真剣で私に振り向きなさい!   作:賢者神

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 サブタイ、二つの名前って事でお願いします。

 人物紹介はある程度行ったら纏めます。




 では続きをどうぞ。違和感が無ければいいのですが。







06 二つ名

 

 

 

「ホッホッホ。すまんの。ついつい興奮してしまったわい」

 

「全くだよ。何回気絶したと思ってんだよ爺さん。肉おかわり」

 

「構わんよ。ほれ、たんと食べなさい」

 

 

 夜から突然の朝、昼までは警察で拘留され、金を貰った後で麻雀を嗜んでとろろ牛丼を食す。その後、川神院にて。この間に二回気絶している濃い一日を送っている不幸な少年は天運持ちのラッキー少年のはずである。

 だが、目の前の黒髪の少女である川神百代と関わってから碌な目に遭っていないと少年は思う。口には大きな調理された肉塊が詰まっており、グニュグニュと噛む音が人間をやめている川神鉄心と川神百代の耳に届いていた。食事をする少年は苛立たしそうに肉を噛みながら特に川神百代を睨んでいた。百代自身は睨まれてバツが悪そうにしており、少年と視線を合わせないようにしていた。

 

 

「半分だけならまだしも全部使っているとか馬鹿なのか。アンタの孫」

 

「うっ……い、慰謝料だからいいだろ! あれでも足りない位だぞ!」

 

「うっわ。開き直りやがった。ファーストキスじゃあるまい――その反応だと初めてか。犬に噛まれたと思って諦めろ」

 

 

 遠くにある皿の料理を取ろうと、身を乗り出す少年。身を乗り出した瞬間、少年のいた場所を殺人的な暴力が通り過ぎる。顔を真っ赤にし、怒った様子の百代が拳を突き出した状態で少年を睨んでいた。流石にそれは駄目だと、鉄心は一喝で百代を叱る。怒られた本人はプルプルと震えながら身を小さくし、武神と言われているとは思えない様子であった。現在、気絶し過ぎて賢者モードになっている少年は死にそうになった事に何も思っておらず、黙々と川神院の貯蔵されている肉類を食べていた。

 気絶させてしまったお詫びで夕食に誘われている少年は食事前に百代から盗まれた財布と携帯電話を返してもらっていた。食べている最中に財布の中身を改め、前まであった金額がほぼゼロになったのには三度目の気絶をしそうなショックを受けたが免許証や会員証、学生証と自分の身元を証明できる物を取り戻せたのでそれなら。と諦めた。

 

 

「というか名前の呼び方を間違えるかフツー。テンジョウ コウキって何だ。俺の名前は天井(アマイ)宏輝(ヒロキ)だっつーのに」

 

「すまんの。ワシのお師匠の名前もそれだったので早とちりしてしまったわい。ちなみにこう書く」

 

 

 『天上皇輝』と鉄心は何処からか取り出した紙に筆で書いた。それを少年、天井宏輝に見せるが、興味なさげにモゴモゴと骨の着いた肉を口の中で転がして遊ぶ。口から飛び出た白い骨が煙草を吸うように見え、注意をしようとする食事を共にする門下生だが、宏輝が骨を手で取り出す。カランカランと骨を捨てる皿に置くと、骨と皿が擦れる音が響く。

 

 

「いやいや。アンタのお師匠だかお寿司だか知らんけど間違えるか?」

 

「間違えるほど似ているんじゃよ。瓜二つと言っても過言ではない。雰囲気は違うが、顔の作りなどは同じに思えるんじゃよ」

 

「だからって人を気絶させるか。武の総本山の総代なんだから気を付けようよ」

 

「ホッホ。お師匠は本当に強かった。若いピチピチだった頃のワシよりも強くての……」

 

「聞いてねぇし。どうして老人とかは昔話が好きなんだろうか。そこんとこどうよ」

 

「知らん!」

 

「えぇー。キスしたのは悪いと思うけどその原因を作ったのはそっちが俺を空にぶん投げるからでしょ。事故キスの最中に俺の股間も触ったじゃなむぐっ」

 

 

 ワーワーワーワーと百代は宏輝の口を塞いで言葉を止める。顔を赤くして止めるのを見れば、よっぽど恥ずかしかったのが伺える。それとも自分のイメージを崩されたくないからこそ静かにしたのかもしれない。

 塞がれた手をペシッと宏輝が払うと、片方の手が再び塞ぐ。不機嫌そうになると、喋らないからどかせとジェスチャーを百代に伝える。渋々と手をどかすが、まだ言葉を発する事を警戒しているのか、赤い顔をしたまま宏輝を睨む百代であった。

 

 

「くぅっ。弟にはここまで遊ばれる事は無かったのに――!」

 

「遊んでねーよ。本気で遊んでいたら今頃、俺の奴隷になっているぞ」

 

「なっ、本当か!? 何というげど――」

 

「嘘に決まってんだろ」

 

 

 バンバンバン。百代は癇癪を起こして食事をしている食台を叩いた。ニヒヒッと笑う宏輝に遊ばれ、悔しそうにしている百代に彼女を知る人間は驚きを隠せない。ここまで簡単にお手玉にする事に対し、畏怖の感情を宏輝に抱き始めるが――。

 

 

「オマエ、ムカツク」

 

