取り敢えず久し振り。書き方とか設定が変わってるかもしれないので矛盾があるかもです。
「おーきーろー!」
「ウボァー!」
川神の朝。恒例になりつつある少年の叫びが響く。
少年、天井宏輝は腹部の痛みに耐えながら恨めしそうに腹部に乗る満面の笑顔の少女を見る。不機嫌な宏輝に対して、百代は気にしていないようで彼の上でロデオ、乗馬マシンのように腰をグライドさせて痛みを更に与えて遊んでいた。何も知らない第三者が見れば勘違いしそうな光景である。
「ほれほれ起きろ。今日はバカンスだろ」
「その前にどかんかっ!」
怒り心頭と腹に乗る百代を投げ飛ばす。ムチッとした太腿を抓るように掴んで後ろに放り投げたが、武術の心得を持つ百代にとっては何の苦でもなく空中で一回転すると華麗に着地して宏輝を煽るように妙なダンスを始める。
イライラする宏輝。妙にハイテンションな百代。最近の二人の関係を言い表すのであれば今の心情が殆どだろう。以前は逆で最終的に百代が殴って終わりになるが、格上の百代に手出しできない宏輝はいじめられて耐える人のようにやり返しもできずにいた。
「カルシウム足りてないんじゃないか? ん? ん?」
「ファック! クソ野郎め! 何でこんな性格になったんだモモちゃん!」
最後に俺のせいだけど、と付け加える辺り自分が原因である事は理解しているのだろう。ガリガリと髪の毛が乱れるまで掻き回し、発狂する。そんな様子に満足しているのか、百代は何故だか慈愛に満ちた笑顔で乱れた髪の毛を直すように撫でる。
「ストレスを溜めると碌な事にならんぞー」
「……それ、俺の台詞。ここぞとばかりに仕返しするねホント」
「ヌフフー。それはヒロ次第だなー」
「イラつく超ムカつく! モモちゃんの癖に生意気だぞゴホゴホッ!」
「オイオイ大丈夫か? 最近多いじゃないか。少し気を分けるから落ち着くんだぞ」
急に激しく咳き込んだ彼を気遣うように百代は自分の身に宿る膨大な気の一部を宏輝の治療のために分け与える。本来であれば大きな百代の気に武術のぶの心得もない宏輝の体が耐えられないはずなのだ。前提として指紋や声紋と同じように違う特徴を持っている気を他人の気と混ざる事はまず、ありえない。それでも宏輝に分け与えられるのは百代自身の才能故か、宏輝の気が百代に合っていたのか。二人の間を気が伝い、宏輝の体調を整える。
「ほら。これでいい」
「ありがと」
内心、複雑な気分である。原因が目の前の百代なのに気分が優れていないのを見れば、気遣ってくれる。最近では患者を世話する看護師以上に看病してくれる事が多い。咳き込む事が多くなった宏輝の専属看護師のようなポジションにいるというわけだ。
「にしてもそんなに貧弱だったか? 前は口から出るのは咳じゃなくて罵倒だったろ?」
「俺をどんな風に思っていたのかわかる一言だな」
不思議そうに見る彼女に、本気で後悔する彼。以前、百代の人生相談をした時からこんな調子の宏輝は少し興奮しただけで激しく咳き込む事がしょっちゅう起きていた。医者に見せた時は原因不明だと言われたが本人はある仮説を持っており、それが有力ではないかと考えている。
天井宏輝は別世界の人間だ。世界を越える力も無い、魔法の文化すら仮想である世界から別の世界に渡る時に果たしてデメリットは無いと言い切れるだろうか? 否。彼の頭脳はデメリットが原因で体調不良を引き起こしているのではないかと考えているのだ。冷静に考えれば今まで体に異常を起こさない方が不思議だったのだ。
「まあ、原因不明と言われても全てが悪い方向に解釈できるわけじゃないからさ。ポジティブに物事を考えよう。若くして死ぬのなんてそれこそ運の良い俺には無縁な事だよ?」
