特になにもない寂しいところでしたが・・・
____演習場____
遠くではあきつ丸と電が水上スケートよろしく海面を滑りながら訓練用の的を設置している。
艤装の装着も見たがまるで魔法だ。
何もない空間から突然装備が現れた。
「演習用の的は立て終わったでありますよ。まずは射撃訓練からでありますね」
的は見えないほど小さい。2km近く離れているだろうか。
凄腕の狙撃兵が何発と打っても当たるかどうかの距離である。
いや、海上であることを考えれば、ゴ○ゴ13くらいでしか命中は無理だろう。
「ずいぶんと遠いもんだな。当てられるのか」
「12.7cm砲の最大射程は1.9km、最大有効射程がおおよそ1.5kmほど、戦闘時であれば1.0kmほどなのです」
「1kmでも相手は相当小さいだろうに。目もいいってことか」
「目の良さもありますが、戦場ではなんとなく相手の位置がわかると言ったらいいでありますか、自身の射程内の相手の位置はおおよそ把握できるであります」
レーダーの機能が脳に直結しているということか。
追加で電探を装備すればその探知範囲も広がるのだろうか。
しかし、便利な機能だ。海上でどうやって人間サイズであるお互いの位置を把握しているのかと思ったが、これで解決だ。
「それでは訓練を始めるのです。まずは電からいくのです」
まずは静対静での射撃からだ。この射撃が九割方は命中しなければ話にならない。
できることなら、十割の命中を期待したい。
戦場でお互いが棒立ちになっているなどありえないのだ。
不規則な動対動の戦いでは砲撃など当たらなくなる。
耳をつんざくような重厚な砲撃音と共に、砲弾が発射された。
双眼鏡を通して目標が一撃でバラバラに砕け散る様子が写る。
一発で当ててくるか。
「目標に弾着、連続していくのです」
二射、三射と連続した砲撃音が体の骨を震わせる。
五発の砲弾を放ち、一発のみがそれて的を削る。
残りは的を全壊させている。いい腕のようだ。
「四発命中、一発は逸れました。続けて動態での射撃に移行します」
次は海上のポール間を走行しながら砲撃を行っている。
五発の砲撃により二発のみが的を破壊、残りの三発は水柱を立てたり的を削るのみであった。
これでは、動対動の砲撃では命中は二割に満たないくらいであろう。
これを低い値とみるか、どうか。
「だいぶ外しちゃったのです。中々動いている状態での砲撃は難しいのです」
「ふむ、俺には比較対象がないから何とも言えないな。たしかに動態での射撃は難しい。なにか手を考える必要はあるな」
「あきつ丸もいくでありますよ」
続けてあきつ丸も砲撃訓練を始める。
ある程度的は絞れているが、お世辞にもあまりうまいとは言えない。
まぁ仕方がないだろう。話の中にも敵を撃破したというものはなかったしな。
「ふむ、前衛でのあきつ丸による陽動、後衛からの電による精度の高い砲撃。これが今とれる作戦か」
歩兵同士の戦闘においては基本的な策である。
数名の前衛が弾幕を張って敵の陽動、後衛のライフルマンが狙いをつける。
要は敵に正確な射撃さえさせなければ、こちらの被害は最小限に抑えられる。
そして、少しずつ敵を削っていくのだ。
「あ、あまりうまくはいかないでありますな。面目次第もない」
「いや、方針は決まった。いずれにせよ命中精度は上げなければならないが、あきつ丸は三戦速以上での砲撃による着弾円の縮小、電は原則から三戦速の範囲内での命中精度の向上だ」
「っは!了解したであります」
「はいなのです」
おや、あきつ丸は文句を垂れるか説明くらいは求めてくるかと思ったが、流石に戦闘面に関しては素直に言うことを聞くようだ。
訓練の様子を眺めつつ作戦を考える。
明日辺りには鎮守府近海の哨戒くらいは任せてみるとしよう。
