遠い昔の話、と前置きをするには最近の出来事なのかもしれない。何にせよ、過去の話なのだ。
ポップスターから遠く遠く離れた誰も知らない惑星に一人の男が住んでいた。彼の名前はゲインズ・インカム・ハルトマン。通称はプレジデント・ハルトマン。名前の通り、小さな会社ではあるが社長だった。
彼の夢は自分の出世と、会社の繁栄。そしてお金を稼いで唯一の家族である娘に良い生活をさせてあげたい、ただそれだけの大きくて小さな望みだった。
ある日、彼は一つの噂を耳にした。近くの違う星に大きな彗星が落ちたのだと。
何となくお金の匂いを感じ取った彼はお得意の機械を使って現場に直行し、彗星らしき物を探す。そして巨大な羽が付いた複雑な模様の円柱を見付けた時、どこからか声が聴こえた。
「アナタが……新しい……ゴシュジン様……ですね。」
その日ハルトマンが手に入れたのは、決して起こしてはいけない力だった。
☆
彗星と銘打たれた円柱を持ち帰って調べてみると、徐々にではあるが真実が明らかになってきた。
彗星とは流れ星、流れ星といえば願いを叶える。ハルトマンによって星の夢と名付けられたこの機械はハルカンドラなるところで作られたらしく、銀河どころか次元を渡ってこの辺りに漂着したのだとか。
正体は、超高性能なスーパーコンピュータ。少なくとも彼が知る限りでは類が無い、人智を超えた頭脳を持つ機械だった。
これを使えば、自分は天下を取ることが出来る。そう確信した彼は星の夢をどうにか扱ってみせようと頑張るのだが、やはり難しい。少し喋ってみせた後に完全に壊れてしまったこの機械を修理することですら、今の彼には難儀なことだったのだ。
修理と並行してゆっくりとハルトマンは星の夢からデータを引き出していく。
次にわかったのは、このコンピュータは名義上は人々の夢を叶えるために作られたものだということだった。といっても奇跡を起こすような力があるわけではない。ただ、それだけの頭の良さを持っているというだけらしい。
なるほど、実に素晴らしい。こうなったら自分がこれを星の夢と名付けたのは正しかったのかもしれない。これはハルトマンワークスカンパニーが天下を取るのも近いかもしれないな。などと考えてほくほくと笑いながら、彼は作業の手を速めていった。
きっと、この時からなのだろう。ハルトマンが星の夢の一部と成り果て始めたのは。
「あっ、パパ。お帰りなさい」
夜も遅い時間。疲れ果てたハルトマンが研究所のすぐ近くにある家に帰ってみると、まだ十歳を超えたばかりの一人娘、スザンナが玄関で出迎えてくれた。
もうすぐ日付が変わってしまうような時間だ。こんなに遅くまで起きていたら駄目だと叱ってみると、彼女はしょんぼりと謝りながらも父と一緒にご飯が食べたかったのだと言って台所に逃げて行ってしまった。
出て来たのは、とても暖かいシチューだった。このシチューの何と美味いことか。不恰好な野菜、雑な味付け、付け焼刃の知識で作ったのは明らかだというのに、彼にはどんな高級な料理よりも高級な物に思えた。
そうだ、自分が星の夢に掛かりきりになっている間、スザンナはずっと一人で寂しくしているに違いない。世話用のロボットは付けてあるが、彼女の傍にいられる生き物は自分しかいないのだ。
ハルトマンは急に恥ずかしくなった。この子を幸せにしてやりたいがために会社を大きくしてやろうと思っていたのに、今こうして顧みてやれていない。大切なものを、失ってしまっているではないか。
涙が溢れ出た。スザンナは自分が作ったシチューがとても不味かったのだと勘違いして、慌てていた。
この日からたまに、ハルトマンは研究所にスザンナを連れて行って手伝いをしてもらうようになった。出来るだけ一緒に過ごす時間を増やしたいという配慮だったのだが、これは彼女の希望でもあるのだ。曰く、今の内に父の仕事を学んで、将来は会社の手伝いをしたいのだと言う。
妻は彼女を産むと共に旅立ってしまった。だというのに、ここまで愛に満ちた優しい子に育ってくれるだなんて。
