マーリンド 宿屋
トントン
ア「はい」
ケ「ケインだ」
ラ「どうぞ」
ガチャ
ケ「ライラさん、スレイくんの容体は?」
ラ「だいぶ落ち着いてきましたわ。一晩休んだら元気になるでしょう」
ミ「よかった……」
エ「で、そっちのほうは?」
ケ「街の治安はすっかり元通り。ルーカスさんたちがよくやってくれた」
ミ「邪魔をしていた強い穢れはルナールみたいだったみたいだ。ロハンの加護領域も無事展開している。街に憑魔が入ってくることはない」
エ「一件落着ね」
ア「…………」
ラ「わたしたちも休みましょう」
ケ「ドラゴンパピーに暗殺者、さすがに疲れただろう。アリーシャ姫、スレイの看病は任せて。休憩できる時に休憩したほうがいい」
ア「しかし、わたしはスレイを……」
ミ「アリーシャ……」
ラ「傷つき疲れきった体を休めることも、穢れと向き合う上では重要なことですわ」
ア「…………わかました。すまない、ケイン。後は任せた」
ガチャ
エ「あっちも重傷ね」
ラ「…………」
深夜、宿の外
ア「スレイ……、わたしはキミの側にいるべきではないのか……」
ラ「アリーシャさん、眠れないんですか……」
ア「ライラ様……、はい」
ラ「スレイさんのことですか?」
ア「ライラ様、わたしは従士としてスレイのお役にたっているのでしょうか?」
ラ「もちろんですわ」
ア「わたしのせいでスレイはケガを負ってしまいました……。わたしのせいで……」
ラ「あれは不慮の事故ですわ」
ア「わたしを襲った憑魔はまだ捕まっていません。また狙われるかもしれません」
ラ「それではアリーシャさんが……!」
ア「わたしのことなら大丈夫です。それより今はスレイの身に何かあったらと思うと……」
ラ「それはアリーシャさんだってそうですわ。アリーシャさんに何かあったら、それこそハイランドが大変なことになってしまいますわ」
ア「……スレイは今やこの世界の希望です。導師に代わりはおりません。それに比べて……わたしは無力です」
ラ「アリーシャさん……」
ア「……ライラ様、お願いがあります」
暗転
ラ「……アリーシャさん、本当にいいのですか?」
ア「はい。お願いします」
ラ「出発は?」
ア「これ以上、スレイに迷惑はかけられません。すぐにでもレディレイクへ向かいます」
ラ「挨拶ぐらいはしていった方が……」
ア「一生の別れという訳ではありません。わたしはわたしなりにハイランドをよりよい国にしてみせます」
ア「…………。すみません、ライラ様。最後のわがままをお願いしてもいいですか」
スラスラスラ。アリーシャ手紙を書く
ア「これをスレイに渡してください」
ラ「はい。確かにお預かりしました」
ア「では、失礼します」
アリーシャ、マーリンドを離れる。
?「アリーシャ殿下が導師から離れました」
?「今がチャンスだ。ランドン様に報告しろ!」
?「はっ!」
朝
ス「ううん……ここは?」
ミ「やっと起きたね。マーリンドの宿屋だ」
エ「キツネの憑魔と戦った後、気絶していたのよ」
ス「そっか。あれからオレ……。みんなごめん。心配かけて……」
ケ「礼ならアリーシャ姫に言うんだね。ボクとミクリオくんが看病を代わるまで、ずっとキミについてたんだ」
ス「アリーシャが……」
エ「そういえば今朝になって姿を見ないわね」
ミ「部屋で寝てるんじゃないか?」
エ「部屋にはいないわよ。わたしが起きた時にはもう布団はもぬけの殻だったわ」
ケ「外にいるのかな。アリーシャ姫は今ルナールに狙われている。一人でいるのは危険だ。探しに行ってくるよ」
ラ「お待ちください!」
ス「どうしたの?ライラ」
ラ「アリーシャさんなら昨夜レディレイクへ戻られました……」
ミ「なんだって!」
ス「どうして急に……」
ラ「手紙を預かっています。スレイさん宛てです」
ス「これはアリーシャの字だ!」
ケ「手紙にはなんと?」
ス「えっと……」
「スレイへ
キミがこの手紙を読んでいるということは、ケガの方はもう大丈夫なんだな。よかった。
わたしはマーリンドの状況を報告するためにレディレイクへ向かう。そしてそのまま次の命をまつこととなるだろう。スレイたちと合流することは難しそうだ。
きっとその方がいいのだろうな。わたしのせいでスレイはケガを負ってしまった。一緒にいたら、またスレイの足を引っ張ってしまう。思えば初めて会った時から、スレイには助けてもらってばかりだったな。本来なら従士であるわたしが、スレイの助けにならなくてはならないのに……。わたしはスレイの従士失格だ。一緒に旅を続けたいが、これ以上迷惑はかけられない。
