感情が働いたわけではない。ただ、自発的ではないにせよ、今回の事件に関わったものとしての責任を最後まで取り続けなければならないと思っただけの話だ。
メタナイトがここを訪れた理由を一言で表すならば、義務だろう。
今でこそ解決した事件だが、彼とスージーは敵同士の関係にあった。別に恨んだりしているわけではないが、それでも全身改造などという酷い目に遭った発端は彼女なので、出来るならばもう顔を合わせるべきではないと思うのが当然なのだ。
本人よりもうるさいのがハルバードの乗組員達だった。
メタナイツ達などはスージーを探し出して血祭りにあげてやるなどと騒いでおり、報復を止めるのにも一苦労した。当事者はもう過去の事だと気にしていないというのに。
だから、こうして顔を合わせるのには少しばかり手間をかけた。
まずは彼女の現在の拠点がブルブルスターであることを突き止め、そこから彼女が単独行動を取るまで見張る。敵対関係にあったのだから、こちらから乗り込むのは無しだ。改心の様子を見せていたとはいえど、どのような罠が仕掛けられているかなどわからないのだから。
暫くして、スージーは拠点を出てホロビタスターへと向かった。どのような理由があったのかは定かではないが、チャンスがあるとするならばここだろう。メタナイトは迷い無く彼女の後をつけて現在に至る。
「メタ、ナイト……!!」
スージーの顔色がほんのりと赤くなった後、真っ青に変わる。
怒りと恐れが順番に来たのだろうか。彼女の心情を量れないままに、メタナイトは思わず口に出した自分の言葉を後悔した。
「すまない、ぶしつけなことを言うつもりは無かった。戦いの意思も無い、今日は」
「あ、アタシのことを笑いに来たのね! 確かにあの改造は見ててあんまりカッコよくないと思ってたけど、こんな仕返しすることないじゃない!!」
「あの時のことを恨んでもいない」
「じゃあ何で会いに……あっ、商談? 申し訳ないけど、今はまだ会社の再建中で」
「それともまた別だ。ただ、これを返しに来た」
いつまでも勘違いを続けそうな様子に呆れながら、メタナイトはマントから何かを取り出した。それは、事件の後に星の夢の残骸を漁っていた時に回収した物で、明確に形が残っていた唯一の品でもある。
金色の懐中時計。傷が付きボロボロになり針が止まってしまっていても、まだこれが時計であるという体裁を保っている。
やはり、と言うべきなのだろうか。スージーの反応はわかりやすく、目を開いてロボボの中から飛び出しメタナイトへと詰め寄って来る。
「何でアンタがそれを!! 返して、返しなさい!!」
「ああ、そのために来た」
投げ渡してやると、スージーは涙を堪えながら時計を両手で握り胸元へと埋めた。
余程大切な物なのだろう。取り落とさないように、必死にしがみついているようにすら見える。
「マザーコンピューターらしき残骸の付近で発見された。位置を考えれば、ハルトマンの遺品なのだろうな。……父親なのか、彼は?」
びくりと身体を震わせて黙り込んだ様子から、メタナイトは自身の予測を確信へと変えた。
決して彼女の独り言を聞いたから知っていたのではない。事件の最中から、節々にヒントは隠されていたのだ。
「父の形見だ、大切にしてやれ」
何にせよ、この先は自分が関与するべきではないところだ。時計を渡した時点で目的は達成されている。
そう判断して飛び去ろうとしたところで、メタナイトの背に声がかけられた。
「ちょっと、待ちなさいよ!」
飛び掛かって来たスージーが両肩を掴んでメタナイトを地面へと引き摺り降ろす。彼女の眼は血走っていて怖い。
「さっき言ったそれでいいのかっていうの、どういうことか説明しなさい!!」
「むっ……」
そういえば、そんな言葉を思わず口走ってしまったのだった。
