俺が考えたアリーシャヒロインのゼスティリア   作:具志健

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アリーシャがスレイの家で食事をとるところから


第二話 導師の夜明け

スレイの家

ス「おまたせ。さあ召し上がれ。」

 

「これは?」

 

ス「オレの自信作。」

 

「……いただきます。」

 

パク

 

「おいしい!」

 

パクパクパク

 

ス「それはよかった。」

 

ス「…………。ねぇ、君の住んでいる所って、どんなとこ?」

 

「都。私が暮らしているのは、ハイランド王国の都レディレイク。」

 

ス「レディレイクって……聖剣伝承の!?」

 

「知っているのか?」

 

ス「天遺見聞録にあったよ。湖の乙女の護る聖剣を抜いた者が導師になるって伝承があるんだよね?」

 

「ああ、恵まれた水源を持つ都で、酒と祭りが好きな、陽気な人々で溢れていた。」

 

ス「溢れて『いた』?」

 

「……昔はそうだった。」

 

少女の顔が次第に暗くなる。スレイは暗い空気を払しょくしようと話題を変えた。

 

ス「下界の人たちは大変なんだな。」

 

「下界?」

 

ス「山を下りた先のこと。オレ、ここから出たことないんだ。」

 

「一人でずっとここに?スレイこそ大変な境遇だったのだな……。」

 

ス「はは。そうだ、明日からの帰り支度、手伝うよ。何がいる?保存食とかカバンとか?」

 

「そうだな、あと少々の道具類と寝袋があれば。」

 

ス「わかった。じゃあまずは狩りだね。明日案内するよ。」

 

「ありがとう。感謝する。」

 

スレイは自身が普段使っているベットを指さす。少女はそこに横になり程なくして吐息をたてて深い眠りについていった。

 

 

 

夜、スレイの家の外

ミ「彼女にもっといろいろ聞いたほうがいいんじゃないか?」

 

ス「やめとくよ。」

 

ミ「君が聞きたいようなことも、一緒に聞けるかもしれないよ。」

 

ス「それこそ悪いだろ。そうとう疲れているみたいだし。」

 

ミ「名前も告げない相手にずいぶんな気遣いだね。」

 

ス「だからだろ。同じ立場だったらそっちだって無理に聞き出したりしないくせに。」

 

ミ「ふぅ……。ジイジからの伝言。」

 

深いため息の後、ミクリオはこう続けた。

 

ミ「『いつあの者が穢れをもたらすかわからぬ。みなの平和の暮らしのため、一刻も早くあの者を下界へと退かせよ。しかし、いたずらに人間を追い立て、かえって穢れを呼び起こしてしまう事態は避けたい。それゆえ、出立の支度が整うまでは待つ。急ぐのだぞ、スレイ。』だってさ。」

 

ス「えっ、それだけ?」

 

ミ「ああ、それだけだ。」

 

それを聞いたスレイは満面の笑みを浮かべた。

 

ス「ありがとう、ミクリオ!」

 

ミ「礼ならジイジに言ってくれ。」

 

ス「ああ。」

 

ご機嫌に家へ入っていくスレイをミクリオは温かい目で見送った。

 

 

 

次の日の朝。スレイと少女は村のはずれの森にいた。

ス「いたよ。ウリボウ。」

 

「あれがウリボウ。」

 

ウリボウを見せる

 

ス「あいつの肉は燻製にしたら保存も利くし、なかなかイケるんだ。皮も素材として色々と使えるしね。」

 

「少々気に毒だが……。」

 

ス「やめとく?」

 

「いや。現実は心得てる。それに都では得られない経験だ。」

 

少女は覚悟を決めた顔を浮かべながら、標的となったウリボウをじっと見つめている。

 

ス「なるほど。今だ!いくよ!」

 

暗転

 

「はああ。」

 

ばしゅ

 

ス「すごい槍さばきだ!」

 

「ありがとう、君こそたいしたものだ。」

 

ス「うん。こんだけ狩ればもう十分だ。」

 