何か彼女にしてあげられることはないだろうか。ハルトマンは考えるが、残念ながら彼はとても不器用だった。素直に言葉にして気持ちを伝えることが出来ないのだ。
だが、彼には武器がある。手先の器用さ、機械の知識。機械いじりなら近くの星々の誰よりも上手い自信がある。
そうだ、プレゼントを渡そう。彼女の誕生日に、自分が作れる最高の物をあげよう。
「しかし、何がいいか……」
残念なハルトマンは、子供が何を貰ったら喜ぶのかがいまいちわからない。普通ならおもちゃなどが思い付くが、スザンナがそういった物を欲しがるとも思えない。
というよりも、おもちゃの類はもうとっくにたくさん渡してしまっているのだ。彼女を寂しがらせないための最大の配慮だった。
思い付かないままに時間が過ぎ、誕生日が近付いて来る。このままでは何もかもが中途半端になってしまう、それを恐れた彼はプレゼントのことは一旦忘れて星の夢に集中することにした。
星の夢に入っていた最も大きな情報、アクシス・アークスについて調べ始めて暫くになる。言うなれば星の夢の強化武装であり外部装甲であるそれは、完成させてしまえばハルトマンワークスカンパニーの本社であり工場であり家にもなる。これ一つがあれば何でも出来てしまうような素晴らしいものだった。
しかし、それだけに高い技術力と素材と時間が必要になる。今のハルトマンにはとても作れそうにない。
それにしてもアクシス・アークスに搭載された武装は変なものばっかりだ。蛍光灯であったり、ピアノの鍵盤であったり、風見鶏であったり。それらしいビームや亜空間を利用した攻撃も可能らしいが、やはり眉唾ものだ。
「ん、これは?」
そんな折にハルトマンは一つの武装に注目した。遠隔操作が可能な、生きた金色の懐中時計。牙が付いているのさえ見逃せばとても綺麗な逸品だった。
「これである!」
思い立ったが吉日、今度は星の夢を放り出して作業場へと急いだ。ロボットの手なんて借りはしない、自分の手だけで最高の物を作ってみせる。
製作には半月もかかり、完成したのは誕生日の前日のことだった。スザンナが研究所に来ているので、彼女の眼を盗んでそれを作るのはやはり一苦労だったのだ。
「あー……オホン! スザンナ、誕生日おめでとう」
手先は器用でも心が不器用なハルトマンは、無駄に尊大な態度で娘にプレゼントを渡した。スザンナが立派な箱を開ける。そこに堂々と収まっていたのは、金色のシンプルな懐中時計だった。
牙なんて生えていない、人を攻撃したりなんてしない、ただの普通の懐中時計。それでも、ハルトマンの全てが詰まっている。どんなに時間が経っても針はずれないし、落としてしまってもそう簡単に壊れない。彼女の寿命が続く内にバッテリーが切れるような心配も無い。世界で唯一の、最高の時計だ。
スザンナはとても喜んでくれた。それはそれは、ハルトマンが知る限りでは一番の喜び様だった。娘が喜んでくれたから、彼も嬉しくなった。
これは繋がりだ。懐中時計が動いている限り、彼女はきっと自分のことを忘れないだろう。正真正銘の親子の絆、それが形になっているのだから。
そう、動いている限りは。
「ス、スザンナ……本当にいいのであるか?」
「心配しなくても大丈夫よ、パパ。あたしにかかれば、こんな機械なんてちょちょいのちょいなんだから!」
数年の月日が経ち、星の夢が完成を迎えようとしていた。ハルトマンがこれを拾ってから十年近くになる。
本来なら、喜ばなければいけないところなのだろう。しかし、彼は徐々に怖くなっていた。本当に星の夢を起動させてしまっていいのだろうかと。
星の夢の力は強大だ。それこそ、当初からの予想を圧倒的に超えてしまうぐらいに。これを起動させてしまったら、世界のパワーバランスは壊れてしまうのではないだろうか。そして、一番近くにいる自分達も壊れてしまうのではないだろうか。
嫌な予感が胸を襲う。だが、やらなければいけない。全てはスザンナのために、彼女を幸せにしてやるために。宇宙一の社長にならなければならないのだ。
起動のためには、誰かが星の夢に乗り込む必要がある。立候補をしたのはスザンナだった。
