____入渠ドック____
「あきつ丸さん、変わりないですか?」
声をかけつつ入渠ドックへと入っていく。
「んっ、軽くうたたねしていたであります。怪我をしているというのに、中々心地いいでありますな」
「あ、起こしちゃいましたか。ごめんなさいなのです。」
「いいのでありますよ。・・・、提督殿の様子はどうでありましたか」
「報告書とにらめっこしていたので、ちょっとお仕事の手伝いをしたのです。様子は窺っていましたが、怒っているような雰囲気はなかったのです」
「はぁ、気が重たいであります」
「大丈夫なのです。あきつ丸さんの事、よく分かっておいでだったのです。軽口をたたいていも、気が弱っているだろうから、見てこいって」
「あうぅ」
赤面し、お湯の中に顔を隠しぶくぶくと泡を立てる。
「私も軽く、お風呂に入っちゃいますね」
そういい、電は脱衣所に戻っていく。
全く恥ずかしすぎるのであります。
こうも見抜かれた上で、さらに年下の子に気を遣わせてしまうなんて・・・
せめて、お姉さんとして頑張ろうと思っていたのに、もはや威厳も何もないであります。
カラリと、扉を開けてタオルを纏った電が入ってくる。
その姿を見てあきつ丸は、胸は自分の勝ちなのでありますと思ってしまった。
その思考に至った瞬間、あきつ丸は激しく後悔した。
虚しすぎる、あまりにも。
なにがお姉さんなのか、小一時間問いただしたい・・・
「はわわ、どうしたのですか?傷口が痛みますか?」
うつむき顔色を悪くしていたせいだろう、誤解されてしまった。
でも、ここはそれに乗るしかないであります。
「え、えぇ。ちょっとお腹の傷口がひきつって・・・でも、そんなに痛いわけではないであります」
「なら、よいのですが・・・」
話題を変えよう。そう、話そうと思っていたことがあるのだ
「電殿、今日の戦闘前に話していたことの続きを話しておきたいのであります」
「はいなのです」
あきつ丸は話した。
自分は元は佐伯中将の秘書艦であったこと、中将が打開策として傭兵を見出したこと、そしてあきつ丸自身も傭兵の調査の一員であったこと。
傭兵の過去の細かいことについては話さなかった。
そのことは、傭兵自身が人には語られたくなさそうにしていたことを中将自身から聞いていたからである。
ただ、自分も調査に関わった経緯から傭兵を信頼しているということを語った。
元は自身が調査に加わったことや中将との関係までは話すつもりはなかった。
中将から期待を得ているくらいの話をして、あとはぼかそうと考えていたのだ。
だが、電にはできる限りのことを話しておきたい、今日の一件を通じてあきつ丸はそう思ったのである。
電は静かに、話を聞いた。
「そうなのですか、司令官さんの傭兵としての過去は気になるのです。でも中将さんやなによりあきつ丸さん自身がその結果から信頼できると判断したのなら、深いことは聞かないのです」
電は静かにそういい、風呂につかった。
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朝、0630きっかりに部屋の扉がノックされる。
「お、おはようございます。提督殿、起きておられますか」
昨日の今日だ、恥ずかしがって起こしに来ないかとも思ったが、職務には忠実なようだ。
そして、こちらも準備はできている。
もう少し寝ていたかったが昨日叱った手前もある。
こちらもそれなりの行動、約束ぐらいは守らないと示しがつかんというやつだ。
「時間ぴったりだな、おはようあきつ丸」
「わわ、もう準備済みでありましたか。で、では先に食堂へ行って待っているであります!」
そう言うやいなや、あきつ丸はささっと踵を返して食堂へ向かっていった。
こっちはもう部屋から出てきてるってのに。
「おいおい、せっかくなんだから一緒に行こうぜ・・・まったく、恥ずかしがってんのかね」
と、一人つぶやきあきつ丸の後を追った。
____食堂____
「おはよう、電」
「おはようなのです、司令官さん。もう準備ができますので、ちょっと待ってくださいね」
「あぁ、朝早くからありがとな」
食堂ではすでに電が朝食の準備をしていた。
