‐導師の伝承‐
はるかな神話時代、世界が闇に覆われると、いずこより現れ光を取り戻した
時代は移ろうとも、世が乱れる度に人々は伝承を語り、救いを願う
その度に導師は姿を現し、闇を振り払ったという
しかし、平和が訪れると導師は姿を消した……
彼らはどこへ……その答えを知る者はいなかった
いつしか人々の記憶から、伝承の中へと消えていった
闇は……世界を再び覆わんとしていた
導師の名が再び語られ始めた
だが、いまだ導師は姿を見せなかった……
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マビノギオ山岳遺跡 外部
ス「よいっしょっと。ふー、ようやく遺跡の反対側に出られた。遺跡探検は子どもの頃からよくやっていたけど、こんな断崖絶壁まで来たのは初めてだな。うん?壁に何か描いてある……。」
ス「壁画……?これどこかで見たような……。たしか『天遺見聞録』に……」
ス「やっぱり!聖剣を掲げる英雄……『導師』の壁画だ!やった!ようやく見つけた!」
ミ「なるほど。まさかこんな場所にあるなんてね。道理で中々見つからない訳だ。」
ス「ミクリオ。」
ミ「スレイ、僕はハズレだったよ。先を越されたね、今回は。」
ス「今回『は』じゃないだろ。前の勝負だって、オレの勝ちだったじゃん。」
ミ「前って、いつのことのことを言ってるんだい?通算では僕の方が賭けに勝っている。」
ス「何言ってるんだよ。ミクリオが小さかった時なんて、俺に負ける度に泣いて悔しがってばっかだったじゃんか。」
ミ「む、昔のことだ。そんなこと言ったら、スレイだって……。」
ス「お互い様。でしょ?」
ミ「まあ、そういうことになるな。」
ス「この壁画の真ん中に書かれている剣を掲げている人……やっぱり『アスカード時代』以前には導師は身近に居たんだよ。」
ミ「そう断じるのは早計じゃないか?なにより、まだこの遺跡がアスガード以前のものか確証はないんだ。模造かもしれない。」
ス「でも、この規模の遺跡で様式まで測った模造建築なんてしないんじゃないか?」
ミ「どちらにしても、それらは憶測でしかない。それをうなずける根拠を探さなきゃならない。もっとよく調べて……。」
その目線の先には、断崖絶壁な崖から見下ろす先ほどまではなかった厚い雲。ゴゴゴゴゴと雷の音も微かに聞こえてくる。
ミ「なんだかまずいぞ。急に雲行きが怪しくなってきた。」
ス「ミクリオ、あれって……。」
ミ「遺跡探検はここまでだ!スレイ!急いで村に戻るぞ。」
雷が落ちる。
ミ「な……足場が崩れて……。」
ス「ミクリオ!」
ミ「くっ!」
スレイは咄嗟に手を伸ばし、ミクリオの腕を掴んだ。ガシ
ス「ふぅー、間一髪。」
ミ「頼むよ、早くあげてくれ。」
ス「わかってるって。」
みし
ス「……なんか今嫌な音しなかった?」
ミ「……ああ。僕にも聞こえた。」
みしみしみしみし
ス「ここもマズイ。早く引き揚げなきゃ。」
ミ「スレイ!そんなに力を入れたら……。」
ばりばりばりばり
ス「うわあああぁぁぁ!」
ミ「双流放て!ツインフロウ!」
ばしゃーん!