確かに最適な人選だ。ハルトマンは実験最中に色々とやらなければいけない事があるし、乗り込むのは生き物でなければならない。情を捨てれば彼女が選ばれるのは当然のことだと言える。
しかし、あまりにも危険すぎる。何が起こるわからない。出来る限りの調整は続けてきたつもりだが、特に時空転移プログラムはどうしても不安定なまま残されてしまっている。
何度も危険性を説明した、何度も考え直すように説得した。それでもスザンナは折れない。
「パパが頑張ってるんだから、娘のあたしが協力するのは当たり前でしょ。パパの夢、会社のためよ。キャハハッ、あたしって良い娘ネ!」
違う、そうじゃない。もう会社はどうでもいいのだ。
昔は確かに野心に燃えていた、出世こそが全てだと思い込んでしまっていた。だけど、スザンナが生まれ、妻が亡くなったあの時から世界は変わった。
娘を、娘だけは幸せにしてやらなければいけない。それが自分に残された一番の使命なのだから。
「それに、何があっても大丈夫よ。だって時計が護ってくれるもん」
「……ああ、そうだな」
そうだ、動き続けている。彼女の首にぶら下がった時計がある限り、きっと大丈夫だ。
強化ガラス越しにスザンナがリレインバーから星の夢に乗り移るのを確認して、ハルトマンは目の前にあるコントロールパネルに目を向けた。たったのボタン一つ。これを押してしまえば星の夢は起動する。あまりにも簡単な最後の作業だ。
また、嫌な予感がよぎった。全てが終わってしまうような、そんな予感が。
「大丈夫、大丈夫であーる!!」
叫んだ、叩き付けるようにして指をパネルに押し当てた。
独特な機械の起動音が響き、星の夢に色が生まれ始める。そう、ハルトマンがかつて見た、あの綺麗な姿に戻ろうとしている。
これは成功だ。そう言いかけた。
「……R……E……A……D……Y……………………致命的ナ……エラー……ハルカンドラヘノ要請、起動……シークエンス……時空転移……プログラム……」
「は?」
星の夢が歪な音を醸し出す、不気味な発光が大きくなる。何だこれは、こんなものを起動させるつもりなんてなかったのに。
「スザンナ!!」
慌てて逃げ出そうとしている娘を助けようと、コントロールパネルにある緊急停止ボタンを殴打する。しかし、止まらない、発光が更に大きくなっていく。
スザンナは逃げられないのか、どうして逃げられない、飛び降りればどうにかなるだろう。マイクに手をかけた。
「スザンナ、リレインバーを使うのである!! 急いで脱出を!!」
スザンナが必死に首を振る。何だ、ガラス越しの視線を横に向ける。どうしてリレインバーが動いていないのだ。
星の夢から発せられている電気の渦がエラーを起こしてしまった、そうとしか考えられない。向こうのマイクも壊れてしまっているのか、何かを叫んでいるスザンナの声が届いて来ない。
今、助ける。絶対に助けてみせる。駆け出そうとした。スザンナの口が動く。
来ないで、逃げて。そんな形になっていた。思わず足が止まった。
「スザンナァァァァァァァ!!」
光が溢れる。
☆
全てが終わった後に見たのは、破壊し尽されて何もかもが無くなってしまった実験場。残されていたのは、また色を失って横に倒れた星の夢だけ。
よろよろと、ハルトマンは星の夢に近付いて行く。スザンナはどこにもいない、消えてしまっている。
何かを踏んだ。じゃらりと音がした。
拾い上げた懐中時計は壊れていた。
「私が、私達が……何をしたというのだ。ただ娘のために会社を繁栄させようとして、その結果がこれなのか」
涙すらも出て来ない。失ってしまったのだ、全てを。
「お前は夢を叶える機械なのだろう、私が直して起こしたのだろう。なら、どうして夢を叶えない。娘を幸せにしてやりたいという、私の夢を!」
激情が渦巻く、何もかもがハルトマンの中から時空の彼方に消え去って行く。
「今こそ叶えてみせろ。私の今の夢を、娘に会いたいという夢を! 技術も、資源も、金も。身体も記憶も心さえも捧げてやる! だから叶えろ、星の夢よ、私の願いを、夢ヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲ!!」
