真剣で私に振り向きなさい!   作:賢者神

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15 始まる苦難

 

 

 

 

 

「天井宏輝だな! 我が名は龍斗。いざ、尋常に勝負願う!」

 

 

 どうしてこうなったと宏輝は混乱する。川神市に訪れ、“迷い込んでから(・・・・・・・)”もう少しで一ヶ月が過ぎようという頃、いつものように川神市の朝の街を歩いて住人に挨拶を交わし、多馬川のある変態大橋と呼ばれる橋を歩いている時にそれは起きた。見るだけで武術の類をやっているとわかる男性が一人、宏輝の名前を高らかに宣言して宣戦布告をしたのだ。一般人である宏輝からしてみれば混乱するであろう。

 

 

「いやいやいや。俺は一般人ですよって。そんなに強くないし」

 

「噂は聞いておる! 天下無双の実力を持ちながらも隠して生きているそうだな! そんな腑抜けた輩に天下無双を名乗られても気に食わないのだ!」

 

「完全に八つ当たりじゃねーか! つーかいい年してブルースの格好してんじゃねぇ! 股間が異様に盛り上がって気持ち悪いんだよ!」

 

 

 思わず突っ込んだ宏輝。混乱していてもツッコミができる彼は生まれながらにしてツッコミ体質なのだろう。

 

 

「ええい! つべこべ言わずに戦え! ホオォォォォアァァァァァ!!」

 

 

 反論なんかせずに戦えと暗に言う男性、武人は奇妙な掛け声をしながら高く飛び上がり、宏輝に向かって踵落としをしようとする。隙だらけだったので宏輝は難なくそれを躱す事ができるが、彼には反撃をする事はできなかった。故に、彼らしい男性にとって外道で最悪の手段を実行する。息をしっかりと吸い込み、手を遠くまで声が届くように丸くして叫ぶ――。

 

 

「助けてモモちゃーーーーん!!」

 

「何を言ってるか! 真面目にたたか――」

 

 

 全てを言い切る事は適わなかった。空から飛来した高速物体に男性は弾き飛ばされ、星となったからだ。手を額に当て、遠くを見る仕草をする宏輝は感嘆する。一寸してから飛来した高速物体に目を向ける。

 

 

「呼ばれて飛来して空から美少女川神百代推参ッ!!」

 

「飛来しては要らないけど」

 

 

 その正体は川神百代であった。腕を組んで君臨者のようにドヤ顔を決めながら宏輝を見る彼女のバックは戦隊モノの変身後の爆発のように何かが爆発するのが宏輝には見えた。疲れているのか? と思いながらツッコミを入れ、百代に近付く。

 

 

「取り敢えずありがとうモモちゃん」

 

「む。呼ばれたから来たが何かあったのか?」

 

「ああ、そうそう。何かさっき変なブルース被れのオッサンが俺と戦えって言ってきてさ。俺、弱いからモモちゃんに助けを求めたわけ。吹っ飛ばしてお星様になっちゃったけど」

 

 

 宏輝はポンポンと労うように百代の肩を叩いた。先程の男性は弱い部類に入っていたとしても、自分を明確に狙う敵意には慣れていない彼としては恐怖であった。ギャンブルでも敵意を向けられる事もあったが、勘違いをされ、下手すれば大怪我する危険があった攻撃をやられた身としてはたまったものではない。百代を労う宏輝は心の底からホッとしていたりする。

 

 

「……ん、ん? 何でヒロが狙われたんだ? おかしくないか?」

 

「誰かと間違っていたと思うよ。何だって俺が天下無双の力を持たなきゃなんねーんだろ。しかも力を隠して――本当だからね? 俺、強くないからそんなライオンが獲物を狙うような目はやめてほしいな?」

 

 

 ハァハァ。いつの間にか宏輝の背中を取って息を荒げて手をワキワキさせる百代。宏輝の言う通り、目が危険極まりない肉食獣のような目をしていた。身の危険を感じたのか少しずつ後ろに下がる彼だが、野獣と化した百代は止まりそうになかった。なので、宏輝はジョーカーを切る。

 

 

「借金(ボソッ」

 

「おっと。今日はヒロに伝える事があったんだった」

 

「助かった。それで伝えたい事ってあれ。その服はどうしたの? 制服っぽいけど制服趣味?」

 

「違う。というか私達はまだ高校生だろう。来週から川神学園に行くんだよ」

 

「アホのモモちゃんでも合格できるんだ」

 

 

 ガスン。宏輝の頭を殴る百代であった。殴られた頭を抱えて悶絶する彼を不機嫌そうに見ながら言葉を続ける。

 

 

「エレベーター式だか知らんがジジイが手配してくれたんだ」

 

「そ、それを言うならエスカレーターね。エレベーターだったら大人の就職先まで選べてしまうから余計カオスになるって。もう少し勉強をしようよ」

 