ス「ごほごほ、はあはあ。」
ミ「スレイ、大丈夫かい!?とっさの判断だったけど、上手くいったろう?これで貸し借りなしだ。」
ス「助かったよ、ミクリオ。一体どこまで落ちたんだろう。それにこの場所……。」
ミ「ああ。まさか地下にも遺跡があったなんてね。」
ス「落ちたのに感謝だな……。」
ミ「まったく。それより戻る方法を見つけないと。」
ス「あっ、うん。」
マビノギオ山岳遺跡 内部
ス「うは~、高っ!」
ミ「見晴らしのいい場所に出たな。どうやらさっき僕たちが落ちた場所は大広間につながる小部屋だったみたいだ。」
ス「うん?あれって。」
ミ「スレイ、どうした?」
ス「ほら、あそこ。誰か……倒れている?」
ス「あのさ、ミクリオ?あれ……人間だ。」
ミ「まさか!?大体、スレイも自分以外の人間を見たことないだろ。」
ス「うん。でもなんだかそんな気がするんだ。」
ミ「待て。例えそうだとしてどうするつもりだ。人間には関わらない方がいい。」
ス「放っとけない。まだ生きてんだから。ここから飛び降りるには遠すぎるか。あの人が倒れているのは大広間。だとすれば、必ずあそこに続く道があるはず。別の道を探そう。」
ミ「こうなると言っても聞かないか……。わかった。僕も手伝う。とにかくあたりをもっと調べよう。」
ス「ミクリオ……。ありがとう!」
二人は大広間へとつながる道を探した。
ス「中々見つからないな……。」
ミ「これほど大きな遺跡だからね。どこかに何か秘密があったりするかもね。」
カサカサ
ス「うん?あそこで何か動いたような?」
ミ「どうかした?」
カサカサカサカサ
ス「しっ、何かいる。」
クモ襲来
ス「こんなでかいクモ、初めて見た……!」
ミ「ぼうっとしないで、スレイ構えて!スレイ気を付けろ!こいつ、おそらく憑魔だ!」
ス「憑魔?本当か…?」
ミ「見るのは初めてだけどね……。」
ス「なんで憑魔なんてバケモンがこんなところに。」
剣で斬る音
クモ逃げる。カサカサ
ス「逃げる気か!?」
ミ「スレイ、よすんだ。忘れてないよね?ジイジの言葉。」
ス「あ……。」
回想
ジ『憑魔は、穢れが生んだ恐ろしい魔物じゃ。ヤツらを倒せるのは特別な者だけがあやつる『浄化の力』のみ。二人とも、憑魔に出会ったらすぐに逃げるのじゃ。忘れてはならんぞ。我らに憑魔を退治することは出来ないのじゃ。よいな?』
回想終了
ス「『浄化の力』がないと憑魔は倒せない……。」
ミ「今は追い払えただけで満足しないと。」
ス「なら、なおさらだな。」
ミ「?」
ス「急いで彼女を助けなきゃ。あんなのがうろついてんだから。」
ミ「まったく。君ってやつは……。しかし、彼女のところへ行く手段がないんじゃ話にならないよ。」
ミ「仕方がない。あれを試してみるか。」
ミクリオが氷の術を対岸に向かって放つ。橋完成
ス「すげーな!ミクリオ!さすが天響術だぜ!」
ミ「なんとかうまくいったな。」
ス「なぁ、その氷の術とか、さっきの水の術とか、オレにもできるようにならないかな?」
ミ「それはどうだろう?天響術は基本天族しか扱えないってジイジも言っていたから、厳しいんじゃないかな?」
ス「そっか。オレにはやっぱり無理か。いいな~、天族は。」
ミ「この橋も長くは持たない。行くなら急いだ方がいい。」
ス「ああ。」
氷の橋を渡り、二人は少女のもとへ向かう。
ミ「スレイ、これ……。」
ア「大きな槍だなあ。この子のものかな。」
ミ「護衛用として普通の人間が持ち歩くのも不自然過ぎる……。人間と関わることでどんなことが起こるのか。場合によっては、村のみんなを傷つけることになるかもしれない。やっぱり考え直そう。」
ス「……放っとけない。」
ミ「スレイ!」
ス「あの、大丈夫?」
「うぅ……あれ……?私は……確か森で……。」
ス「よかった。元気そうだ。はい、これ。キミのでしょ?」
「あ、ああ。すまない。」
ミクリオはスレイと少女との間に入ってきた。
「わっ!!!」
ス「どわあ!」
「?」
ス「どうしたんだよ、急に大きな声を出して。」
ミ「別に。ちょっと試してみただけさ。彼女に僕の存在を認知しているかどうか。」
「うん?どうかしたのか?私は何も言ってないが……。」
ス「あ、いや。何でもないんだ。ははは。」
