独眼機龍の十字砲禍《クロス・ファイア》 作:cmVkem9uZSE=
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唄いたい歌があった
帰りたい家があった
守りたい人がいた
掲げたい誇りがあった
『だから僕は──────』
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ギャリギャリと、金属が砕かれ、磨り潰される音が、部屋の中で響く。
その音の発生源は…………俺の口元から。口内には、金属片が。
率直に言おう。俺は今、金属を食べている。
『十字砲禍』は、基本はグローブ型の神器だ。そのグローブで触れた武器……というか、とある属性を持つ何かを取り込むことで、それらを材料に武器生産が可能となる。
だが神器が覚醒し、禁手を解放し、その先に手を伸ばしてしまったことで、神器と神器内に封じられたドラゴン『災禍機龍:クロスファイア』に結構なところまで侵食されている。いや、語弊があるな。侵食させ、その速度を加速させたのは自分の意思であるからして。
とまあそんなこんなで、俺は神器を展開することなく、口からも武器やなんやを摂取することができるようになってしまった。味覚的には人間のそれなので苦痛だが、神器で食べるよりも変換効率がいいのだ。なお、顎や口内、歯は初期でこそボロボロになっていたが、体質がどっかのドラゴンに寄ってきてるみたいで、今ではポテチと大差ない感じで金属もバリボリ食える。味はアレだが。
ちなみに食べた武器などは胃の方に流れるわけではない。気管の方にも。近いイメージとしては、それらとは別に、3本目の管ができたイメージか。
「…………げっぷ。これで32本」
『頑張るねぇまさやん……僕だって、生前ここまで気合い入れて食べてなかったよ?』
「暴れると決めた以上、下準備は必要だ。研究者ってのを抜きにしても、俺らの戦いはその前の準備が肝だからな」
ご先祖様も、戦の手腕はお世辞にも良いとはいえなかったが、こと盤外の動き方に関しては非常に上手かった方だ。親殺しに片目の欠如に加え、こういうところも似てくるのか。もはや呪いだな。
そんなことを思いながら俺は、部屋の隅に置いてある段ボール箱をまた一つ破くように開き、中に入っているモノを掴んだ。
ちなみに、同じく箱の中に入っていたメモ書きには、こう書かれてある。
『炎熱系聖剣』
そう、俺は聖剣をガリガリと食べていたのだ。
そんな貴重なモノを!? と、世の人は言うだろうが、なんてことはない。本物には劣るが聖剣を量産できる神器『聖剣創造』を持つ、フランスの救国した聖女の末裔であるジャンヌが、英雄派にいるだけだ。曹操におねだりすることで、彼女に聖剣を大量に作ってもらえる。
強化された口とはいえ、熱を持つ類の金属は火傷しそうになるし痛い。だが喰わねばなるまいというヂレンマ。
「……いただきまーす」
そして、口内で『ジュッ』と肉の焼ける音がした。石焼ビビンバの石を口の中に放り込めば、こうなるんだろうなぁと思いつつ、ガリガリと噛み砕き、咀嚼する。
「……お前、よく生前でこんな行為を繰り返せたよな」
『…………弱いのは我慢ならなかった。護りたいものどころか、自分さえ守れない』
「……それな」
こいつの過去を語ってもらった側としては、その言葉にどれだけの思いが込められてるのか、完全には分からないが察することはできる。あまりこういうことは言いたかないが、この神器が俺の中に当てられたのは、必然だったんだと思う。
そんな風に無駄口を叩きながらも咀嚼を続けること1時間、なんとか32本の炎熱系聖剣を食べきることに成功。
「次……凍結系…………」
ゲンナリしながらも、次の段ボール箱に手を伸ばし開けようとすると、部屋にノックの音が飛び込んできた。
「はい、どうぞ」
入室を促すと、入ってきたのは片手にお盆を持った曹操だった。なんでこのタイミングで? 今絶賛ゲテモノ喰いに挑戦していることは知ってたろうに。
「調子はどうだ、政矢?」
「んもー、ゲンナリ。いや曹操とジャンヌに頼んどいてあれだけど、聖剣美味しくなーい」
「美味しいものであってたまるか。それはともかく、差し入れだ」
「ん?」
地面に座り込んでいた俺には見えなかったが、お盆を床に置かれ、それに載ってた正体が分かった。おにぎりだ。
「…………どういう風の吹き回しだ?」
「心外だな、真っ先に裏を疑われるとは。これでも日頃の君への頑張りに報いたいという気持ちはあるんだ」
