独眼機龍の十字砲禍《クロス・ファイア》   作:cmVkem9uZSE=

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放課その1

俺は、研究者である。それ以上に、ライトなオタクである。休日は、本を買いに行ったりとか、結構するのだ。

 

「うぅん、晴れ、晴れ、日本晴れ! 本日は快晴なり! いい買い物日和だ!」

 

『新刊、未だ見ぬ名作、その他諸々のお宝が僕達を待っている!』

 

「…………すまない、ふたりとも。なんだか、目立ってないか?」

 

「あぁん? 曹操さんよぉ、今更何いってんだ?」

 

『こうなったのは、そーさんの迂闊さが原因なんだぜ? 諦めて、僕らに付き合うんだなウハハハハ!』

 

「いや、そうじゃなくて…………今の俺達、妙に外から視線がぶつかるというか、写真を撮られてるというか」

 

そんなわけでやってまいりました、そーゆーののメッカ、『東京:秋葉原』!! んー、なんだろう毎回来る度に思うこの実家のような空気は!

 

まあそれはそうと、疑問には答えないとな。

 

「そりゃお前、この秋葉原でそんな中華服キメて来たら、なんかそういうお店でやってるコスプレみたく思われるだろうが。かーっ、見た目もいいから羨ましいねぇ!」

 

『まあそんなこと言ってるまさやんだって外面は悪くないからねぇ。黒い改造軍服っぽいのに白衣、そして眼帯と、こっちもまるでコスプレキメてるかのごとき普段着だからなぁ』

 

「だからまぁ、目立つけど風景には溶け込んでるから気にするな!」

 

「そ、そうか……………………どうしてこうなった」

 

どうしてもこうしても、お前が迂闊なことを言うからですよ、と少し回想してみる。

 

 

◆◆◆

 

 

「政矢、少し付き合ってくれないか?」

 

そう、それは昨日のこと。こいつからの依頼に掛かりきりで増えていた積み本積みゲーを消化するために、全力で読書とゲームに勤しんでいた、朝七時のこと。唐突に曹操がやって来ては、そんなことを言ったのだった。

 

「…………えー」

 

『十字砲禍』もそれ専用に禁手化、『読玩機龍の充実放課(ヒモノ・パラダイス)』である。体の至るところからアームと目の代わりになるカメラを生やし、同時に十冊位ラノベやマンガをじっくりと読み、半分ぐらい残ったアームとカメラはクロスに操作権限明け渡して彼も彼で思い思いの楽しみに浸っている。今日俺は積み本の消化と決めているが、クロスは積みゲーの消化をしているようだ。そういえば『セブンス・タイガーシリーズ』、略して『ナナトラ』の新作が出たんだっけか…………俺も後でやらせてもらおーっと。

 

『今ゲームやってる人間に言うこと? って、ちょ、メレちゃん!? そんな気はしてたけど、マジで虎になっちゃったの!!? ちょ、ちょぉぉおおおっ!!?』

 

「おい待てなに叫んでんだネタバレ禁止ィ!」

 

聞かなかったことにしたい。こういうところがこのパーフェクトヒモノ・スタイルの欠点だな。燃料の油もアームを伸ばせば届くし、動かなくても機械だから太らないし、脳みそはフル回転だけど怠惰極まりないし、我ながら神器研究者で良かったと思うよぉ…………はー、しあわせ。

 

「…………ダメか?」

 

「んー、ダメじゃないけどー。命令? それとも一緒に遊ぼうぜってお誘い?」

 

「後者だ」

 

「…………ふぅん?」

 

意外である。あんまり、今までそういうのに興味なさそうだったが故に。

 

「なら、いいや。命令なら突っぱねてたけど、そういうのなら大歓迎だ」

 

悪いけどクロス、ヒモノ・パラダイスはちょっとお預けよー。

 

『そんなー…………』

 

「んで、どこか行きたいところでもあるのか?」

 

「ない」

 

思わずこけた。

 

『そーさん、したいことがあるとか、そういうのじゃないの…………?』

 

「ああ。というのもメンバーから仕事を奪われてしまってな。曰く『働きすぎだ、だから強制休暇だリーダー』…………と」

 

…………まあ、確かにワーカーホリックというか、それ以外を知らないって感じだしな、曹操。

 

「しかし、休暇と言われても何をしていいのやら…………というわけで、同じく休みのお前を誘おうかと」

 

「んー、そっかー…………」

 

思わず心のなかで涙。休みの使い方が分からないって、哀れ過ぎる…………!