「五月蝿い!! それで話は――」

 

「今の話で流れはわかった。俺にも川神学園を受験しろとかそんなんでしょ?」

 

 

 殴られた場所を摩りながら涙目で言う。余程、痛かったのか若干泣きそうな様子であった。自分の力をちゃんと考えて欲しいと思いながら掌を百代に向けて話を語り継ぐ。

 

 

「残念だけど無理だよ。中学校なら義務教育だから何とかなるかもしれないけど高等学校は入学試験は必須なの。今はもう四月、来週に高校が始まるなら今から手続きをしても無駄なんだよ」

 

「……よくわからん!」

 

「真面目に聞け。んでわかれ。一般常識だよコレ」

 

 

 別の意味で頭痛を感じ始める宏輝。いっそのこと、呼称もモモちゃんからアホの子やらアホと変えようかと本気で思い始める。そんな百代(アホの子)に丁寧にわかるように説明をする事にするのだが。

 

 

「わからん。ジジイがお前を連れて来いと言うだけで入学試験とかは聞いていない」

 

「モモちゃん、もしかしてあのホモジジイの話を半分聞き逃していない?」

 

「……ギクリ」

 

「口で言うかなぁ」

 

 

 段々と会話をする事自体、嫌になってくる。気のせいか、フラリと眩暈まで感じている彼は彼なりに考えてホモジジイと呼ぶ鉄心の言いたい事を考えて推理する。

 百代の言った事を全て思い出し、パズルのピースを重ね合わせるように推理を進めていく。頭痛もあるが、現状把握が大事だと思っているのでそれを無視して考えて考えて考え抜く。元々、考える力はある彼は朧げながらも答えを思い付く。

 

 

「もしかして編入生扱いで川神学園に入れるから説明を聞きに来い?」

 

「大体そんな感じだった。あ、他にも編入試験を受けて欲しいって言われてたんだった。今から」

 

「急すぎだろ! 遊んでばかりで勉強なんか全くやってねーぞ!?」

 

 

 叫ぶ。兎に角叫んだ。頭痛で頭を抱えていた手をそのままに膝から崩れ落ちて絶望を吐き出すように叫ぶのであった。自分が知らない間に話が進んでいるとわかって改めて川神市にいる人間が話を聞かないというイメージを強くしたのだ。編入試験? 真剣(マジ)でクソ食らえ。と思う宏輝であった。

 崩れる彼を百代がドンマイと背中を叩いて慰める。彼女の服装は今まで宏輝が見た事のない白い制服のようなもの。早速百代は改造しているのか、黒いシャツの上に白い制服の上着を羽織るように肩に掛けていた。見てくれはまるでレディースのリーダーのようであった。ちなみに風で短いスカートが揺らいで中が見えそうなのは割愛する。

 

 

「……よくよく考えたら受ける必要ないよな。義務教育じゃないから浪人に――」

 

「あ。ちなみに入学できなかったらジジイからお前を好きにしていいと言われてるから」

 

「借金」

 

「ジジイが立て替えるって……フフヒヒヒ」

 

「さーあ、頑張るぜ! 編入試験なんか満点で突破してやらぁ!!」

 

 

 自棄糞(ヤケクソ)になりながら彼は決意する。川神学園の編入試験を突破せねば、彼の貞操は奪われているが、玩具にされるだろう。そんな決意も余所に、編入試験の会場である川神学園まで百代に抱き抱えられて文字通り、飛ぶのであった。

 百代の柔らかい体の感触を楽しむ間もなく、抱えられる宏輝は悲鳴を上げるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーむ。これは予想外だったのう」

 

 

 川神鉄心は一人、川神学園の学長室で呟いた。学長である鉄心は川神院の、自分が今までに築き上げてきた財産を惜しまずに使って川神学園を援助している。

 そんな老人が手に持つ紙にはある事が書かれていた。それ故に、予想外という言葉が出ているのだ。紙の内容は本日、先程にある少年が受けた特別措置編入試験の結果である。たった一人だけなので採点も早く終わっている。

 

 

「いやはや。あの子が現れてから本当に楽しい事が繰り返し起きておるのう。モモの戦闘衝動も彼と付き合っている御蔭で抑えられておるし」

 

 

 ホッホッホと笑う鉄心。彼の顔には本当に嬉しそうで楽しそうな表情が表れている。癖である髭を撫でながらとある少年の編入試験の結果が書かれている紙を学長室にある机に置くのだった。

 

 

 ―― 天井宏輝。編入試験結果 ・・・ 全教科満点。編入規定を大きく超えている。故に、編入を許可する

 

 

 こうして宏輝の新しい道が決まるのであった。鉄心の川神院帰宅により、宏輝の編入試験合格を聞いた百代は喜んで入浴途中だった宏輝の家まで突撃するのであった。

 

 ―――その後、どうなったかは想像にお任せする。

 

 

 

 

 

 

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