敢えて目を背ける。何もわからない事をいつまでも考えるよりもポジティブに、前向きに生きていく性格をしている彼は他人に秘密を隠し通す。
高そうなベッドの横にある時計を見遣ると時刻は午前六時。バカンスのリゾート地へ行く予約した飛行機の時間は午前七時半。まだ覚醒していない頭を軽く叩くと宏輝はのそのそとベッドから抜け出して準備をする。トランクケースの上に引っ掛けている服を取ると、着替えをしようとするのだが……。
「……通報しようか?」
「私の事は気にせずに着替えろ。眼福だ眼福」
着替えようとする彼を百代は何かを期待するかのような目をしながら見詰めていた。というより、手がワキワキしていて何を考えているか駄々漏れである。
疲れた様子でドアを指差しても百代は動かない。中々着替えない宏輝を無理矢理脱がそうかと考え始めた頃にトランクケースの下に置いてある封筒を水戸黄門の印籠のように突き付けて見せると彼女は何だと首を傾げる。だが、手はワキワキしたままだが。
「これ、何かわかる?」
「封筒だな。それがどうした?」
「ではモモちゃんに選択肢を与えましょう。今すぐに出るなら渡すけど残るなら渡さないけどいい?」
「ここは敢えて残ってお前の着替えの手伝いをする事を選択してやろうッ!!」
ガシッと距離があった二人の間を百代が高速で駆け抜け、宏輝の足首を掴む。表情には歓喜と今から行われるであろう彼の体を弄る行為への期待があった。足を引っ張ってベッドに放り込もうと考えたところで自分の上から声が掛かる。
「仕方がないのでこの封筒の中にあるモモちゃんの小遣いは没収します。バカンスではお土産も何も買えなくなるけどいいよね?」
「出る」
お金の魅力には勝てなかったよ……と思う百代は二秒もかからずにドアを開け、外で待つのだった。
◆
さて。今の状況を一言で言い表すのなら旅行である。以前から約束していたバカンスの約束を百代を宏輝が誘って行くわけだが。名目としては宏輝の護衛で百代が付いて行く、だ。
飛行機の座席に慣れた様子で足を組み、肘掛けに肘を置いて立てた腕の手に顎を乗せた大物スタイルで座る宏輝にそわそわと外の景色を見ては落ち着かない様子の百代。二人だけの旅行かと思いきや、もう一人だけ連れがいたりする。
「ひ、ひひひ、宏輝君。本当にこの飛行機は落ちないんだな?」
「大丈夫ですって。折角の安全フライトなんですから外の景色とか楽しみましょうよ橘さん」
百代以上に落ち着かない、怯えた様子でしきりに隣に座る宏輝に声を掛け服の袖を引っ張ってとを繰り返す女性は橘天衣。そんな彼女に心配ないと腕を叩いて落ち着かせようとしているようだが、一旦は落ち着いても一分後にまた落ち着かなくなる事を繰り返していた。
「というか何で橘さんまで呼んだんだ?」
「別にいいだろ。今まで飛行機に乗れたのは一度だけでしかも墜落経験しかないから不憫じゃん。俺の側にいれば不運はかなり緩和されるしボディガードとして雇ったし? モモちゃんの場合だとあっちこっちに行くじゃん」
「うぐっ」
「その点では橘さんはプロだよ。実力もモモちゃんレベルに並ぶらしいしこれ以上ないほど心強い人だと思ってる。マダムも物騒だからって橘さんを雇う金を負担してくれたしね……あ、すいません。飲み物ください」
手を上げて飛行機に乗るスチュワーデスを呼ぶと、飲み物を呑気に注文する宏輝。何かを言いたそうにする百代だが、先程の言葉に反論できなかった事と飲み物の注文に気が向いたので口を閉じて飲む事に集中する事になった。また、天衣にも気分転換に酒を飲む事にしたが緊張のあまりに味が全くしなかったのは余談である。