遺跡の中に突入する前に、途中からではあるが彼女の独り言を聞いてしまったのだ。だからこそ生まれた感想なのだが、やはり琴線に触れてしまっていたらしい。
仕方がないと覚悟を決めて、メタナイトは口を開く。
「その選択肢ならば、君は破壊に破壊を重ねてしまうことになる。壊れた関係を更に無かったことにしてしまっては、先にも後にも何も残らず生まれないぞ」
「ア、アンタ、さっきまでの聞いて……」
「君は会社の復興を目指しているのだろう。ならば、何かを生み出すように考えろ。廃墟をハンマーで叩いたところで瓦礫になるだけなのだからな」
そう言うと、スージーは口をパクパクとさせて黙り込んでしまった。
ぼやかした言い方ではあるが、意味は伝わっているだろう。わからない程に頭が悪い相手ではない。
「……機械ではないのだ、人の関係というものは。人に指図をする機械も、もう壊れた。星の夢を否定した君ならばわかるだろう。これからは自分自身の意思を大切にした方が良い」
言葉を締めくくってみたが、肩を掴まれていてどうしても飛び去れない。スージーも俯いたまま身体を震わせるだけで大した反応を示してもくれない。
さて、どうしようか。泣いている女性を振り払って置いて行くような趣味はしていないのだが。
所在無く目と手をぶらつかせながら、メタナイトはそのまま立ち尽くしていた。暫くして満足したのか、スージーはポツリポツリと断片的に言葉を出す。
「直らなかったのよ。頑張っても直らなかったの」
「ハルトマンとの関係がか?」
「頑張っても、思い出してくれなかった。そのまま死んじゃって、だったら忘れるしかないじゃない。あの人の中に最後までアタシが残ってないままだなんて、そんなの耐えられない」
果たして、ハルトマンの心にスージーは残っていなかったのだろうか。
メタナイトにはわからない、軽々しく慰めていいような内容でもない。しかし、これだけはハッキリと言える。
「君が会社を復興させるのは自分のためなのか。父の志を継ぐためなのだろう? ならばハルトマンを否定するようなことを言ってはいけない。全てを受け入れて変えるんだ。直すための力に」
「直すための、力?」
「壊れてしまったものは直らないこともある。そして新しい物が生み出され、また壊れていく。だが、それだけでは何にもならない、何も残らない。成長とは跡に何かが残っているからこそ起こるもので、それが人ならば経験、機械ならば技術と知識だ」
スージーが嗚咽を漏らし始めた。しかし、言葉は止まらない。
「壊れてしまった大切なものを、捨てて忘れてはいけない。思い出は人を強くする一番の薬だ。壊れたから無価値などと、そんな損得勘定で捨てられるようなものではないだろう? ……それに、こうして戻って来るものもある」
メタナイトが右手を当てた先、スージーの両手によって包まれた懐中時計。
「絶望的な状況の中で、これは奇跡的に形を残したまま君の元に帰って来た。捨てようとした君のところに、こうやって帰って来たんだ。捨てられないだろう、これは。捨てられないのなら、力にするしかない」
「うっ、あぁ……」
「直してみせろ、ハルトマンワークスカンパニーを。今までに直せなかったものの分までもな」
言い切ると、ついにスージーは地面にへたりこんで大声で泣き始めてしまった。解放されたメタナイトはゆっくりと歩き、光の中に鎮座するロボボの前に立ち彼と視線を交わす。
こいつには、随分助けられたものだ。最終決戦での勝利はハルバードだけの力では決して叶わず、きっと侵略された時のように負けてしまっていただろう。だからこそ感謝している。
本当はこれの回収と修理も目的の一つだったのだが、それも、もうメタナイトの役目ではないのだ。
今度こそ去ろうと彼は翼を動かす。しかし、またも声によって呼び止められた。
