楽しんでいただければ幸いです。
カルネ村森林
一人の少女・・・エンリは今死を覚悟していた。先程斬られた背中の傷みのせいか、うまく身体に力が入らない。しかし、何としても妹のネムだけは助けなければという思いで身体を奮い立たさす。渾身の力を込めた拳で騎士を殴るが、もとより効くはずはない。
「死」が迫ってくる。エンリは心のなかで祈る。
(神様、どうかお助けください・・・)
騎士が二人の命を絶つべく剣を振り下ろした。
「あんたの覚悟見せてもらったぞ」
その声とともに目視できない程の速度で剣が振られた。次の瞬間には、先程まで自分達に「死」を与えようとしていた者は一瞬で鎧ごと真っ二つになっていた。
「あれ、もう死んだのか?思った以上に弱いな」
「そのようですね。見たところこの者のレベルは10を少し越える程度かと」
「まじか。うーん、この世界のレベルはそこまで低いものなのか?」
エンリ達は突如現れた二人を呆然と眺めていた。何か話しているようだったが耳に入ってこなかった。
そこには天使と堕天使がいた。
天使と堕天使・・・お伽噺では聞いたことがあるが、実際に見たのは初めてだった。妹のネムも呆然と眺めていた。
「二人とも大丈夫か?」
その声とともにエンリの意識は現実に引き戻された。エンリは、ハッとして、
「た、助けていただきありがとうございました!」
「ありがとうございました!」
姉のエンリに倣うようにネムもお礼を言った。
「ああ、無事で何よりだ」
堕天使が答えると、先程二人が出てきた暗闇から先程の騎士をはるかに上回る『死』が現れた。
ゲートからモモンガさんが出てくると二人は急に怯えだした。そりゃそうだ。いきなり骸骨が出てきたらそりゃびびるわな。
モモンガさんが二人の傷を見てポーションを渡していたが、完全に恐がられていた。モモンガさんと一緒に来たアルベドはその様子を見て、二人を殺しそうな勢いだ。
(こりゃまずいかな)
俺はそう思うと話しに割って入った。
「これはポーションだから安心して飲むといい。それとこの人は俺の仲間だから恐がらなくても大丈夫さ」
俺がそういうと、少女は恐る恐る赤いポーションを飲み干した。
「うそ・・・」
少女はポーションの効果に驚いていた。
少女・・・どうやたエンリというらしい。そのエンリに話しを聞くと、どうやらこの世界にポーションはあるがそこまで即効性があるわけではないらしい。それにポーションの色は赤色ではなく青色のようだ。
《モモンガさん。やっぱりユグドラシルとは少し違うようですね》
《そのようですね。この世界の敵はどうでしたか?》
《かなり弱いですね。どうやらさっき俺が殺した騎士はレベル10くらいらしいですよ》
《騎士でそのレベルとなると、この世界のレベルはそうとう低そうですね》
《とりあえずこの二人の村に行ってみましょうか》
《そうしましょう》
俺はさっき騎士を殺したがそこまでの罪悪感などは感じなかった。俺のカルマ値はナザリックの中ではかなり高い50だが、どうやら種族が人間じゃないからのようだ。
モモンガさんがさっき俺が殺した騎士を自身の能力である『中位アンデット作成』を使い、
「・・・我が名は、アインズ・ウール・ゴウンだ。」
それと、生きていたら二人の両親を助ける、ということを約束してその場を離れた。
◆
カルネ村
俺は今ルベドと二人の時間を過ごしていた。モモンガさんはというと、現在カルネ村の村長にこの世界の地理などについて話しを聞いているところである。俺はそういった難しいことは苦手なので、モモンガさんが引き受けてくれた。
(さすがモモンガさん!俺達のギルドをまとめていただけのことはある)
何故今の状況になったのかというと、まぁ色々あったのだ。エンリ達を助けた後、カルネ村に着くと騎士達相手に
今はモモンガさん、もといアインズさんが村長と話しているのでルベドと二人である。ちなみにアルベドはアインズさんの側にいる。
(それにしてもアインズさん、か。モモンガさんも思いきったことをしたよな)
どうやらこの名前を名乗ることで、他にもこっちの世界に転移しているかもしれないプレイヤーを探すつもりらしい。そこまで考えているのならモモンガさんがその名前を名乗ることに俺は別段反対ではない。まぁ俺はナザリック内ではモモンガさんと呼ぶつもりだけどね。モモンガさんならうまくやってくれるだろう。
そんなこんなで俺はルベドと喋っていた。
「ルベドの羽は触り心地がいいな。さらさらで気持ちいいよ」
「そ、そうですか?ゼクス様ならいくらでも触っていいですよ」
俺はルベドの羽(不可視可によって周りの人には見えていないが)を触っていた。嫌がられるかな、と思っていたが案外気軽に触らせてくれた。ルベドの羽はよく手入れがされているのか、さらさらでとても気持ちいい。いくらでも触っていたいものだ。自分の羽を触ってみても別に何も感じない。やはり好きな子の羽だからだろうか。是非あの羽に包まれてみたい。
(俺別に羽フェチとかじゃなかったんだけど、種族に心が引っ張られてるのかな?)
