「初めまして、でいいかな? 天井宏輝だ。モモちゃんの友達でもあるかな?」
数分後、風間ファミリーの秘密基地にて天井宏輝、彼の歓迎会が開かれていた。当の本人は飄々とした態度で自己紹介をしており、友達である百代に睨まれるような目をされていた。
「何で疑問形なんだよ。友達じゃなくて親友だろー」
「俺としてはご主人様かと思っていたりする」
「何ィ!? まさかモモ先輩とそんなアブノーマルな関係なのか!?」
「誤解を招くような言い方をするな! 違うからな? 普通の健全な関係だからな?」
「借金で縛り上げるのもいいかもと最近思っております次第です」
「お前黙れ!」
宏輝を殴るかと思えば、手を滑らせて宏輝に詰め寄っていたガクトを殴り飛ばす百代。危険な目に遭ったのにも関わらず、態度を変えずに焼きそばをズゾゾゾと食べる宏輝に大和は驚く。川神百代は世界に武神として名を轟かせる武人であり、実力も世界トップレベルで人間をやめている身体能力を持っている。殴られるだけで命に関わる事があるので普通なら怯えるはずなのにと大和は考える。風間ファミリーの軍師である彼としては自分の姉と仰ぐ少女の連れてきた男の素性を調べようとしているが、よくわからないというのが第一印象であった。
また、宏輝を見極めるのが大和だけではない。椎名京、彼女も宏輝から感じる嫌悪感の正体を探ろうと興味の無いフリをしながら気付かれないように宏輝の動きを観察していた。――そして、また一人、観察をする者がいる。
(露骨だな)
天井宏輝。この少年だ。何気ないフリをしながらも、自分を見る視線を受け流しながらも逆に観察するように値踏みする直江大和と椎名京を見て観察している。本当に然りげ無い動作なので気付けるのはそうそういないだろう。唯一の川神百代は歓迎会のムードに呑まれ、完全に油断して宏輝の様子に気付かない。
宏輝は大人だ。子供だが、ギャンブルという大人の世界で人生を過ごした彼だからこそ無意識にそれを行う癖が付いてしまった。駆け引きが大事であるギャンブル全般において、天才的な才能と実力を持つ宏輝の優れた観察力と洞察力によってそれを可能にする。
(直江大和と椎名京。モモちゃんの言う通り、軍師と言われるだけ頭がキレるようだ)
「ヒロー。お前も食えよー」
「食べてる食べてる。そんな一気には食えな――」
ボゴッ。ソファに座る宏輝の口にアメリカンホットドックを突っ込む百代。これだけを聞けば卑猥に聞こえるが、宏輝は少年で童顔である人間だ。そういった性癖がある者だと需要はあるかもしれないが、宏輝自身は口を動かして口の中に突っ込まれたモゴモゴと食べる。木の棒を掴むと、それを引っ張り出して口を自由にする。
「あのね、モモちゃん。前から言ってるけどこういう悪戯はやめようよ」
「いいじゃないか。私とお前の仲だろ? ほれほれもっと食え。太れ」
「残念だけど漫画とかである太らない体質だから。少食でも十分だしね」
「女の敵ィ!」
「死ね」
ぬおぉぉぉう!?と宏輝は慌てて回避する。百代のパンチ、驚く事に京までもが先の尖った銀の針を投げるのを間一髪で避ける。宏輝の心臓がバクバクと鳴る中、百代が宏輝の胸倉を掴んで前後に揺さぶる。表情を変えずに乱暴に揺さぶるため、段々と顔を青くし始める。
「太らないってどういう事だァ! 太りにくい体質だなんてチートすぎんだろ! 羨ましい!」
「体質、だから、しょうがない、だろ。酔う、から、やめ、て」
「姉さんの方がチートだと思うんだけど」
「同感。宏輝先輩の顔、青を通り越して白くなってない?」
真っ青から真っ白にシフトチェンジした宏輝の顔色。痩せないというのは魅力的なのか、女性の敵だと言う太らない体質に嫉妬をしているのか。鬱憤をぶつけるように揺さぶり続けるため、宏輝側は溜まったものではなかった。
