真剣で私に振り向きなさい!   作:賢者神

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 さあ、ターニングポイントでございます。

 治療を受けながらのんびり適当に思い付いた事を書いております。うつが完全に治るまではかなり不定期に更新しますが、ゆっくりと待って頂ければ幸いです。










25 分岐点

 

 

 

 

 

「ヒーロー!」

 

 

 悲鳴を上げながら突撃してくるロケットを受け止める。鳩尾に赤毛の頭が直撃しているので息が一瞬詰まって後ろに倒れる。

 ツッコミとして誰がヒーロー(英雄)かと言いたかったが、息を詰まらせて思いっきりむせて言葉を発する事ができずにいた。視線を下に向ければ、赤毛の頭が見え、更に尻尾のように靡いている髪の毛が視界の端に写る。見覚えのある今まで会ってなかった少女が純粋な満面の笑顔を浮かべて腹に埋めている。

 

 

「久し振りね! 元気にしてた!?」

 

「……あのさ、ワン子。元気なのはいいけど俺は体の頑丈さは一般人そのものなんだから死ぬだろうがっ」

 

 

 てへへと笑う少女、川神一子ことワン子。久々の再会に気分が高揚しているのだろう。テンションが妙に高く、子犬のようにはしゃいでいた。倒れる宏輝に馬乗りになってニコニコしており、押し倒されている宏輝は痛む鳩尾の腹を摩りながらワン子をどかそうとするが、ワン子は定位置とばかりに馬乗りのまま動こうとしない。

 

 

「おっとぉ? 愛しのヒロはどうやらワン子に気があるようだな? ん?」

 

「取り敢えず病院に行こうモモちゃん。何処をどう見たらそうなるんだ! いいからヘルプヘルプ!」

 

「――ヒロが言ってた。時には誰かを見捨てる時もあると」

 

「アホ言ってないで助けなさい! ワン子もどきなさい! 重くないけど服が汚れるからお願い!」

 

 

 はしゃぐワン子、必死にどかそうとする宏輝。そこに更にカオスになる百代が登場し、地面に倒れる宏輝の顔をつついては遊んでいた。ジーパンなのでスカートのようなロマンの奥側は見れなかったが、スタイルの良い百代の隠されたナイスバディーの曲線がすぐに理解できるので反応に困る宏輝だった。

 あの一件、人生相談(偽)の後から川神百代という少女は変わってしまったと嘆く。プチと言っても過言ではない軽い相談のつもりだったが、受けた側はそうは思ってはいなかったようで受け取り方を間違ってしまったようだ。

 

 

「直江君とかはどうしたの? 風間ファミリーで集まるって聞いたんだけど」

 

「大和と京はデートだ。ガクトはモロと女を漁りに行くと言ってたな。キャップはいつも通りにどっかに行った」

 

「まあ休みの日だから各々が好きなようにしてもいいと思うよ。翔一はメールで北海道にいるって聞いてたから知ってるし。お土産にカニを贈るようにも頼んどいた。経費は俺持ちで」

 

「……んん? キャップってお金持ってたかしら?」

 

「バイト代貰って遊びに行くって言ってたからあるでしょ。カニ雑炊が楽しみで仕方がない」

 

「普通は冬に食べるんじゃないか?」

 

「前に言ったじゃない。人の道と天の道だよ。自分がやりたい事をやるのがモットーだから使えるのは何でも使うタチだし? 俺も北海道じゃないけどラスベガスに今度行こうと思っております」

 

 

 やっとの事でワン子を退かす事ができた宏輝は大人、少しチャラいホストのようなシャツの襟を整えて立ち上がる。ホスト独特の空気はなく、それが天井宏輝の人柄と性格を表すようなシックな着こなしでワン子から見れば似合うと感じる。自分の姉も宏輝と似たような服装だが、ここまで印象が違うのかとも思っていた。

 今日は宏輝と風間ファミリーが会う予定だったが、百代の口から語られたようにワン子と百代しかファミリーのメンバーはいない。それでも、ワン子は宏輝と会える事を楽しみにしていたようで幻視でワン子の臀部に犬の尻尾があるのが見える。錯覚かと目を擦るがこれもワン子の味だろうと気にしない事にする。

 

 

「うんうん。あの言葉はいいものだ。まさに私に合う素晴らしい言葉だ」

 

(あ。駄目だコレ)

 

 

 満足そうに頷いている彼女に、脳裏にオワタ。と言葉が浮かぶ。危惧している勘違いを完全にしている事に気付いた彼は同時に絶句する。アホの子だと思っていた事に間違いはないとわかったので対応を間違えたか、と後悔するが時はもう既に遅しであった。

 

 

「――世界は私を中心に回ってる、か。本当にいい言葉だな」

 

(本当はそう思った方が気が楽になるって事なんだけどね。こうなるなら本当に言葉に気を付ける必要があった……)

 

 

 唯我独尊、と言葉が浮かぶ。前から唯我独尊という言葉が似合う少女だったのだが、更に手が着けられないくなっているとも感じている。彼女の為に思って言った言葉がこんな事態を引き起こすと思わなかったのだろう、顎を撫でるような仕草で考える素振りをしながら私服姿の百代をジッと見る。

 

 

「ん? どうした? 私の美貌に酔いしれたか?」

 

「元々可愛いから大丈夫だって。その性格が無かったら完璧なんだけどねぇ……」

 

