トンテンカン、トンテンカン。と、小気味の良い音が辺りに響いていた。
大工工事である。騒動の始まりと同時に呆気なく破壊されてしまったデデデ城を復旧するべく、多数のワドルディ達が頭にタオルを巻いて石材を運んだりトンカチで釘を叩いたりしている。
中にはワドルディ以外にも指令を統括するワドルドゥがいたりするが、作業を急かしているわけではなく、割とゆっくりと楽にやっているようだ。のんびりとしたポップスターらしい工事現場だと言える。
「ううむ……」
そんな中、唸り声を出して悩む男が一人。
トレードマークであるハンマーを片手に立ち尽くすのは、ここの城主であるデデデ大王その人だ。隣ではバンダナを巻いたワドルディが同じく悩んだ様子を見せている。
彼らの前に鎮座しているのは、それはそれは巨大な鉄塊だ。デデデ城の破片とはまた違う、襲撃中に飛んで来たと思われる鉄塊は、城の跡地の片隅をひっそりと占拠し離れようとしてくれない。
片隅とはいえど城の敷地であるのは同じだ。先程からどうにかしてどかそうとしているのだが、その重さと硬さは力持ちのデデデ大王ですら太刀打ち出来るものではなかった。
「ええい、忌々しい鉄め! この、この!」
「無理ですよ陛下、ハンマーが壊れちゃいます」
ガツンガツンと連続で叩いてみても、鉄塊はびくともしない。あっ、ここ僕の場所だからと憎たらしい横暴を振りかざしているのだ。
終いには素手で殴りかかろうとするが、それは必死にワドルディによって止められていた。
「おい、ピンク玉! カービィ、どうにか出来んのか!!」
「えー、無理だよー……」
デデデ達の背後、未だに残る城の破片にもたれかかる形で休憩していたカービィが眠そうに首を振る。
美味しいご飯を食べさせてくれるというワドルディの口車に乗せられて復旧を手伝っていた彼も先程から鉄塊への挑戦を続けていたのだが、吸い込もうとしても空気砲を当ててみてもやはり無駄だった。
コピー能力を試してみても、きっと同じだろう。それよりもお腹が空いた。
「オレ様はな、オレ様の目の届く範囲に、この塊があるのが我慢ならんのだ!!」
「そ、そんなこと言われても……ボンカース、呼んでこようかな。でも言うこと聞いてくれないよね……どうしよう」
激怒するデデデに八つ当たりされるワドルディを可哀想に思いながらも、カービィは助けようとはせずぐったりと更に身体を破片に預けてしまう。
こんな時に彼がいてくれたら。今回の騒動でいつも自分を助けてくれた相棒がいてくれたなら、あんな鉄塊なんて簡単に破壊出来るのに。
いなくなってしまった彼を懐かしんでみても、宇宙のどこかに消えてしまった物が都合良く戻って来てくれるわけがない。自分達でどうにかしなければならないのだ。
「あれ?」
不意に、城全体を影が包み込んだ。どうしたのだろう、雲でも出て来たのだろうか。さっきまではあんなに晴れていたのに。
皆が空を見上げる。そこには見知ったものが浮かんでいた。
「ハルバード?」
メタナイトの戦艦、ハルバード。最近はポップスターからどこかに行っていたようだが、戻って来たのだろうか。降りて来るわけでもなく、ただそこに浮かんでいる。
瞬きを数回。影、甲板から何かが飛び立った。立ち退くハルバードが隠していた太陽を解放して皆に逆光を与えて来る。
眩む視界の中でカービィは見た。こちらへと、真っ直ぐに自分へと向けて降りて来る丸いピンク色のそれを。
「あっ、ああぁ!!」
あれは、あれは。
☆
「行かなくてよかったのか?」
「いいのよ。ただ罪滅ぼしをしただけで、別に原住民達と仲良くするつもりなんて無いし。……そ、そりゃあ、向こうが友達になってくれって言ってきたら、考えてあげてもいいけど」
「……そうか」
投下されたロボボアーマーがどうなったのかを確認もせずにハルバードは動きだした。本当ならば挨拶の一つでもという予定だったのだが、直前にスザンナがさっさと発進しろと喚いたのだ。