ここで誤解のないように説明するが、太らない体質ではある。だが、自分でも言ったように少食である宏輝。あまり食べないからこそ、普通の人間が太るであろう食事の量以下なので太らないのだ。元々、貧乏性なので大量の食事を食べようとは思っていないのだ。なので太らない、という感じだ。
流石にまずいと思ったのか、軍師である大和と常識人である諸岡卓也ことモロが揺さぶる百代を止める。解放された宏輝は咽せるように咳を繰り返し、蹲っている。そんな彼を川神一子ことワン子が背中を摩って撫でる。
「し、死ぬかと思った」
「大丈夫?」
「ああ、うん。ありがと、ワン子」
「えっと、宏輝先輩って読んだ方がいいですか?」
「好きに呼んで構わないよ。タメでも可。名前もヒロでいいよ」
「じゃあヒロ先輩って呼ばせてもらいます。僕のアダ名もモロなんでそっちで呼んで欲しいです」
「よろしくモロ。お近付きの印に携帯番号を交換しておこう」
ワン子に撫でられている宏輝に近付き、自然な流れで携帯電話の番号を交換し合う宏輝とモロ。その際に宏輝が持っている携帯電話が新しい事に一悶着あったが、無事に交換ができた。それをきっかけに、島津岳人も自己紹介、という名のポーシングによる自己主張をし始める。
ガクトと呼び始め、携帯電話の電話まで交換する事に成功する二人。すぐに打ち解け、モロとガクトの二人とワン子と雑談をする。ガルルルと唸る百代に、手に危ない凶器を構える京。直江大和が必死に二人を諌めるように止めている。慌てるように二人の前に立って修羅と化している乙女を説得しようとしているが、百代は新しい友人である宏輝しか目に入っていなかった。歓迎会の雰囲気に呑まれ、気の合う同い年という要素もあって暴走しているのだ。
「ひ、宏輝センパイ! ヘルプヘルプ!」
「死にたくないから頑張ってと普段は言うけど、俺のために開いてくれた歓迎会を血の海にはしたくないから助けてあげよう。カモンベイベー」
「ヒィィィロォォォォ!!」
「危ないヒロ先輩!」
キシャーと両手を挙げ、飛び掛かる百代に周りの人間が顔を青くして行方を見守る。座る宏輝の上に馬乗りになり、クケケケと悪魔の笑い声をする百代。悪魔の如きの顔に近いワン子が涙目になって震えていた。
「フフーフフ。年貢の仕入れ時だァ」
「それを言うなら年貢の納め時ね。たまにわからないボケをかますのはやめてほしいんだけど。仕入れたらまた意味が違ってくるから」
「五月蝿い。私をイラつかせた罰として為すがままにされろ」
「俺は玩具じゃねーって。弄ってもいいけどその前にちょっと耳を貸してちょ」
ハラハラと見守る中、宏輝は手招きして百代の耳にボソリと一言。すると、先程までの攻めの姿勢から一転して目を左右上下に高速で泳がせる。まるで言われたくない事を言われて動揺しているかのように。
「な、なななな、なんでそれを!?」
「いや。あのジジイと話してたら教えてもらったんだ。モモちゃんって変態趣味だったんだね」
「ちがぁぁぁぁぁうっ!! あれは誤解だ。間違いなんだ!」
「ハッハッハッハ。照れなくてもいいのに」
目を丸くする一同。馬乗りにされている宏輝がしている百代の膝をポンポンと叩いているのを見て誰もが驚いているのだ。
――あの川神百代がこうまで誰かにいいようにあしらわれるなんて。
「というかモモちゃん。変態趣味って言ったけどこれもその内に入るの?」
「…………」
百代は下を見る。宏輝の上半身があり、少し服が乱れている。横を見渡す。自分の仲間である風間ファミリーの面々が見ている。事態を完全に把握すると、百代は顔を一気に真っ赤にすると、少女らしい叫びを出しながら飛び上がるのだった。