まったく記憶にございません   作:アニッキーブラッザー

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第6話 ガキたちも今では……

「は~~、ようやく堂々と高校に通えるっつうのに、なーんか、あんまうれしくねーな」

 

工藤新一としてではないからか? もしくは蘭が隣に居ないからか? 

どちらにせよ、疲れた子供のフリからようやく解放されたというのに、どうも気持ちが乗らなかった。

気落ちした表情でコナンが帝丹高校の校門を潜ろうとした。すると突然、学生服ではない一人の男がコナンを呼び止めた。

 

「よう、名探偵。一限をサボって堂々と登校とは、いい度胸じゃないか」

「ん?」

「社会の罪を暴く探偵君が、校則も守れないようではダメだろう」

 

どこか見覚えのある顔と聞き覚えのある声がした。

その男はニヤッと笑いながら自分に近づいてくる。恐らく教師の一人だろう。しかし見覚えのないコナンは一瞬焦った。

 

(ヤッ・・・ヤッベー・・・・知らねえよコイツ。新任か? やっぱ10年経ってると、教師の面子も変わるんだな。・・・しっかしコイツ・・・・な~んか、見たことあるような顔だな)

 

どこか引っかかる男の対応に困っていると、幸いなことに男は勝手に一人で喋るだけだった。

 

「おいおい、疲れているのか? それじゃあ、今度あの怪盗と戦っても、また逃げられるんじゃないか?」

「怪盗・・・・・KIDか!?」

「ん? そうそう、俺は君とあの怪盗KIDの戦いを毎回新聞で楽しく見てるんだ、また盛り上げてくれよ♪」

 

KIDの名前を出されて、コナンが意外な反応を見せていることに、男は逆に意外そうにしているが、構わずしゃべっている。

 

(KIDか・・・・まさか10年経っても、あのキザなコソ泥を捕まえていないなんてな・・・・)

 

変わらぬ宿敵に少し笑みを零すと、目の前の男は気がすんだのか、遅刻のコナンを叱ることもせず勝手に消えていた。

 

「・・・・って、居ねえし・・・・結局あいつは誰だったんだ?」

 

なんとも砕けた教師だなと、コナンがため息をついていると、今度は背後から別の人物に声をかけられた。

 

「おはよう、コナン君! 遅刻はダメだよ♪」

「え・・・・えーと・・・・」

「はい、そんなコナン君にプレゼント♪」

 

振り向いたら今度は一人の女子生徒が、振り向いた瞬間に「ボンッ」と一本の薔薇を何も持っていなかった手から出してコナンに差し出した。

 

「へっ?」

「あ~、コナン君反応悪いな~、やっぱコナン君はこの程度の手品じゃ驚いてくれないか~」

 

少女は灰原のような茶髪で、腰まで伸びた長い髪を靡かせてた可愛らしい笑顔の女生徒だった。

当然見たことない生徒に悩むコナンだが、手品を使ったことと、少女の顔をよく見たらなんとなく心当たりが思い浮かんだ。

 

(手品? あれ? この子・・・・ひょっとして帝丹小に居なかったか? ・・・小学生の時に手品関係でかかわっていたのは・・・・それにこの顔・・・・ひょっとして・・・)

 

とりあえず恐る恐るコナンが名を探るように呟く。すると・・・

 

「・・・九十九・・・さん?」

「も~~、コナン君。文乃でいいってばー」

 

少女はバンバンとコナンの背中を叩き親しげに微笑む。その瞬間、ようやくコナンも少女の正体がわかった。

 

(あ~、この子やっぱり手品師の九十九元康の娘・・・確かD組にいた・・・九十九文乃ちゃんか・・・)

 

世界的なマジシャンとして有名だった九十九元康が殺害された事件。

その事件の真相を解き明かしたのが毛利小五郎と共に、九十九邸についていったコナンである。

目の前の少女は当時小学校の同級生で、その九十九元康の娘である。コナンもクラスは違ったが、少女とは事件前から友達だったため、懐かしそうに頷いた。

 

(お父さんが殺されてあの事件の後はしばらく元気なかったけど、10年も経ってるからな。元気そうで良かった)

 

悲劇に見舞われ、父親を失った彼女だが、今もこうして真っ直ぐに成長している姿が、なんだかコナンもうれしくなり笑った。

すると少女はニコニコした笑みで、さらにコナンに近づき、下から顔を上目づかいでのぞいてきた。

 

「ねーねー、コナン君、さっき黒羽先生と何話してたの?」

「えっ?」

「なーんかコナン君が戸惑ってたから、気になったの」

 

どうやら先ほどのやり取りで、コナンが対応に戸惑っていたのを見ていたのだろう。

 

(黒羽・・・そうか、携帯に入ってた黒羽快斗って、ここの先生だったのか。やけに親しげだったけど、結構仲良かったのか?)

