「ラキュース、一通り避難はすんだだろう。私はあいつらのところへ戻るぞ」
「加勢しに行くの?あなたが珍しいわね」
「ふん、別にそういうわけではない。ただあいつらだけでは絶対に死ぬだろうからな」
「そうね。さすがに二人だけでは無理でしょう。みんな、ゼクスさん達の加勢に向かうわよ!」
「はいよ。いっちょ暴れてやるか!」
竜王国の国民を避難させたラキュース達はゼクス達の加勢に向かうことにした。ここから先ほどゼクス達と別れたところまで少し距離があるが、ラキュース達の足ならすぐに着くことができる。言うや否やラキュース達は飛ぶような速度でさっきいた場所を目指した。
「あいつらまだ生きているといいがな」
「大丈夫よ。あの二人だってアダマンタイト級冒険者なんだから」
「だといいがな。そろそろ先ほどの場所が見えてくるぞ」
「なっ!?・・・なんだこれは」
「うそ・・・でしょ」
「おいおい、冗談じゃないぜ」
ゼクス達と別れた場所へ着いたラキュース達が目にしたのは信じられないような光景だった。そこにはビーストマン達の死体が山のように転がっていた。そしてその屍の上に立つ漆黒の鎧と純白の鎧に身を包んだ二人の戦士の姿はいやに美しく見えた。
難度100を越えるビーストマンが5000はいたであろうに、今生きているビーストマンは一体もいない。まだ倒すくらいならラキュース達でもそんなに難しくはない。しかし、さすがにこの数は無理である。なのでラキュース達はある程度を倒し、ビーストマン達を退かせるつもりでいた。しかし結果は敵の全滅である。そして何よりもその速度が信じられない。あれだけの数をどうやってこの短時間で殲滅したのか。そんな思考の渦に飲まれながら呆然としていたラキュース達をその当事者から声が現実に引き戻した。
「ラキュースさん、国民の避難は終わったんですか?」
「えっ、あ・・・ええ」
「そうですか。ありがとうございました。こっちも見ての通り終わったので竜王国の城へ向かいましょうか」
「待て!貴様何をした!?どうやってこの数のビーストマンを殺したのだ!」
「貴様・・・またゼクス様に向かってその失礼な態度。許さんぞ」
剣を構えようとしているルベドを手で制しながらゼクスは考える。
(んー、別に普通に戦っただけなんだけどな。そんなに強すぎたか。まぁいいか。適当に誤魔化しとこう)
「別にただ普通に戦って普通に殺しただけですよ。そんなに特別お話するようなことはありませんよ。それよりこんなところに長居は無用です。はやく城を行きましょう」
「なっ、待て!まだ話しは・・・!」
そういうとゼクス達はさっさと城の方へと向かって行ってしまった。
「一体全体なんなんだあいつらは。もはやあれは人間のできる芸当ではないぞ」
「ええ、とても信じられないわ」
「「うん、信じられない」」
「まったくだぜ。さて、どうするよ?」
「う〜ん、とりあえず彼らに着いて行きましょうか。彼の言うとおりここにいてもらちが明かないわ」
「そうだな。おっしゃ、じゃあ行くとするか」
その言葉と共にラキュース達も城を目指して進むことにした。ただ一人イビルアイだけは解せないというような顔をしたまま。
(あいつらは本当に人間なのか?まさか・・・、いや、そんなわけはないか・・・)
◆
ー竜王国城ー
竜王国で城に座っていた少女のもとに一つの連絡が入った。彼女こそがこの竜王国を統べる王女ドラウディロン・オーリウクルスである。
「王女様、緊急のご連絡が」
「どうした?私はビーストマンの対策で忙しいのだ。何故かスレイン法国は援軍を送ってこないし、セラブレイトの視線は相変わらず気持ち悪いし・・・」
「そのビーストマンについてのことであります」
「なに?すぐに話すがいい」
「はっ、それが先ほど入った連絡なのですが、にわかには信じがたく」
「ええい、いいから早く話せ!」
「はい。先ほど近隣の村にビーストマンの進行があったとの連絡がありました。しかし、そのビーストマンが何者かに全て殺されたと」
「なんだと!?それは本当か?ビーストマンの数は?」
「それが、5000もの数がものの数分で、と」
その報告を聞き彼女は呆然となった。それもそのはずである。今までさんざん苦労させられてきたビーストマンがあっさりやられたというのだ。しかし、これは驚いている場合ではない。もはや破滅への道しかないと思っていた彼女からしたらそれはまさに一筋の希望に思えた。ここはなんとしてもその人物を探し出すしかない。彼女は自分の宰相へと声をかける。