幼い少女、という風にはもう電のことはみていないが、それでも見た目幼い子がこうも朝早くから起きているのでは、自分ももっと早く起きざるを得ないか、と悩む傭兵であった。
「さて、今日は間宮に軽巡と駆逐の各一名ずつ、3人が到着する」
「一気に人数が増えるでありますな、倍になるであります」
「楽しみなのです!」
「中将からは午前9時到着予定との電文が昨日入っていたな。午後からはまた訓練するとして、午前はどうしたものか」
「間宮殿が経営する甘味処間宮の設営作業など、午前中にできれば手伝いたいでありますが、よろしいでありますか?」
「そういうものがあるのか。食堂で毎日お世話になるし、いいだろう。むっ、お前が言っていた間宮券ってのはそこで使用するものなのか」
中将から、恐らく不当な手段でせしめていた例の券だ。
「そうでありますな。艦娘達に人気の間宮アイス、伊良子最中。前も言いましたがこれらがあるかどうかで、艦隊の士気がまるで異なるでありますよ」
「舞鶴鎮守府では戦闘のMVPや遠征の旗艦の子たちに配られたりしていたのです」
「褒賞としても十分な価値があるってことか。お菓子の引き換え券がそこまでの価値を誇ってるなんてねぇ」
仕事の報酬にお菓子の引換券なんて出してみろ、鉛玉のお返しが飛んでくるぜ。
「ただのお菓子なんかじゃないであります!(なのです!)」
「うぉっ、二人してどうしたんだよ。まぁ分かった、使いどころは考えておこう。しかし、その券をどこから仕入れるんだ?」
まさか、俺の実費じゃあるまいな。
「間宮さんが定期的に司令官さんに渡していたと思うのです。間宮さんたちが1か月に作れる量は限られているのです」
たしかに、普段の食事も作りながら、甘味処を経営するんじゃ中々大変だろう。
「そういうことか。まぁうちでもどう使うか、考えて決めないとな」
そういうと、目の前の二人は不思議と顔を見合わせる。そして
「このあきつ丸、初期艦として右も左も分からない提督殿を、今日まで導いてきたでありますよ。それから秘書艦として仕事を教えてあげたであります!」
そういい、胸をグッと張ってアピールをするあきつ丸。
たった3日じゃねーか。こいつは何を偉そうにしているんだ。
それにしても昨日はあの胸が俺の背中で形を変えていたわけだ。
券の1枚くらいくれてやろうか。
「い、電も昨日の出撃では頑張ったのです!間違いなくMVPなのです!」
バンッと机を叩きながら立ち上がって主張をする電。
まさか、電までもが自分の功績を主張し始めた。
間宮券の威力は予想以上のようだ。
確かに昨日の電の働きは素晴らしかった。
撃墜数を言い出すと後衛が圧倒的に有利だが、それを差し引いても、券の1枚はあげるべきだろう。
「分かった分かった。とりあえず1枚ずつはやろう。とはいえ、それ以降は他の子たちもいるんだ。平等なルールを設けるからな」
二人は向き合ってハイタッチをして喜んでいる。
ここで嘘だ、とでも言おうものなら主砲が飛んできかねない。
この二人の豹変を見る限り、ちゃんとルールを作らないと碌でもないことになるだろう。
お菓子券で軍隊の規律が乱れるなどふざけているとしか言えないが、逆にお菓子券がそれだけの効力を持っているというのは、管理する立場としては楽なことこの上ないのだ。
間宮券、侮りがたし。
別にお菓子が好きなわけではないが、俺も一度くらいは食べておこうと決めた傭兵であった。
戦闘の褒賞にすらなるお菓子、というものにはさすがに興味が沸いたのだ。
さて、朝食を食べ終わったら、0900には到着するであろう子たちの歓迎だ。
一体どんな子が来るのやら。
尻切れトンボですが第一部完となります。
第二部からさらに艦娘が加わります。
軽巡艦娘
後ろ髪をすっきりとまとめ上げた涼しげな、キリっとした面立ちの少女。
駆逐艦娘
妙に品を作った甘ったるい声で話しかけてくる、年端もいかない少女。
の二人が登場します。
この説明でだれか分かるかな・・・一人は分かると思うんだけど・・・
第二部を書くにあたって、増えた艦娘たちの口調がなかなか掴めず、執筆に時間を要しています。しばし、息抜きに書いた響DAYZでも読みながらお待ちを・・・