そんなことを思いながらルベドの羽をモフモフしていた。
ちなみにこの間ルベドは終始顔がニヤニヤするのを必死に抑えていた。
(ゼクス様が気持ちいいって言ってくれた!今度からもっと念入りに手入れしよっかな)
そうルベドは心の中で決意したのである。
「なぁ、ルベドはアルベドとはどうなんだ?アルベドとは姉妹なんだろ?」
「特にどうということはありませんね。私はゼクス様以外に興味は御座いませんので」
「そっか。でも俺としては姉妹なんだから、もう少し仲良くして欲しいんだけどな」
「ゼクス様がそう仰られるのなら善処します」
「ん、頑張れ」
アルベドはまだルベドのことを信用していないようである。まぁモモンガさんを攻撃したのだから、アルベドは内心穏やかではないだろう。
(んー、どうにかして仲良くなって欲しいだけどな)
そんなことを考えながら俺はルベドの頭を撫でてやった。最近気付いたことなのだが、ルベドは頭を撫でられるのが好きらしい。頭を撫でてやると、まるで猫みたいに気持ちよさそうにしてくれる。俺にとっての至福の時間である。
なでなでによってルベドの表情は更に緩んでいたりした。
(はああぁぁ〜、至福の時間。ずっと撫でていて欲しいな)
「ルベドは頭撫でてもらうのが好きなのか?」
「はい!でもゼクス様だからです!」
(はっ、つい口走っちゃった・・・)
「そ、そうか?そんなことでいいんだったらいくらでもしてやるよ」
(い、いいのかな・・・。まぁルベドが喜んでくれるなら、俺は嬉しいんだけど)
ルベドは赤面しながら頭を撫でられていた。
しばらくそんなやり取りが続いたりした。
◆
それからしばらくしてモモンガさん達が戻ってきた。村長や村人達は葬儀の準備ができたということで、今はそっちの方に行っている。そこには泣き崩れているエンリの姿もあった。
「
「ええ。ですがここで使うべきではないでしょう。今回は村を救った、ということで満足してもらいましょう」
「そうですね。・・・ところでこの世界はどんな感じでしたか?」
「やはり別世界のようですね。説明すると・・・」
モモンガさんの説明を聞くかぎり、NPC達に調べさせた情報とだいたいが一致していた。まずここら一帯の周辺には、
北ーアゼルリシア山脈
南ースレイン法国
東ーバハルス帝国
西ーリ・エスティーゼ王国
となっているらしい。どの国もユグドラシルでは聞いたことがない名前だった。そして、山脈を挟むことによって国境を分けている王国と帝国は仲が悪いようだ。今回この村を襲撃した騎士の鎧にはバハルス帝国の紋章が刻まれていた。しかし、先程の騎士の一人に問い詰めたところ、スレイン法国の偽装工作であったことがわかった。国境が隣接しているのならば有り得ない話しではないだろう。そしてこのスレイン法国にはNPC達に調べさせたところ、何やらプレイヤーやNPCの影があった。もしかしたらこの世界に転移してきたユグドラシルプレイヤーである可能性もある。なたば現状、スレイン法国と敵対するのはあまりよくない。まぁ全面戦争になるというのならば全力で叩き潰すつもりではある。俺には守るべき存在があるからな。
それと何やら興味深い話しもあった。どうやらこの世界には冒険者というものがあるらしい。冒険者は冒険者ギルドに所属し、モンスターなどを報酬を貰うことで狩っているようだ。ちなみにこの世界にもモモンガさんのような
そして最後に最寄の城塞都市『エ・ランテル』についての情報ももらった。ここがナザリックから一番近い大都市のようで、ここにも冒険者ギルドがあるらしい。情報収集をするならここが一番良さそうだった。
これらが現状得られるこの世界の情報だ。
「モモンガさん、これからどうします?」
「とりあえずこの世界のことは、この村と友好的な関係を築きつつエ・ランテルで情報収集をしようかと思っています」
「なるほど。まぁそれが一番妥当でしょうね。他の国はどうします?」
「まだそこまでは踏み込まないつもりです。特にスレイン法国は何があるかわかりませんからね」
「了解です。今日は一旦ナザリックに戻りますか?」
「そうですね。一旦戻りましょう」
俺とモモンガさんが会話をしている間、付き添いであるアルベドとルベドは無言で並んでいた。
(うーん、やっぱりアルベドはルベドのことをまだ信用していないっぽいよな。どうしたら仲良くなってくれるんだろうか・・・)
俺は別のことでも頭を悩ませていた。
俺達がナザリックに帰ろうとした丁度そのとき、村長が俺達のところにやってきた。何事かと聞くと、どうやら馬に乗った騎士風の者達が近づいてきているらしい。モモンガさんはまた厄介ごとかとため息をついていた。俺としては一度救った村だ、もう一度助けることくらいやぶさかではない。
「村長、今回だけは特別にただでお助けしますよ」
とモモンガが村長と約束をしたとき、馬に乗った男達がやってきた。男達の装備は統一性がなく、独自にアレンジされたものが多かった。もしかしたら正規軍などではないのかもしれない。しかし、装備はどれも手入れのいきどどいているものを持っていて、予備のものまでもっていた。よく言えば、歴戦の戦士集団。悪く言えば、まとまりのない傭兵集団、といった感じである。するとリーダーらしき男が俺達を見回した後、名乗りをあげた。
「ーー私は、リ・エスティーゼ王国、王国戦士長ガゼフ・ストロノーフ」
どうやらお偉いさんの登場のようだ。
ここまで読んでいただきありがとうございました!
また次回までしばしお待ちください。