「おい、今すぐその人物を探すのだ」
「わかっています。急ぎ探させましょう」
ドラウディロンが一筋の希望を喜んでいると今度は別の伝令がやってきた。
「次から次へと今度はなんだ?」
「はっ、王国からの援軍だという冒険者達が先ほど城へ」
「なに?まさかビーストマン達を殺したというのはその冒険者達か?」
「恐らくそうかと。話しに聞いた姿と一致します。それに一組はアダマンタイト級冒険者の蒼の薔薇です」
「そうか!いますぐ謁見の準備をしよう。まさか向こうから来てくれるとは思わなかったな」
「ええ、ですがこれはチャンスですよ。ここに竜王国の命運がかかっているのだからきちんとしてくださいよ」
「わかっている!まったく本当にうるさいやつだ」
「はいはい、文句は後でいくらでも聞きますよ」
そうして、竜王国の運命を変える出会いが起ころうとしていた。
◆
竜王国の城へ着いたゼクス達は王女と謁見するための準備をしていた。今は城の中の一室で待たせて貰っている。その間に城の人に聞いたところによると、竜王国はかなり劣勢にたたされているようだ。このままでは遅かれ早かれいずれ滅びてしまうだろう。今までよく持ちこたえていたほうだ。ビーストマン自体はそこまで強くはないが何よりもその数が問題なのだろう。レベル35程度といえどもそれが10万もいれば話しは別だ。さすがにこの世界の人間だけで撃退するのは無理があるだろう。そうこうしているうちにどうやら王女への謁見の準備が整ったらしい。俺達も王女の元へ向かうとしよう。
「よく来てくれた。私がこの国の王女であるドラウディロン・オーリウクルスである。この度は王国の援軍感謝する」
「私は蒼の薔薇のリーダーのラキュースです」
「自分は漆黒のリーダーのゼクスです」
王女を一目みて思ったことは幼いということである。あれでこの国を治めているというのだろうか?だがどうにも容姿と言動に差違があるような気がするのは気のせいだろうか。まぁそんなことはどうでもいい。今はこの国についてのことだろう。
「話しには聞いていると思うが、今この国は滅亡の危機に瀕している。どうかそなた達の力を貸して欲しい。もちろん報酬はそれなりのものを用意するつもりだ」
「もちろんです王女殿下。私達もこの国を救うのに尽力いたします」
「そうか!ありがたい。話しは聞いている。ここに来る途中ビーストマン達を倒してくれたのだろう?」
「はい。ですがビーストマン達を倒したのは全て彼ら漆黒の二人です」
「なに!?本当か?」
そんな驚きの表情と共に王女の視線がゼクス達の方へ向いた。
「事実でございます王女殿下。私達がビーストマンを倒させてもらいました。つきては我らの力もお貸しいたしましょう」
「(っ!?・・・たしかにこの二人からは蒼の薔薇のメンバーとは何か次元の違う強さを感じる。この二人ならもしかしたら・・・)感謝する。今日は旅の疲れ等もあるだろう。今夜はこの城で是非休んでくれ」
「ありがとうございます。それでは私達はこれで。詳しい作戦等はまた明日にでも」
そう言って王女との謁見は終わったのだった。それから俺達は貸してもらったそれぞれの部屋で休むことにした。ちなみにルベドとは同じ部屋である。ルベドと同じ部屋で寝れるとは、それだけでもうありがたい。
その夜俺達の部屋を王女が先ほど側にいた宰相と一緒に訪れた。
「少し時間をもらってもよいか?」
「ええ、構いませんよ。しかしどうされたのですか?」
「いやなに、そなたたちの力を借りるのだ。私達自身のこともきちんと話しておこうと思ってな」
話しとしてはどうやら改めてこの国について話してくれるらしい。どうやらラキュース達にはもう先に話しをしてあるようだ。少し興味もあったので聞かせてもらうことにした。
「まずは私自身のことから話そうか。私はこう見えても純粋な人間ではない。この身には竜王の血が流れているのだよ。とは言ってもワンエイスなのだけどね」
「ほう、竜王の『血』ですか」
なかなかに興味深い話しである。竜との混血、しかも竜王ときた。ということはこの世界にも竜王が存在しているのだろう。いまだその実力はわからないが、いずれ戦うことになるかもしれない相手である。
「竜王の名はブライトネス・ドラゴンロード。その血を引いているおかげで私の寿命は人間よりもはるかに長い。それに今のこの姿は本当の姿ではないのだよ」