わかっていたというのに。機械は願いなんて叶えてくれない、そんなことはとっくに。
この日、スザンナ・ファミリア・ハルトマンとゲインズ・インカム・ハルトマンはいなくなった。
☆
「なーんていう事だったのよ」
自分自身の予想も入っている。しかし、体験と調べた情報を繋ぎ合わせてみればこんな話になるらしい。
星の夢の入手手段だとか、どのようにしてハルトマンが修理を行ったのかなど、細かいことは何もわからない。ただ、きっと執念だけだったのだろう。娘である自分を、スザンナを幸せにしてやりたいという執念だけ。
「本当に、バカ。会いたいなんて願っても、あたしのことを忘れてたら意味無いのにね」
再開したハルトマンは全ての記憶を失い、かつての優しい心さえも消え失せてしまっていた。残っていたのは、手段のはずだった会社の繁栄という目的のみ。
時空転移プログラムは、本当に二人の全てを転移させてしまったのだろう。
「別に、恨んだりなんかしてないのよ。全然思い出してくれないのはホントにムカついたけど」
ロボボに浴びせてやるように、ありったけの感情を溜め息に乗せた。
スザンナが今いる場所はロボボの操縦席だ。機能を停止したロボボが姿を変えてしまうことはない。一番近いのはここだから移動した、ただそれだけの話だ。
先程から愚痴のように話しているのは、今までの自分の経緯だ。誰かに話すのは当然ながら初めてだった。動いていない相手だから、これもノーカウントなのかもしれないが。
だが、溜まりに溜まった鬱憤を晴らすにはちょうどいい。
「それで何だっけ。ああそうそう、あたしが行方不明になった後の話。勿論死んでないわよ、ここにいるんだもん。時空転移プログラムはあたしを異空間に飛ばしたのよ」
彼女は語りながら思い出す。飛ばされた先での過酷な生活と、そこで出会った胡散臭い盟友を。
ありがとうございました、次も早めの投稿です。
以下、今回の話に関する雑な考察。
=星の夢に関して=
星の夢が大彗星ノヴァと兄弟機らしきものであるということは既プレイの方々には周知の事実ですが、問題はこんなものをハルトマンがどうやって手に入れたのかという点です。
真勝ち抜きのスペシャルページに記載されているハルトマンの独白を見るに、彼が作った物であるという可能性は消えます。誰が何のために作ったのかさえ分からないそうですからね。
恐らく分かっているのは、ハルカンドラという名前だけなのでしょう。やはり星の夢はハルトマンの手には余るものだったのかもしれません。
つまり、作ったのではなく偶然にも入手した。そう考えるのが妥当かと思われます。
星の夢という名前が付けられた点から考えて、流れ星のようにして現れたということにしてみました。割と上手いこと繋がったのではないでしょうか。
アクシス・アークスはご都合的にハルトマン製にしてしまいましたが……
=綺麗なハルトマン=
ただの妄想の具現化なんだよなぁ。
若い頃は情熱溢れる野心家だったそうで、ドジっ娘属性があるというスージーの父親ならこんな感じなのかなと想定した限りです。
まあ、全て失ってしまうんだからどんなキャラにしていても関係無いな!(ゲス顔)
=幼少スージー=
絶対に可愛い(確信)
暴走事故だということで、とりあえず時空転移プログラムの誤作動にしておきました。
=ハルカンドラ製品=
共通しているのは、人の心に反応するという点でしょうか。
ほぼ確定済みなのはスターロッド、ノヴァ(星の夢)、ローアの三点ですが、やはり全部が人の心理に関わる性質を持っています。
私も最初はワープスターとかがハルカンドラ製ではないかと疑っていたのですが、今ではちょっと違うような気がしますね。
何にせよ、ノヴァ関連を流して来ている時点でとても迷惑な文明だと言わざるをえないでしょう。
滅んでて正解なんじゃないかな、マジで……
=次回予告=
???「スザンナとボクはズッ友だヨォ!」