独眼機龍の十字砲禍《クロス・ファイア》   作:cmVkem9uZSE=

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砲禍その9

 

最初にあったのは、ただの神器だ。

 

『クロス・ファイア』と呼ばれていたのは生前のこと。殺され、封印され、神器システムに組み込まれた僕はありふれた神器、『龍の手(トゥワイス・クリティカル)』の一つになった。

 

僕の意識が表に出ることはほとんどない。システムの輪の中に戻り、次の宿主の中に移されるその一瞬だけ、記録を覗くことができた。

 

上手く使った者がいた。

 

下手に使った者もいた。

 

そもそも気が付かない者もいた。

 

奪われた者もいた。

 

無感動に、でも凍り付いた退屈な日々を少しでもマシにするために、その一瞬の記録を待っていた。

 

しかしある時、それは起こった。

 

お腹のなかで、次の宿主となるべき赤子が、死んだ。

 

本来ならば、その赤子は流れ、僕も次の宿主に移るためにシステムの輪の中に戻るはずだった。

 

しかし、不思議なことに。僕の意識は腹の中で覚醒し、流れることなく、その赤子としてこの世に生を受けることになってしまった。

 

今でこそ、何故そんなことが起こってしまったのか、僕の相棒が教えてくれたけれど、当時はもう、何が何やら分からなかった。

 

だから僕は、教会に通っていた。アレは信者が集まる、信者を守る神の家であると同時に、神父やシスター、天使を概して神へ疑問をぶつける場でもあったから。

 

しかし望む回答を得るどころか、まともに取り合っても貰えない状況が続き、それでも根気強く通うこと数年。気が付けば、教会の司祭『フランチェスコ・プレラーティ』だ。

 

その頃になって、ようやっと回答が届く。したっぱも良いところな下級天使が『神器システムの何らかの不具合が原因』だと告げてきた。敬虔な信徒を演じていたのもあり(実際真面目に、聖書の神に救いを求めていたから強ち間違いでもないが)、観察と監視の意味を込めて、司祭という立場で縛り付けることにした模様。

 

嫌な気がしないでもなかった。が、神器に封印されて以来できなかった『生活』というものが存外楽しくて、仕方ないと受け入れ、僕は教会で職務を全うしていった。

 

…………しかし、そんな生活は唐突に終わりを告げた。

 

『司祭フランチェスコ・プレラーティ。フランスのドンレミ村の農夫の娘に、神託が降りました』

 

『はぁ。それでミカエルさま、それが僕とどんな関係が?』

 

『4年後、彼女はフランスを救うために立ち上がります。その時にどうか、彼女の力になってあげて欲しいのです』

 

『えぇ……僕が? 言ってはナンですが、僕は表側の人間ですし、裏から見てもただの『龍の手』ですよ?』

 

『確かにその通りです。が、貴方は言っていましたね? 生前はそれなりに名の知れた龍だと。当時の罪をそそぐには、いい機会でしょう』

 

『…………まあ、ミカエルさまや教会にはお世話になっていますし、できることならなんでもやりますけれど』

 

選択肢なんてほぼなかった。ちょっとカチンと来たが、しかし相手は超上司。否とは言えない。それに…………まあ、僕も腐ってもドラゴンなので、戦いというのは嫌いではない。だから、その空気を感じるだけでもと、興味津々でフランスへと向かったのだ。名前も、フランチェスコからフランソワに変えて。

 

…………そこで僕は、僕の運命に逢った。多分、僕が死肉に取り憑くような真似してここまで生きてきたのは、彼女の為になんだと思えるほどに。

 

 

◆◆◆

 

 

『というかよくもお前、僕のことをその名で呼べたな? 僕は一度たりとも、あの日のことは忘れてないし…………後世で、ジルや僕がどんな風に語り継がれたかも、知らない訳じゃないんだぜ?』

 

いつもの、間の抜けた様な声をしたクロスは此処にはいない。ただ『十字禍(ディザスター)』、十字を呪う悪魔の化身としての冷たい声が、俺の口から発せられる。

 

「それは誤解に誤解を重ねた結果…………と言っても、貴方は信じてはくれないのでしょうね」

 

『ああ、信じられるかいそんな寝言。…………んにゃ、誤解があったのはそうなんだろうけど、『だから?』としか言えんよ』

 

ミカエルの顔が、更に悲し気に歪む。

 

『まあ、いいんだよ。僕や僕の半身のことは。どんな風に思われようと、構わない。問題は、あの娘のことだ。なぁ大天使ミカエル…………槍に囁かれたあの娘を踊らせた、彼女に…………『ジャンヌ・ダルク』に神託を与えた大天使。今、あの娘はどうしてる?』

 

「……………………」

 

『その反応は、つまり天界にはいないってことだ。次に、おいそこの魔王…………多分女性の方。確か外交担当だったはずだから知ってるはずだろうけど…………今地獄にジャンヌ・ダルクはいるのか?』

 

そこで視線を、見た目が高校生でも十分通用するような女性悪魔に向ける…………や、資料見たから知ってたけれど、アレが本当に現魔王の一人、女性悪魔最強『セラフォルー・レヴィアタン』だとは。

 