ミ「本当の意味でタダの人間だ。」
ス「だな。」
「ありがとう……心配をかけたようだ。君は?」
ス「えっと、そう、オレはスレイ。」
「スレイ……。」
ス「うん。よろしく。」
「スレイ。この近くで落ち着ける所はないだろうか?都まで帰る準備を整えようと思うのだが……。」
ス「都から来たんだ。」
「……どうだろう?」
ス「うーん。オレの住んでいるとこに来なよ。」
ミ「スレイ!」
「いいのか?何者ともしれない私を案内しても?」
ス「困ってる人を放っとくなんてできない。そんだけ!」
ミ「大体名乗らないのも変だし、この年にして護身用とは思えないような大きな槍を所持している。それにこの身なりの良さ。わからないことばかりだ。あやしいと思うのが普通だと思うけど?」
ス「それでも、ここにおいていくほうがよっぽど危険だ!」
ミ「もうどうなっても知らないよ。ジイジのカミナリ、覚悟しておくんだね。」
ス「ああ、わかっているよ。心配してくれてありがとう、ミクリオ。」
ミ「礼はよしてくれ。」
ア「? なんのことだ?」
ス「ううん、何でもない。とにかくあっちだ。さあ行こう!」
「あ、ああ。よろしく頼む。」
ス「はぁ~、無事帰ってこれた!」
「なんという美しさだ……。まるで神話に出てくる天族たちが暮らす神殿のよう……。」
ス「ホントに『天族』って呼ぶんだ。」
「何かおかしいだろうか?」
ス「ううん。『神、霊、魑魅魍魎といった姿なき超常存在を、人は畏敬の念を込めて“天族”と呼ぶ』でしょ。」
景色に見惚れて輝いていた少女の目が、さらに見開いた。
「『天遺見聞録』の引用……。」
ス「じゃじゃん!」
スレイは少女の前に古い本を差し出す。
「君も読んだのか。」
ス「君も、ってことは……?」
「幼い頃にそれは何度も。」
ス「幼い頃って……。ねぇ、天遺見聞録って子供向けの本なの?」
「いや、大人も大勢読んでいるよ。私が早熟だったのだろう。」
ス「なんだ。そっか……うん、素晴らしい本だからね。」
「ああ。こんなところで同じ本を読んでいる人に出会えたなんて嬉しいよ、スレイ。」
ミ「スレイ、早く村に戻らないと日が暮れちゃうぞ」
ス「あっと。オレの村はここから少し行った所だから。行こうか。」
「了解した。」
二人は村に向かって歩き出した。そのスピードはかなり遅い。二人とも『天遺見聞録』やそれに載っている神話について楽しそうに話している。同じ趣味の人に出会って嬉しいのだろう。
ミ「和んじゃって……。どうなることやら。」
一人残されたミクリオは誰に聞かせるでもなく、そう呟いた。
イズチ
ミ「何とか日が出ているうちに戻って来れたな。スレイ、僕はジイジに報告してくる。」
ス「黙っとくわけにいかないよな。」
ミ「後で来るんだろう?」
ス「うん。」
ミ「それじゃあ、また後で。」
ミクリオは少女を横目でみながら、村のはずれにあるジイジの家に向かっていった。少女はまわりを興味深いそうに見渡している。
ス「ここがオレの村。イズチだ。」
「カムランではなくイズチ……師匠の予想は外れだったか……。」
ス「カムラン?」
「いや、スレイはここに住んでいるんだな。」
少女は首を振りながらそう尋ねる。その少女をもの珍しそうに村の天族たちが見つめていた。村の天族にとってもスレイ以外の人間に出会うことはめったにないことなのである。
「うん。みんな、来て。紹介するよ。」
それを見かねて、スレイは天族たちに話しかける。とある天族の手をとり、少女の前に連れて来たり、またとある年配の天族をおぶって、少女の近くで腰を下ろさせた。その光景を少女はそれを不思議そうにみていた。少女から見たら、スレイ一人でしゃべり、一人で村を忙しそうに走り回っているように見える。とてもシュールだ。
ス「これが杜で暮らすオレの家族。」
「えー、なんて言ったらいいか……。これは?芝居?それとも何かの演出か?」
少女はそのスレイの言動にひどく困惑しながら言った。その様子をみて、スレイは少し寂しそうな表情を浮かべた。
ス「そうか。やっぱり天族は見えない、か。……何でもない。忘れて。」
「君はおもしろい人だな。」
ス「……はは。あれがオレんち。先行って休んでてよ。オレ、ちょっと用あるから。」
「村の中を拝見しても?」