「あの、あとはどうすれば?」

 

ス「大丈夫、燻製肉も皮のカバンも寝袋も作り方教えるよ。」

 

「何から何まで助かるよ。」

 

ス「じゃあ今日は帰ろう。」

 

 

 

家に帰る

ス「体調はどう?」

 

スレイが少女に声をかける。少女は燻製を見つめたまま答える。

 

「だいぶいい。」

 

ス「そりゃあよかった。」

 

「本当に感謝している。スレイはこの村にずっと一人だと言ったが……」

 

ス「うん?」

 

「そうじゃない気がする。スレイがここを村と言ったように。不思議だな、何か感じるんだ。」

 

少女はそう言って、スレイを見て笑った。

 

ス「そうか……。出発はいつ?」

 

「明日にも立とうと思っている。長い間世話になった」

 

ス「どういたしまて。今日は早めに休んだら?準備は俺がしとくから。」

 

「しかし、それではスレイが……。」

 

ス「俺なら大丈夫。こういうの慣れてるから。」

 

「……ありがとう。その好意に甘えさせてもらうよ。」

 

ス「任せといて。それじゃあおやすみ。」

 

「ああ。おやすみ、スレイ。」

 

 

 

夜。スレイの家の外

ミ「準備は終わったみたいだね。」

 

ス「うん。」

 

ミ「ジイジに感謝しなよ。」

 

ス「わかってる。」

 

ミ「君のおかげでこっちはヤキモチさせられたけど、とりあえず何も起こさずに終われそうだ。」

 

ス「よかったよな~あの子。ちゃんと帰れそうで。」

 

ミ「うん?」

 

ス「オレここで生まれた訳じゃないし、天族でもないけど、このイズチがすごい好きだからさ。あの子にとっても、きっと都がそういう場所で、だから無事に帰れそうでよかったなって。」

 

スレイは手に持った『天遺見聞録』を見ながら言った。まだこの世界にはスレイが知らない世界がある、そう本が語りかけているようだ。

 

ミ「そうだな。自分が育ったり、今暮らしている場所を大切に思う気持ちは、僕らも人間も同じなんだろうし。」

 

ス「面倒をかけたよな。」

 

ミ「面倒はかけられてないけど、心配はさせられたよね。いつものことだけど。」

 

ミクリオは皮肉交じりに笑った。

 

ス「天族と人間と、もっと当たり前に一緒にいられたらいいのにな~。オレ達みたいに。」

 

「スレイ?」

 

少女は扉を開き、顔だけを覗かせながら言った。

 

ス「あっ、起こしちゃった?ごめん。」

 

少女はスレイのとなりに立ち、小さく首を横に振った。

 

ス「よほどのお気に入りなのだな、その本が。」

 

ミクリオフェードアウトさせていく

 

スレイが抱えているその本、『天遺見聞録』を指さしながら言った。

 

ス「うん。子どもの頃から何度も読み返して―――。」

 

「―――いつか世界中の遺跡を回るのが夢なんだ。天遺見聞録を読んだ者、皆がそう言う。かくいう私もその一人。だが今、世界に遺跡探究の旅などという余裕はないんだ。十数年前から、世界各地は人智の及ばないような災厄に見舞われている。」

 

ス「……災厄?」

 

「謎の疫病に止まない嵐、死人が歩き回ったなどとめちゃくちゃな噂まである始末。」

 

ス「ちょ、ちょっと待って。なんていうか……。」

 

「信じられない?それとも面白そう?」

 

少女は少しばかり笑みを浮かべる。

 

ス「あ、いや……。」

 

「だが、事態は深刻だ。」

 

「災厄によって引き起こされた大陸全土の異常気象。それが原因で近い将来、作物の実りがなくなり飢饉がやってくるだろう。最大の問題は、窮した国々の間で、略奪戦争が起きるかもしれないという事。そうなってはもう止められない。」

 

ス「何か手はないの?」

 

「見当もつかない……伝承にすがる程に……。」

 