 

「じゃあ、俺に一任?」

 

「ああ、お願いしたい」

 

「ホントにホントに?」

 

「くどいぞ政矢」

 

「おっけー言質取ったからな? 文句は聞いても受け付けないからな? おし曹操、40秒で支度しな!」

 

 

◆◆◆

 

 

「…………確かに俺が迂闊だったのは認めよう。だがこうも人目につくところを歩いて大丈夫なものなのか…………」

 

「木を隠すなら森の中、人を隠すなら人混みの中だ、意外とばれんものだよ」

 

「…………はぁ」

 

回想終了、やはり俺に落ち度はなかった。

 

そんなわけで俺達は刺さる視線を無視しながら歩みを進める。

 

「それになにも、意味なく此所に連れてきたわけじゃない」

 

「と、言うと?」

 

「あいつらが不安になるのも納得だ、お前には趣味…………楽しめるものがない!」

 

「い、いや…………流石のわた、俺にも楽しめるもの位、ある、ぞ?」

 

…………わた? まあいいや。とりあえず続けよう。

 

「じゃあなんで折角の休み、したいこともやりたいことも思い付かなかった?」

 

「……………………」

 

「いや、わかるぞ。俺にはわかる。お前が休暇使ってるときは大体訓練に費やしてることくらい、そして今日その訓練も禁止されたことくらい、英雄派鈍感ランキング殿堂入りの俺ですら分かるぞ!」

 

『わー、多芸で無趣味とか絶句モノだよー』

 

だから、秋葉原なのだ!

 

「此処は、偏りこそあれど趣味の宝庫! 本マンガゲーム、ゲーセンもあるしそういうのがいやなら電子機器でも買い漁ってみたり、などなど! …………まーここで見つける必要はないけれど、強烈なの味わっときゃ、この先趣味の発掘中変に狼狽えることはなくなるでしょーよ」

 

『え、やだまさやんそこまで考えてたの? てっきり日頃の鬱憤を晴らすために嫌がらせのためとばかり』

 

「俺もそうなのかとばかり…………」

 

「バァカ、んな性悪なことするかよ。困って、頼ってくれたんだろ? なら誠実に対応するまでだ」

 

そう思われても仕方がないのは理解してるけど、もう少し信用してくれてもいいと思うなー俺は!

 

「それに、目的とか、夢だけとか、そういうの悲しいじゃねぇか。別にそういうのはいいものだと思うけどな、いざそれを達成したときに、何も残らないじゃん? だから今からでも遅くないし、そういうの見つけていこう?」

 

「…………お前は、相変わらずだな」

 

「あん?」

 

相変わらず…………? 変だな、曹操にこういった分かりやすい優しさを示したのは初めてのような気が…………それともこれまでも気が付かれていたのか? まぁ、いいけど。

 

「慣れてるからな。俺は一人になってから此所に来るまで、ずっと誰かの手を引っ張っては、送り出してきたんだ!」

 

「そうなのか?」

 

『そうだよー。まさやんはいく宛のない子供…………特に神器のせいでひどい目に合った子たちに共同生活持ちかけては保護して、いろんなところに連れ回したり、神器の調整してあげたりしてたんだよー。そーさんに拾われる前から神器研究者と名乗って問題ないレベルだったのは、そういった積み重ねがあったからだねぇ』

 

「そうなのか……」

 

いやぁ、我ながら当時は小学生ながらいい保父さんしてたと思うわ。最初こそ、復讐の手駒にしてやらぁ! とか思ったこともあったけど、最初の娘の手をを引いた瞬間から一気に目が覚めてなぁ…………なにやってんの、俺はって感じ。

 

「ま、流石に野郎の手を引っ張るとかないから、背中を蹴飛ばすと言い換えたいけどな、この状況!」

 

ワハハと笑って、ふと思いだす。

 

俺が最初に手を差し出した、全てに怯えていたあの少女は、唯一何も言わずに俺の元から消えたあの娘は、無事に生きているのだろうか?

 

 

◆◆◆

 

 

まぁ結局のところ、サブカルチャーは曹操には余りあわなかったらしい。行きつけのところ何軒か周り、最後に『りゅうのす』を出た頃には微妙な顔をしていたから、あー無理だったかーと凹んだ。同好の士、増やしたかったんだけど、仕方ないね。

 

だが秋葉原には見るべきところが他にもある。なので昼休憩を挟んで次は電気街の方を…………と思う。

 

「さて、お疲れだろうからそろそろ昼休憩しようと思うんだけど、昼御飯に何か希望とかある?」

 

「その件だが、弁当を作ってきた」

 

「…………マジで?」

 

うん、いろいろと突っ込みたいところなんですけど…………弁当? 40秒で用意した? それともその前から? とりあえず分かるのは、おそらく英雄派のジャンヌの差し金だろうと言うことだ。前回のおにぎりの時も、曹操がジャンヌに相談したらしいし。というかジャンヌは一体曹操をどうしたいんだ…………? 男が男攻略させるような…………ハッ、まさかヤツは腐女子!?