ス「いいけど、みんなを怒らせないでね。」
「みんな?………………。なるほど。ここは天族の杜、と言いたいのだな。」
ス「そう!それ!」
「では、粗相のないようにしなければ。ふふ。」
少女は目をさらに輝かせながら村を散歩しに行った。
ス「さって。ミクリオ、ジイジに上手く話してくれてるかな……。」
ジイジの家
コンコン ガチャ
ジ「む、来たか。」
ミ「……ま、スレイから直接聞いてください。」
ジ「しょうのない……。スレイや、そこに座れ。」
ジイジに促され、スレイはミクリオの隣に腰を下ろした。
ジ「このバッカもーーーん!」
スレイが腰かけるや否や、ジイジは村全体に響き渡るような大きな声でスレイを怒鳴った。
ス「ただいま……ジイジ。」
ジ「なぜ人間を我らの地に連れ込んだ!」
ミ「ジイジ……スレイの言い分も聞くって言ったじゃないですか。」
見かねて、ミクリオが間に入る。
ジ「今から聞くとこじゃ!スレイや、わかっていながら戒めを破ったのか?」
ス「ごめんよ、ジイジ。放っておけなかったんだ……。」
ジ「この地に禍をもたらすだけだ、人間は。」
ス「オレも――人間だよ。」
ジ「お前はワシらと共に暮らしてきた事でワシらの存在を捉え、言葉を交わす力を育んだ。普通の人間には出来ぬことじゃ。この大きな違いがわからぬお前ではないだろう。」
ス「確かに……あの子に霊応力はないみたいだった。」
ミ「それでもスレイにとって初めて出会った人間だったんです。」
ス「ミクリオ……。」
ジ「だが、同じものを見聞き出来ねば、共に生きる仲間とは言えん。」
ジ「ワシはこの地を護りながら、赤ん坊の時からお前たち二人を育ててきた。」
ス「うん、感謝してる……。」
ジ「それはお前たちが他のみなと同様に、この杜を守る存在となるからだ。無用な侵入者は排除せねばならない。みなの平和な暮らしのために。」
ス「はい……。」
ジ「では、行くのじゃ。処遇は追って伝える。」
ス「わかった。」
スレイは立ち上がり、家から出ていった。その場に残ったミクリオがジイジに話しかける。
ミ「ジイジ……。」
ジ「わかっておるよ。ミクリオ。あの子の気持ちはまっすぐで正しい。だからこそ、ワシは心配なのじゃ。」
ス「共に生きる仲間、か……。」
マ「おーい、スレイ。」
ス「マイセン。」
マ「その顔、さてはジイジにこってり絞られたな。」
ス「うん。予想はしてたけど。」
マ「はっはっは。あの人間の娘を探しているのか?あの子なら、お前の家の前でぐっすりだぞ。」
ス「教えてくれてありがとう、マイセン。すぐ行くよ。」
マ「はいよ。いやー、しかしまさかスレイが女の子を連れてくるなんてよ。おまえも隅におけないなー。」
ス「別にそんなんじゃないよ。」
マ「何か困ったことがあったら俺に言ってくれよ。女の子のおとし方の一つや二つ、伝授してやる。」
ス「おとし方って……。マイセンが女の人にモテてるとこ見たことないけど。」
マ「おお、スレイも言うようになったな。とにかく、俺はお前の味方だからな。応援してるぜ、お前たちのこと。」
ス「マイセン……ありがとう。」
マ「さっ、あの子が待ってるぜ。」
ス「うん。すぐ行ってくるよ。」
マイセンは小さい時から遊んでくれたお兄さんみたいな存在だ。少々軽いところが玉に傷であるが。
家に戻ると、マイセンが教えてくれたくれた通り、彼女は家の壁を背に眠っていた。余程疲れていたのだろう。そよ風に当たりながら気持ちよさそうに寝ている。
「スース―。」
ス「ごめん、遅くなって。疲れてたよね?」
スレイが声をかけると少女は背伸びをし、目を擦りながら口を開いた。
「うぅ……大丈夫だ。用は済んだのか。」
ス「うん。どう?村の中は楽しめた?」
「ああ。だが、ずっと誰かに見られているようでなんだか……。」
ぐー。
ス「ゴハンにしよっか。」
「すまない……実はもう限界だった……。」
ス「じゃ、オレの家に行こう。さあ入って。」
スレイは少女を連れて家の中に入っていった。
初めまして、作者です。本日から『俺が考えたアリーシャヒロインのゼスティリア』を連載していきます。今のところ、6000字~8000字程度の分量を一話分とし、毎日一話ずつ公開していきたいと考えています。今後ともよろしくお願いします。