真剣で私に振り向きなさい!   作:賢者神

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14 老人のうっかり

 

 

 

 

 

 歓迎会の百代の悲劇。新たな恥ずかしい経歴が付いた事件の後、椎名京と直江大和を除いて風間ファミリーの面々と大体仲が良くなった。

 

 

「冒険好きなんだ」

 

「色々な場所に行っているわ。昨日も何処かに行ってたみたいだし」

 

「……学校、どうしてんの?」

 

「義務教育だから問題はないぜ☆」

 

(さか)しい知識を持っているね翔一。もしかしたらあの直江大和クンから教えてもらったのかな?」

 

 

 自転車に乗る三人。正確には二人が運転してある一人が運転している片方の肩に手を乗せて支えにし、立った状態で二人乗りをしている。今回では、宏輝が自転車を漕いでワン子がスカートがヒラヒラするのにも関わらずに高く立っていた。

 この三人は風間ファミリーの面々、川神市にいる宏輝と同年代の少年少女と比べても仲が良い。歓迎会の前に準備をする時に食べ物や飲み物の調達をする時にワン子を通じて風間翔一と出会い、仲を深める。性格が合うのか、仲が良くなるのに時間は掛からなかった。風間翔一とすぐに打ち解けた宏輝は彼とのんびりとまったりと川神の街を自転車で走っているのだ。

 

 

「うーん。風が気持ちいいわ。ヒロ、もう少しスピードを上げて」

 

「疲れるからヤダ。俺は君等みたいにハイスペックな身体能力を持っているわけじゃないの。疲れるし、面倒くさいのよ」

 

「キャップ、勝負よ!」

 

「おし来た!」

 

「ねえ、話を聞いてる?」

 

 

 ガン無視であった。宏輝の言い分を聞こうともしない二人は宏輝を放置して勝手に競争をしようとしていた。漕ぐのがワン子ではないのに、あたかも自分と風間翔一、風間ファミリーのリーダーでキャップと呼ばれる少年と対決をするかのように話を進めていた。キコキコと自転車を漕ぐ間に宏輝はもうげんなりするしかなかった。

 

 

(この街の人間って人の話を聞かない奴ばかりなのか? 一部は違うみたいだけどさぁ)

 

 

 自分の事を棚に上げる宏輝だった。大体話を聞く方ではあるが、状況によっては人の話を聞かない事が多いのだ。今までに出会った人間で言えば、年配の人間だと話を聞いてくれる事がある。最年長の川神鉄心は言うまでもなく、例外である。自分の師に似た少年が現れて舞い上がっているのだから余計に始末が悪い。

 自転車のペダルを漕いでいる二人を差し置いて、ワン子はテンションがアゲアゲになっている。前方を指差し、元気な声で高らかに宣言する。前に進め、レッツゴーと。

 

 

「ワン子。お願いだから静かにしてよ。俺は五月蝿いのは嫌いなんだ」

 

「何を言ってるの! 元気なのが子供の特権よ!」

 

「そりゃそうだけどさ・・・静かな方が好きな俺としては耳障りなんだけど。騒ぐなとは言わないけど声を下げて欲しい」

 

「わかったわ!」

 

「わかってないし」

 

「宏輝先輩。ドンマイ」

 

「君に慰められても嬉しくないよ翔一。ワン子が癒しかと思ったらムードメーカーで苦手な部類だったでござる」

 

 

 自転車、ママチャリのハンドルに肘を乗せて溜め息を吐く。キコキコと古臭い自転車のサドルが金属の擦れる音を響かせる。それは宏輝の心を表しているようだった。

 宏輝が落ち込んでいる間にも、ワン子とキャップは楽しく会話をする。元々、二人の仲が良いのか話題が無くても次々と話題を見つけ出しては会話を長続きさせていた。二人の会話を間近で聞いている宏輝は新鮮な気持ちになっていた。同年代の会話とはこうだったと、今までに話した人間を思って懐かしく振り返る。

 

 

(ふふっ。確かにこうだったな。懐かしいと思える)

 

 

 目を細め、二人の会話を聞きながら自転車に当たる風に身を委ねる宏輝。彼の表情は穏やかとも言え、偶然それを見るとドキッとするような仕草であった。もし、軽い女性や少女であれば、すぐにコロッと落ちてしまう魔性の微笑みに見えてしまうだろう。

 少し心が穏やかになった宏輝は足取りが軽くなり、自転車を漕ぐ速さが少し上がる。並行するキャップもまた、スピードを上げて立ち漕ぎをしながら楽しそうに笑う。

 

 

「いやっほーう! 風になるぜ!」

 

「風間だけに? ワン子、落ちないようにしっかり捕まっててね」

 

「あいよっ」

 

「ノリがよくて嬉しいよお兄さん。キャラじゃないけどそれーっと」

 

 

 キャップに続くように宏輝もまた、立ち漕ぎをして先を走るキャップを追い掛ける。立った宏輝の方が背が高いので、ワン子は落ちないようにバランスを取りながら宏輝の上の方にある宏輝の肩を掴む。ほどよく晴れた川神市の下で三人は駆け抜けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何だよジジイ。わざわざ私まで呼び出して」

 

「ホッホ。まあそんな事は言わずに座らんかい。後はモモだけなんじゃからの――これで全員、揃ったようじゃ」

 

 