わたし頑張るよ。穢れのないハイランドをつくるために。だからスレイは、スレイの夢を追ってくれ。必ず夢は叶う。そう信じている。
スレイたちはこれからどこへ行くのだろうか。ハイランドか、それともローランスか。旅の無事を遠くから祈っているよ。ケイン、ミクリオ様、エドナ様にもよろしく伝えてくれ。
少しの間だったが、スレイと旅ができて楽しかった。……ずっと守ってくれてありがとう。
アリーシャ」
エ「ライラ、これってどういうこと?」
ラ「アリーシャさんは従士契約を破棄したいと……」
エ「それで契約を解除したのね、わたしたちに相談せずに」
ラ「すみません……」
ス「アリーシャ……」
ケ「スレイくん?」
ア「これからアリーシャを追う」
ラ「スレイさん!ですが!」
エ「あなたが追ってどうするの?あなたを傷つけた罪悪感を引きずっているあの娘を無理やり連れ回すつもり?」
ス「でも、こんなの間違っている!こんな別れ、あんまりじゃないか!」
ケ「ボクも同意見だね。一緒に旅を続けたいのなら続ければいい。少なくともボクは、アリーシャ姫に特別迷惑をかけられているとは思っていない。まったく他人に迷惑をかけずに生きていける人なんていないんだ」
エ「大層な屁理屈ね」
ケ「屁理屈で結構。本当に重要なのはキミがどうしたいかさ、スレイくん」
ス「ケイン……」
ミ「とにかく直接話を聞いてみない事にはなんとも。それからどうするか決めればいいんじゃないか」
ス「ミクリオ……」
エ「男どもってホントバカね……。あの娘がなんで直接話さず、手紙なんか手間がかかることをしたのか分からないのかしら」
ラ「…………」
ス「ライラ、反対してもオレはアリーシャに会いに行く」
ラ「……それは導師としてやるべきことなのですか?」
ス「それは……」
ラ「導師の出現を長年待ちわびた人々の期待を裏切ることになるかもしれませんよ」
ス「そんなことはしない。オレは人間スレイとして、アリーシャの夢を応援したい。そして導師スレイとしてこの災厄の時代を終わらせたい。オレの夢とアリーシャの夢は根っこの部分では同じだと思う。どっちかを選ぶなんてことはできない。だから両方選んじゃダメかな」
ミ「スレイ……」
ケ「これ以上ないベストアンサーだね」
エ「かっこつけすぎ」
ラ「スレイさん……。…………。いつからあなたとあの人が同じだと勘違いしていたんでしょう。わたしが間違っていました。ごめんなさい……」
ス「じゃあ!」
ラ「わたしは導師スレイの主神。そしてアリーシャさんは我が主の従士であり……大切な友人です。スレイさんが望むようにやってみましょう」
ス「ありがとう、ライラ」
エ「そうと決まれば、即出発」
「なぜだ」
暗殺者とデゼルが音もなく登場
ス「お前は」
「なぜだ」
ス「……何が」
「…………」
デゼル「なぜマーリンドに留まらない?」
ミ「突然なんなんだ!」
デ「ガキは黙れ。導師に聞いてるんだ。なぜ街を救った恩と称賛を捨てる?なぜそうまで自分を犠牲にする?あの姫様はそこまでする価値があるのか?」
ス「ここでできることはやった。アリーシャはオレたちの大切な仲間だ。それだけだよ」
「……変わってるな」
ス「そっちこそ」
ケ「今度はこっちから質問だ。キミたちの目的はなんだい?特に天族のキミ。なぜ風の骨と一緒にいるんだ」
デ「…………」
エ「スレイは、あなたの質問に答えたわ。今度はあなたの番」
デ「……俺たちの目的、それはこの世界の穢れを祓うこと。穢れを発するものを排除して世界を作り直す。浄化なんて生ぬるいことやっている間にゃ、あいつには敵わない。邪魔をするなら、導師であろうとも殺す」
ス「そんな理由でアリーシャを……」
「姫様のことはどうでもいい。生かしておいた方がこっちには好都合だ」
ミ「ということは、ルナールとお前たちは別の目的で動いているんだな?」
デ「質問には答えた。もう話す事はない。ふん」
二人とも消える
エ「いつも急に現れて急に意味深なこと言っては急に消えるわね」
ケ「少なくとも彼らはアリーシャ姫のことを狙っていないみたいだね。昨日も見向きもしてなかったし。となると、ルナールと風の骨の目的は別なのは確実かな」
