「「えっ?」」
モモンガとゼクスの二人は揃って間の抜けたような声をあげた。
「ログアウトしていない?」
「そうみたいですね。終了が延期されたのかもしくは、ユグドラシル2が配信されたなどの可能性がありますが・・・」
だがそんな話しは二人とも聞いたことがなかった。
「「う〜ん」」
二人がこの謎の現象に戸惑っていると、突然横から声をかけられた。
「どうかなさいましたか?モモンガ様、ゼクス様」
それは本来かけられるはずのない言葉だった。
◆
「いかがなさいましたか?」
俺達二人が呆気にとられているうちにアルベドは再び心配そうに声をかけてきた。
「い、いや。・・・なんでもない。大丈夫だ」
「さようでございますか」
モモンガさんの返答を聞くとアルベドは安心したように微笑んだ。
《どういうことでしょう?ゼクスさん》
《いや、俺にもさすがに何がなんだか》
《さっきからやってるんですが、コンソールが開けないし、GMコールも使えません》
《何かのバグなのか・・・。でも、メッセージはこうして使えてますし》
《ですが、さっきのアルベドは本当に生きてるかのような感じでした》
《そうですね。少し確かめてみます》
モモンガさんはそう言うとアルベドに、
「アルベド。手を触らしてもらってもいいか?」
モモンガさんはアルベドに突然そんなことを言い出した。するとアルベドは、
「はいっ!!もちろんでございます!!」
アルベドはとてもうれしそうにアインズに手を差し出した。
《ゼクスさん。脈があります。それに体温も》
《なにっ!?本当ですか?》
《ええ。それに何だか自分たちもこれが本当の身体のような感じがします》
《たしかに。俺の翼もゲームではありえないぐらい正確に動かすことができます》
これらのことから導き出される答えはおのずと一つに収束していった。それは、
『ここが現実の世界』ということである
《モモンガさんこれは・・・》
《ええ。もしかしたら俺達は何かしらの現象によって異世界に転移してしまったのかもしれませんね》
《いったいいつの時代のラノベ展開だよ》
《ですが、もしそうなら早急に確かめなければならないことがありますね》
そんなことを話し合っているとずっと手を握られたままだったアルベドが頬を染めながら、
「あぁっ、モモンガ様!そういうことは二人きりのときに。いえっ!もしモモンガ様がお望みとあれば今ここでもかまいませんが・・・」
などとアルベドが暴走していた。
「す、すまん!アルベド」
「あぁ、モモンガ様っ」
アルベドがとても名残惜しそうにしていた。
「オホンッ、アルベドよ。今はそのようなことをしている場合ではない」
「はっ!申し訳ございません。つい取り乱してしまいました。お許しを」
「うむ。今のは私も悪かった。気にするな」
「はいっ、ありがとうございます」
そういうとモモンガさんはその身に相応しいいかにも魔王という雰囲気を出しながら、
「アルベド、セバスよ。今ナザリックは謎の危険にさらされている。まず何より大事なのは情報だ。セバスよ、すぐにナザリックを出て周囲1キロを捜査しこい。もし知的生物がいた場合は敵対行動はとらず、できればナザリックまで連れてくるのだ。
「はっ!畏まりました」
そういうとセバスはすぐに玉座の間をあとにしてナザリック周辺の捜査にいった。
(は〜、やっぱりモモンガさんはすごいな。すぐにあれだけ的確な指示がだせるとはな。どうやらNPC達は俺達に忠誠を誓っているようだし、俺もその辺気を付けて行動しないとな)
「アルベドよ。直ちに各階層守護者に連絡をとれ。そして今から1時間半後に第6階層の闘技場に集合するようにせよ。ただし、第4、第8階層守護者のガルガンチュアとヴィクティムはそのままの状態にしておけ」
「はい。直ちに」
《モモンガさん。お疲れ様でした》
《いえ、ですがこれは自分たちの魔法やスキルを試す必要がありますね》
《ですね。そのために時間を空けたと。さすがですね》
《そんなことはありませんよ。どうやらアンデットとしての精神抑制が働いているようです。そのおかげでなんとか》
《たしかにそういったとことか種族の特徴がでているような感じですね。でもアルベドのあの反応には驚きましたよ》
《そうですよね。そうなんですよね。はぁ〜、俺はなんてことをしてしまったんだろうか。こんなことになるならテキストを変えたりしなかったのに。タブラさんに顔向けできない》
《やってしまったことはどうしようもないですから、とりあえず今はおいときましょう》
《アルベドには悪いけど今はそうさせてもらいましょうか》
《いや〜、それにしてもこれはいよいよ異世界に転移した説が濃くなってきましたね》