そこで現れた敵の勢力次第では、戦法が通じるか試してみるとしよう。
出来ることなら前衛に二人、後衛に四人は配備して行いたいものだが・・・
「提督殿、これは新手のいじめでありますか~・・・散々な成績でありますよ」
ふらふらと目の前に現れ、あきつ丸は文句を垂れる。
確かに的への命中精度という意味であれば散々な成績である。
そもそも静止砲撃でも外すことがあるのに、動態の三速以上での砲撃となれば的に当たるわけもないのだ。
ずっと当たりもしない砲撃訓練をさせられれば嫌にもなるか。
隣の電がどんどん的に当てるようになっている中では、より辛いことだろう。
「着弾円の縮小、といったろ。当たらなくてもいいんだ。そもそもあの速度で当たることは期待していない」
「どういうことなのか説明を要求するでありますよ~・・・」
「確かにお前たちにはそれを聞く権利があるな。よし、一旦休憩にするぞ。電戻ってこい」
用意しておいたお茶を飲みつつ、二人に作戦を説明することにした傭兵であった。
一通りの作戦を説明し終わるとあきつ丸は口を開く。
「それでは、自分は囮ということでありますか」
「悪い言い方をすればそうなる。だが、そう単純に捉えてほしくはない」
回避行動を優先しながら当たらない砲撃を繰り返すか、あるいは雁首そろえてゆっくりと動きながら狙いをつけるか、俺にはどちらも、ありえない戦法である。
回避と砲撃にメリハリをつければいいともいえるが、戦闘中に自分が砲撃できる時間を自分で稼いで見つけ出すのは簡単ではない。
「私の砲撃の精度が作戦成功の要になるのですか」
「そうだな、しかしどちらが重要な役目かと言われればあきつ丸のほうだ」
「そうなのでありますか?」
「しっかりと敵を引き付けて後衛が落ち着いて敵を狙える時間を稼がなければならない。砲撃にしても敵に全く当たらないような、敵が危機として感じてもくれないような着弾円ではだめだからな。もちろん電も重要だ。電の砲撃が当たらなければ敵が撃破出来ないわけだからな」
「どちらもが与えられた役目をしっかりこなすことができて、敵が撃破できるということなのですね」
「そうなるな。本来前衛も後衛ももっと人手があってやる戦法だし、地上では遮蔽物に身を隠せるから前衛も、もう少し安全なものなんだがな。そこは地上の小銃の射撃に比べて砲撃のほうが当たりづらいということ、海上ではどちらも静止しているようで波に揺られて動いているということで、相殺されるだろう」
「了解したであります。そういうことでありましたら、このあきつ丸、身命を賭してその役を遂行するでありますよ」
「私も頑張るのです。でも、あきつ丸さんを砲撃に晒して後ろから安全に撃つというのは、心苦しいのです」
「あきつ丸のほうが身労、電のほうが心労といったところだな。電よ、撃つ時間を稼いでもらっている上での一発一発は重いぞ」
「わ、分かったのです」
そう気負うことはないがな、とフォローしておく。
「明日は鎮守府近海での哨戒を行うことにしよう。とはいえ戦闘は主目的とはしない。この周辺海域の様子見だ」
「敵と遭遇した場合はどうするでありますか」
「敵の数によるな。安全に相手にできるのはせいぜい3隻だろう。それも駆逐艦、軽巡で構成されているやつらまで、だな。」
戦艦だの空母だのが出てくれば話にならない。
艦載機を相手にしているうちに戦艦に狙い撃ち、しかも敵は射程外。
それこそ、先ほどまで演習で使っていた的が動いているに過ぎないのだ。
「しかし、敵もそう簡単に逃がしてはくれないと思うでありますよ。それこそ下手に逃げて戦艦や空母を鎮守府近海に誘い込んでしまえば鎮守府が危機に陥るでありますよ」
「一応確認した戦闘記録上ではこの近海にそこまでの戦力が出てくるとは考えにくい。また駆逐艦や軽巡のみの編成でこの鎮守府正面内にまで入り込んでくるとも思えん」