「カミサマみてーに超然としてるお前がいってもなぁ…………」
とは言え、ありがとう。そう言っておにぎりを一つ掴み、齧る。
「…………ッ!?」
「どうした、まずかったか?」
「ちげぇ、逆だ」
言っちゃあなんだが、禍の団が拠点にしてる施設の食堂は、『それなり』だ。確かに美味しいが、利用する構成員の数が多いので、丁寧だが雑な料理なのだ。おにぎり一つにしたって、米はいいもの使って、良い感じに炊けてる上に、具と海苔もまあまあだ。でも適当に握られてるためか、『自分で握れるレベルよね』って感じだ。
だがこのおにぎりは違う。優しく握られてるのか、米と米の隙間が適度にあり、噛むと同時に優しく崩れ、一粒一粒がちゃんと美味しく食べられる。塩加減も、俺の好みど真ん中だ。
一口目でやられた、思わずガツガツと頬張ってしまう。具は奇をてらわず梅干しだったが、(精神的とはいえ)疲れている時にこの酸味はありがたい。しかも、種抜きだ。誰かはわからんが、手を混んで作ってくれたらしい。
「……美味い。凄く美味しかったと、作った奴に伝えてくれ」
「そうか、嬉しいな」
「……は? え、これお前が作ったん?」
「そうだが?」
いや、そこで『なに当たり前のこと言ってんだこいつ』みたいな顔すんのやめてくんね? あと首コテンとさせてるけど野郎がやっても可愛くねーからな。
しかし、美味しかったのはそうだし、感謝の気持ちは間違いない。
「美味しかった、ありがとう。このおにぎり分、余分に頑張ってきてやんよ」
「別にそういうつもりで作ったわけではないのだがな…………」
「しかしアレだな。お前みたいな完璧超人は、料理だけメシマズになるっていうお約束の筈なのにな」
「……美味しく作ったはずなのに何故責められてるんだ俺は?」
『責めてないよ〜? 単純に、2次元と3次元のギャップに落ち込んでるだけだからね、まさやん』
落ち込んでねーし。何だったらこいつに勝てんだろって思っただけだし。
「まあ、頭良い奴がメシマズになるのはあまり考えられないことなんだけどな、現実的に。頭悪いヤツがレシピにない余計なことをするからメシマズになるだけで」
だから創作で優等生がメシマズってのは実にファンタジーである。
「だからなんだ、責めてるわけじゃない。2次元と現実を混同してる自分に呆れてるだけだ」
「そうか。なら良いんだが」
『い、いいんだ? 結構危ない発言だと思うけど』
「そもそも、俺を含めて俗に言う『ファンタジー』の登場人物みたいだからな。弱っちい人間ではあるが、聖槍に選ばれてるというのが非常識であるという自覚はある。『十字禍』と、それに憑かれた君なら尚更だ」
「『確かに!』」
むしろファンタジーよりもファンタジーしてる気がする! ま、生いたち的にはダークファンタジーだけど。ご都合主義仕事してくれ。
「しっかし、ありがたいし嬉しいし美味しかったけどよ。なんでわざわざ俺にこんなことを?」
『つかそーやん、結構まさやんに対して世話を焼くよねぇ。仲間でもないでしょ? なんでかすげーきになるなー』
「……………………」
俺とクロスがふと思った疑問を口にすると、曹操は凄く難しい顔をした。え、なんなんそれ。
「……世話を焼いているという自覚はなかった。だが、仕事の礼に報いようとはしている。お前は俺たちの仲間では、ないからな。こういったことでしか繋ぎ止めることができない」
そしてその難しい顔が、なんだか寂しそうな色を滲ませてるような…………ったく、男がやってもこっちは悪いなってぐらいにしか思わんぞ。まあ女共は寄ってきそうだけどな、お前イケメンだし。
「バァカ、やってくれる分に関しては嬉しいが、そんな気を揉む必要はねーよ。行き倒れてた俺を直接拾ってくれたお前には、恩を感じてんだ」
それにある程度、その理念に共感したのは事実だからな。
「『人間として、どこまでやれるか』。何をもって『人間』とするかはビミョーなトコだが、面白いと思う。あと、『人外に虐げられる人間に救いの手を』だっけか。まあ人外連中だって色々問題は抱えてるけど、そいつらのせいで結構な人間が苦しんでるのも事実。俺とかその典型だしな。まあともかく、仲間になるのはゴメンだが、道を踏み外さない限りは相応のサポートは続けてくさ」
割と…………どころか普通に仲間ですら駒のように見ているこいつでも、禍の団英雄派の最初期からいる俺に対しては、それなりの思い入れがあるのだろう。せめて、安心させようとニッコリ笑ってそう言う…………が、予想に反して表情の悲しみの色は増していくばかりだ。なんでさ?