《はい。そのことなんですが・・・》
モモンガさんは少しいいずらそうに言葉を濁した。
《ん?どうされたんですか?》
《ゼクスさんは、もとの世界に帰りたいと思いますか?》
《いえ、ありませんけど?》
《即答っ!?》
モモンガさんはそんなことを聞いてきた。だがすでに両親はなく、特に親しい友人も恋人もいなかったのだから、とくにもとの世界に未練はなかった。
《そうですか。ならまた一緒に冒険ができるかもしれませんね》
《ですね!楽しみです!》
モモンガさんは少し嬉しそうにそういった。たしかにまた冒険できるかもしれないのは楽しみだった。そこで俺はあることに気がついた。
「はっ!!NPC達が動き出したということはルベドも動き出したということではないか!!」
「たしかにその可能性が高いですね」
「くぅっ〜、めちゃくちゃ会いにいきたいが今は我慢するしかないかなぁ」
「そうですね。まだNPC達が完全に安全と決まったわけではないですからね。もしルベドに敵対されたらゼクスさんはともかく、俺はほぼ確実に死にますからね。
「あぁ〜、たしかにモモンガさんルベドと相性最悪ですもんね」
そう。ルベドは天使なのである。いや、可愛さが天使なのはもちろんなのだが、その言葉のとおり種族が天使なのである。アンデットであるモモンガさんにとって、神聖属性を操る天使は天敵といえるだろう。
「んじゃ、とりあえず第6階層に行きましょうか」
「そうですね」
(でも、ゼクスさんが無理やり会いに行くとか言わなくてよかった。そうなったら力ずくでもとめなきゃいけないとこだった)
モモンガはけっこう内心ひやひやだった。
「モモンガさん、この
「ん〜、いきたいところを思い浮かべればいいんじゃないでしょうか?」
そうして俺達はお互いに第6階層の闘技場を思い浮かべればながら光に包まれていった。
◆
第6階層【闘技場】
俺とモモンガさんが闘技場に入って行くと一人のNPCがよく通る元気な声をだしながらやってきた。
「モモンガ様ぁ〜、ゼクス様ぁ〜!よくぞ第6階層においでくださいました!」
第6階層守護者アウラ・ベラ・フィオーラである。見た目はまだ子どもで男の子の格好をしているが立派な女の子である。
「うむ。少し闘技場を使わせてもらうぞ。」
「はい!どうぞご自由にお使いください!」
「ありがとな、アウラ。ん、あれ?マーレはどうしたんだ?」
俺がふとそんな質問をすると、
「すみません!すぐに呼びますね」
「ん、頼むわ」
「マーレ!!モモンガ様とゼクス様が来られてるんだよ!早くきなさい!」
マーレが怒ったように言うと、
「お姉ちゃぁ〜ん、待ってよ〜」
と言いながら闘技場の入り口から女の子のかっこうをした子どもがやってきた。彼がこの第6階層のもう一人の階層守護者であるマーレ・ベロ・フィオーレである。そう、
「モ、モモンガ様、ゼクス様。よ、ようこそおいでくださいました!」
「うむ、マーレもよく来てくれたな」
そういいながらモモンガさんがマーレの頭を撫でてやるとマーレびっくりしたように頬を染めながら、
「わっ、モ、モモンガ様!?そ、その・・・」
マーレは慌てたようにおどおどしていた。隣でアウラが羨ましそうにしていたので俺が撫でてやるとうれしそうに「えへへ」と言っていた。いや〜、アウラの髪の毛さらさらでめっちゃさわり心地よかったわ。
「アウラ、マーレよ。今日は魔法の試し打ちをしにきたのだ。何か的になるようなものを用意してくれるか?」
そう言ってアウラ達が用意してくれた的に魔法やらを放ちながら、しばしの間モモンガさんの確認がおこなわれていた。俺はというと強化系のスキルなどを試しながら時間を過ごしていた。攻撃系の技等はまた今度コキュートスにでも相手してもらって試すか。
《どうやら魔法等が無事に使えるようです。消費MP等も意識をむければ確認することができますね》
《こっちもスキルは問題ないですね》
「おや、わたしが一番でありんすか?」
そんなことを話している突然黒い空間ができ、そこから現れたのはまさしく絶世という言葉が相応しい美少女だった。黒のフリルのドレスを着て、長い銀色の髪を片方に集め、その顔には真紅の瞳が輝いていた。年齢は14歳ほどでアウラやマーレと同じくらいだろう。
彼女が第1〜3階層までの守護者であるシャルティア・ブラッドフォールンである。現れるなりモモンガさんに抱きついたり、アウラと口喧嘩をはじめたりしているが、彼女こそがルベドを除けばこのナザリックで最強の守護者なのだ。
(まぁシャルティアはビルド構成が完全にがちだから強いわな。もしかしたらさしでやれば、モモンガさんにも勝てるかもしれないし)
