真剣で私に振り向きなさい!   作:賢者神

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 大体こんな感じのノリでやります。







02 少年少女

 

 

 

 

 

「しゃらっ! ツモった!」

 

 

 ぐあーっと悲痛な叫びが木霊する。黒髪黒目、生粋の日本人である少年がホクホク顔で手にある札の数を数えていた。フヒヒヒと気持ちの悪い声も同時に出しながら。目までもがドルのマークになっているのを見れば、守銭奴である事がわかりそうだ。

 

 

「畜生。喧嘩が弱い癖にギャンブルだけは強いよな」

 

「フヒヒ。運ですよ旦那……って遊びは終わりにして。ありがとうよ。また一ヶ月食い繋げられるぜ」

 

「ギャンブルで食費を稼ぐ学生なんかお前くらいだよクソガキ。持ってけ泥棒」

 

「まいどまいどっ」

 

 

 煙草臭い場所。麻雀荘からルンルンとスキップを刻みながら先程の少年が出てくる。黒い制服姿のままで麻雀荘から出るのを見られれば間違いなく停学になるだろうが、少年はそんな事を気にしておらず、寧ろ自分から進んでギャンブルといった賭博をする性格であった。

 軽い足取りのまま、少年は暗い道路を歩いている。何に金を使おうか、今日の晩飯は奮発しようかと少年は頭の中で考える。

 少年はある意味、ギャンブルの天才だ。天運とも言える運の良さ、金に対する執着心が生み出す凄まじい逆転劇を可能にする実力。どれを取っても博打の申し子の称号に相応しいものだ。それ故に簡単に金を稼ぐ事を可能にしている。

 

 

「おっちゃーん。奮発してうな重くれうな重!」

 

「……ふぅ。また麻雀か。本当に博打には強いな坊主」

 

「ホントはパチンコとかがいいけど俺、学生じゃん? 前に大当たりしたら店員につまみ出されちゃってさー!」

 

「当たり前だろ。オメェ、まだ学生で高校生になったばかりじゃねーか」

 

「退屈な勉強より博打がいいって。並の成績があれば教師も何も言わないって。トップレベルよりも普通の方が目立ちにくいしね……それよかうな重うな重!」

 

 

 ニヒヒッと笑い掛ける少年は財布にある本日の儲けである金の札を数枚取り出す。財布から顔を突き出した諭吉さんの顔が眩しく感じる。それに対し、前にいる少年がおっちゃんと呼んだ壮年の男性はやれやれと肩を竦め、待っていろと料理を作り始める。

 行儀悪く、カッツンカッツンと箸を一本ずつ片手に持ってテーブルを叩く少年。ここは少年行きつけの飲食店、正確には酒屋である。店長である壮年の男性は以前から少年に無料(ツケ)で作る事がある。賭博で稼いだ金を支払いに使われる事が最近の悩みである。

 

 

「おっちゃんおっちゃん。何かこう、金が稼げる賭け事ない? ワクワクする感じの」

 

「俺はそんな汚い事はしない主義だ。あの麻雀荘を紹介したのも少し後悔してんだぞ俺は」

 

「ニヒヒ。代わりにおっちゃんの懐が潤うからいいだろ。奥さんを食事に誘えたから寧ろいいと思うけど?」

 

「まあ、な……それは感謝している。これで食い繋いどけ」

 

 

 コトンと置かれたのは前菜のきんぴらごぼうであった。ヤフーと嬉しそうに箸できんぴらごぼうを啄いて食べ始める。パクパクと食べている間に男性は料理を作り進める。鰻の焼けるいい匂いが漂い、少年は顔を緩ませる。

 壮年の男性、彼は少年をぞんざいに扱っているようだが、少年を実の息子のように思って可愛がっている。こうして食事を与えるのもその感情からであり、少年もその好意を甘んじて受け入れていた。実の両親とはまた違う親という存在に新鮮だと感じている。ちなみにだが、少年の両親はDVを起こす最低な両親でもなく普通の良い親である。

 

 

「ほれ」

 

「うっひょー! 久々の贅沢だ!」

 

 

 少年は嬉々とした様子でその丼を受け取る。鰻とタレの香ばしい香りが鼻を付き、少年は箸を持つ。いただきますと大きな声で宣言すると、上に乗った鰻を箸で摘んで――。

 

 ――そこで何故か少年の意識は途切れる。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

「誰だお前。というかうまそうなうな重だな。私にもくれ」

 

 

 鰻を箸で持ち、食べようとすればいきなり景色がガラリと変化する。

 口を開けたまま固まる少年の前に知らない少女が話し掛ける。固まる少年を余所に、少女は少年のうな重に狙いを付けて寄越せと言っている。

 え。誰? と思う少年。先程まで暗い夜の知り合いの酒屋で適当に喋りながらうな重を食べようとした。その証拠に手にはホカホカと暖かそうな匂いを漂わせているうな重がある。