「待ちなさいよ……」
小さな声だった。それでもしっかりと耳には届いて来る。
振り返ると、ゆっくりとスージーが立ち上がりながらメタナイトの方を睨み付けていた。涙は既に止まっている。
「お礼をさせて。これを持って来てくれた、お礼」
「いや、そんなつもりでは」
「何かしなきゃアタシの気がすまないのよ!!」
「むっ……」
はてさて、困った。お礼と言われてもパッと思い浮かぶようなものも無いのだが。
ううむと唸って考え込んでいると、脳裏には騒動の最中に見た一つの光景が浮かび上がった。もし可能ならば、ダメ元で彼はその名前を口にした。
「えっ、本気? 確かにちょうど良いのがあるけど」
「ああ、それでいい」
「ふーん……何だ、可愛いところもあるじゃない」
「部下のためだ、私のためではない」
ニッコリと、何故か嬉しそうに笑うスージーの視線に耐えられなくなり、メタナイトは横を向いて頭を掻く。
溜め息を吐いて暇を告げようと前を見返した時、何故か眼前にはスージーの顔があった。
「……近いのだが?」
「アタシね、さっきの話を聞いて思ったの。直すだけじゃなくて、新しいものも作らなきゃって」
「うむ、確かにそれは良いことだ。だから少し下がってもらえると」
「これもお礼よ」
仮面越し、口元に何かがぶつかった。
それが何だったのかの判断が付いた時には、既にスージーは一歩後ろに離れてしてやったりという笑顔を浮かべていた。
「改めまして……秘書のスージー改め、社長代理のスザンナ・ファミリア・ハルトマンと申します。以後、末永くお見知り頂く予定ですのでよろしくお願い致しますわ」
それはそれは、可愛らしくも憎たらしい仕草だった。
☆
「メタナイト様。何ですか、あれは?」
平常時の戦艦ハルバードの司令室では、よく乗組員によってお茶会が開かれている。
いつものメンバーが集まってのんびりとした時間を過ごそうとしていた矢先、部屋の隅に設置されている異質なそれに気付いたのはオペレーターを務めるアックスナイトだった。
戦艦というよりも工場やら飲食店にありそうなそれに興味を示したのは好奇心が旺盛なメイスナイトや水兵帽をかぶったワドルディで、説明も聞かずに触ってみようと近づいていく。
「ある人に善意で提供してもらった、お菓子製造マシーンだ」
「なっ……」
「なんダスとぉぉぉ!?」
極めて平静を保ったまま紅茶を口に含むメタナイトが告げた一言によって場にいるほぼ全員が色めき立ち、一斉に機械へと駆け寄る。
いつもは冷静な他のメタナイツ達も興奮を抑えきれないのか、机周りに残ったのはメタナイトとバル艦長だけだった。
「ああ、凄い! 勝手にソフトクリームを巻いてくれる!」
「コーンの種類も選べるみたいだぞ」
「こっちを見るダス、アイスどころかパフェまで作り放題みたいダスよ!」
「何ぃ!?」
その常識を超えた性能に盛り上がる乗組員達が騒ぐ中、バル艦長による目線で説明を求められたメタナイトが続けて口を開く。
「今はアイス中心にしてあるが、素材さえ入れておけば好きなものを作ってくれるらしい。少しでもお前達の慰労になればと思ってな」
「メタナイト様……!」
「我らのためにこんな……」
「さあ、好きに食べろ」
綺麗にハイと揃えて、乗組員達が機械に群がった。
そんな微笑ましい彼らの様子を眺めながら、納得した様子で言うのはバル艦長だった。
「なるほど。暫く留守にされていたので心配しておりましたが、こういうことでしたか」
「今回の件では皆に迷惑をかけてしまったからな、こんなものでは謝罪にすらならないが……」
「何をおっしゃいますやら。我らがもっとしっかりしていれば、メタナイト様にあのような苦労をかけさせてしまうことはなかったのです。それにしてもあの憎っくき女、今度会ったらただではおかんぞ!!」
「……」