「ハッハッハッハ。そうだろそうだろ。なんたって私は美少女だからな」

 

「うっわ……」

 

 

 ヒクヒクと顔を引き攣らせる。自信満々で腰に手を当て、笑う姿に心底ウザいと感じるようになってしまった変わり果てた友に、頭を抱えて地面に蹲りたくなる衝動を必死に抑えて逃げるようにワン子に向き合う。赤毛を持つ可愛らしい少女に少しだけ心が軽くなる。

 

 

「ワン子、あの子を無視して遊びに行こう。何かもう疲れたんだよ……」

 

「? よくわかんないけどわかったわ!」

 

 

 無邪気な様子のワン子に可愛い、と思う宏輝だった。心が疲れ切った彼にとって川神一子はオアシスだったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

「――そうかそうか。孫の面倒を見てもらって済まなかったのう」

 

「や。俺、モモちゃんとワン子と同い年だから。そんな年上の保護者みたいな扱いされても困るんだけど? ネクタイ外していい?」

 

「構わんよ。ワシが学長だからって気を遣わんでも良いし、普段から嘗めた態度をしておるではないか」

 

「初対面の印象が残念だったからしょうがないだろ。ホモかゲイだと思われる態度をすれば距離を離すし、これでも譲歩している方だよ」

 

 

 普通であれば男色家趣味でも年上には敬意を払う必要があり、彼も年上には敬意を払うようにしているのだが、目の前の老人への態度を考えればかなり譲歩をして初めは苦手だと感じているようだ。爺で男色家なんて誰得だろうかとも彼は考えていた。

 

 ワン子と百代と遊んだ宏輝は何故か川神院の鉄心の場所にいた。日本らしい卓袱台を挟んで向かい合って座っており、しっかりと締めているネクタイを緩ませながら正座をしている。そんな様子を鉄心は湯呑みのお茶を飲みながら眺め、会話をしていた。自分の孫娘とデートをしたと聞いて祖父として経緯を聞こうとしていたのだが、何より聞きたいのは百代の状態である。ある日を境に手の着けられなさを疑問に思ってこうして保護者として面談をしようとしている。

 川神院までは一緒に来た姉妹だが、今は別行動で入浴中である。その間に、鉄心は話を済ませてしまおうと考えている。今日は日曜日であり、自分の学園の生徒でもある彼を夜更しさせて遅刻させるわけにもいかない。

 

 

「本題に入ろう……モモ、なんでああなったん?」

 

「……素直に謝ります。あれは完全に俺のせいでございます」

 

 

 事情を説明する前に見事な土下座をする。任侠によくある握り拳を床の畳に着けて頭を下げる形だったので少し驚く鉄心だがコイツのせいかとも思う。現在、破天荒な孫娘の百代の性格をあそこまで変えられるのは宏輝だけしか候補にないと考えていたので驚いた後に静かに溜め息を吐く。

 宏輝は何があったかを説明する。自分が何をしたのかを、人生相談をして自分がちゃんと説明をするのを忘れて大きな勘違いをして厨二病を発症させてしまった事を丁寧に説明しながらバツが悪そうな顔をやめない。

 

 

「成程。つまりは価値観の違いでああなったわけじゃな」

 

「本当にすんません。完全に俺の責任です」

 

「事態を甘く見ておるわけではないがしょうがないじゃろう。あの子は元々、他の者の影響を受けやすい子。特に心を許している宏輝君に相談を受けてもらって嬉しいのかもしれん。宏輝君、言葉が上手いじゃろ?」

 

「言葉遊びは好きだけど人生を左右するほどの言霊の力は無いと思うんだけどね。言葉の意味を間違えて俺の知っているその語源よりウザい感じに……いや、なんでもない」

 

「否定できんわい」

 

「ばあちゃんなら新しい道を切り拓ける言葉を投げてくれるけど。俺なんかクソだと思える人生の相談士だぜ」

 

 

 落ち込む宏輝。普段は達観する性格なのだが百代の件は流石に気まずいと思い、反省しているようだ。何度も言うが、彼の祖母は彼の原点とも言える偉大な人物。些細な悩み相談から大きな人生を左右する相談もこなす先駆者の手腕を考えれば、自分はクソだと低評価を下していた。逆に言えば、それほど彼の祖母の手腕は凄まじいものである。

 百代に関する話に二人は沈黙し、片方の一人は難しそうな顔で腕を組んで唸る。真剣に迷っている様子に鉄心は共に迷って考えるどころか彼を見て無性に嬉しい気分になる。自分の孫娘の変わった原因とはいえ、ここまで真剣に考えてくれる事に祖父として素直に喜べた。

 

 

(……ホッホッホ。これは曾孫の顔を見るのも早いかもしれんのう)

 

「――催眠術でも使うか? いや、けど奴隷になって――」

 

(……前言撤回じゃ。少し不安になってしまうわい)

 

 

 言い様のない不安を感じる鉄心だった。言葉に不適切な表現があり、孫娘の人生に左右するとなれば不安を感じざるを得ないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――ゴホッ」

 

 

 

 

 静かに歯車は回り始める。誰にも、本人すら気付かない所で歯車は狂い始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 





 ※嫌な予感しかしない

 人によっては幸せに感じるエンドとバッドエンド。一つの終わり方が人の感性によって様々に感じる終わり方になりそう。

 本当はダラダラとやる予定ですが次回から時期が飛び飛びになります。




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