後書きにも書いていますが軽空母から艦娘1名募集!
傭兵は絶え間ない砲撃の音を聞きながら昔を思い出す。
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あれは、ブレッタの政府軍との戦争。
俺は人民解放戦線の一員として戦っていた。そのころの俺は幾許かの義侠精神、政府の圧政に苦しむ人民を開放してやるんだ、といったくらいの心を持ち合わせていた。ただ殺し合いに身を投じるのでも、自分がだれかの役に立っている、そう考えたほうが気が楽になるからだ。
戦争は長く続いた。政府軍も解放戦線も互いに疲弊していった。国土は荒れ、労働者たちは戦争で死に、ただただ衰退の一途をたどった。もうやめにしないか、弱音を吐いた戦士の一人は粛清された。もはや正しいことをしているのかなど誰にも分からなかった。
そして、1年半が経ち最後の戦闘、解放戦線の本拠地での防衛線の日が来た。もはや抵抗する兵力も残っていないが、みな必死であった。今更敵への投降などできない、決死の覚悟を決めて戦っていた。
相手にとっては最後の城落とし。雨あられと迫撃砲が本拠地を襲った。どうにか塹壕の中で耐え忍びながら、自分は脱出の機会を窺った。傭兵なのに結局自分がこうも最後まで付き合ったのか、持ち合わせてしまった義侠心のためか。だが、命まで捧げるつもりはない。
じき迫撃砲が止んだ。もう十分と判断したのだろう、歩兵が足並みをそろえ塹壕の近くへと歩み寄ってくるのを肌で感じた。最後は、最後の最後は歩兵による制圧なのだ。ここで一矢を報いて、あとは混乱のさなかに逃げ出そう。塹壕の前に張られた土嚢、どうにか迫撃砲に耐え切った、に隠れ機会を待つ。相手は塹壕に気がいくはずだ。こんなぼろぼろの土嚢に今更身を隠しているとは思うまい。隣にはヤン?曹長だったか、泥と汗にまみれた体で同じく土嚢にへばりついていた。
果たして敵は現れた。兵は20人かそこら、2分隊だろうか。砂煙に紛れてよくは見えない。充分に引きつけて、二人でマシンガンを横なぎに発射。まだ収まらない砂煙の中で血しぶきが小さく上がり4人の敵が倒れる。パッと射線より飛び去った敵が応射してくる。完全奇襲に対してはいい反応である。すぐさま身を隠し、敵の飛び去った方向へと手りゅう弾を投げ込む。
爆発、敵の銃撃が一時的に止む。これでもはや潮時だ。自分の位置は十分にばれている。敵は体勢を立て直しすぐさま、包囲殲滅してくるだろう。
ちらりと横を見ると曹長はすでに肉の塊となっていた。隠れきれなかったか、運は味方してくれなかったようだ。手早く死体へ手りゅう弾の置き土産をつけ、後ろの塹壕へと飛び込む。敵からはいまだあわただしい声や悲鳴が聞こえる。ずいぶんと立ち直りの遅い部隊である。
塹壕の中を身をかがめて素早く移動する。塹壕は長く広めに掘られており、さらに色々な銃座へと赴けるようになっている。だが、もはや銃座になど興味はない。そもそも迫撃砲でほとんどがおしゃかだ。またも爆発音、どうやら置き土産は仕事を果たしてくれたらしい。これでもう少し時間が稼げる。
塹壕の端につき、ちらりと先の様子を窺う。ここからは運任せだ。敵がしっかりとこちらにまで兵を配置していたら、俺は死ぬだろう。川までは100m、もぐってしまえばあとは流れに身を任せて下流へ行けば逃げられる。だが、果てしなく遠い。曹長から頂いた手りゅう弾を2発、撹乱と砂煙による視界不良を目当てに火線の通りそうなところへと投擲する。
爆発音と共に走り出す。駆け抜ければ10秒ちょっと。背後からは銃撃音が再び聞こえ始める。恐らくこの銃声が止むと同時にこの戦争は終わりを告げるだろう。あと60m、見渡せる木陰や建物には敵兵の姿は見えない。30m、不意に建物から人影が現れる。相手もこちらへと気づき銃を構え、そして自分もまた相手へ銃を向ける。しかし、お互い撃たなかった。果たして相手は少年兵であった。立ち止まり、互いに銃を向けあいながら驚きに目を見開かせている。
俺は戸惑った。今まで政府軍で相手にしてきたのは大人の兵士、軍人だ。その政府軍から少年兵が出てきた。解放戦線の目的、圧政に苦しむ民を開放する・・・その苦しむ民とは、いま目の前にいる子どものはずではないか。この戦争が結局は国力を疲弊させ、政府軍にすら少年兵を作り出してしまった。少年兵同士が殺しあってしまっては、もはや疲弊どころではない。滅亡の一途だ。
しばし見つめ合ったのち、何を思ったのか相手は銃を下した。そして、驚いたことにこちらへ微笑みかけた。それを見て傭兵もまた銃を下した。彼を撃つわけにはいかない。敵意を見せていないから、だけではない。
