真剣で私に振り向きなさい!   作:賢者神

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 うつで展開を忘れかけてるけどネタノートを見て思い出しながら頑張りたいと思います。








 A-2発売延期とかどういうことなの……?







23 対局と本性

 

 

 

 

 

 ――チェックメイト。と声が響いた。

 

 

「……む。負けたか」

 

「……俺の勝ち、ですね」

 

 

 少し悔しそうな九鬼揚羽。一息ついて、安心する天井宏輝。

 察しの通り、この二人はチェスをしている。当初の目的通り、九鬼財閥という場所を案内して息抜きついでに遊びをしているわけだが、案外白熱して真剣勝負に変わっていた。結果は言うまでもなく、宏輝の勝利。だが、辛勝である。

 

 

(マジ強ぇ。趣味かはわからんけど結構な腕で普通に驚いた)

 

「我も得意なのだが……悔しいものだ。三手差で敗れるとは」

 

「いえいえ。一手差ですって。揚羽さんは強かったです」

 

「慰めてくれるのは嬉しいが、これでも自信があってな。いざ、負けると悔しいものなのだ」

 

「人間、そんなモンです。悔しいと思うのは嫉妬の感情から。自分よりも強い相手の腕に嫉妬して悔しいと思うんです。それがあるから人は上達できる、夢中になれる。俺も初めはチェスや将棋は弱かったんですよ」

 

 

 クルリと宏輝はチェスで取った揚羽の黒いナイトの駒を器用に回す。心地良い音と共に駒が盤の乗るテーブルに置かれ、にひっと笑う彼に彼女はふっとクールな表情で笑顔を見せる。

 九鬼財閥を案内した時間に対決した時間、一日の内の大半の時間を宏輝のために費やした九鬼揚羽。元々、天井宏輝という少年の事を聞いていた彼女は上向きの好感を更に伸ばした。九鬼揚羽は九鬼財閥の長女という立場から見れば食えない狡猾な人間だと印象が、普通の女性という立場から見れば普通の男性という異性の人間と比べて好感が持てる。と考えている。

 大企業の令嬢という立場上の経験から天井宏輝という人物は味方になれば心強いものになる。だが、敵に回ればこれ以上ない厄介な敵になるだろうと確信していた。表面上は性格が少し軽い少年だが、彼女は少年の本質を見抜いていた。

 

 

(面白い。本当に面白い)

 

「あの……そんな顔されると惚れそうなんですけど。モモちゃんとか橘さんに申し訳がないんですけど」

 

「ふふっ。略奪愛も良かろう……嘘だ。冗談だから逃げようとするな」

 

 

 言葉を聞いた途端に宏輝は逃げようとする。“そういった”人種に苦手意識を持っている彼としては冗談だと言っても冗談に聞こえない。冗談だと言っている彼女の目は一瞬、本気のように思えたので逃げようとしたのだ。

 

 

「ふむ。取り敢えずもう一度、やるとしよう。時間もたっぷりある事だしな」

 

「……え。今から帰ろうと思ってたんですけど? ウチの猫に餌をあげる必要もあるんですけど」

 

 

 少し戸惑う宏輝に、揚羽は指を格好良く鳴らす。パチン……と部屋に響くだけで彼は自然な動きで首を横に傾げる。何だ? という疑問がありありと表れており、足を組んで指を鳴らした後の格好で固まっている揚羽を見る。特に変化はなく、何がしたいのかと聞こうとすると視界に黒が写る。突然の変化に驚いた彼は俊敏な動きで横を見る。

 

 

「猫でございます」

 

「みぎゃあっ!」

 

 

 驚愕のあまりによくわからない悲鳴を出しながら引っ繰り返る。頭を後ろの床にぶつける前に驚かせた原因である人間……執事とわかる格好の老人が倒れないように支えていた。顔を後ろに向けてヒュームとは違うタイプの老人の表情を伺い、すぐに腕に抱えられた黒い猫がいるのに気付く。また、その猫が見覚えのある猫で自分が飼っている猫だとも気付いた。老執事の手の中で大人しくしており、呑気ににゃーと鳴いていた。

 

 

「紹介しよう。我が九鬼財閥の従者の中で自慢の執事だ。名はクラウディオ・ネエロ」

 

「クラウディオ・ネエロでございます。こちらの猫はお渡しします。大人しくて可愛い子ですね」

 

「ど、どうも……天井宏輝です」

 

「存じております。天井様の噂は我等従者に伝わっております。どうぞよろしくお願いいたします」

 

(……俺、ストーカーでもされてんの?)

