京雅異伝より   作:沙樂

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第一話 邂逅

全国高校生麻雀選手権初日

 

 清澄高校麻雀部員である須賀京太郎は、部長竹井久が決めた休養日を料理の勉強、久に頼まれた買い出しをして過ごした。

 

 

 

 新しく料理を覚えるのは好きだ。

なぜなら、授業で将来全く役に立たないであろう単語を覚えるより実用的で、

何より、完成したときの達成感と知識を得たことによる満足感がたまらない。

 

 ハンドボール仕込みの大きめの手に下げた袋に目を落とす、

中には明日の朝作る予定の「タコス」

の材料が入っている。

 

 本当に何でもできるんだな、あの人

 

 あの人というのは県予選の時タコスを売っている店を教えてくれた人。

昨日、偶然にも宿舎で出会い、

 

 これも何かの縁です

 

と、俺に新しい知識を授けてくれた。

ハギヨシさんという、執事服姿でとても紳士的な方だった。

たまに姿が見えなくなるのが不気味ではあったが。

 

 にしても、今日の買い出し多くなかったか!?

 

 

部長なりの気遣いなのか分からんが、IH期間のすべての買い出し分を一度に済ませてしまおうということで、今日だけで「一週間分の買い物を一度にする主婦」並とは言いすぎかぐらいの買い物をさせられた。

 

「休養日の方が疲れるってどうなんだ?」

 

少し愚痴をこぼす。

だけど、部に必要とされてると思うと悪い気はしなかった。

 

 って、完全にパシリの思考だなこりゃ。

疲れた自分の肩をねぎらうように揉みながら。 自分の宿舎へと歩いた。

 

 

 

洗濯室の前に差し掛かった。

ふと、人影を感じる、同時に、デジャヴも感じながらその方へ目を向ける。

 

 咲だ。

 

「宮永咲」、俺の中学の同級生で、普段は静かでおとなしいが、話してみると感情豊かなやつで、面白い。

 

長椅子に腰掛け、乾燥機の仕事が終わるのを待っていた。

ここまではなにも特筆することない風景。

だけど、一つだけ。

 

咲の表情は、それは、15歳の少女が浮かべるには重たく、そして冷たかった。

 

 

 

俺は前にも見ていた。咲と初めて会ったあの時に。

彼女のその表情を。

少し言及すると、前に見たときとは何かが少し違う気もした。

 

 俺はあの時と同じように咲に近づく。

 

「よ、咲」

「京ちゃん。おかえり」

「おーう、ただいま」

 

 何気ない挨拶を交わす。俺は咲の隣に腰掛けた。

少しの間の沈黙。だけど、居心地の悪さは感じなかった。

多分それは、咲も一緒だろう。

自分でいうのも難だが互いに互いの性格はよく分かっていて、中学の時に二人で居ることも良くあった。こういった沈黙の時間も、良く起こる事だいう理解があるから。

むしろ、俺は咲の隣にいることで心地よさを感じているぐらいだ。

 

 

何気ない会話をしようと聞く。

 

「なあ、お前今日どっか行ったのか?」

 

「ううん、私は特に」

 

「はあ、せっかく東京に来たのに、観光もしてない?」

 

和や優希達と遊びに行っていると思ってたが、違ってたらしい。

 

「具合でも悪くなったのか?」

 

「ううん、そんなんじゃ無いけど。」

 

まあ、咲は人付き合いがいい方では無いからなあ。

 

「そっか。まあ勝ち進めば、また機会もあるかもな。」

 

そう言って会話は終了。

 

俺は、あの時の話をしようと思ったが止める。

 

咲の隣を立って、洗濯室を後にした。

 

 

 

 

俺はまだ、聞けていない

 

あの時に見た表情の理由を。

 

 

 

咲、俺がお前にあの時、

 

俺とお前が知り合うきっかけになったあの時に話しかけたのは、お前が

 

 

 

----------お前がそんな顔をしてたからなんだよ

 

 

 

 

 

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2年前の春、俺は春休みに当時付き合っていた1学年上の先輩に

 

「会って話がしたいから、部活終わったら校舎裏に来て」

 

とメールで呼び出された。

 

午後2時、部活が終わり、いつも一緒に帰ってる部活仲間に事情を説明して先に帰ってもらい。中庭にあるベンチで休憩をとった。

 

校舎裏で待つ先輩のもとへ向かう。その間に1人、見覚えのある男を見た。

 

校舎裏に着く。そこにいた先輩に。

 

「どうしたんですか?先輩

 

-------知ってる、今から目の前の人に告別される事

 

こんな所に呼び出して」

 

-------不足の事態に備えて男が1人、物陰にいる事を。

 

「京太郎君、私もう高校生になるし

 

彼女の言葉は俺の頭には入ってこない。要は、別れてくれ。という事だろう。早く終わらせて帰りたかった。空返事でその場を流していた。

 

だけど、

 

「京太郎君、つまらなかったよ」

 

その言葉はしっかりと俺の頭に入り込んで来た。

 

自覚があった。俺は先輩が、さほど好きになれていなかった。勿論、嫌いな訳じゃ無かったが。

 

俺が去年の夏に告白され、その時は時間が経てば好きになれると思い、「はい」と返事をした。だが、実際は今この瞬間も先輩の事を好きになれていない。

 

俺はとたんに申し訳ない気持ちになった。全部俺のせいだ、先輩がそこに隠れている男と駅前にいた事も、今、この状況になっている事も。全部俺のせい、俺がつまらないから、俺が先輩の事を好きになれなかったから。

 

1学年上の先輩と別れた。ただ申し訳なかった。

 

 

 

 

帰路、自転車を押して帰っている俺は、思い返している。去年の夏から今までの事を、彼女と居た時間を。と言っても少ない。

 

中学生の恋愛なんてそんなものだ、だけど、俺の場合他人より少し酷な結末を迎えてしまった。まず、別れる前に二股掛けられてたこと、告別の際、用心棒をつけられてたこと。そして、「つまらない」の一言

 

体が寒い、目頭がほんのり熱い。俺は、自分が泣いていることに気付く

 

「泣くほどの事じゃないだろ...」

 

意外だった。自分が悲しむことは無いと思っていた。

 

だけど俺の意に反して涙が出る。

 

自分がまだ未熟な中学生である事に気付かされた。

 

俺の顔に1滴、2滴と雫が伝う。だがそれは、涙じゃ無かった。

 

「雨か.....」

 

俺にとってそれはいい事だった。涙を洗い流せるから。

 

俺は自転車に乗って、家へと急ぐ

 

公園に差し掛かった、人影を感じてふと、その方を向く。

 

 

屋根のあるスペースのベンチに腰掛けたその少女

 

茶みがかかったショートヘアの少女

 

重たく、冷たい表情を浮かべる少女

 

 

 

 

宮永咲はそこにいた。

 

 

 

 

 

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