 所変わって川神院。歓迎会の後、川神院総代である鉄心に呼び出された百代は宏輝と話したいのをグッと堪えて呼び出しに応じて川神院に帰宅。そこには祖父の鉄心だけでなく、数人の人間が待っていた。

 

 

「さて。呼び出したのは他でもない、天井宏輝君の事じゃ」

 

 

 そう切り出す鉄心の顔は真剣そのもの。いつもふざけている印象がある百代にしてみれば、圧倒されて有無を言わさぬ迫力があった。しかも話題の中心は先程まで一緒にいた少年、天井宏輝のこと。何故という気持ちが百代を占めており、話を真面目に聞くも内容の半分も耳に入らなかった。まだ少ししか話してない、確信に迫る話をしていないので幸いと言えば幸いなのだが。

 

 

「嘗て、ワシには人生の師とも言える恩人がおった。知っている者もおろう、天上皇輝殿じゃ」

 

「総代が全盛期時代でも勝てないと言わしめる武人ですカ。耳にタコができるくらい何度も聞かされていますネ」

 

 

 鉄心の語りにまず、言葉を発したのは川神院師範代であるルー・イー。心なしか、少し疲れた顔をしている。何度も何度も酒の肴に語られては話すので嫌でも覚えたのだ。と、同時にあの世界最強とも言える川神鉄心が勝てないと言う、天上皇輝の正体も気になり始めている。

 また、部屋にいるルー以外の人間でわからない人間は疑問符を頭に浮かべていた。誰もが川神百代に並ぶ有名な武人であり、武の頂点である川神鉄心の招集を受けたわけである。中には、百代の顔見知りの者もいた。

 

 

「ジジイ、天上皇輝の話の前に何でこんなに人を呼ぶ必要があるんだ? 天衣さんまでいるし」

 

「それも説明しよう。まずは座らんかモモ」

 

「正直、私も戸惑っている。いきなり鉄心殿に呼び出されて驚いているんだ」

 

 

 少し戸惑った様子の女性、橘天衣。彼女は百代と同じ武道四天王と言われる若い人間の優秀な武人のグループの一人である。余談だが、何故か武道四天王は少女と女性のみで構成されている。更に付け加えると、橘天衣は天運持ちの宏輝の正反対である絶望を感じるほどの不幸体質である。

 

 

「知らない奴もいる」

 

「古今東西、隠居をしておる武人も呼んだのじゃ。今回の話は下手すれば世界を動かしかねない事態になるかもしれんのでの」

 

「ヒロの奴がそんな大層な人間か? ジジイの言う天上皇輝に瓜二つなのは知ってるがどう関係あるんだ」

 

「百代。今から話されるから黙って静かに聞きなさイ」

 

 

 師範代であるルーに言われ、渋々と口を閉ざす百代。百代の言うように、今川神院は武神川神鉄心の名に埋もれながらも武神と共に新たな武の時代を切り拓いた古き良き老人達。三人の老人が静かに佇みながら鉄心の声に耳を傾けていた。残念だが、百代は三人の老人の全盛期以上の力を身に付けている。川神鉄心という祖父の血族なので実力は頭を抜き出ている。

 

 

「困った事になっての。昔、ワシがまだヒヨっ子だった時代の敵が動き始めた」

 

「敵?」

 

「うむ。正確には皇輝殿の因縁の、と呼べばいいじゃろうか」

 

 

 髭を撫でながら静かに語りを続ける鉄心。ゆったりとした行為なのに妙な覇気が込められており、全員が緊張に包まれていた。尤も、百代だけはあのジジイが真面目だと……!? と戦慄して別の事を思っていたりするのだが。

 

 

「少々ヤンチャしてた時代での。喧嘩を売って返り討ちにされたんじゃよ、ワシ。仇討ちに皇輝殿が壊滅寸前まで追い込んだ事がある」

 

「少々言いにくいのですが、鉄心殿のせいですよね。それ。何をしてたんですか」

 

 

 鋭い橘天衣のツッコミに誰もが頭を縦に振る。その昔、鉄心がまだ天上皇輝の弟子(自称)の時に起きたこと。天狗が抜けきれなかった鉄心は調子に乗って当時、武の集団としては最強の部類に入るとある場所に大いに喧嘩を売り、惨敗して天上皇輝が仇討ちをした事がある。橘天衣の言う通り、完全に鉄心が悪いのだが、当の本人はテヘペロ☆と言い出しそうなムカつく笑顔をしていた。すぐにコホン、と取り直してシリアスな雰囲気を出す鉄心だが、あまりにも間抜けな事が起きたので真面目に話を聞こうとは誰も思っていなかった。

 シリアスな話は終わりだ。とばかりに老人組は久々に酒宴を開くと言って百代と天衣はそっちのけにされてしまう。何を話そうか気になったが、酒に酔い始めた老人の相手はゴメンだと部屋から出る。

 

 

「それよりも百代。久し振りに会ったから少し話さないか? 甘味でも食べながら」

 

「いいですね。美味い店を知っているので案内しますよ」

 

 

 ――ここで天井宏輝の苦難は決定される。もし、二人が残って様子を見ていれば未来は変わったのにと嘆く事になるのはちょっと先の未来である。

 

 

 

 

 

 

 

 

「んでのんでの。もしかしたら天井宏輝君は皇輝殿に――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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