 

 

 マジ怖い。と思う。あらゆる情報が筒抜けになっていて得体の知れない恐怖を感じている。同時に、九鬼財閥という場所にはこんな輩しかいないのかと思っている彼はモフモフしている黒い毛の猫を持ちながら顔をヒクヒクさせていた。九鬼揚羽はまだ似たような雰囲気を持っている女性を知っているのでそこまで衝撃は無かったが、ヒュームとは違う老執事のキャラの濃さに面食らっているのだ。

 取り敢えず撫でる。モフる。現実逃避をする宏輝は足と腕を組んで優雅に紅茶を飲んでいる揚羽と執事の鏡とも言える立ち振る舞いで揚羽の後ろで控えている二人を呆然と見つめる。唯一の癒しが猫である今はただモフる事に集中しかできなかった。にゃーと鳴く猫に徐々に正気を取り戻すのであった。

 

 

「さて。少し話したい事があるからもう一勝負しながら聞くとしよう」

 

「断ればジジイの髭で首の後ろを撫でます」

 

「……喜んで引き受けさせてもらいます」

 

 

 にーと呑気にまた猫が鳴く。地味に嫌な攻撃を避けるために宏輝は仕方がなくもう一局やる事になるのだった。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

「……む」

 

 

 コトン。宏輝が駒を動かして置くと、揚羽が唸る。

 

 

「まるで読めん。一手一手が独立しているように思えてならんな」

 

「こうでもしないと祖母に勝てないもので」

 

 

 腕を組んで唸る揚羽に宏輝は淡々と答える。というか腕を組んでいる彼女の豊満な胸が潰されているのをチラ見している。考えている揚羽の反対、宏輝は余裕を持って盤上の状況を観察しながら先の手を読んでいた。

 天井宏輝という少年は頭脳を使う勝負は得意分野であり、天運とはまた別の彼自身の特技だ。対局している間、回数を重ねる事で相手の癖と思考を見抜ける事もできている。これもまた、彼の祖母の教育の賜物であるが、全てを知っているのが本人だけなので付き合いが長い百代ですら知らない。

 

 

「祖母……ふむ。君には家族はいるのか?」

 

「いません。捨てられたものなんで」

 

「――本当は何処にもいないのではないか?」

 

 

 コトン……と揚羽が動かした駒の音が大きく宏輝の耳に入り、いつまでも響いた。それを動揺と取ったのか、表情を変えぬままに揚羽は宏輝を問い詰めるように言葉を投げ掛ける。

 パサッと紙の束を宏輝に見えるようにチェスの盤の横に置く。細かい文字列がすぐに目に入り、書かれた情報を読み取る。

 

 

「天井宏輝の名であらゆる身分を証明する物を我が財閥の全力を尽くして調べさせてもらった。天井宏輝という人間はいたが……君と同じだと言える戸籍は何故だか“七歳の少年”だった。その時点で改竄された可能性を調べたが、その跡も無かった……」

 

 

 トントンと指で紙の中心を叩く。そこには「調査結果:素性不明」とあり、調べた内容が宏輝の身元がわからない事を意味していた。彼はいるのにまるで幽霊のような存在ではないかと揚羽は推察しており、一つ一つの動作を注意深く観察しようと目を凝らして見ていた。

 見られている宏輝といえば、表面上は動揺しているように見えて心の内では冷静に動揺しているように見せかけて紙の文字列に目を通してできるだけの情報を得ようとしている。

 二人の間に見えないやり取りが為されており、油断すればあっという間に食われるだろうと第三者の立場になっているクラウディオ・ネエロは感じた。長年、荒療治に慣れているからこそわかる事でジッと二人のやり取りを見守るのだった。

 

 

「……プライバシーの侵害ですよ」

 

「そこは謝ろう。だが、こんなものが出てきたとなれば話をしないわけにはいくまい?」

 

「両親は俺を捨てました。七歳の養子とすり替えて存在を無かった事にされたんです」

 

「有り得んな。我が九鬼財閥の力を以てすれば、改竄された事も調べられる。そんな痕跡は無かった上に両親の性格からしてその行動をしないとも報告がある。借金、闇金、そちらの方面から売買関係を洗ってもみたがそんな話は無かったとも報告がある」

 

「凄いですね。この企業は犯罪行為までするんですか。世界規模の企業だから何か裏があるとは思っていましたが、最低ですね」

 

「承知している。何度も言うようだが、君のように存在が確定できない人間は見過ごせないタチなのでな。世界を悪い方面に変えられるのであれば我は見定めなければならんのだ」

 

「……ひひっ」

 

 

 一転、状況は変わる。言葉の応酬を繰り返していた二人の片方、宏輝が笑い始める。ピクリと動きを見せるクラウディオを揚羽が手を上げて制する。主である揚羽に手を出そうと思ったのか、クラウディオの顔は厳しかった。