少女は悲しい表情を浮かべ、顔をうつむかせる。

 

ス「だから遺跡を?」

 

スレイの問いに、少女ははっとして顔を強張らせる。問いには答えず、スレイを見つめている。

 

「それは……。」

 

ス「いいよ。無理に話さなくても。さ、明日も早いんでしょ。家に入ってもう寝よう。」

 

これ以上言及しても彼女を困らせるだけだ。そう思い、スレイは不安を募らせる少女の手をとり、家の中へと入っていった。

 

 

 

ぐおおおおおん

ス「はっ、この胸を締め付ける感覚は……。」

 

ジ「聞け!皆のもの!何者かが侵入した!探すのじゃ!気配を隠したことからおそらく憑魔じゃ!心して探索にあたれ!」

 

ス「憑魔が……。村の中はジイジの結界で守られているはずなのに……。」

 

ス「とにかく外へ出よう。」

 

 

 

ミ「スレイ!」

 

ス「ミクリオ!」

 

ミ「彼女は?」

 

ス「家で寝ているよ。作戦は?」

 

ミ「森には先行して、マイセンが向かっている。僕たちは森の右から回り込み、三人で挟み撃ちにする。」

 

ス「うん。いつもの訓練通りだね。了解。」

 

ミ「今回も無理は禁物。」

 

ス「それも了解!」

 

 

 

森へ進む

ミ「そろそろマイセンとの合流ポイントだ。油断するなよ。」

 

ス「ああ。」

 

マ「ぎゃあああぁぁぁぁ!」

 

ミ「今のは、マイセンの声?」

 

ス「こっちからだ!」

 

悲鳴が聞こえた方向へ全速で走る。打ち合わせ通り森を右から回り込み、マイセンが待機しているはずの場所へ向かう。そこには倒れているマイセンと見知らぬ男の二人がいた。

 

ス「マイセン!」

 

「おかしいねぇ。ここにはメインディッシュしかないはずなんだが……。また新たに二人もお出ましかい。」

 

ミ「なんだこいつは……これが憑魔だって言うのか……。ここは君が来るような所じゃない。立ち去るんだ。」

 

「クックク、カッカッカ。天族の小僧が生意気に。全身恐怖が丸出しになってるぜ。ほら、力んで腕もガチガチ。ぐふ。お前さん旨そうな匂いがするねぇ。」

 

ミ「何……だって?」

 

キツネ男は不気味な笑みを浮べ続ける。

 

「言わせるのかい?お前さんを喰いたいって。」

 

ス「ふざけるな!」

 

スレイ攻撃。だが弾かれる

 

ス「ぐはあ。」

 

ミクリオ捕まえるキツネ

 

「やっぱりうまそうだな。」

 

ス「ミクリオから離れろ!」

 

ばしゅ

 

ス「大丈夫かミクリオ。」

 

ミ「ごほ。ああ、なんとか。」

 

「死ねええ!」

 

ス「来るぞ!」

 

 

 

暗転

ス「はああ!」

 

「ぐううう」

 

ミ「口ほどにもないじゃないか。」

 

ス「さあ、まだやんのか!」

 

ミ「去れ!」

 

「何言ってるんだ。これからが本番だろうが!」

 

キツネ男の穢れが一気に噴き出した。先ほどまでは本気ではなかったのか。スレイとミクリオの表情が次第に曇っていく。男が放つ穢れとその不気味な笑みに飲み込まれそうだ。

 

ス「なっ、力が一気に噴き出して……。」

 

ミ「こいつ、今までは手を向いていたのか……。」

 

「お食事の時間だあああ!」

 

ミ「ま、マズイ!スレイ!」

 

ス「しまっt――」

 

ジ「去れ。邪悪なる者よ。」

 

ミ「この声は……。」

 

ス「ジイジ!みんな!」

 

助太刀いっぱい

 

ジ「二度は言わぬ。ワシの領域から出て行くのじゃ!」

 

カイム「それともみんなで相手してやろうか。」

 

天族がみんな一斉に構える。

 

