真剣で私に振り向きなさい!   作:賢者神

19 / 27
19 嫌悪感と絶句

 

 

 

 ――橘天衣。

 

 彼女は武道に心得のある若い者を総称する武道四天王の一人である。二つ名は“スピードクィーン”、速さが売りの武道家である。武道四天王最速とも言われ、注目の的になっていたのだが、同じ武道四天王の川神百代に敗れ、武道四天王の地位が揺らぎ始めている。

 また、彼女は類に見ない最悪の不運であり、友人の家に遊びに行った際に隕石が落下して疎まれているエピソードが過去にある。不運に続く不運で心が折れそうになる彼女は――。

 

 ――現在、幸せの絶頂である。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

「お、おお、おおおおおぉぉぉぉ……!」

 

「橘さん橘さん。嬉しいのはわかるけどその喜びようがパネェっす。正直、ドン引きです」

 

 

 川神に来てからあれほど引いたのは初めてだ。と宏輝は後に話す。クールなイメージがある橘さんと呼ぶ橘天衣は目をキラキラさせてある物を掲げて喜びの声を徐々に上げていく。あまりにもキャラが崩れているので流石の宏輝も引いてしまうのだろう。ピクピクと顔の筋肉を引き攣らせながら幸せの絶頂とも表せる表情をする彼女を見ている。

 

 

「ひ、ひひひひ、宏輝君! 見てくれ! 生まれて初めて景品が! 景品を当てたんだ!!」

 

「オボェアブェ! 目が、目がまわ――」

 

 

 ぐわんぐわんと天衣に揺さぶられ、宏輝は思いっきり酔ってしまう。心無しか、顔が真っ青である。というか死にそうである。武道四天王に名を連ねる百代と同じ天衣が、百代よりは力が弱いと言っても宏輝の膂力を大きく超えている天衣が揺さぶれば脳は揺さぶられてしまう。

 さて。橘天衣という女性がここまで喜びを顕にするのはとある理由からだ。今、彼女が手に持っている粗品。唯一にしてこれだけで橘天衣がここまで喜びを見せているのだ。ストレートに言えば、この粗品は福引の残念賞を除いて一番下の景品である。

 

 

「い、生きててこんなに嬉しい事はない! 心の底から君と友人になれて嬉しいと思っている!」

 

「わ、わかったから手を離して橘さん! 死ぬ死ぬ!」

 

 

 何もそこまで喜ばなくては? と思うだろうが、橘天衣という女性は今までこういった福引等の運が絡む掛けに勝った、当たったのは初めてである。昔から不運ばかりだった彼女からすればまさに奇跡だろう。故に、ここまで喜びを顕にしているのだ。喜びをぶつけられる側である宏輝からすれば、たまったものではないが。頭を乱暴に揺らされて気分が悪くなり始めている。

 

 説明をする必要もないだろう。彼と彼女は男女同士が遊びに行く“デート”をしている。きっかけは橘天衣から。天運とは何なのかを知りたい意味合いで遊びに誘ったのだ。宏輝自身は即答でデートに賛成した。途中、福引をして歓喜して今に至るわけだ。

 やっと解放された宏輝は電柱に手を置いて激しく咳き込んでおり、原因である天衣は申し訳なさそうに背中を摩っている。

 

 

「ゲホッゲホ。酸欠で死にそうな思いをしたのは四度目だよこんちくしょう」

 

「す、すまない。つい嬉しくて」

 

 

 ゼェゼェと息を荒く繰り返しながら呼吸をする宏輝。本当に悪いと思っているのか、声色が気遣うそれであり、献身的に宏輝の背中を摩って楽にさせようとする天衣。傍から見れば仲の良い男女関係、カップル。酒に泥酔した夫を気遣う妻にも見えなくもなかった。

 

 

「一度も当たらないってどんだけ不運なんすか橘さん。前に友人とやったけど皆低くても当たりがありましたよ?」

 

「う、うむ。あくまでも私の考えなんだが、君の天運は伝染するのではないだろうか? だからこそ私でさえも当たりが出たんじゃないかと思っているんだ。君の才能とも言える天運が羨ましいよ」

 

「……そっすか」

 

(……無知は罪也とはよく言ったもんだ。人の気も知らないで)

 

 

 喜ぶ天衣を傍目に宏輝は上辺だけを取り繕って内心、冷たい感情を宿していた。もし、天衣が普段通りであればその変化にすぐに気付いただろうが、生まれて初めての福引の景品を得られた事に対して舞い上がっているために気付けない。とはいえ、宏輝自身の天運も恩恵の補正もあるので普段通りでも何らかの“偶然”が重なって悟らせないように事が動いてしまう。

 

 

「それより橘さん。次はあそこ、行きましょうよ」

 