 

「なんというか、用意がいいなぁお前。しかし俺、ありがたいのはありがたいが、飯の持ち込みできるようなところ知らんのだけど…………」

 

と、首を捻り、頭に電球が点る。あまりよろしくないが、あそこなら座れるか。外だけど。

 

「じゃあ、アキハバラUDZ行くか。丁度屋根下で階段になってるところあるから座りやすいと思うし」

 

「お前がそこがいいと言うのなら、そうしようか」

 

んぃ、じゃあ同意も得たところでてくてく移動。目的地のUDZの階段のところは、人もおらず人目も少ない。あんまり人混みになれてないらしい曹操も助かるだろう。

 

「しっかしこの間のおにぎりのときも思ったが、お前ちょいちょい女子っぽいよな」

 

「料理ぐらい誰だってする。まだ英雄派の人員が集まってなかった頃、お前だって自炊していたじゃないか」

 

「いや、料理云々じゃなくて、気遣いとかそういうところ。ま、貰えるもんはおいしくいただきますけどねーっと」

 

憮然とした表情の曹操から、アルミ製の弁当箱を受けとり、開く。

 

「…………わぁお」

 

思わず声が漏れた。正直、中華的な料理が出てくるものだとばかり。チャーハンとか甘酢餡かけ肉団子とか。しかし弁当箱の中身はいたって普通のザ・スタンダード男子学生のお弁当って感じ。ご飯にはおかかが振られて海苔を被せ、おかずは焼き鮭に卵焼き、ポテサラにほうれん草とゴマの和え物と、なんだか懐かしさすら感じるラインナップだ。

 

「昔、世話になった男に作って貰ったものを思い出してな。本当はもう少し凝ったものを作ろうと思ったのだが…………」

 

「いやいや、十分十分。ここまでしてくれてなんか悪いとすら思うレベルだよ。しかし、お前中国出身だよな? それなのに日本的お弁当ってどういうこったい」

 

まあその辺りの疑問は今は投げ捨てておこう。とにかくいただきまーす!

 

と、食べ始めようとしたところで、曹操も同じ弁当なのだろうか? と思い横目で眺めてみようとすると、なんとこいつ、ラップでくるんだサンドイッチしかないじゃないか。

 

「おいてめ曹操、お前昼それだけか。それだけで足るんか。というか俺の弁当作っといてついでに自分のとかなんて思わなかったのか」

 

「……? 俺は食が太いわけじゃないから、これだけで足るのさ。それとも、こっちの方が食べたいのか?」

 

「いや、そういうわけじゃないけど…………なーんか悪い気がして」

 

お前がいいならいいけど…………あ、この和え物おいし。

 

「しかし、今日お前に連れられて再認識した。まず、俺は騒がしいのは苦手のようだ」

 

「ん、だろうな」

 

「次に、お前が薦めてくれるような小説は向かないと思った。なんというか、酷く居心地が悪くなる」

 

「…………と、言うと?」

 

「別に作品だけじゃない、この所謂『ありふれた日常』のような感覚の中にいると、自分が場違いに思えてならない。…………そもそも、俺には『ありふれた日常』というものが分からないのだから、そうなるのも仕方のないこと、なのだが」

 

……………………闇が深いなー。つつけばつつく程暗い何かが噴き出してきやがんぜ、そーそーさん。

まあ、それも仕方ないことなのかもしれないけどね。本当、持って生まれたものが悪かった。『黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)』なんて持って生まれるというのは、幸運とそれを大きく上回る不幸を約束されたようなものだからなぁ。俺の知ってる過去の所有者だと、クロスの守りたかった彼女とか、だし。

 

「そもそも、俺は俺自身何がしたいのかも分からない。人間として何処までやれるのか……という目標は、正直なところ義務に近い認識で目指しているからな。槍に囁かれたのか、俺には(これ)しかなかったからなのか、もう分からないのだが」

 

「……そうか」

 

悪いことではないとは思う、いいことでもないけど。ただ、本当に、哀しい生き方だなって思う。

 

「だが、一つ再認識したことがある」

 

「ん?」

 

「俺は、昔俺を助けてくれた、俺にとっての『正義(ヒーロー)』に近付きたい。自分も傷付いていたのに、それでも俺に手を差し出し、引っ張ってくれたあの男のように、俺はなりたい。これは誰の意思でもない、俺自身の意思だ。あの時救われたから、今の俺がある」

 

「…………さよか」

 

こいつも昔、余程いい出会いをしたらしい。いいこととは言い切れないが、それでも、夢を語るこいつの顔は、悪くなかった。

 

「じゃあ頼むぜ英雄(ヒーロー)。俺にお前を裏切らせるな」

 

「ああ、任せてくれ」

 

──────結局、趣味の発掘という本来の目的は達成できなかったけど。でも、悪くなかった一日だった。

 

 

◆◆◆

 

 

『……………………認識阻害、思考偏向』

 

『…………そーさんから、まさやんと僕に対して?』

 

『…………そうか、そういうこと』

 

『……聖槍、また囁いたのか』

 

『いつになってもお前は…………度しがたい』

 

『……………………今度こそお前は、僕が』

 

 

◆◆◆

 

 

 

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