「僕はフラニス。君は?」
「○○○だ」
「変わった名前だね、それに見たこともない顔つきだ」
「日本人だからな」
「日本?聞いたことがある。上海が首都とかこの前軍曹が話していたよ」
そいつは中国だ、歴史的ばかもんが。中国の首都だったよな・・・そして、日本の首都は京都だったはず・・・若くして日本を離れた○○○に知識などありはしない。
「で、なんだって撃たなかった。それどころか銃まで先に降ろすなんて」
命が惜しくはないのだろうか。即撃たなかった俺が言えた義理でもないが。
「君の目だよ。撃ってくるようには思えなかった」
「いつか、騙されて殺されるぜ」
「同じ少年兵を撃つよりはましさ」
「政府軍にも少年兵がいたんだな」
「つい最近さ。もう出張れる大人の兵隊も少なくてね。反乱軍もあと一押しで潰せるってとこまできていたらからなりふり構わなかったらしい」
先ほどの部隊のわたわたとした手並み、反応は良かったが不測の事態への対応が全く取れていない。極めつけにあんなブービートラップにまでひっかかる始末。さっきのは少年兵の部隊だったのだ、一気に胸糞が悪くなる。
「それにしても反乱軍、か」
憤りは感じるが仕方ない。そうだろう、相手からすれば俺たちはゲリラやテロリストと大差ないのだ。人民解放、などと大層なことをのたまっていても、だ。そして、今更訂正のためにフラニスと言い合う気も起きなかった。
「で、これから君はどうするんだい?」
「ん?あの川まで行って流れに身を任せて、あとは適度なところで上がってサンタナにでも行く予定だったよ」
「そうか、じゃあここでお別れだね」
「俺はお前の仲間を撃ったぜ?」
「戦争だろ?君も撃たれた」
「それもそうだな」
お互いさっぱりとしたものだった。
「戦争が終わってよかった。少年兵同士で潰しあいをするところだった」
人民解放戦線には少年兵がたくさんいた。もはや生き残っているのは俺とあと数人だろう。戦争には負けたが、終わってくれて良かった。
「そうだね。僕たちが最後の少年兵になれたらと思うよ」
「それは・・・」
無理だ。大人たちは少年兵など、扱いやすい替えのきく兵器ほどにしか考えてない。そして身代わりだ。迫撃が終わってからの制圧戦。最も抵抗の激しいところの第一突入部隊に少年兵を平然と送り込んでくることからもよく分かる。
「なぁ、フラニス」
「なんだい?」
「俺と少年兵の傭兵部隊をつくらないか」
「僕はもう少年兵をこれ以上作りたくないって言ったつもりだよ」
「それは理想論さ。これからもいくらでも少年兵は出てくる。この薄汚い中東はまだまだ火薬庫のままさ。内乱や紛争が起きるたびに絶対に少年兵が出てくる」
「それで?」
「正義だとかなんだとかそんなことは考えない。ただ、少年兵が無為に大人の食い物にされないようにしたいだけさ」
「結局子どもを食い物にしてるのが僕らか大人かってだけの違いのような気がするけど」
「違う。無為に死なせたりはしない。たしかに戦いを強いてる時点で変わりはないかもしれないが、訓練をして鍛えて、ちゃんとした作戦行動を取る。使い捨ての駒になんかしない」
「それが、少年兵のためになる、と?」
「そうだ」
「じゃあ敵に少年兵がいたら?」
「捕縛する」
「無茶だよ」
戦争中に敵を救うなんて。相手は自分たちを殺しにかかってくるんだ。
「出来なくてもやる」
「死んでしまう!それこそ無為に!」
「出来る限り相手に少年兵がいるところには行きはしないさ。ただ、もし必要とあらば戦い、可能な限り殺さない。そして生きている奴は救う。なんとしてもだ」
「君も理想論じゃないか」
涙が出てくる。彼が言ってることが馬鹿げているからか、それともだれかを救うことができるかもしれないと考えたからか。
「だが、逃げてはいない。立ち向かっている」
「敵をも救う、か」
「どうだ?」
「悪くないね」
心の底からそう思った。できるかできないかは問題じゃない。やるんだ。その価値がある。
「よっしゃ」
かくして、中東の一部にすこしだけ名を残す少年兵部隊の結成の時であった。
銃声はいつの間にか止んでいた。風の音が寂しさをたたえながら駆け抜けていった。
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今目の前では、少女兵の部隊が訓練を続けている。彼女たちはどこへ行きつくのだろうか。過去に思いをはせながら訓練を眺める傭兵であった。