「ふん……つまみ食いにかまけてメインディッシュを逃すのは面白くない。」

 

森全体に響き渡る高笑いと共にキツネ男は姿を消した。

 

ジ「消えたか!皆の者探せ!マイセンのことはワシに任せて、みなは周囲の護りを固めるのじゃ。」

 

天族たちは散り散り、消えた侵入者の捜索を始めた。

 

ス「マイセン!大丈夫か!?」

 

ミ「大丈夫だ。気を失っているが、命に別状はない。」

 

ス「ジイジ、さっきのキツネ人間は憑魔だったのか?オレたちと話せるなんて……。」

 

ジ「うむ。あれは人間が憑魔と化した姿じゃ。憑りつかれたといってもいい。」

 

ス「人が憑魔に……?」

 

ス「ジイジ、ごめん、オレ……。人間をイズチにまで連れてきちゃったから、あんな奴が……!」

 

ミ「それは違う!あの憑魔は君のせいでも、ましてや彼女のせいでもない!」

 

ジ「ミクリオの言う通りじゃ。あのような者が現れた責任を問いただすことなどできんじゃろうて。確かにあの娘を遠ざけておれば、邪悪な者はこの地に入り込むことはなかったのかもしれん。じゃがそれは自分たちさえ平和であればよいという身勝手な考えでもある。」

 

ジ「里の守りを固めることがいつしか閉塞のもとになっていたのかもしれん。この地の平穏は外の世界とも関係している。それを無視するようなことは我らとしてあってはならんことだ。お前は傷ついた人間を助け、そして邪悪なる憑魔は皆が力を合わせることで追い払った。」

 

ジイジはスレイに言う。それはまるで自分にも言い聞かせているようだ。

 

ス「ジイジ……。」

 

ジ「急ぎ、あの娘のところって行ってやれ。人間の目には憑魔は大きな災害として映る。さぞ、不安な時を過ごしていることだろう。」

 

「スレイ!」

 

ス「わあ!!!」

 

ジ「噂をすれば、じゃの。」

 

急に後ろから話しかけられて、スレイは大きな声を出してしまった。そこには木の陰からこちらの様子をおそるおそる伺っている少女の姿があった。

 

「すまない。驚かせるつもりはなかったんだが。」

 

木の陰からスレイのもとに向かい、スレイの顔を見つめる。その表情は硬く、とても不安そうな顔を浮かべている。

 

「こんな夜中にどうしたんだ?なにやら大きな音と光をみたんだが……。」

 

ス「ああ……、えーっと。」

 

ミ「スレイ、彼女を家まで連れて行ってやれ。キツネ男がまだ近くにいるかもしれないこの時に、普通の人間が外を出歩くのは危険だ。」

 

ス「わかった。マイセンのことは頼んだよ。」

 

「スレイ?誰と話しているんだ?」

 

ス「ああ、ごめん。えーっと、何の話だっけ。」

 

マイセンのことはミクリオに任せておいて大丈夫だろう。ミクリオはマイセンをおぶり、ジイジとともに戻っていった。

 

「夜中に大きな音で目が覚めると、スレイがいなくて、探しに出ていたんだ。途中、不思議な光を何度か見つけたので、そちらのほうに向かったら、ここにたどり着いた。スレイ、何かあったのか?」

 

ス「えーっと。ちょっと悪いやつがいたから追っ払ったんだ。起こしてしまって、ごめんね。」

 

「悪いやつ?魔物かなにかか?」

 

ス「そう!それ!そんな感じ!」

 

「魔物と戦っていたのか!?スレイ、大丈夫か!?ケガしてないか?」

 

スレイの手を取り、体の様子を確かめる。そして自分が咄嗟にとった行動に恥ずかしくなったのか、

 

「すまない。」

 

と小さな声で呟き、手を引っ込めた。

 

ス「大丈夫、大丈夫。君こそ大丈夫?ここまで一人でくるまでに何か変わったことはなかった?」

 

「いや、特には。」

 