バル艦長が操舵室で不服そうにしている姿がメタナイトの脳裏には浮かんでいる。ツンデレという単語が浮かんだのも同時だった。
ハルバードの甲板にいるのはメタナイトとスザンナの二人だけだ。他の乗組員は普段の持ち場に就いている。
乗組員からはスザンナの存在に関しての不満が噴出していたが、そこはメタナイトの説得で黙らせた。
「で、どこに行くのよ?」
メタナイトはスザンナに、ロボボをポップスターに運ぶ代わりにある場所にまで着いて来てもらいたいという対価を要求していた。デートと勘違いしたスザンナが騒いだのはご愛嬌である。
仮面の下で光る目を風景から彼女にちらりと向け、メタナイトはやはり思わせぶりに言う。
「昔、二年前だったか。大きな事件があった。その時に戦った相手が罪滅ぼしのために色々なことをやっていてな、今度は新しいテーマパークを作るらしい。だから、それに協力してやってもらいたい」
「テーマパーク? ……ああ、技術提供をしろってこと?」
「その辺りは強制しない。私が提示した対価はそいつに会うというところまでだ、後は自由にしてもらって構わない。協力してやってもらいたいというのは……あくまでも私の希望だな」
ふむ、とスザンナは頭の中で状況を整理する。
つまるところ、メタナイトは客を紹介してくれているということなのだろう。確かに会社の復興は忙しいのだが、顧客を取らなければ資金難に陥る未来もそう遠くはない。
そして、同時にその罪滅ぼしに参加させることで彼女のイメージを回復させる意図もある。のんきなポップスターの住人のことだ。きっと、テーマパークが楽しめる出来の物だったらすぐに許してくれる。
何が対価だというのだろうか。スザンナに不利な要素など、どこにも無いというのに。
「ホント、素敵な人。……で、誰なのよ。そんな酔狂な奴?」
「マホロアだ」
「……ハァッ!?」
あまりにも予想外、罪滅ぼしが最も似合わない名前にスザンナは飛び跳ねた。
まず、彼がポップスターにいるという時点で驚きなのに、事件を起こしていただなんて。二年前といえば、きっと別れて直ぐ後の事だ。ランディアとローアの関係で何をやらかしたというのか。
「マホロアって、あのうさん臭いマホロア!? ウッソォ~、何でこんなところに……」
「こうでもしなければ、君は彼に会わないだろう。大体のことは聞いている。君が過去に協力していた事もな」
「あの、会いたくないんだけど。今から契約の解除っていうのは」
「却下だ」
「うぅ……」
ハメられた。気付いた時には後の祭りであり、既に取り返しの付かないところにまで話が進んでしまっているのは、ビジネスではよくあることだ。
不覚である、だが経験にしなければならない。社長代理として未来に進むための一歩なのだ。
「騙すような形になってしまったことは、悪いと思っている」
項垂れたスザンナから目を逸らして、メタナイトはまた下に広がるポップスターの風景を眺め始めた。
あまりにものどかな風景だ。のどかが過ぎるからこそ、彼は一度これを壊してしまおうと考えてしまった。こうした平和が堕落を産むのだと、そう勘違いしてしまっていたのだ。
メタナイトとスザンナはどこか似ている。彼が彼女に対して世話を焼いてしまうのは、そういうところが理由なのだろう。
そしてこうも考えている。きっと、ポップスターの環境は彼女を良い方向へと導いてくれると。
「どうした?」
ふと、スザンナが笑っているのが目に入った。青ざめた表情は鳴りを潜め、どこか高揚するように彼女は宣言をする。
風で揺れる髪を掻き上げ後ろに流し、優雅にだ。
「どんな物を作ってやろうかって、考えていただけよ。久しぶりに研究者の血が騒ぐわ」
「……そうか」
面白いことになるのかもしれない。思わず、メタナイトも誰にも見せないように笑っていた。
これにて完結です、ありがとうございました。
後書きは活動報告にて。