この先は最初からフェイタルエラー、ツマリ致命的なネタバレを含みマス。
ご注意クダサイ、よろしいデスネ?
………………OK>
この星を訪れるのは二回目だが、やはり環境が好みには合わないようだ。肌を刺す陽射し、荒廃した大地に見渡す限り続く砂漠。風の一つも吹きやしない。遺跡として残る古代文明が無ければ、こんな星にさしたる価値は無いのだろう。
今すぐにエアコンの効いた部屋に戻り、好物のアイスクリームを太らない程度に食べて休みたい。かつての自称美人秘書スージー、現ハルトマンワークスカンパニーのスザンナ・ファミリア・ハルトマン社長代理は、そんな欲望を必死に抑えながら専用のインベードアーマーであるリレインバーに乗って炎天下の空を駆けていた。
ホロビタスター。かつての栄光の跡地を彼女は上空から忙しなく眺め続けている。
「あー、もう、暑い! 焼けちゃう! 紫外線がお肌の大敵だなんて、化学的に証明しなくても明らかなのに!」
全てはあのピンクの原住民が悪いのだ。そう結論付けることによって、彼女は猛烈に湧き出る不満を一時的に忘れることに成功した。
まず前提が悪い。現在、スザンナが拠点としているブルブルスターは極寒の雪で覆われた惑星であり、そこからひとっ飛びして灼熱の大地に降り立ったのが運の尽きだったのだろう。生物は急激な気温の変化に耐えられないものなのである。
リレインバーの耐熱装備をもう少し強化しておくべきだった、そんなことを考えてみても後の祭り。使命を果たすまでは帰るつもりの無い彼女は紫外線の猛攻を耐えながら探し物を求め、後に訪れるアイスクリームという名の至福を夢に見ているのだ。
対策を怠った自己責任だとは、どうしても認めるわけにはいかなかった。
「……あら、お勤めの最中なのに。集中力を切らすなんて、美人秘書らしくありませんわ。キャハッ! ……はあ、虚しい」
青い目を若干濁らせながらも、スザンナは十メートル程下に広がっている砂と岩が混在した地表へと目をこらしていた。
この付近に落ちたという探し物は金属なので探知機を使えばいいのかもしれないが、残念ながらホロビタスターはかつて栄えていた文明があったらしく、金属などそこらに限り無く埋まっているのだ。反応をいちいち確認していたら逆に時間がかかってしまう。ゆえに、取れる手段はバイザー越しの肉眼のみになるというわけだ。
勿論、バイザーには視力補正などの機能が盛りだくさんだが、やはり彼女自身の集中力には限界というものがあるらしい。既に一時間程は飛び回っているが、明らかに当初の元気は無くなっていた。
一旦、どこか日陰にでも隠れて休憩しようか。そんなことを考えて最後に一つ周囲を見渡してみると、彼女の眼に荒れ果てた砂漠には不釣り合いなそれが映りこんで来た。
「やーっと見付けたぁ!」
リレインバーをフルスロットルで稼働させ、空気圧も何のそのとスザンナは駆ける。
降り立ったのは、朽ち果てた地下遺跡らしき場所だった。インベードアーマーが二体ほどは通れそうな穴が空いた石造りの屋根もほぼそのまま残っており、意図せずに彼女は望んでいた日陰へと案内される。
そして、探していたそれは手と足をだらりと投げ出し、眠るかのようにそこへ鎮座していた。
人型、というには頭身が無いに等しい。ボールに手と足を付けただけのような不恰好な物体、ハルトマンワークスカンパニーが保有するインベードアーマーの一体がそこにはあった。
いや、この呼称は不相応なのだろう。誰かの言葉を借りるならば、そう、ロボボアーマー。ピンクの彼と同じ色をした世界に一つしか存在しない個体だ。機能を停止してもなお、この機械は主人のものであり続けている。
それにしても神秘的な光景だった。
たった一筋の金色の光がロボボの落下によって作られた天井の穴から降り注ぎ、ピンク色の身体を照らしている。遺跡は砂と石で満ちているというのに、その周囲だけは絨毯となるように草で覆われているのだ。
まるで遺跡がロボボを特別扱いしているかのように整えられた環境は、スザンナですらも息を呑む程に神聖さと美しさを感じさせられてしまっていた。
「まさか、こんなわかりにくいところにいるなんてネ。あんたがそんな形になってなかったら、今すぐぶっ壊してあげたいわ」
若干の苛立ちを見せながらリレインバーを降り、メットを外し、スザンナは光の前へと立った。ロボボは身じろぎ一つせずに座り込んでいる。
「本当はね、あんたを解剖してあの原住民を研究してもいいかな、なんて思ってたのよ。あんな変な生き物、他のどこを探したっていないし。だけど……」
彼女には確かに見えている。胴体なのか顔なのかがわからない、それでも確かに付いているロボボの両目から下に向かって刻まれている涙の跡が。
果たしてこれはオイルなのか、宇宙空間の水分が形となったのか、生み出された本当の涙なのか。最早どうでもよかった。確かなのは、ロボボは生物のようにして涙を流した。それだけなのだ。
「こんなの見せられたら、解剖なんて出来ないじゃない」
溜め息を吐き、スザンナは目を閉じた。本当ならば今すぐにこれを持ち帰って目標を達成させてしまいたい。どのような扱いをするにしても、それは確定している事なのだから。
しかし、彼女は動く気になれない。もう少しここでロボボと過ごしていたいと、そんなことを考えてしまっていた。
「申し遅れました。わたくし、ハルトマンワークスカンパニーの社長秘書スージー……改め、社長代理のスザンナ・ファミリア・ハルトマンと申します。以後、お見知りおきを」
秘書と違って社長は気まぐれなのだ。ぺこりと頭を下げてから浮かべたそれは、営業用とは違う見事なものだったのだろう。