海岸沿いの広い駐車場に車を止める。
ここまで2時間近く、車から降りて体を伸ばしているとあきつ丸より声がかかる。
「さて、ちょっと待っていて欲しいであります」
「ん?どうしたんだ?」
あきつ丸は後部座席のドアをあけて乗り込もうとしている。
「絶対に中をのぞかないように、背を向けて後ろ手に組んで気を付けの姿勢をしていて欲しいであります」
キュッと眉根を顰めて言いつけられる。
一体どうしたというのだろうか。まぁいい、従おう。
「わかったよ、これでいいかい」
「ありがとうであります。すぐに済ませるでありますから」
数分後、ガチャリと車のドアがひらく。
「もういいでありますよ」
そこには軍帽と軍服の上を着替え、カジュアルな装いへと変わったあきつ丸の姿があった。
「着替えてたのかい。わざわざどうして」
「ここらへんの地区はあまり海軍に対していい印象を持たれていないでありますよ」
「そうか、じゃあ中での会話も気を付けるとしますかね」
「そうしていただけるとありがたいであります」
「お前さんも、口調を変えないとな。今時そんなしゃべり方する女の子はいないぜ」
そう言われてすこし悲しそうな顔をするあきつ丸。
しまった、彼女たちは立場上気軽に外には出れないだろう。
同年代の少女、同僚の艦娘はいるだろうが本部付きだったことを考えると会話の機会はすくなそうだ。
「そうであり・・・いえ、そうですよね。き、気を付けます」
どうしたものかと考えていると、目の前の車から男女のカップルと思しき二人組が降りてくる。
そうだ、これだ。
「お嬢さん、ちょっとお手を失礼」
そう言い、そっとあきつ丸の手を取る傭兵。
ひんやりとしていて、すこし震えていた。
「ひゃい」
とかわいらしい悲鳴を上げるあきつ丸。
びっくりしたように握られた手と傭兵の顔を交互に見て、頬を染めていく。
「やっぱ口調は元のままのほうがいいぜ。お前さんらしいや。これならちょっと歳の離れたカップルくらいにしか見られんさ」
「あ、アベックなどと、なんと破廉恥な」
アベックとは、わざわざそんな言葉で言い変えるかね。
それに破廉恥って、余計恥ずかしくねぇか。
とはいえ、特に嫌がったり手を外そうとする気配もない。
「ま、いいじゃないの。さ、買い物に行こうぜ」
ぐっと手を引っ張って促す。
「ま、待つでありますよ。ゆっくり、お、お願いするであります」
手を、手を握られてエスコートされているであります。
なんでこうなったでありましょうか。車から降りて、それから口調を注意されて・・・
口調は、たしかに自分でも古臭い、女の子らしくないのはわかっているであります。
それを言われてしまうと、悲しいのであります。
でも、自分らしいと認めてくれた。そして、なによりこの状況。
少女として生まれたからには一度は夢見るシチュエーションであります。
これ以上考えるのはやめて、いまを楽しむであります。
握られている手を見つめながら後へついていくあきつ丸であった。
店内へと入りカートを押して歩く傭兵。
握っていた手は店内に入ってからはさすがに恥ずかしいのか、外されてしまった。
「何を作るか決めているでありますか?」
「さて、一度作ったらそれなりに日持ちするものがいいな。カレーとか、どうだ」
「カレー、良いでありますな。しかし、みんなカレーの味にはうるさいでありますよ」
「む、うーむ。俺に作れるのは実に基本的なカレーくらいだぞ」
「とはいえ、上司の作ったカレーに文句を言う勇気のある子はいな・・・いるでありますな」
「いるのかよ。いや、無理に食べさせたくはないから構わんが。ていうか、3日のうちにそこまで人は増えないだろ」
「それもそうでありますな。それにしても、料理ができるとは驚きでありました。てっきり冷凍うどんやカップ麺に頼るものかと」
どうにもあきつ丸にはこの傭兵が、というよりは厨房に自ら立って調理する提督というものの姿が想像できないのであった。
「そのほうが楽だけどな。とりあえずはカレーの材料を集めよう」
じゃがいも、たまねぎ、ニンジン、豚肉、バー○ンドカレー、極々基本的なカレーだ。
「調味料とかってあるのか?そこらへんは間宮さんの好みとかもあるだろうからあんまり大きいものは買いたくないんだが。」
「少し前までは普通に機能していたのですからそこらへんは大丈夫でありますよ。・・・たぶん」
たぶん、かよ。というか、少し前まで機能していたということは、何らかの理由で今は機能してない、機能しなくなる理由があったということだろうか。
それがさきほどあきつ丸の言った、地元住民からよく思われていない、ということに関わっていなければよいが。
「さて、カレーの材料はこれでいいでありますな。あとは飲み物や昼食の惣菜を買いにいくでありますよ!」
さっさと先へいくあきつ丸。
荷物を持つのは確かに男である俺の役目だが、なんとも納得のいかない状況であった。
俺は提督で、あいつは部下にあたる立場のはず・・・
「傭兵殿。傭兵殿!」
先に行ったあきつ丸が大声でこちらを呼んでいる。
