中学生3回目の春
初めて一人で遠出した春
絶望と後悔
期待と高揚
美しい程に純粋で
風に消えてしまいそうに儚い
苦しくて、愛おしい
そんな春のお話
第3話 愛称
私が春休みの2日目に東京に行ったのは、正解だけど不正解だった。
正解な点は、早めに行った事。
多分、立ち直るのに時間が掛かるから。
まだ、私には落ち着ける時間が残ってる
だから早めに行って、正解。
不正解な点は、行った事。
東京に行ったそもそもの目的。
もう、ずっと会ってないお姉ちゃんとの再会。
ドジで方向音痴の私がお姉ちゃんに会えた所までは奇跡だった。そこまでは。
久しぶりの姉妹の再会
テレビ番組だったら、感動のシーンだっただろう。
だけど、そこにあったのは「拒絶」
冷たくて、残酷な「拒絶」だった。
曇り気味の、機嫌の悪い天気の日だった
帰ってくると、お父さんはまだ仕事でいなかった。
私は、重たくなった体と心をお風呂で
癒す
体は少し軽くなったけど、心は重たいまま。
「咲」
お父さんの声だ、どうやら仕事から帰って来てたらしい。
私の意識は、いつの間にかとんでいて
居間で寝てしまっていたようだ。
「お姉ちゃん、話してくれなかったよ..」
「そうか....」
少しぶりのお父さんの手料理、焼き魚を箸でつまみながら土産話をすると、
お父さんは申し訳なさそうにそう返した。
お父さんは私が東京に行くことに反対していた。
言うとおりにしとけば良かった。
東京に行かなければ、私もお父さんもこんな気持ちにならなくて済んだ
そんな事を口に出そうとして、やめる。
その夜は心と体の疲れからか、
昼寝をしたにしてはすぐ眠りにつけた
春休みの3日目、いい朝。
私の心持ちは昨日よりかは楽になっていた
朝食を済ませて、部屋に戻る
机の上の、最近のお気に入りの一冊を
手に取ると、栞の挟んであるページを開いた。
読書をしていると、落ち着く。
物語に入り込んでいる時間が心地よい。
たまに、鳥肌がたつ程に素敵な表現が
あって、
文字だけでこんなに人を感動させてくれる本が、私は好きだった
特に、今開いたこの本
「京雅異伝」
2067年、「新日本」の首都、京都を舞台に主人公の京雅が「日本」を取り戻す為に奮闘する物語。
この本は物語の設定もさる事ながら、
胸が熱くなるようなストレートな表現技法が面白く、つい熱中して読んでしまう。
普段本を読まない人にも
間違いなくオススメ出来る。
そんな一冊。
気がつくと、時計は正午を回っていた。
私は、昼食を摂って公園に行く。
午前は家で、午後は散歩も兼ねて公園で読書をする事が、私の休日のスケジュールとしては多かった。
公園に着くと、私の特等席である
屋根のあるベンチのスペースに座る。
私は「新日本」の世界に入り込んだ。
しばらくして太陽が雲に隠れた事を感じ、意識を現実へと戻す。
「あ....」
昨日と同じ天気になり始めていた。
昨日、
「拒絶」を前に、絶望する私。
東京に行った事を後悔する私。
少し、忘れていた頃にくる負の感情。
私は、本を置いた。
ぽつり、ぽつりと雨が落ちてくる。
------------洗濯物、取り込まなきゃ。
そう思うけど、立てなかった。
少し、時間が欲しかった。
何もしない時間。
ただ座って、ぼーっとする時間が。
その時間を過ごしていると、
その人は何故かそこに来た。
「京雅異伝...」
「うえええ!?」
いきなり声がしたから驚いた。
その声のした方をむくと、
少し見覚えのある顔だった。
多分、同じ中学の男子。
「いやあ!読んだことある本だったからさあ!」
と、良く分からない事を言っている。
「何があったか知らないけどさ、つらいこと、少しでもこの雨に流せないかな?
この雨が止むまで、ここに居るからさ」
---------この人、変な人なのかな?
「は、はい!」
戸惑いつつもそう返答を返した。
「.......。」
「.......。」
沈黙。
---------気まずいなあ....
すると、
「京雅異伝、好きなの?」
----------この人も好きなのかな?名前.....