「……やはり」
「んあ?」
「やはりそれは……俺たちが『正しくない』からか?」
「は?」
「俺たちが『正義』ではないから、正義ではないのに『英雄』と名乗っているからか?」
「いや、なんの話してんだテメェ」
これ、そういう流れだったか? いや、今はともかくその流れに乗るしかないか。
「んまあ、お前らは正義じゃないよな。正しくない。テロ組織な上に、理想理念に則って行動してるとはいえ、力に対して力で対応してんじゃねーか。教科書通りの『正しさ』で見るなら、向こうが正しくないから、正しくないことをしていい免罪符にはならない。まあそんな何の役にも立たない理想にしたがってたら、やられっぱで滅ぶから、仕方ないことなんじゃないか?」
「……………………」
「ついでに、俺がお前らの仲間にならないのはお前らが正しくない、正義ではないといった理由からではない。それを言うなら俺だって同じ穴の狢だ、実に正しくない。悪とさえ言っても過言じゃないと言えるね」
「…………俺は、今までお前の判断が間違ってたとは思わないのだが」
「そりゃあ、一時期真剣に考えたからね、正義と悪について。大真面目に、厨二病患者のように」
そして得た結論は、『この世に正義と悪は無い』だ。
「とある国民的アニメの悪『役』の台詞を引用しよう。いいか、悪『人』ではなく、悪『役』だ。『悪には、悪の正義がある』。実に的を得た表現だと思うよ。正義を掲げて戦う敵もまた、別の正義を掲げて戦うんだ。それぞれに、それぞれの思う正しさと理由があるんだ。勧善懲悪モノは、御伽噺の幻想だ。俺は大好きだけど」
まあ、話が逸れたので戻すとして。
「仲間にならないのは単純なことだ。お前が道を違えた時、誰がお前を止める? 大体の人間がお前に心酔している以上、精神的にも止められない。単純に力でも止められない。まあだから俺に止められるのかって聞かれると、『無理☆』って即答するけど。でもこの組織はいろんな意味で危ない。誰か1人は、空気読めてない奴がいた方がいいと判断してるだけだ」
無論、いざとなれば無関係とか被害者を装うって意味もあるけどなー! うははははは!
「……流石にそれは嘘だろう? もしそれが本当なら、君は絶対に表舞台に出ることは無いはずだ。無関係を装えないぞ」
『しーっ! そーやん、そこは暖かい目で見てあげて! まさやんなりの照れ隠しなんだから』
「分っ千切るぞクロスファイア!!?」
『黙れ伊達政矢!! 男のツンデレなんて需要ねーんだよ引っ込んでろ!!!』
「『ア”ア”ン!!?』」
言ったな、言ってはならんことを言ったな!? よろしい、ならば
そして俺たちの、小学生にも劣る口喧嘩は始まり、それを呆れたように眺めながら、曹操は苦笑したのだった。
◆◆◆
「(ねぇ曹操、うまくいったの?)」
「(分からない。寧ろ疑問に思われた)」
「(……まあ、そうよね。あの政矢だし)」
「(しかし、かなり喜んで貰えた。本音も少し、聞けたしな)」
「(そう、なら良かったわ)」
「(助言、感謝する。あとは私なりに勧誘を続けていこうとおもう)」
「(…………はぁ、こっちもこっちね)」
「(…………?)」
◆◆◆
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