ス「そうか。とにかく、もう遅いし、家に戻ろう。明日も早いんでしょ?」

 

「そうだな。スレイ、よろしく頼む。」

 

 

 

朝 門の前

「スレイ、本当に世話になった。」

 

ス「ホントにここまででいいの?」

 

「ああ。これ以上迷惑はかけられない。」

 

ス「そっか。」

 

「……。」

 

少女は無言で俯く。その表情は悲しそうな寂しそうな、そのような複雑な顔をしている。

 

ス「大丈夫。渡した地図通りに行けば森も迷わないよ。」

 

「あ、いや、それは信用している。」

 

「…………。」

 

少女は顔を上げ、スレイをまっすぐ見つめる。だが、スレイの顔を見ると再び俯いてしまった。その様子を見て、スレイは優しく少女に声をかける。

 

ス「ねぇ、レディレイクまではどれくらい?」

 

「そうだな、二、三日という所だろう。」

 

ス「近っ。そうだったんだ。」

 

「だが山麓の森は深くないのに、迷ってしまうことが多いんだ。」

 

スレイは、振り返り同じく見送りにきた天族たちを見る。ここは天族が護る社。ジイジの領域の力のせいで、外界と遮断しているのだろう。

 

ス「あっ……、ジイジの結界のせいだな……。」

 

「アリーシャ。」

 

ス「え?」

 

少女が顔を上げながら呟いた。先ほどまでの寂しそうな表情とはうって変わって、真剣そのものだ。

 

ア「私の名はアリーシャ・ディフダ。」

 

ス「アリーシャ……。」

 

ア「君は何も言わずに、何者とも知れぬ私を助けてくれた。それに引き替え、私は我が身可愛さに名すら告げず……騎士として恥ずべき事であった。どうか……許して頂きたい。」

 

ス「そんなこと……。」

 

ア「スレイ、私は。」

 

ス「ん?」

 

ア「私は、天族は本当に存在していると思う。天遺見聞録に記された数々の伝承はお伽噺などではないと。」

 

ア「今、世界中で起きている災厄……。それを沈められるのは伝承に残る存在なのではないかと。」

 

ス「導師、だね。」

 

ア「……君は笑わないんだな。都では殆どの者がバカにしたのに。」

 

ス「オレも信じているから。」

 

ア「君は本当に気持ちのいい人だ。レディレイクの都ではまもなく聖剣祭が始まる。導師伝承をなぞらえた『剣の試練』も行う予定だ。スレイ。『剣の試練』に挑んでみないか。」

 

ス「え……。」

 

ア「では、行く。スレイ、今の話、考えてみて欲しい。」

 

アリーシャはスレイに背を向け歩き出す。

 

ス「どうしてオレを?」

 

スレイがアリーシャを呼び止めると、歩みを止めた。そしてそのまま言った。

 

ア「伝承にある導師……それはきっと……。」

 

ここまで言って、アリーシャはこちらを振り返る。

 

ア「スレイ、君のような人物だと思うから。」

 

ス「導師……オレが……」

 

ア「スレイ、また会える日を楽しみにしている。」

 

ス「アリーシャ……。」

 

そう言って、満面の笑みを浮かべると、アリーシャは下界へ帰っていった。スレイはアリーシャが言っていたことに対して答えを出せず、ただただ彼女の背中を見えなくなるまで見送ることしかできなかった。

 

 

 

『聖剣祭』『剣の試練』『導師』。アリーシャが言っていたことが繰り返し、頭の中を巡る。彼女がこのイズチを旅立ってから数日経った今でも、スレイはそのことばかり考えていた。『剣の試練』に参加するため下界に降りるか、それともこのまま村に留まり天族達と今まで通り平和に暮らすか。一日中家のベットで考えていたが、その答えは出なかった。

 

ス「アリーシャ、か。森で迷ってなきゃいいけど。」

 

キツネフラッシュバック

 

『くかかかか』

 

ス「それにしても、あのキツネ……一体何しに……。」

 