「……以前に、ジャンヌ・ダルクが列聖され、名誉が回復した際に、天界から引き渡しの申請があったわ。けれど…………」

 

『ありがとう、魔王。…………つまり今、あの娘はどこにいるんだ、ミカエル? 地獄にもいない、天国にもいない。お前が踊らせた、庇護すべき子供だぞ? その行方を、まさか知らないわけじゃあるまい』

 

「…………少なくとも、どの神話体系の冥界、天界にも存在していないようです」

 

『だろうね、そこは僕も宿主に手伝ってもらって調べたからな。嗚呼、さぞ無念だったろうよジャンヌは! 槍に憑かれ、お前らにはいいように扱われ、天国を信じて焼かれたら、自分の居場所は何処にもない! 俺は知ってるぞミカエル。天使じゃないけどな、教会の誰かが用済みのジャンヌを消すために、ピエール・コーションを含め色々な人物を煽ったらしいじゃないか。全く、神の教えが聞いて呆れる!』

 

そこでクロスは一息置いた。いやな沈黙だ、誰も彼もが重苦しい空気に口を開けない。

 

『…………まあ究極的には、ジャンヌのことだってもうどうしようもないんだ。僕が、彼女を守れなかっただけのこと。僕が教会や天界に思うことはあっても、それで何か行動を起こすのは、それはそれで違うからな。でもミカエル…………ジャンヌの様な被害者、減ってないだろ』

 

「…………ええ」

 

『教会に罪を与えられ、追放されて、いく宛のない人間を、僕は今の宿主を通して何人も見てきた。今宿主が所属してる組織にだって結構いる。いや追放された連中だけじゃない、教会にいいように身体をいじられた、実験動物みたいな扱いを受けていた連中だっていた! ミカエル…………あのときと何も変わってないじゃないかッ! お前の目の届く範囲でしか救えてないッ! それも、極少数だ、目の届かないところにいる連中は、また見棄てるのか!? 僕らの守りたかったジャンヌの様にッ!!』

 

…………本当に、本当に。こいつが俺の中に現れたのは必然だった。悲しいほどに、こいつの気持ちがよく分かる、分かってしまう。

 

『これは何も、天界だけの話じゃねーぞ! 僕の宿主は堕天使に目を付けられてその結果親殺しをする羽目になった! 悪魔にみいられて、強制的に眷属悪魔になって語るも億劫な目に合わされたヤツもいる! 似たような境遇の神器所有者は、禍の団に行けばもう見事にわんさかだ! お前ら、それでよくもまあ知らん振りで和平とか口にできたなッ!!』

 

「…………クロス。これ以上は、」

 

『いいや、言うね! どれだけ言っても言い足りない! 知ってるよ、此処にいる連中は、基本的にいいやつばっかりなんだってことは! ミカエルだって、本当は全てを守りたかったって、他ならぬ僕が良く知ってる! でもな、やれることもしないままに、平和だけ唱えるのは、そんなの間違ってる! 自分ところの黒い部分を押さえ付けられないのに、これからの平和が本当に成り立つのかよ!?』

 

…………それは、まあ思うけど。

 

『…………今日は、これだけ。もうちょい自分ところの足場整えてからにしろ。被害者は、お前らの知らないところで生まれるんだから』

 

「…………はあ、言いたいところ全部クロスにとられたなー。まあ、そういうこと。亡霊だからって、見て見ぬふりしてると呪われるぜってことで」

 

さてと、じゃあ撤退かなーっと。外見ると粗方魔法使いが殺し尽くされた上で侵入様の魔法陣も解析されて破壊されたみたいだし。

 

「今日は本当、挨拶だけなのでこれで帰りますけれど…………次は、お前ら次第だ」

 

そう言って、俺は侵入時にも通ってきた大きく空いた壁から飛び降りる。

 

そして着地し、校庭に出ると…………かなり消耗しているらしいイッセー君と、左腕を無くした堕天使総督アザゼルが。

 

「ま、…………!!」

 

「おうイッセーくん。君の前から逃げたってのに、それでも名前をばらすまいと気にかけてくれるなんて嬉しいぜ」

 

いやしかし、あの白龍皇相手に生き残…………るのは分かってたけど、どうもこの分だといい勝負でもしたのかな? うん、神器研究者としては凄く気になるところだけれども…………

 

「……………………」

 

「……………………」

 

堕天使総督と、視線がぶつかる。

 

「…………俺は、今までやってきたことを、悪いことだとは思っていない。少なくとも、世界全体を見た場合には」

 

「ああ、知ってる」

 

「だが、その過程で要らん怨みを生んだことも事実だろう。謝りはしないが、そこは思うところがある」

 

「そうか」

 

「だから、別の形で結果を出すしかねえ」

 

「フン、今は保留にしてる。ちょっとでも妙なことしてみろ、直ぐ様喰らい尽くしてやるからな」

 

視線が外れ、その隣を通り過ぎる。まだ、俺達の復讐は始まったばかりだった。

 

 

◆◆◆

 

 

『ところで、暴れまわるって言って沢山聖剣食べたの、結局無駄だったね?』

 

「無駄じゃねぇ! 貯蓄だ!」

 

 

 

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