 その声は狂人の笑い声に聞こえるが、揚羽はその認識が違う事を悟る。視線が下なので表情は窺えないが、纏っている雰囲気が危険ではないと勘でわかったのだ。

 

 

「あ。すんません。いきなり笑うのは失礼ですよね」

 

「構わんよ。寧ろ、堅い輩よりは好感が持てる」

 

「珍しいですね。大企業のお偉いさんって公共の場以外でもお堅い態度なんすよね。揚羽さん、厳しいように見えて親しみやすい人ですよね」

 

「そう言ってもらえると嬉しい。我も君が好きな方だな」

 

 

 うっと咽せそうになるクラウディオ。真面目な顔をして色々と問題発言をする主に、見守る事からそろそろ止めるべきかと考え始める頃、揚羽が出した調査結果の紙の束を宏輝が持ってじっくりと読んでいる様子を見て本気でどうしようかと悩み始める。しかし、膝に乗る黒猫と戯れる様子を見て危機感が薄れてしまう。

 

 

「それで、君の事を話してくれるか?」

 

「んー、構いませんけど……」

 

 

 黒猫と戯れる宏輝を諌めるように言葉を投げ掛ける。言葉を返し、言葉に詰まる彼は何かを考えてある仕草をする。まずは揚羽を指差し、胸の少し上の服に着けられたアゲハ蝶のアクセサリーを指差す。次に、クラウディオを指差して彼が使っている眼鏡のフレームの部分とスーツの胸ポケットに手首を指で示す。何も知らない人間だったら何の事かわからないが、その場所を示された二人は冷静さを隠せずに目を見開いて驚いている。

 実際に、宏輝が示した場所には二人が用意した盗聴器と超小型カメラがある。それを見抜いた事に何よりも驚いている。宏輝は一目見れば普通の高校生と変わらない容貌で、裏の世界の人間にも見抜かれないような小さい物を見抜いたのだ。それも使っている物全てを。揚羽ならまだしも、まだ短い時間しか見るチャンスが無かった上に数も多いクラウディオを見抜いたのは何よりも見抜かれた本人が驚いていた。

 観念したようにアクセサリーを外した揚羽はクラウディオに目配せをし、自分と同じように外せと目で指示を出す。

 

 

「何故見抜けた? と思っていますね」

 

「……ええ。九鬼財閥の兵器開発部門の最高傑作で従者でも数える程度しか見抜けなかったのにアナタのような少年が見抜けたのは些か疑問が湧いて止みません」

 

「同感だ。あやつ等の腕を知る我としては手抜きを作るとは思えんからな」

 

 

 二人がカメラや盗聴器を外した事を知った宏輝は沈黙から饒舌に言葉を発し始める。一転して警戒し始める二人に、弁明と説明をするように言葉を選ぶ。

 

 

「何というか……俺、見られたり聞かれたりする事に敏感なんですよ。体質というか天運のせいで一時、とある組織に半年も見られた事があったんでその経験で……」

 

 

 クッと声を漏らす。見れば、勘違いさせてしまうだろう反応をしていた。言っている事は半分が本当で半分が嘘であるのだが……。

 

 

「……苦労していたんだな」

 

「ご愁傷様でございます」

 

(演技力は鈍ってないようで安心した)

 

 

 騙される二人だった。下手な俳優よりも演技が上手いどうでもいい特技を持っているので彼をよく知らない人間だと初見では演技だと見抜けない。心の中で自分の腕が錆び付いてない事にほくそ笑みながら黒猫を机の上に置いてチェスの駒を肉球で動かすのだった。

 

 

「あ。いちいち言うのが嫌なんで先に言っておきます」

 

「む?」

 

 

 

 

 

「――俺、まだ隠している事があるんで頑張って見抜いてください」

 

 

 世界が違うこと、天運の秘密。世界を変える事になる抱える秘密を秘めている事を敢えて教える。

 ――唯一の誤算は九鬼揚羽という知的欲求を計り知れなかったことだった。

 

 

 

 

 

 





 覇王清楚さんハァハァ。紋白までヒロインでエロゲをやっている自分ではロリコン野郎だと思い始める大和でした。魔を断つ剣は……いや、何でもない。

 組織云々のくだりは半分本当です。推理すると面白いかもしれません。後である人物が登場してからは宏輝自身の口から語られるのでお楽しみに。

 ダラダラするよりも一気に進めようかと考えるこの頃。



 宏輝は以前に発想が柔軟だといいましたが、別の言い方をすればIQが凄まじく高いです。チェスのような頭脳を使う競技では九鬼帝のここ一番の場面で勝つ部分をいつでも持てるイメージ……かな?

 今回、揚羽さんが宏輝を招いたのには後の展開で必要な物を【ネタバレカット】




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