と、モモンガさんが慌てたりして盛り上がっていると、
「サワガシイ」
人間以外のモノが無理やり人間の声を出しているような歪んだ声が場の空気を切り裂いた。
そこには身体から冷気を放っている2.5メートルはある昆虫を思わせる異形が立っていた。
彼は第5階層守護者のコキュートスである。ライトブルーの輝きを放つ皮膚を持つ彼は、武器を持った攻撃力ではナザリックで1、2を争う強者である。
「御方ノデ遊ビスギダ・・・」
そういいながら二人を止めてくれた。
(いや〜、やっぱりコキュートスが迫力があるね。是非後で手合わせ願いたいね)
すると今度は、
「皆さんお待たせして申し訳ございませんね」
といいながら身長1.8メートルほどで、肌は日に焼けたような色であり、ビシッっとスーツを着ていた。髪はオールバックでいかにもやり手のビジネスマンのようである。
彼は第7階層の守護者のデミウルゴスである。実力は守護者のなかでは低いほうだが、彼の一番の武器はその頭脳である。アルベドと並び、ナザリックでもトップの頭脳を誇る。一応もう一人いるのだが・・・
そんな彼と一緒にアルベドもやってきた。
(これで全員揃ったかな。こうみるとなかなかに威圧感があるな。なんか緊張してきたな)
などと考えながらつい身体からオーラが出てしまっていると、モモンガさんも『絶望のオーラ』を出していた。
(うわっ、モモンガさん威圧感ぱないな。ギルド武器の強化がかかってるからかな)
「皆揃ったようだな」
「はい。ガルガンチュア、ヴィクティムを除く階層守護者、御身の前に参上いたしました」
「うむ。皆よく集まってくれた。まずは礼を言おう」
などといいながらモモンガさんの話は続いていった。その間守護者達はずっと跪いて真剣に話しを聞いていた。途中セバスが帰ってきて周辺の調査の報告をしていた。どうやら周辺は今までナザリックがあった沼地ではなく草原のようだ。う〜む、これは本格的に周辺の調査が必要になってきそうだ。
そうこうしているうちに最後にモモンガさんが守護者達に自分達のことをどう思っているか聞いていた。
「まずはシャルティア」
「モモンガ様は美の結晶。まさにこの世で最も美しいお方でありなす」
「ゼクス様はまさしくナザリックに相応しい最強のお方であります」
《美しい?俺は骸骨のなかでは美しいのか?》
《シャルティアには屍体愛好家の性癖がありますからね。それにしても最強か。うれしいことを言ってくれるな》
「――コキュートス」
「オ二方共階層守護者ヨリモ強者デコノナザリックノ絶対ナル支配者デアリマス」
《うん、さすがコキュートス。まともだ》
《ですね》
「――アウラ」
「モモンガ様は大変慈悲深いお方です」
「ゼクス様はとても配慮に優れたお方です」
「――マーレ」
「お二方とも、す、凄く優しいお方だと思います」
《アウラにマーレはかわいいなぁ》
《また撫でてあげたいな》
「――デミウルゴス」
「モモンガ様は賢明な判断力と、瞬時に実行される行動力も有された方です。まさに端倪すべからざるという言葉相応しいお方です」
「ゼクス様は圧倒的な力と、冷静な判断力の両方を兼ね備えたお方です」
《誰のことを言っているのかな?端倪すべからざるなんて言葉はじめてきいたよ!》
《(まぁあながち間違ってはないような気ぃしますけどね)》
「――セバス」
「お二方共最後まで私達を見捨てずに残ってくださった慈悲深きお方です」
《慈悲深いか》
《ただ最後まで止められなかっただけなんだけどね》
「最後になったがアルベド」
「モモンガ様は私どもの最高の主人であり、私の愛すべきお方です」
「ゼクス様はモモンガ様と最後まで残っていただいた、まさしくモモンガ様の盟友でございます」
《『愛している』か。これは俺の軽率な行動が招いてしまった結果だな。アルベドにも謝っておかないと》
《モモンガさん。あれはしょうがないですよ。誰もこんなことになるなんて想像はできなかった。だから・・・》
《いえ、いいんです。この責任はいずれしっかりとるつもりですから》
「なるほど。皆の考えはよくわかった。これならばお前達を信頼しれ仕事をまかせられる。これからも忠義に励め」
「皆の言葉うれしかったぜ。これからも一緒に頑張ろうな」
「ん、それと後で呼んだ守護者は執務室まで来るように」
そう言って俺とモモンガさんは闘技場を後にした。
◆
円卓の間
「「・・・あいつらまじだ」」
「えっ、あいつら評価高くね?」
「あれはちょっとやばいですね。あの信頼を裏切らないようにしないと・・・」
「う〜ん、でも正直あの信頼に応えられるかというと自信ないですね」