飛行機は何気に初めてである百代は極端に怯える天衣に気付かないまま外の景色に感嘆したり、ファーストクラスの座席に備えられたテレビを弄って映画を見たりと自由奔放な無垢な子供のようだった。
「絶対に落ちない絶対に落ちない絶対に落ちない」
「大丈夫大丈夫。というか手が痛いんで離してください!」
「なあなあヒロ。オレンジジュース以外に何かないのか?」
「前の座席のポケットにメニューがあるからそっち見て。だけど有料は駄目酒は駄目……橘さんマジ痛いんで本当に離してくださいッ!」
「だ、だがな。不安で堪らないんだ……もう少し手を握ってくれないか?」
涙目上目遣い。美人の部類に入る橘天衣がそれをすれば魔性の武器となる。普通の男性ならコロッとやられるだろうその仕草だった。
「……わかりました。取り敢えずもう少し優しく握ってくれると嬉しいです」
しかし、諦めた様子を見せるだけで照れる様子を見せない。元々、異性に凄まじい耐性のある宏輝だからこそ胸がトキめく仕草にも平静を保てるし冷静に物事を考える事も可能だ。片手を骨が砕けるまで握り続けている天衣の手にもう片手を包み込むように優しく握れば落ち着いたのか、力が弱まって肩の力も抜け始める天衣。そんな二人の様子を反対側に座る百代が白けた目で見ていた。
「何?」
「私のヒロが天衣さんに寝取られそうな件について」
「はあ?」
「ち、違うぞ百代! こ、これは恋愛ではなく……そう、親愛の証なんだぞ!」
「さっきから見ていればあざとい。狙ってやったと思えば悪女だと思うぞ天衣さん。ヒロが好きなのか?」
「何を言ってるんだお前は」
手は繋いだままで宏輝は隣の百代を見て絶句したような表情を見せる。彼女の言動が意味不明で何を言っているか理解ができないからだ。
「普通に繋ぐならいいけどさ。天衣さん、ヒロと恋人繋ぎをしてるだろ?」
「――はっ!」
天衣は改めて自分が宏輝と繋いでいる手を見て現状を理解する。それから慌てて離すと顔を真っ赤にして手をあたふたさせながら慌てる様子を見せる。取り敢えず可愛い天衣だった。
「……ん? これが普通じゃねーの? 男と女で手の繋ぎ方が変わると聞いたけど違うんか?」
ピタリと動きを止め、信じられないといった目で二人は真ん中に座る彼を見る。先程まで手を繋いでいた手をプラプラさせながらそう曰う宏輝はそれが本当であり、間違いではないと思っている様子だった。恋人繋ぎと呼ばれる掌を合わせて手を繋ぐ行為は名の通り、恋人相手にするものなのだが。
自分が何を言っているかわかっていない状態で訝しげな目をすると、それとなく百代と天衣は目を合わせる。そんな二人を遮るように前部座席のモニターを着け、何かを見始める宏輝は完全に空気が読めない状態だった。
「ヒロ。お前は何を言っているんだ?」
「ん? あの繋ぎ方のこと? あれ、今では異性の恋人相手にするものって言われてるけど昔は異性相手と同性相手で変えるものだったんだぜ?」
「ほ、本当か? それは知らなかった……」
「適当にでっち上げた嘘ですけどね」
サラッと嘘を空気を吸うように吐いた。それには罰として百代が鉄拳制裁をブチ込むしかなかった。顔面が埋まるほどの力で殴られた宏輝の鼻からは鼻血が垂れて始め、天衣は慌ててポケットティッシュを取り出して血を止めようとする。
「痛いよモモちゃん」
「嘘を言うお前が悪い」
「ああ、大丈夫か宏輝君。取り敢えずこれで血が止まるまで待つんだ、いいね?」
「これだよモモちゃん。理想的な奥さんの鑑だよ。結婚しよう橘さん」
突然のプロポーズ。百代からすればいつもの冗談だと分かっているが、数えるほどの付き合いとメールによる文通でまだ宏輝の人柄と性格をしっかりと理解できていない天衣からすればそれは冗談のようには聞こえなかった。