ミ「あんな奴のことはどうでもいいさ。問題は、僕たちがどうするかだ」
ス「決まってる。レディレイクへ急ごう」
ラ「待ってください。木立の傭兵団とロハンさん達に挨拶してからにしましょう」
ミ「彼らにはお世話になったしね。なに、すぐ済ませるさ」
ス「わかった。無事でいてくれアリーシャ」
街の広場
ルーカス「よう、導師。やっと目覚めたか。街の治安は見ての通りだ」
ス「さすがだね。助かったよ」
ル「そっちの男から聞いた。そちらの首尾も上手くいったみたいじゃないか」
ス「おかげさまでね」
ル「そりゃよかったな」
兵士「団長!出発準備整いました!」
ル「武器の調整をしっかりしておけ!野郎ども!これから大仕事だ!気合入れろよ!」
兵士「おおおお!」
ル「じゃ、俺たちはそろそろ出て行くぜ。警備隊も活動を再開したし、別の依頼も入ったんでな」
ケ「別の依頼、ねえ……」
ス「さあ次はロハンさんだ」
大樹の前
ロハン「導師殿、体はもう大丈夫のようだな」
ス「うん」
ロ「見ての通り、結界を展開できて穢れは完全になくなった。少しずつだが、祈りを捧げる人間も戻ってきた。俺も頑張ってみるよ」
ス「よかった。これで安心して旅立てる」
ラ「アタックさんはこれからどうするんですか?」
ノ「ウチも旅に出る。いつかライラはんの力になるために散り散りになった仲間をもう一度集めるんや~」
ラ「それは頼もしいですわね」
ス「じゃあ、オレ達行くよ」
ロ「旅の無事を」
ノ「ほなまたな~!」
村の入り口
ミ「これで挨拶は済んだな」
ス「よし、レディレイクへ戻ってアリーシャに会いに行こう」
ラ「…………向こうから誰か来ますわ。あれは」
兵士「で、伝令……緊急だ!」
ス「どうした!しっかり!」
兵士「帝国が……ローランス帝国が攻めてきた」
ス「なんだって?」
ケ「ローランスが!このタイミングでか!」
ミ「戦争がはじまるのか……」
エ「次から次へと、人間って面倒ね」
兵士「戦場はグレイブガント盆地だ。マーリンドの者たちには君が報せてくれ。自分は都に!」
ス「ケガしてるに!無茶だよ」
兵士「一刻の猶予もないんだ!」
ス「気をつけて。くれぐれも無茶しないで」
兵士「ありがとう」
兵士去る
ミ「任されちゃった以上むげにはできないな」
エ「アリーシャは後。さ、みんなに報せましょ」
広場
ルーカス「野郎ども!仕事の時間だ!たっぷり都の連中に実力を見せつけろ!」
「うおーーーー!」
ケ「木立の傭兵団、新しい仕事っていうのはやっぱり戦争のことだったのか……」
ス「アリーシャに会いに行ってる場合じゃなくなってきたな……。オレも行く」
ミ「そうだな。彼らをみすみす死なせるのも寝覚めが悪いだろう」
ラ「いけません!導師が戦争に介入すれば、手を貸した陣営に勝利をもたらしてしまいますわ」
ミ「じゃあ黙って見てろっていうのかい?」
エ「そうよ。人間たちが落としどころを見つけるしかないの」
ス「導師の力があれば救える人たちもいるじゃないか」
ラ「ハイランドの人々は救えるかもしれません。ですが……」
ケ「…………」
ミ「その代わりにローランスの人々は救えない、か」
ス「そうか。ごめん、ケイン。オレ全然ローランスの人の事を考えてなかった」
ミ「そうか、ケインはローランス出身……」
ケ「……ボクなら大丈夫さ。スレイくんが謝る事はなにもない。悪いのは戦争をして利益を得ようとしている人達なんだから」
エ「そう。それが戦争。戦争に正義も悪もないんだから」
ラ「導師の力は世界のありように大きく影響します。まして戦争に介入すると、どれほどの歪みを生み出すか……」
ケ「戦場の位置を考えると、ここも巻き込まれるかもしれない。今はこの街の人を守る方法を考えるべきだ」
エ「…………」
ス「……わかった。ルーカス達も村の人と一緒に避難してもらおう。それならいいだろ?」
ラ「はい」
ミ「じゃあ早速ルーカスに話そう。さっきの調子だと、すぐにも出発するつもりかもしれない」
ス「うん」
スレイミクリオライラ、フェードアウト
エ「無理しているのバレバレよ」
ケ「ボクに言っているのかい?何の話かな」
エ「…………」
ケ「…………隠しているんだから、知らないふりしといてほしいな」
エ「イヤよ。バレたくないなら、もっとうまく隠しなさい。で、何。あなたもパーティを抜けたいの?」