「「う〜ん・・・」」
ナザリックの二人の支配者達はしばらくの間頭を悩ませていた。
◆
支配者達が去りその身にかかっていた重圧が消えてもしばらくの間誰も立ち上がる者はいなかった。誰かがふぅ、と息を吐くと全員が立ち上がった。
「こ、怖かったね」
「うん。もうあたしなんか押し潰されるかと思ったよ」
「たしかに。御方と同レベルである私達守護者にもそのお力がおききになるとは」
「サスガハ至高ノ御方方ダ」
などと守護者達はそれぞれが感じた御方方の力について話しながら盛り上がっていた。まぁ、途中でアルベドとシャルティアの正妻戦争が勃発したりしたのだが・・・
「では私は先にモモンガ様達のところに戻らせていただきます」
セバスがそう言うとみな真剣な表情に戻った。
「分かりました、セバス。くれぐれも失礼がないようにしなさい。それとモモンガ様が私をお呼びの場合はすぐに連絡しなさい!他の・・・」
「畏まりました。では私はこれで」
またアルベドが暴走していた。見かねたセバスが話を切ってモモンガ達のところへいった。その後もまた誰が正妻かでもめていたのだがそれはまた別の話し。
◆
「う〜ん、どうしようかな〜」
俺は「じゃあ今日は一旦休みましょう。俺はアンデットだから大丈夫だけど、ゼクスさんはしっかり休んでください」というモモンガさんの気遣いに甘えて第9階層を歩いていた。ここは俺達ギルメンの部屋があるところだった。部屋といっても中はとても広く、軽く高級ホテルを凌駕するできだった。ちなみにナザリックの者達にとってここ第9階層は『聖域』とよばれていた。
「とりあえず疲れたし寝るか」
そんなことを思いながら部屋に入ると、その豪華さに驚かされた。
「うわっ、ひろ!これは落ち着かないな」
たしかに落ち着けそうにはなかったが、とりあえず寝ることにした。
(まぁ何をするにしても、まずはしっかり休むことだよな。うん、よし寝よう)
そう思ったものの、部屋にもメイド達がついてきていた。さすがにそれは本当に眠れそうにないので頑張って説得して外に出てもらった。ちなみに『朝俺のことを起こしてくれる』という内容で合意した。
(俺的にはあんな美人なメイドに起こしてもらえるなんてご褒美なんだけどな。まぁうれしそうだったからいいか。でもやっぱり俺はルベドがいいな〜。今度頼んでみるか)
なんてことを思いながら俺の波乱の一日が終わりをつげた。
◆
執務室
「ふぅ〜。うーん、疲れた。アンデットの身体になっても疲労は感じるものだな」
モモンガはさっきまで守護者達にこれからの指示をだしていた。この状況で何より大事なのは情報である。そこで守護者達と以下数名でナザリック周囲70キロの探索をおこなうことにした。振り分けとしては、
西――セバス、ソリュシャン
東――アルベド、ナーベ
南――デミウルゴス、エントマ
北――アウラと配下の魔物達
といった具合だ。現状北には大森林が広がっているようなのでビーストテイマーであるアウラに北にいってもらうことにした。
(さて、とりあえずこれで今のところ出せる指示は出し終わったかな。後は皆が帰ってきてから情報を統合してナザリック周辺の地理を確認してからだな。それにしても、アルベドのことはどうしようか。ゼクスさんには責任をとると言ってしまったから何かしなければならないのだが・・・)
先ほど指示を出し終わった後にアルベドに設定をかきかえてしまったことを謝ると、
「別にいいのではないでしょうか。モモンガ様が私にそうあってほしいと願い書きかえてくださったのなら、私は本望であります」
と押しきられてしまった。まぁたしかにアルベドは美人で好みのタイプではあるのだが。だからといって、このことが許されるわけではない。
(この件はまた追々考えていくとしよう。とりあえずこれからどうしようか。自室で休んでもいいんだが・・・、そうだ。第8階層のギミックの確認のついでにルベドの様子を見に行くか。ゼクスだんはもう寝てしまっているだろうから俺だけでいいかな。ゼクスさんには悪いけどルベドがまだ確実に味方という保証はないからな。ゼクスさんが会う前に見ておかないと)
そう。ルベドは他のNPCとは違って少し設定が特殊なのである。他のNPCは全員俺達ギルメンに忠誠を誓うように設定されているが、ルベドはそれがないのだ。だから強いのだが非常に扱いづらいのである。
(うーん、まぁ会ってすぐに攻撃はされないとは思うけど、一応警戒はしていったほうがいいな。よし、じゃあ第8階層に行くか!)
モモンガは執務室をあとにした。
今回もここまで読んでいただきありがとうございました!また次回お会いしましょう。