敵としても整っていない戦力で、態々そこまでの深追いはしてはこないだろう。
おっと、そういえば敵は人間的な思考をしているのであろうか。
戦場での損得勘定だの、兵力を温存するなどといった当たり前の考え。
さらに生物として根源的な死を恐れるといった感情などはあるのだろうか。
大前提を見落としていたような気がする。
「なぁ、電。お前は戦場で敵の思考だとか感情というのを感じたことがあるか?」
「え、えと。どういった意味合いでしょうか」
「抽象的な言い方だったか。そうだな、相手が戦術的に攻めてきているだとか、なんらかの意味あると思われる行動を取ったりとか」
「うーん、意味のある行動や感情なのですか」
脳裏に浮かぶのは舞鶴鎮守府での出撃のこと。
敵の感情、敵にも沈みたくないという心があるのでしょうか。
私は敵の断末魔を聞いて敵にも恐怖があるように感じていました。
でも、これは私の主観なのです。
「些細なことでもいいんだぜ」
「そういえば、敵も旗艦をかばう行動をすることがあるのです。特に空母が攻撃を受けそうになった際、駆逐艦や軽巡は進んでかばいにいくことがあるのです」
「それは立派な戦術的行動だな。では、どの敵も同じように行動するのか?」
「いえ、絶対にかばいに行くということもないのです。時には空母が先に撃沈し、残った駆逐艦や軽巡を相手にすることもありました」
「ほう、単純にプログラムされてるってわけでもなさそうだ。まぁ常にかばいに行ける場所にいるわけでもないだろうから、そういったことは発生するにしても、だ。少し強引だが、個体差というものがあるのかもしれんな。死ぬのが怖くてかばいにいけなかった、とか感情に根差した行動とも取れる」
そう言われて電は震えた。
今まで、敵にも感情があるかもしれないということは、自分の主観として押し殺してきた。
いや、考えないようにしていたのだ。だが、どうだろう。
今まで自分と同じように、思考し感情のある敵を殺してきたというのか。
「どうした、電?顔色が悪いぞ」
「えと、何でもないのです」
「まぁ深くは考えるな。これは憶測に過ぎない」
今まで、正体不明の敵ということで特に深くは考えてこなかったのだろう。
そこで、敵も自分たちと同じような、と言われれば気分も悪くなるか。
だが、これなら先の戦法は通じそうだ。
少なくとも試してみる価値はある。
「なんの意味があったのでありますか、この質問は」
話に入れなかったあきつ丸が口を開く。
「なんてことはない、戦法を考える際には相手も何か考えている必要があるってだけのことさ。その根拠が欲しかったのさ。そして何も考えてないなら、楽かっていうとそうでもない。損得勘定もなしに力押しをされると、戦力の少ない側は疲弊していき、いずれ押し切られる」
相手の戦力がどれだけあるか分からんがな、と付足す。
「深海棲艦は底が知れないでありますからな。そもそも海のほうが地上に比べて圧倒的に多いであります。海を拠点としている相手となるとその戦力は計り知れないでありますな」
「そうなのだ。敵の状況を考えればいくらでも海という広大な土地から、如何様にも奇襲がかけられるはずなのだ。だが、それをしてこない。敵についての情報を集める必要性は高い。と、話が脱線しているな。さぁ、夕食まで訓練だ」
「了解であります(なのです)」
この世界での砲の射程距離は約10分の1まで短縮されています。
12.7cm砲の最大射程が19kmで、有効射程がその半分の10km先としても砲弾の初速910m/sを維持し続けて10秒かかります。
艦娘の大きさに対して10秒先の未来予測しての砲撃とか当たるわけねーじゃん、ということでこんな設定となっております。