 

また考えるそぶりを見せるコナンに文乃も少し笑顔が消えてコナンが何かいつもと違うのに気づき、少し心配そうに尋ねてきた。

 

「・・・・ん? なんか・・・コナン君、元気ないね。何かあったの?」

「へっ? ・・・・分かるの?」

「チッチッチ、当然なのだよホームズ君♪」

 

見透かされてしまった。

 

少し驚いた顔でコナンはビクッとなったが、よくよく考えれば今の彼女は小学一年生ではなく、正真正銘自分と同じ高校二年生で同級生なのである。

 

(そっか・・・って、マジいな・・・つーことは小学生と違って、今度からはヘマやボロ出したときの誤魔化しも簡単にはきかねえぞ~)

 

今まで子ども扱いしていた子達が本当に同級生になっているというのはどこか複雑な気分になった。

 

「何で分かるの? ・・・・じゃなくて、分かるのか?」

「分かるよ~。だって、いつもコナン君のこと見てたもん! 私だってわかるよ。ねえ、教えて! 何か私に出来ることない?」

「え、ええ~~? (ストレートだなこの子・・・今の時代の高校生はこうなのか?)」

「さあさあ、早く罪を認めて白状しなさい! 田舎のお母さん泣・い・て・る・ぞ~♪」

 

ふわりと髪をなびかせて、文乃は目の前でウインクしてコナンに詰め寄った。

年下だったくせに今では自分と対等ぶって、まるでお姉さんぶった冗談めいた口調でコナンに詰め寄る文乃に不覚にも少し赤くなってしまったり、10年という月日の子供たちの成長に苦笑し、コナンは観念して口を割った。

 

「まあ・・・・そーだな。実は小学生の時からずっと好きだった女にフラれてな。ちょっと落ち込んでんだよ」

「えっ? ・・・・フラれた?」

「ああ・・・他に好きな男が居るんだって。まあ、・・・・俺が全部悪いんだけどな・・・・」

 

この時は、誰でもよかったのかもしれない。

失恋した気持ちを誰かに聞いてもらえれば、相手も小学生ではないのだし、心も少しは軽くなると思って、それほど抵抗は無かった。

それほど今のコナンは少し気落ちしていた。

だが、コナンはこの時ミスを犯した。

話した相手とこの10年後の世界の相関図が事態をややこしいことにした。

 

「・・・・何で? 何でコナン君がフラれるの? それに・・・・コナン君が悪い? 他に好きな人が出来た?」

 

文乃のトーンが若干下がった、

 

「ああ・・・・・だから・・・俺の気持にはもう応えられないんだとさ。まっ、しかたねーさ・・・・それにあいつの幸せを考えると、それが良かったのかなって・・・・・」

 

儚げに呟くコナンの傍らで、文乃の表情から笑顔が消えていた。

そしてプルプルと肩を震わせ、彼女はまるで自分のことのように怒り出した。

 

「な、・・・・なによそれー! そんなのおかしいよ! なんでコナン君がフラれるの!?」

 

突如学校全体に響き渡るような大声で、文乃は顔を真っ赤にして怒った。

 

「えっ? そりゃあ・・・・やっぱ・・・・俺が悪いから・・・・」

「そんなことないよ! だってコナン君今まで色んな女の子に言い寄られても、一筋だったじゃない!!」

「つ、・・・・九十九さん?」

「私・・・知ってたよ。コナン君は内緒にしてるけど、コナン君の好きな人・・・・その人もコナン君をずっと好きだってことも・・・・その人がいるからコナン君、中学の時・・・・私の告白断ったんでしょ?」

「えっ!?」

 

普通に声を出して驚いてしまった。

 

(俺・・・告白されてんのかよ!? うわ~~こりゃ~人選間違えたな・・・・)

 

などというコナンの心の声を知らずに、文乃はスカートの裾を両手でギュッと握りながら少し涙目になっていた。

しまったと思いコナンが慌ててなだめようとするが、文乃は少々興奮気味に騒ぐ。

 

「コナン君は女の子にすごい人気があったけど本命一筋だった・・・・だから私もあきらめてたのに・・・・なのに・・・・許せないよ・・・・そんなの・・・・」

「だ・・・だから俺が本当に悪いんだって! 頼むからもう落ち着けよ」

「いや!! 私、許さない! 私だってコナン君が好きだったんだから、他人の恋愛に口を挟むな、なんて言われても黙らない!」

「バーロ! 待てって言ってんだろ!」

「ッ!?」

「あっ・・・・ワリーな、つい怒鳴っちまってよ」

「コ、・・・コナン君・・・・・」

 

突然怒鳴ったコナンに、今度は文乃がビクッと驚いてしまった。そして呆然とした目元にボロボロと涙が浮かんでいる。

するとコナンはとても穏やかな口調で、小さく笑いながら文乃に告げる。

 

「いいんだよ・・・これで・・・・何も出来ねえバカな男のために涙を流してたあいつが、ようやくその涙を拭ってくれる人に出会えたんだ・・・・もう二度と・・・あいつの涙だけは見たくねんだよ、その隣に俺が居なくても・・・俺の事が忘れ去られようともな・・・」