怒るバル艦長を前にしては、その女に会って来たなどとはとても言えない。
目ざとく沈黙の理由を察知したバル艦長だが、落ち着きを取り戻して溜息を一つ吐いただけで追求したりはしなかった。
「そういえば、これからどうされるのです?」
「暫くはこの辺りで待機をし、一週間後にブルブルスターに向かう。その後はまたポップスターだ。たまには休暇もいいだろう」
「休暇ですか。たまに起きる大事件が無ければ、あの星はいつもどこでも休暇のようなものですが」
「フッ、確かにそうだな。平日も休日も無い、やはり会社などというものには程遠い星だ」
「然様で」
バル艦長はニカッと笑うが、メタナイトは仮面の下で微笑んだ。
戦艦ハルバード、ポップスター、そしてハルトマンワークス。それぞれの日常は違う。違って当たり前なのだ。
だからメタナイトは改めて思う。この日常を大切にしたいと。
「ところで、あれを持って来たのは本当に慰労だけのためですかな?」
「……」
質問に対する答えは、やはり沈黙だった。
この後、毎夜のように皆が寝静まってから誰かしらが一人で見つからないようにパフェを食べるようになったのを、バル艦長だけが知っている。
☆
再現された研究所だった。
ブルブルスターで再出発をするにあたって、真っ先に作ったのがこの研究所だ。アクシス・アークスにすら無かった自分だけの施設を設置したのは、ただ単純に必要だったからにすぎない。
工具を握ったのも久しぶりだ。ハルカンドラから帰還して以降、技術を見せる機会に恵まれなかったスザンナは自分の腕が鈍っていないことに若干の安堵を覚えている。
目の前にいるロボボを、どうしても自分の手で直してみたかった。
会社に腕の立つ技術屋はそれなりにいる。絶対に頼りたくないが、あのうるさいマッドな所長もいる。
そうだ、頼るものか。絶対に自分で直してみせる。
「死んだんじゃないのよ、アンタは死んだんじゃなくて壊れたの。だから、直る。絶対に直すんだから」
言い聞かせるようにして目を開いた。
どんなに願ったとしても直せないものは絶対にある。だが逆に、願えば直せるものだって絶対にある。
直そうとして直せなかった、そんな過去の清算のために。もう壊し続けるのはまっぴらだ。
手の中にある時計はもう動かないから、スザンナは今までの人生の全てを賭ける。
次回、最終回です。
=メタナイト=
世界一カッコイイ一頭身でお馴染みの剣士様。スマブラXでの恨みを私は忘れません。
スージー→メタナイトの恋愛感情はロボボの小説では明確に記されていて、恐らくは公式設定なのではないでしょうか。メタナイトボーグを自分だけのものにするという計画も立てていたらしいですし。
重要所を任せるならばこいつしかいない、そう思わせられる剣士様です。
=金の懐中時計=
ゲーム本編では裏設定っぽくなっていましたが、やはり小説では重要な要素として登場します。
小説の方では可愛い彼が拾い、ラストの話に繋げていましたが……ゲームの流れでは回収出来そうなのがメタナイトしかいませんでした。カービィの仲間で宇宙を自由に行き来しそうなのは彼ぐらいなので。
もう動かず、直りもしない。でも、だからこそ意味がある物。そんな形にしてみました。
=ハルバード乗組員=
たかい。さむい。こわいダス。
メタ逆がシリアスになりきらない理由は全てこいつらのせい。愛すべきバカ達ってやつですね。
小説での活躍はカッコよかったです、特にバル艦長。
=ハルバードにお菓子製造マシーン=
メタナイツとかワドルディとか、めっちゃ喜びそうですね。
メタナイトが夜にパフェを食べてる云々は、カービィカフェのネタです。思い付いたのは四話を書いていた辺りですが、メニューを見てネタにするしかないと思いましたよね。
期間中にカービィカフェに行かなきゃ(使命感)