回想

『おかしいねぇ。ここにはメインディッシュしかないはずなんだが……。』

『メインディッシュを逃すのは面白くない。』

回想終わり

 

ス「あいつがここに現れたのは、人間がイズチに入ったからじゃなくて……。ホントにアリーシャを狙って……!こうしちゃいられない。」

 

スレイは急いで荷造りを始めた。このままではアリーシャが危ない。このことをアリーシャに伝えなければ。そう思うと、即行動に移っていた。

 

 

 

あっという間に支度を済ませ、スレイは今朝アリーシャと別れたイズチの出入り口に来ていた。夜は深まり、村のみんなは寝静まっている。

夜 門の前

ス「黙って行って……驚くだろうな。」

 

人間である自分を赤ん坊の時から世話を見てきてくれた天族のみんなに感謝の気持ちをこめて手をあわせた。

 

ス「みんな。ごめん!」

 

ミ「何が?」

 

ス「わ!ミクリオ!?どうして!?」

 

隣にはミクリオが立っており、スレイの驚いた顔を覗き込んでいる。

 

ミ「抜け駆けなんてさせないさ。」

 

ス「え……。」

 

ミ「僕も行く。」

 

ス「ミクリオ!」

 

ミ「歩きながら話そう。時間が惜しい。あのキツネ男の言葉……。狙いはアリーシャと考えるのが自然だ。」

 

ス「ミクリオも気付いてんだ。」

 

ミ「当然。さ、急ごう。」

 

ス「ミクリオ!」

 

ミ「なんだよ。改まって。」

 

ス「来てくれて、すげーうれしい!」

 

ミ「ウソひとつつけない君じゃ、人間の中ではやっていけないだろうからね。」

 

ス「ジイジ……怒っているよな。」

 

ミ「ジイジは覚悟していたのさ。いつか君が旅立つことを。」

 

ス「大げさだなぁ~。一生会えなくなるわけじゃないのに。」

 

ミ「わかっているんだ、ジイジには。旅立ったら、君はもう人間の中で生きていくって。ジイジからの伝言だ。『自由に、自らの思う道を生きよ。お前の人生を精一杯。』……だってさ。」

 

ス「ジイジ、今までありがとう。」

 

ミ「行こう。」

 

マイセン「おいおい、どこに行くんだ。お二人さん。」

 

ス「マイセン!」

 

ミ「体はもう平気なのか?」

 

マイセン「おかげさまでこの通り。ピンピンしてるぜ。」

 

マイセン「話は聞かせてもらった。スレイ、ミクリオ、下界へ行くんだな。」

 

ス「ああ。」

 

マイセン「とうとうこの日が来たか……。」

 

ス「マイセン……、今までありがとう。」

 

マイセン「みんなには上手くいっておく。たまには帰ってこいよ。おまえが人間だろうと、ここがお前の故郷だ。苦しくなったらここに戻ってこい。愚痴ぐらいいくらでも聞いてやるさ。」

 

マイセン「さあ、行ってこい。スレイ、ミクリオ!」

 

ス「いってきます。」

 

去った後

 

マ「スレイ、ミクリオ……、頼んだぞ。世界を――」

 

マ「救ってくれ。」

 

 

ミクリオが先導して、その後をスレイが追いかける。ここから先は二人が踏み入れたことがない世界が待っている。その期待を胸に二人は外の世界は飛び出していった。

 

 

人はあまりに無力だ。それ故、時代が窮すると導師の出現を祈る。この後『災厄の時代』と呼ばれた時代に現れた導師の物語が幕を開ける

 




こんにちは、作者です。第二話です。ちょうど原作発売前の宣伝アニメ『導師の夜明け』までの内容ですね。ここまでの展開はおおよそ原作通りですが、細かい台詞の改変や、マイセン生存などオリジナル展開が少しずつ顔を出し始めています。次回は、いよいよオリキャラが登場します。いけ好かない兄さんですが、どうか彼をよろしくお願いします。ではまた三話でお会いしましょう。
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