「え、え? 結婚? わ、私と宏輝君がか?」
「はい。子供は三人欲しいですね橘さん」
「あ、だけど。まだ私と君はそんな関係じゃ……」
「大丈夫です。今は好きじゃなくても寝たらすぐに俺を好きになれますよ」
完全にセクハラである。とはいうものの、橘天衣のタイプを攻める点では適したものだ。この最低とも言える口説きテクニックは過去のキャバクラの変態社長やキャバ嬢による特訓の成果だが、残念な結果である。
「あ、あうぅ」
「おいヒロ。いい加減にしろ」
「えー、いいじゃない。橘さんみたいなタイプって川神にはいないじゃん。いるのは男勝りな性格の格好良い美少女ばっかりじゃんか」
特にモモちゃん、と加えれば不機嫌そうに唇を尖らせてそっぽを向いて飛行機の外の景色を見る。青く澄んだ空、浮かんだ空を彩る白い雲に今まで見てきた景色の中でも美しいと感じる百代だった。
散々とも言うべきか、天衣で遊んだ宏輝は咳を一つ。目をグルグルさせる天衣と繋がれた手をポンポンと叩くと未だに不安な様子の天衣を落ち着かせる。人の温もりを感じるだけで安心するという逸話があるが、人との付き合いが多い宏輝にとっては特技ともいえるもので誰かを落ち着かせる点では横に並ぶ者はいない。彼の心の本質故か、だからこそ誰もが彼に好意を持つ。親愛、恋愛から至るまで。
「取り敢えずさ。俺は現地に着いたら少し寄る場所があるけどモモちゃんはどうすんの? 英語話せるん?」
「……」
「ゴメン。アホのモモちゃんには英会話は無理か」
「う、うるさいやい! そもそも英語なんか覚えても役には立たないじゃないか! 勉強するのが負けなんだよ!」
「えー、なんという暴論。俺が将来ラスベガスのカジノに行く為にばーちゃんから必死こいて教わった俺の努力を無に帰す最低な物言いだよそれ」
「む。宏輝君は君のおばあさんから英語を教わっていたのかい?」
「ええ、まあ。俺が小さい時に一度だけアメリカの魅力を教わる為にギャンブルをしたんですよ。今思えば俺がギャンブル好きになったのもそん時からかな? 英語も聞いていれば大体理解できましたし。本場の英語と学校で教わる英語に違いがあるのは一番驚きましたね」
自分の始まり。ギャンブルという違った駆け引きのやりとりの世界へ足を踏み込むきっかけとなった出来事を宏輝は明かす。煌びやかな装飾のカジノ、陽気なアメリカ人の笑い声と騒々しい場、自分の横で高笑いしながら荒稼ぎする祖母、奥に連行されそうになれば昇竜拳を繰り出す祖母、カジノに出禁を食らうかと思いきや孫の宏輝が気に入られて賭博のイロハを祖母とギャンブラーから教わる。何とも楽しい過去の思い出か。
「……百代。どこを突っ込めばいいのだろうか」
「お前のばーちゃん強いのか?」
「第二次世界大戦を生き抜いたって聞いた事があるんだけど。若作りしたババアって印象なんだけど若々しいのって今思えばモモちゃんの言う“気”の恩恵なのかもね。多分モモちゃんレベルで強いんじゃない? 言っとくけど会えないからね。そんな期待した目をされても俺はマッチングできないよ」
「ちぇ。この鬱憤、ヒロで晴らさせてもらおう」
そういうと空いた片手を手に取って天衣と同じような繋ぎ方にすると咳払いをして声を撫で声に変え、宏輝に寄り掛かる。
「ねーん。海に行ったらオイル塗ってよぉ」
「キモイ」
「百代、流石にそれはない」
八つ当たりの一撃が二つ出されるが、響いた打撃音は一つだけであった。
時系列は忘れた。前半は書かれて放置されていたので適当に繋げたものがこれです。この後の展開はあまり期待しないでね。