 

 

「おいおいよー。こんな可愛い美少女が強請っているんだ。貢ごうと思わないのかー?」

 

「――いやいや。これ、俺のうな重だし。というか君誰?」

 

「それをくれるなら教えてやってもいい」

 

「あ。ならいいです」

 

 

 胸を張ってドヤ顔をする少女を無視し、少年は持ったままの鰻を口の中に入れた。久々の贅沢な味にじーんと感動する少年。

 そんな様子に唖然とする少女。自分が考えていたような返しをしてくれなかった事か、目の前でご馳走を食べられた事か。口を開けたまま今度は少女が固まり、パクパクと食べ進める少年を見ていた。だんだんとうな重の量が消えていく事に危機感を覚えたのか、慌てて少年の食事の手を止める。

 

 

「おい! そこは可愛い子なら仕方がないな。って言いながら渡すところだろ! 何でパクパクと食べているんだお前は!」

 

「え。だって俺のだし。君の事は知らないし。何で見ず知らずの人間に自分の晩飯を渡さないといけないわけ?」

 

 

 正論であった。確かに少年の言う事は正しく、間違いなど何処にもない。けれどそれが通じるのはあくまでも普通の人間のみで、目の前の人間にはその対応は間違いであった。

 

 

「いいから寄越せよ! 私だって腹が減っているんだ!」

 

「お前は子供か――って何だこの怪力!? 何で俺、持ち上げられているの!? つーか何をするつもアッーーーーー!!」

 

 

 後になってわかる事だが、この少女の名は川神百代。この地、世界で武神として名を轟かせ始めた頃の少女であった。百代はうな重を食べる少年を軽々と持ち上げると空に放り投げる。

 放り投げられた少年は声にならぬ悲鳴を上げながら姿勢を正す事等はせず、何故か空中で残ったうな重を高速で掻き込んで全部食べ始めた。そんな少年の奇行に放り投げた百代自身が驚かせられた。もし、落ちてきてもうな重を確保した上で助けるつもりだったのに目的であるうな重はすぐに無くなっていく。冷静にうな重を空中で食べる少年、シュールすぎる絵面である。

 

 

「いやあああぁぁぁぁぁ…………――」

 

 

 最高点に達し、そのまま自由落下を始める少年。声にならぬ悲鳴から悲鳴に変わると、どんどん地面に落下する。手にあるうな重は丼があるだけで中身は一切残っていなかった。落胆する百代に少年を助けようという気持ちは無かった。食べたかったうな重(他人のもの)を食べられ、空腹でイライラしているのも合わせて助ける気が起きなかったのだ。

 結果、地面に激突して死ぬと思いきや突如吹いた神風が命運をわける事になる。普通の風ではなく強風だったので空中を落下する少年にも影響が表れる。落下地点の変化、風に流された少年の落ちる場所が移ったのだ……そう。空中を漂う原因を作った人間の元にピンポイントに。

 

 

「そこの美少女さん! お願いだから受け止めてぇぇぇー!!」

 

「なっ! 何でこっちに来るんだよお前――!」

 

 

 ドグシャッ。落下する少年は百代に向かって飛び込む事になった。

 

 ――さて。ここで説明をしよう。少年には賭博に常勝できる天運がある。その天運はツキを呼び込む神に愛されているかのような運の良さを持っている。更に、例外なく賭博以外にもその天運は働く――“ラッキースケベ”というジャンルにも。

 

 少年の目の前。すぐ近くに自分を放り投げた少女の顔がある。驚きに目を開き、徐々に顔の色を真っ赤に変えていく。そこで少年は気付く。

 はて。と。自分の唇にある柔らかい感触は何なのだろうかと。何故少女の顔が近くにあるのだろうかと。顔を真っ赤にしているのは何でだろうと。自分の股間が誰かに触られている感覚があるのは何でだろうと。

 

 

「――――――!!」

 

 

 まさか。と気付いた時はもう遅かった。少女、百代に無理矢理引き剥がされて挙句の果てには顔面をダンプカーがぶつかったかと思える威力の拳が少年の顔に食い込んでいた。少年の見た景色はそこまでだ。

 殴られた少年は錐揉み回転しながら吹き飛び、少し離れた場所にある川まで飛ばされる。少年の末路は、川の藻屑(比喩)になる事であった。

 

 ここから始まる少年の苦難。勘違いに勘違いを重ねた壮絶な勘違いストーリーの幕開けである。

 

 

 

 

 

 

 





 修正改訂 13/05/24




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