ケ「そんなことないさ。戦争をどうにかして止めたいけど、その方法も思いつかない。考えつくのは、ローランス軍に頭を下げるぐらいさ。もっともそれも確率はずいぶん低い。ボクには出来る事と言ったら、被害を出来るだけ少なくするために、この街の人々を避難させること。それに……」
エ「それに?」
ケ「キミとの約束も果たしてないからね」
エ「…………」
ケ「みんなには黙っておいてくれよ。スレイくんは今、いっぱいいっぱいだ。余計なことに気を遣わせたくない」
エ「あなたも損な役回りね」
ケ「褒め言葉だと受け取っておくよ。話を聞いてくれてありがとう、エドナちゃん。改めて決意を固められた」
ス「ルーカス。村の人達と一緒に避難して欲しいんだ」
ルーカス「なぜだ!?戦場は俺達の仕事場だぞ。それにせっかくマーリンドもここまで立ち直ったんじゃないか。ローランス軍にめちゃめちゃにされてもいいのか」
ス「……オレはルーカス達が心配なんだよ」
ル「ううむ……」
ス「お願い」
ル「……グリフレット川を越えた先まで避難しよう。悔しいな。ようやく活気が戻ってきたこの街を見捨てるのか」
ス「大事なものは、はっきりしてる」
ル「へっ、かなわねぇな。導師殿にはよ」
ル「野郎ども、住民を連れて北のグリフレット川まで避難する!そのつもりで準備しろ!」
ス「ありがとう、ルーカス」
ル「導師もしっかり準備しとけ。橋もまだ完全には復旧してない。しばらく川辺で野営になるかもしれんからな」
ス「うん。わかった」
レイクピロー高地 グリフレット川手前
ケ「だいぶ遠くまで来たね」
ス「よし、ここまでこればひとまず大丈夫かな」
兵士「皆の者、道を開けえい!」
ミ「なんだ?」
ランドン「私はハイランド軍師団長ランドン。導師はいるか?」
ス「オレです」
ラ「貴様か……?」
ルーカス「ランドン師団長殿、導師にご用でこの戦列か?」
ラ「貴様は木立の傭兵団、ルーカスだな。……丁度いい、貴様も聞け。アリーシャ殿下の件だ」
兵士「アリーシャ殿下の導師を利用した国政への悪評の流布とローランス帝国進軍を手引きした疑いにより、その身を拘束した」
ス「アリーシャはそんな事してない!間違いだ!」
ラ「これは逮捕ではなく容疑だ。導師」
エ「なんだか雲行きが怪しくなってきたわね」
ライラ「……」
ラ「アリーシャ殿下は国への忠誠を示すために、戦争の最前線で戦うこととなった。導師スレイが力を振るい、この戦に勝利をもたらせば、その容疑も晴れるであろう」
ミ「バカな!」
ケ「最前線は激戦を強いられる。もちろん一番負傷者が多い部隊だ。もしハイランドがローランスに負けたりしたら……」
ス「……」
ラ「スレイさん、受け入れましょう」
エ「仕方ないかもね。もしこのままアリーシャが命を落としたら……」
ラ「はい。スレイさんは自らを責めてしまうでしょう」
ミ「そうなると、いくらスレイでも穢れと結びついてしまうかもしれない。そういいたいんだね」
エ「穢れた導師は戦争なんかとは比べものにならないほど、世界を悪い方向へ誘うわ」
ス「アリーシャは殺させやしない」
ミ「ほら、さっと行ってさっと終わらせよう。きっと何とかなる。僕たちが付いてる」
ス「オレが戦えば、アリーシャを解放するんだな」
ラ「勝利をもたらせば、だ」
ルーカス「俺たちもいくぜ。やっぱ戦いもせずに逃げる事はできねぇよ。俺たちには数々の戦いで得た誇りがあるんだ」
ラ「よかろう。指揮官は私だ。それを忘れるなよ。では導師。戦場で待っているぞ」去る
ル「なーに、俺たちがいれば導師の出番なんかないって」去る
ライラ「スレイさん。顔を上げてください」
ミ「さっき言ったよな?僕たちが付いてる」
ケ「そういうことさ」
エ「バカ正直に戦争に付き合うことはないわ。面倒だし。適当に終わらせましょ」
ス「……みんな、ありがとう」
一行、グレイブガント盆地へ。
こんにちは、作者です。第九話です。アリーシャ、離脱してしまいましたね。原作では、とってつけたような失明云々の設定でレディレイクに戻り、なんやかんや橋を作っていましたが、今作品では国から命を受け戦場に向かいました。ライラとアリーシャの会話や手紙の件はまるまるアレンジ。思い切った改変です。原作との違いを楽しんでもらえたらと思います。でも安心してください。今作のヒロインは紛れもなくアリーシャです。必ず彼女は戻ってくる、それだけは断言しておきます。ではまた、十話で会いましょう。