分からないけど。
「はい、えっと....」
名前を聞こうとすると、それを察して
「須賀 京太郎」
「あ、はい...。須賀さんも好きなんですか?」
「うん、冬休みに読んでてね。普段あんまり本は読まないから良く分からないけど、なんかすんなり読めた気がする。」
意外だった。そして、嬉しかった。
あんまり男の子って本を読まないし、
読んでも、「すんなり読めた」
って、気付ける人って少ないから。
そう思う私の表情は自然と緩んだ。
「そうですよね!この作品を書いた作家さんが、分かりやすいストレートな表現が好きな方なんですよ。だから入り込みやすいんだと思います。」
本の話をする私は少し興奮気味だった。
本の話を他人とする事なんて、
あんまり無かったから。
ましてや、男の子となんて。
でも、
------------少し引かれたかな?
いや、そんな事はなく相槌を打ってくれていた。
むしろ、
「あのラストは良かったよな〜」
と、話をふってくる
だけど、私はそこはあまり賛成出来なかった。
シリーズ物にしようと、次に繋ぐ事を意識し過ぎていた気がしたから。
「えー、そうですか?私は京都を出た方が良かったと思いますよ、だって........
もはや、須賀さんの事はお構いなしに話を続けていた。
だけど、好きな事を声に出して話すたびに、私の中の悪い物が抜けて行く気がして、心地よかった。
話に少し区切りをつけると
「意外と、面白いんだね。」
始めは、本の事かと思った、
私の事を言っている、という事に気がついた時には恥ずかしくて顔を赤くした。
「すいません....つい...。」
「いやあ、元気で良かったよ、
なんか暗い顔してたからさ。」
「はい....。」
「続きが聞きたいな。」
「いいんですか?」
「うん。」
須賀さんは、その後も私の話聞いていてくれた。
空が青くなっている事に気付いたのは
私の話すネタが尽きた1時間後だった。
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春休みが終わって、学年が上がる。
私は、鏡の前で紺色のリボンを結んで見た。紺色は3年生の色。
「行ってきます」
いつもの挨拶だけど、今日は少し気持ちを込めて言って、家を後にした。
「そういえば私の名前、まだ須賀くんに言ってなかった」
学校に着くと、皆、桜色に染まっていた
ひとまず、私は自分のクラスを確認しに行く。
順当に前の方から。
左から右、左から右へ、徐々に。
そして、
「「あった」」
ぶつかったのは、私よりひとまわり大きい肩。
謝ろうとその方を向くと、
そこには、須賀くんがいた。
「おはよう、須賀くん。」
そう朝の挨拶をする私だった。
その後、学校が久しぶりで
下の学年の教室に行ったり、
音楽室の方へ行ったりしたけど
それはそれで、私には良かったのかも知れない
HRが終了。無事に教室にたどり着く事が出来ていた私は桜散る中、須賀くんと
少し風流な話をしている。
「そんな事よりさあ」
須賀くんがそんな風流な話を辞めて言う
「学校が久しぶりで迷うってどうなんだよ!」
須賀くんは大笑いしている。
----------------笑いすぎじゃない?
と思い、口を尖らせる。
「咲は本当面白いな!」
さっき、須賀くんに名前を教えていた。
フルネームで、だけど
----------------咲......
そう呼び捨てされた。
私は何故か胸の高鳴りが抑えられなかった。
「どうせ私は方向音痴ですから!」
そう、高揚を誤魔化すように言う。
須賀くんが私の髪に手を伸ばすと、
その手には桜の葉があった。
-----------------手、大きいな。
須賀くんの名前を呼ぼうとして、
少し考える。
須賀くんは、私の事を呼び捨てにする。
だから、私も。
須賀くんと話をするきっかけになった本の
私のお気に入りの本の
京雅異伝より、主人公の愛称の
私は、照れくさそうにその名前を呼ぶ。
「京ちゃん、ありがとう」
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。
この「京雅異伝より」は、私のブログとpixivの方にあげたもので、少し卑怯かな?と思いながらもハーメルン様の
方にもあげさせていただきました。
拙い文でしたが、少しでも咲京の良さが伝えわってもらえていれば嬉しいです。
また、お会いしましょう。