「ニヒヒ。そんな事を言っても……何で引き摺られているの俺? ゴリゴリと頭が削れてハゲそうなんだけど。エロ坊主さんみたいなツルツルな頭になりそうなんだけど」

 

 

 仏の顔も三度まで。弄られに弄られた百代の我慢は限界を迎え、皿に積もった肉を食台に置かされて百代に足を持たれる。ズルズルと頭部を擦るように引き摺られ、二人は食事をしていた大部屋から消えていった。後に残るのは静寂、遠くから宏輝の疑問の声と引き摺られる音が聞こえてくるが、だんだんと遠のいてストン。という音と共に完全な静寂が訪れた。

 

 

「――での。ワシは負けて……」

 

「総代。百代さんも少年もいませんよ」

 

 

 ただ一人、鉄心だけは話し続けており、一人の門下生の男が注意を促す。ホッホッホと笑いながら語る鉄心の耳にはそんな言葉は入らず、いなくなった二人に気付く事も無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 ―― なっ、何をする! 俺を裸にして何をするつもりだ痴漢!

 

 ―― 八つ当たりだ。気にするな

 

 ―― 気にするわ! というかパンツだけは勘弁して! お婿に行けなくなっちゃう!

 

 ―― ……フヒヒヒヒ……

 

 ―― 誰か助けてぇぇぇぇ! この女変態だぁぁぁぁ!!

 

 

 そんなやりとりは騒がしい夜の帳に消えていった――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 明朝。死んだ目をする少年とバツが悪そうにする少女が向かい合って沈黙を貫いていた。片や、少年は上半身は裸で髪の毛は争った跡が見られ、酷く疲れきったような顔をしていた。少年、天井宏輝は本当に泣きたい気分であった。

 

 

「……忘れよう。一夜の過ちだったんだ」

 

「……そうだな。悪かった」

 

「……こっちこそ申し訳ない」

 

「……こっちこそ」

 

 

 ――ハァ。同時に二人は重い溜め息を吐いた。ゆっくりとした動きで上半身裸の上に灰色の下着を着、制服に付いてくる白いヨレヨレとし始めたカッターシャツの袖に腕を通して一部だけのボタンを留める。胸の部分になる部分だけ留め、下はダボダボになるように着ている。宏輝の着替えの様子を百代がガン見しているのはご愛嬌。

 昨日の夜。食事の後で百代に攫われた後に繰り広げられた攻防、何故そんな事を始めたか朝になってもわからない。一つだけ言えるのは宏輝のモチモチした肌の感触を忘れられない+散々弄られた腹いせをしたい=そうだ。脱がせよう。と意味がわからない方程式が成り立ってしまった。これは俗に言う、“夜中のテンション”による暴走である。気が付けば暗い夜中が朝日が昇る明朝になるまで休まずに飽きもせずに宏輝は触らせない、百代は触りたいと不毛な争いをしたのだ。

 朝になり、正気に戻ればお通夜の雰囲気になり、反省会をするという流れになった。それが現状である。

 

 

「――へえ。川神って俺と同い年なんだな」

 

「百代でいい。他に川神の姓はジジイにワン子と二人いるからな。わかりやすいように名前で呼んでくれ」

 

「じゃあ俺も。宏輝でいい。親しい奴からはヒロって言われてる。悪戯で宏輝をコウキって呼ぶアホもいるけどな」

 

 

 邪険な、チグハグとしていた雰囲気は緩和されて今は和気藹々と二人は語り合っていた。宏輝が着替え終わり、二人の腹が空腹を訴え始めたので広い川神院の廊下を歩きながら二人は話す。まずは自己紹介から。改めてフルネームを名乗り、簡単に自分の事を互いに話す。あんな事があったせいか、すぐに打ち解けた二人は互いを名前で呼び始める。

 百代は廊下を歩きながら隣を歩く少年、天井宏輝をチラリと見る。

 

 

(親しみやすい奴だな。顔が少し子供っぽいのも合わせて女性受けしそうだなコイツ)

 

 

 曰く、天井宏輝は童顔である。ほんの少しでも交流を持った人間ならばこう言うだろう幼い顔つきをしていた。百代と会話を交わしながら自分の髪の毛の先を摘んで弄っている宏輝。ちょっとした仕草、動作にも子供っぽい所があるというのが百代の感想だ。自分の祖父である鉄心が瓜二つとまで言う鉄心以上の実力を持った昔の武人である青年、天上皇輝。天井宏輝と天上皇輝と呼び方を少し変えれば何か共通点があるのではと勘ぐる。

 鉄心から耳にタコができるほど聞かされた鉄心の今の武神という形を作るのに大きく貢献、関係している謎の青年。初めは鉄心の無駄話かと思っていた。けれど時を重ねる度にその青年の事が気になり出した。自分よりも強い祖父よりも強い青年、師匠の天上皇輝。いつしかその男ならば自分の乾きを満たしてくれるのでは?と思うようになった百代。

 

 

「……観光?」

 

「ちょっと川神市を見て回りたいって思っているんだ。できたらギャンブルができる場所も教えてプリーズ」

 

「んんー。今日は暇だから大丈夫だが……」

 

「借金チャラにしてあげるからさ」

 

「美少女ツアーガイド川神百代にお任せあれ!」

 

 

 後で鉄心に話を聞き直そう。そう決めた百代はまず泥棒した分の金だけ働く事にした。

 

 

 

 

 

 

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