「あ、ああ。そうだな。もう少し付き合ってもらうよ、宏輝君」

 

「喜んで」

 

(無知は罪也……とは言うが、川神の人達は俺の事は詳しく知らない。憎んではお門違いだ。落ち着け俺よ)

 

 

 天衣の手を引きながら宏輝は気持ちを切り替えようとする。自分が言われて嫌な事を嬉しそうに言われ、宏輝自身も嫌になっているのだ。人によっては利点だと思うだろうが、宏輝にとっては武器であり忌み嫌う物だ。彼が体験した過去と天運が引き起こした悲劇が天運に恨みを抱くようになっている。叶うなら、他人にそれを渡したいと願うほどに。何でも無い振る舞いをする裏側には何事も物事があるのだ。

 福引で当たり、気分が高揚している天衣を見て共に楽しむ宏輝だったが、心の中に芽生えたモヤモヤは晴れる事は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

「――は?」

 

「は? じゃないわい。当たり前じゃろ」

 

 

 川神院、総代川神鉄心の部屋に舞台を移す。そこには唖然とする百代に髭を撫でながら唖然としている百代を見る鉄心。

 

 

「い、いやいやいやいや! まだ始まってから一ヶ月も経ってないのに早すぎないか!?」

 

「しょうがないじゃろ。他にも何人かおるが、モモもかなりやばいんじゃよ」

 

 

 勿体ぶるような言い方をする鉄心はゴソゴソと何処からか紙を取り出す。それはもう、重い溜め息を吐きながら紙の内容を声に出して読み始める。

 

 

「川神百代、川神学園高等部一年F組。一学期恒例第一回実力試験結果」

 

「うっ」

 

 

 百代はたじろぐ。その読み上げた言葉に心当たりがあるのか、少し嫌そうな顔をして気圧されるように少し後ろに下がる。半目で上目遣いの鉄心にドキリと嫌な意味で心臓が高鳴る。

 

 

「数学、17点。現代文、三32点。英語、6点。理系選択生物、5点。文系選択日本史、28点――」

 

「わ、わかってる! わかってるからそんな低い声で読むな! 怖いんだよジジイ!」

 

「事実じゃろ。学長の孫という立場上でワシも学園の教師から注意をするように言われとるんじゃ。体力テストは全校生徒中トップだが馬鹿過ぎじゃわい」

 

「そ、それならジジイはどうなんだ! 他人に誇れる学力を持っているのか!?」

 

 

 苦し紛れ。百代はもう言われるのは勘弁だと矛先を自分の祖父に向けて話題を逸らそうとする。百代は鉄心が自分の過去を振り返って話を逸らすかもしれないと思っているようだが、鉄心は百代が思う動きをせずに寧ろやれやれとする様子に何故だか圧倒される。

 

 

「こう見えてもワシ、国立大学を主席合格しておるんじゃよ? 経済学に経営学。でなければワシが学園の学長になれると思っておったのかの?」

 

「――――――」

 

 

 文字通り、言葉を失う百代。金魚のように口をパクパクしながら震える手の指先で鉄心を差しながら驚きを隠せない様子に、鉄心は過去を振り返るような懐かしい顔をして髭を撫でる動作を再びする。

 

 

「懐かしいの。師匠がワシと戦ってくれるのに必死に勉強をしとったらいつの間にか他所様(よそさま)に顔を出しても恥ずかしくない学力を得ての・・・」

 

(し、知らなかった。ジジイって頭が良かったのか!)

 

 

 百代、祖父の新たな一面を知る。ただの師匠、天上皇輝に依存するクソジジイかと思いきや頭が良かった。これではポルナレフコピペが大歓喜である。

 

 

「っとと。また話がズレてしまうわい」

 

「じ、ジジイって頭が良かったんだな」

 

「ワシを馬鹿にしおってからに。学園の学長をやっとる時点で馬鹿なわけがなかろう……可愛い孫娘に忠告じゃ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「このままだとお前さん、夏休みの休暇期間返上で補習をする事になるぞい」

 

 

 ―― ももよは めのまえが まっくらに なった!

 

 川神百代。うら若き少女、地獄の釜が開いた瞬間であった。

 

 

 

 

 





 実際に鉄心って頭は良さそう。川神学園の学長やってるし。百代は何というか・・・まあ、頑張れって感じ。実際はどうかわからんけどここではアホの子として扱いたい。

 橘さんって完全に堕ちてる? 天運持ちだから上がり幅がカンストしているかもしれませんね。

 ここから着実に宏輝の闇を描きたい。天運とはいえ、欠点もある事を上手く書きたいんだが自分の腕で何処までできるか。具体的な例はとあるの女教皇さんみたいなイメージ。




  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。