「・・・・・・・コナン君・・・」

「へっ・・・・格好つけてて、格好悪いだろ?」

 

コナンの強く決意を秘めた、そして悲しみと儚さを含んだ瞳に微笑まれ、文乃はそれ以上何も言えずに涙を流した。

コナンは文乃と帝丹小学校ではクラスも違い、それほど仲良かった記憶はないが、この10年ではこんな風に自分の話しで泣いてくれるほどの親しい関係なんだなと実感し、心のどこかで嬉しく感じた。

自分の恋は終わったのかもしれないが、こうして続いている友情があるんだなと、この10年の変化にようやく喜びを見つけた気がした。

 

「なあ、もう泣き止んでくれよ」

「う、うん・・・ゴメン・・・・」

 

校門の傍で騒いでいた二人。

文乃はお世辞抜きで可愛らしく、表情もくるくる変わり、優しい心を持っている。だから恐らく学校でも人気があるのだろう。コナンも今の文乃の話ではそれなりに人気があるのだろう。

そんな二人が校門の前で騒いで、しかも片方が泣いているとそれは気になる光景だろう。気づけば休み時間で外に居る他の生徒たちもザワザワと騒いでいる。

コナンもそんな視線に居たたまれず、苦笑しながら文乃を少し急かしてあやす。

 

「な、なあ。そろそろ授業も始まるぜ? 涙拭いて、早く行こうぜ?」

「う、うん・・・分かった・・・・もう大丈夫だから」

 

目をゴシゴシ擦って、泣きはらした顔で文乃はニカッと笑った。それだけで、何となくコナンも文乃に話して心が救われたような気がした。

 

「ありがと、九十九さん」

「ううん、こっちもゴメン。でしゃばっちゃって」

 

ようやくお互い笑い合い、二人はゆっくりと校舎の中へ入っていく。

 

「でも・・・話を戻して悪いけど、やっぱりコナン君がフラれたなんて信じられないな~」

「そうか?」

「うん、・・・・ねえ・・・ひょっとして何か勘違いとかじゃない? 好きな人が出来たっていうのも、コナン君の気を惹くためのウソなんじゃない?」

「はは、んなことねーよ。大体、そんな人の心を試すような奴じゃねーしな。あいつの親友はそんな作戦提案してたけど、あいつは一回も実践しなかったからな」

 

よく園子は蘭に対してラブラブ大作戦と称して、他の男と仲良くすることで新一の関心を惹こうと提案していた。その作戦をコナンの姿で毎回聞いてヤキモキしていたが、蘭は一度も実践しなかった。

それが自分にとってはつい最近のはずなのにと苦笑してしまった。

だが、文乃は首を横に振る。

 

「・・・分からないよ・・・、コナン君ってモテるし、・・・恋愛に関しては鈍感な迷探偵だし・・・・」

「そ、そ~か~?」

「うん、本当に! だから・・・やっぱりもう一度だけ話し合ってみて。もしただの勘違いだとしたら・・・やっぱりそんなの悲しいよ・・・・」

「いや・・・話し合うも何も・・・」

「お願い! そうじゃないと・・・本当にフラれたんじゃないと・・・・私だって・・・・」

「九十九さん・・・」

 

文乃が何を言いたいのか、いくら鈍感な自分でも理解できた。

もっとも話し合うなどというのは既に意味のないことなのだが、文乃の表情を見るとどうしても断りきれなかった。

すると曖昧な表情をしているコナンを見て、文乃はクルッと反転してコナンの目の前で止まって、もう一度笑った。

 

「もし・・・もし本当にフラれちゃってるんだったらその時は・・・お詫びに黒羽先生より凄いマジックをコナン君には特別に無料で見せてあげる!」

「おいおいおいおい」

「そして、・・・・私が怪盗KIDより華麗なマジックで、コナン君を奪いに参上するからね♪」

「はあ? おいおい俺は探偵だぜ?」

「ふふーん、じゃあ約束だからねー!」

 

それだけを告げて文乃は再び反転して走り出し、もう一度振り返りながらコナンに手を振り自分の教室へと向っていく。

 

「ったく・・・・やっぱ10年ってスゲーなー。元太たちもそうなのかな?」

 

文乃の姿を見て、昨日はゆっくり話せなかった少年探偵団たちも彼女のように大人になっているのかなと思うと、うれしいような寂しいような、親のような心境になった。

文乃との話で、鬱な気持ちから救われたコナンは少しだけ足取り軽く、今後の生活も少し楽しみに感じながら自分の教室へと向っていった。

 

・・・自分のクラスを知らずに、少し時間が掛かったのだが・・・・

 

しかし、その僅かなタイムロスが肝心だった。

 

校門の前で、大声で話していたコナンたちの会話の内容は、瞬く間に学校全体に広まっているのだった。

 

その内容とは・・・

 

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