(ん? あれ? 蘭のやつここを出るって・・・・まあ、結婚したらそうなるんだろうけど・・・・お母さんって・・・・)
そう、蘭の母親の妃弁護士は別居中のはずである。
しかしこういう会話をしているということは・・・・
「け~っ、確かに蘭が居なくなっちまったら・・・・また英理のマジー料理を食わなくちゃいけねーのかよ~」
「ちょっと、お父さん? せっかく帰ってきたお母さんが、それでまた別居になるなんて嫌だからね~?」
「わ~ってるよ~」
どうやらここにも10年の変化があった。
(そうか・・・おっちゃんと妃先生、仲直りしたんだな)
一生仲直りは無理ではないか? と思わせる場面もあれば、本当に別居中なのか? と思えるほどのラブラブな二人を何度か見せられていたのだが、どうやらこの二人も元の鞘に戻ったようである。
(ったく~、こっちは失恋したってのに、そっちはハッピーエンドかよ)
自分と蘭と小五郎と英理の四人の生活などまったく覚えていない上に、想像も出来ないが、よくそんな家で10年も暮らせたなと、コナンは思わず苦笑してしまった。
「じゃあ、僕は学校行ってくるよ。いってきまーす」
なんとなく、ここに居ると少しまだ切なくなる。今は早いところ博士の家に行くのがベストだろうと、コナンは判断して家を出ようとする。
しかし・・・
「「「へっ?」」」
三人がキョトンとした顔をしていた。
「どーしたの蘭ねーちゃん?(なんかまずいことでも言ったか?)」
「えっ、・・・・ううん・・・えっとね・・・」
蘭が少し戸惑っていた。
すると小五郎が怪訝な顔で睨む。
「なんだ~? オメーいい年して、ガキみてーな声出しやがって」
「・・・へっ?」
「ガキンチョ・・・その年でいってきまーす・・・はないわよ」
「でも、昔のコナン君みたいで可愛かったよ? ちょっと甘えん坊に見えるけどね♪」
「あっ・・・・・」
そうだった。
今の自分は小学生ではない。
元の17歳の高校生の姿なのである。つまり、子供のフリをする必要などまったくないのである。
(そ、そーか・・・・俺はもう高校生だから、元の工藤新一のときと同じで良いんだ・・・)
工藤新一がコナンとして工藤新一と同じような態度でいい・・・自分でも訳の分からないことに笑ってしまう。
「・・・・よっし、じゃあ俺は行ってくるよ!」
「あっ、ちょ・・・コナン君! ・・・・行っちゃった・・・」
とにかく今日は早く出て、この10年だけでなく、自分の対応の仕方なども知らないとまずいことになりそうである。蘭がまだ何か言っている様な気がしたが、コナンは構わず行ってしまった。
「なんだ~、あいつ?」
「ちょっと変だったよね~。蘭、何か知らない?」
「へっ? ・・・・う~~ん・・・・そ~ね~・・・コナン君も色々あるのかもね」
「あっ、さては何か知ってるな~?」
「ダーメ。コナン君と私の秘密♪」
蘭は昨日の出来事を不意に思い返した。
ずっと弟のように思ってきた少年が、初恋の人と同じ面影で自分に告げてくれた想い。
それがうれしくもあり、しかし複雑でもあった。
そんな表情で、コナンの出て行った扉を眺めていた。
「・・・あれ? でもあのガキンチョ、一人で学校行っちゃって良かったの?」
「う、うん・・・それが私も・・・今日はまだ哀ちゃんが来てないのに・・・・今日は一緒に行かないのかな? ・・・・それに・・・・」
「それに?」
―――コナン君・・・どうして昨日になってあんなことを突然言ったんだろう・・・・