なるほど。さっき感じた違和感はこういうことか。ということは見た目よりはるかに長く生きているのだろう。王女の語りは続く。
「そして私には竜王の血による切り札が一つだけある。もしそれを使えばビーストマンを全滅させることも可能かもしれない」
「切り札、ですか?何故それを使わないのですか?」
「それは私には大きすぎる力だからだよ。私があの爆発魔法を使おうと思ったら、人間の魂で100万。それほどの代償を払わなければ使えないのさ。だからこそ、そなた達の力を借りたいのだ。私の見立てが間違っていなければそなた達の強さは計り知れない。我が国のアダマンタイト級冒険者と蒼の薔薇を含めたとしても群を抜いている。それにそなた達からはどこか人間とは違った異質な力も感じる。いや、そんなことはどうでもいいのだ。今一度頼む。どうか我が国のために力を貸して欲しい!」
「もちろんですとも。我々の力竜王国のために御使いいたしましょう。(まさかそこまで見抜かれるとは思わなかったな。やはり見た目で判断するのはよくない。それに・・・)」
こちらを見つめてくる瞳は、一本の筋が通った力強い光を灯していた。それは覚悟を決めている者の瞳。俺にはそんな瞳がどうしようもなく美しく見えてしまった。
「ありがとう。そなた達なら必ずやできると信じているぞ。次は我が国について話そうか・・・」
その後も王女の話しは続いた。そのおかげで竜王国について大分詳しく知ることができた。今聞いた話しのなかで気になったところは竜王国からはるか遠く、北西の方角にあるという『アーグランド評議国』についてだろうか。どうやらこの国は様々な種類の亜人族で形成されている国らしい。中でもその国を統治しているのが数匹の竜王で、彼らがその国のトップである。そして竜王国は評議国とあまり仲がよくないようだ。数匹の竜王の内何匹かは竜王国に不満を抱いて、最近その動きが活発になっているとか。竜王国の王女が竜王の血を引いているのが理由らしいが。
ユグドラシルの世界でも竜王といえばかなりの上位エネミーであった。はたしてこの世界の竜王がどれほどのものかはわからないが、いずれ調べておく必要があるかもしれない。今度ナザリックに帰った時にモモンガさんに伝えておこう。
一連の話しはそこまでで王女は帰っていった。なかなかにいい話を聞けたし、けっこう有意義な時間だったな。そこで俺は今までずっと黙っていたルベドに話しを振ってみた。
「ルベド、あの王女のことどう思った?」
「非常に芯の通った女性だと思いました。同じ女としてもあの女性の瞳は嫌いではありません」
「そっか。だよな」
俺はルベドが俺と同じことを思ってくれていたことが嬉しくて、ついついルベドをなでなでしてしまった。ナザリックの者が他の者のことを軽蔑したりしないのは非常に珍しいことだ。俺はそのことをいいことだと思っている。やっぱり他の者のこと理解することも大切なことだ。
一方なでなでしてもらったルベドはにへーとしていた。
その夜はもう寝ようとしたのだがそれからが俺の今日最大の戦いとなった・・・。寝ようとしたのはいいのだが気づけばルベドが俺のベッドに入ってきてそりゃもう大変だった。腕に抱きついてくるので、ルベドの豊満な肉体を直に感じてしまう。襲ってしまいたくなるのだがそこは鋼の理性で我慢である。だって、あんな幸せそうな顔をしたルベドを襲えるわけがない。
「ん〜、ゼクス様〜。むにゃむにゃ」
そんなこんなでその夜は理性と戦いながら、ルベドの寝顔を堪能して夜はふけていった。
ーこの世界の設定ー
この世界ではレベルの他にモンスターなどには討伐難度というものを設定しています。本作品では1レベルが難度約3となっており、各ステータスは以下のようになります。
ゼクスLv100 → 難度約300
ラキュースLv58 → 難度約174
ビーストマンLv35 → 難度約105
となります。前話で述べたように本作品では原作よりも転移後の世界のレベルが上がっています。これは今後の展開でゼクス達ナザリック勢とある程度戦えるようにするためです。原作のようにモモンガ様達が無双するのも面白いのですが、対等に戦える相手がいるのも面白いかと思いこうさせていただきました。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
また次回もよろしくお願いします。