その呼び名に周囲の客が顔を向ける。傭兵は急いであきつ丸に駆け寄った。
「おいおい、流石にその呼び方はおかしいって」
近くにより、耳打ちする。
あきつ丸はハッと気づくが、またさっきのような悲しそうな表情になり
「だ、だめでありますか?先ほどはこのほうが自分らしいと・・・そういわれて嬉しかったでありますのに・・・」
一度うつむき、上目遣いでこちらをみつめてくる。
その表情にたじろく傭兵。だが、これは違う。
どう見てもあざとすぎる。おっぱいを強調しすぎだ。大型機12時の方向。
「調子に乗るんじゃない。」
と、言いデコピンをする。
「あうっ。っく、中将殿にやれば轟沈確定。間宮券がでてくる必殺技が効かないであります」
と、つぶやくあきつ丸。
間宮券というものがなにかは分からないが、あきつ丸があの中将相手にろくでもないことをしているのはよくわかった。
「で、大声で呼んだからには何かあるのか」
そういえば、周囲の客へのフォローを忘れていたと思い、周囲を見渡すがもう気にした様子もない。
バカップルがいちゃついているようにしか見えなかったのだろう。
「食後のデザートは必要だと思うであります」
果たしてそこはデザートコーナーであった。
先ほど惣菜を買いに行くといってたのは一体だれであろうか。
「わかったよ、1個だけだからな」
そう言われてあきつ丸は嬉しそうに、3個のデザートを手に取り籠に入れた。
「おい、1個と言ったろ。俺とお前で2個で十分だ」
「いえいえ、あきつ丸と洋平殿と新人と3つであります」
なるほど、初期艦は俺と同日着任と説明を受けたっけな。すっかり忘れていた。
それにしてもなんか発音おかしくなかったか、ヨウヘイ。
まぁ日本人としては普通の名前か。
「そういやそうだったな、ありがとよ。いきなりへそを曲げられたら敵わんからな」
「いえいえ、全然かまわないでありますよ」
二コリと笑うあきつ丸。なんだか引っかかる笑顔だな、と思った傭兵であった。
その後は何事もなく買い物を終え、車へと戻った。
「さて、先ほどと同じようにしてもらっていいでありますか」
「わざわざまた着替えるのかい?」
「勤務中でありますからな」
そういって、後部座席へと乗り込んでいった。
着替え終わったのち、あきつ丸が自然と運転席に入ろうとするのへ、傭兵は声をかける。
「残りくらい運転は変わろうか?」
「いいえ、大丈夫でありますよ。艦娘は普通の人間よりかなり丈夫でありますかから」
「普通にタフ、体力も持つってわけか?」
「艤装を装備していなければ、かなり能力は落ちるでありますが、それでもボディビルダーよりは強いし、1~2日寝なくても行動できるでありますよ」
わお、目の前の抱きしめたら折れてしまいそうな少女は、抱き着いたら最後、こちらの腰が物理的に砕かれるわけだ。
からかうのはほどほどにしておかないとな、と思う傭兵であった。
「そうか、じゃ最後までお任せするとしよう」
「大船に乗ったつもりいるでありますよ」
言いえて妙な言い回しである。いや、使い方がおかしいが。
車を走らせて20分、鎮守府へ到着し正門前にとまる。
「さて、降りるでありますよ。傭兵殿」
「中の駐車場までいかないのか?」
「着任の形はしっかりとしなければならないでありますよ」
そういいつつ先に車を降りるあきつ丸。どうやら、何かをするらしい。
傭兵も車を降り鎮守府を眺める。
少し古びているが、趣を感じるというものだ。
「こちらへ来て欲しいであります」
先に降りたあきつ丸から声がかかる。近くへと歩み寄る傭兵。
目の前にはどこか緊張した様子のあきつ丸がいる。
すぅ、はぁと深呼吸を始める。どうしたというのか。
2~3回深呼吸して落ち着いたのか意を決したように顔を上げ、一息に言い放つ。
「陸軍の特種船…その丙型の「あきつ丸」であります。本日付をもって佐伯中将の秘書艦を解任、傭兵提督殿の初期艦として新たな任につかさせていただくであります」
突然のあいさつに戸惑う傭兵。そしてさらにあきつ丸の言葉は続く。
「提督が鎮守府に着任、これより艦隊の指揮を執ります。敬礼!」
ビシッと敬礼をするあきつ丸。傭兵もここに至り、艦娘にとって、いや、提督となる自分にとって大切な儀式であると気づく。
昨日やった見よう見まねの敬礼ではなく、自分自身の敬礼であきつ丸へと返礼する。
そして、自らも名乗りを上げる。
「これより鎮守府に着任する傭兵だ。正規の軍隊にはない傭兵流のやり方でやらせてもらう。不安はあると思う。不満も納得のいかないこともあるだろう。それには戦果をもって応えよう。貴君の奮闘に期待する!」
本来あきつ丸は着任予定艦娘ではありませんでした。
しかし、書いていくうちに予想以上に動かしやすいキャラであること、どんどん可愛く思えてきてしまったことにより、レギュラー化することになりました。
しかし、それにより本来着任する予定であった艦娘との初期艦娘ならではのイベントなどのプロットが大幅に狂ってしまいました。挙句の果てに次の艦娘をだれにするかがまだ悩まれる始末であります。