ちょっと前に言ったことを忘れてたり、本来そのことを知らないはずの人がいつの間にか知っていたり・・・
「あいたた、流石に妖精さんのハンマーは装甲をも貫くでありますな」
あきつ丸は頭をさすりながら横を歩いている。
艦娘にダメージを与えるって、しかも装甲とか言いやがったぞ。
俺もよく無事だったな、と思いながら少し腫れている自身の頭部を撫でる。
無事、だよな・・・
「さて、自分は艦娘寮のほうに戻ってすこしやることがありますから、一旦ここで解散するといたしましょう。提督殿も執務室や自身の部屋の整理などなされてはいかがでありますか?」
「あぁ、そうさせてもらおうか。まだ一日は終わってないが、案内ありがとよ」
「いえいえ、これも部下の務めでありますから。ではまた、であります」
敬礼をし、あきつ丸は艦娘寮のほうへと向かっていった。
「じゃ、俺も色々と準備しますかね」
と、一人つぶやき踵を返す。そこへ背後から声がかかる
「提督殿ー!夕食は1800からでいいでありましょうかー?」
そういえば、夕食の時間を決めていなかった。
腕時計を確認するといまが1600、十分に時間はとれる。
振り返り、試しに手旗の解信信号で返事を行ってみる。
お、終信信号で返してきた。どうやら意図は伝わったらしい。
手をひらひらと振り、私室へと向かう。
____艦娘移動中____
あきつ丸は私室に戻ると、中将との通信機器のセットをする。
起信信号を送った後、応信があるまでは部屋の整理を行う。
「さて、結構広い部屋でありますな」
日用品や衣類の整理を行っていると、通信機器が応信の合図を知らせる。
『こちら、同志バイス、応答せよ、どうぞ』
『こちら、同志大発、定期連絡を開始してもよろしいでありますか、どうぞ』
※以降、こちら、どうぞは省略。バイスは佐伯中将、大発はあきつ丸を意味します。
『報告を開始せよ』
『現在、鎮守府内の案内を終了。工廠の立ち上げも問題なく完遂しております』
『大発より見た鷹の様子を報告せよ』
『鷹との関係性は現状良好。鷹は艦娘に規律を強いる様子はなし。妖精や大発との関わり方を見るに、他者との関係性の構築は近すぎるきらいはあるものの概ね問題はなし。報告は以上』
『報告ご苦労。情報提供に入る。こちらの得た情報では鶴より異動の1名の人員は明日到着予定、給仕の艦に乗って更に2名の人員が異動となる』
『異動人員3名、了解。鷹への情報提供は如何いたしますか』
『バイスより電報を送る。鷹は戦略にも精通している、大発は動くな。こちらからの情報提供は終了、そちらから何もなければ交信終了』
『こちらからも通信内容は以上、交信終了』
ガチャリと、通信機器の受話器を置く。
今の技術水準から見れば古臭い機器だが、このような機器は逆に盗聴や妨害をされる危険性が少ない。
交信を終えたあきつ丸はため息をついた。
ようやく得た提督殿を裏切っているようで、気が重たいのであります。
提督殿は自分のことをよく見てくださったのに・・・
まだ出会って一日だというのに自分の中で大きくなっていく提督の存在を感じる。
ほかの艦娘からは提督というのは自分にとって特別な存在と聞いておりましたが、その事を身をもって理解したであります。
____傭兵移動中____
傭兵は私室に戻り、ベッドへと身を預ける。
関わりあったあきつ丸、妖精とのやり取りを思い出す。
どうにも男性に対する免疫は少ない様だ。
あきつ丸に関してはすこし計算されているような一面はあるが、咄嗟の事態には素の部分が出ているように見えた。
それと、おそらくは中将からのお目付の役も授かっているだろう。
今頃中将への報告でも行っているか。
部下のことを疑うのはよくないが、後で部屋に盗聴器でも仕掛けておくか。
邪魔者になった途端、トカゲの尻尾切りのように暗殺されてもたまらんしな。
この用心深さこそが、傭兵がここまで生き残ってこれた理由の一つである。
基本的に部下のことは信用するし、そうでなければ信用を返してもらえないものだが、無条件に信用するのはただの愚か者だと考えているのだ。
部下に盗聴器を仕掛けるくらいは、訳ないこと、なのである。
さてと、あきつ丸はおそらく食堂へ1730には向かうだろう。
昼間のやり取りから見ても、夕食の準備は先に行って済ませて待っているはずだ。
となると、あまりゆっくりしてもいられない。手短かに部屋の整理を済ませてしまおう。
後は艦娘寮の前で待機だ。
艦娘寮からあきつ丸が出てくる、どうやら予想通りというか律儀に夕食の準備に向かったようだ。
木の影から柱の影へ、するりと建物に近づいて侵入する。
外から明かりの漏れている部屋を確認しているため、位置は特定している。
最短で部屋まで向かう。
入口の前で扉に仕掛けはないか確認するがないようだ。
さすがに初日から部屋に侵入はしないと思っているのか、あるいは舐められているのか・・・
とはいえ、ここで仕掛けがされていたら、驚きではある。
寮の鍵はピッキングにより一瞬で開く。
部屋に入り込むと、堂々と古臭い通信機器が机の上に置かれていた。
触ると少しばかり熱を持っている。どうやら勘は当たりのようだ。
わざわざこんな機器を使うってことは盗聴対策か、だが残念だったな。
内乱ばかりしていた後進国には日本のような先進国から機器が送られてくるのさ。
こいつは俺にとって馴染みのある機械なのだよ。
にやりと、ほくそ笑んで早速作業を始める。
作業がおわり部屋から出ていく傭兵。時間は1850。
通信に枝をつけるのは日常茶飯事だが、馴染みの機器なれど久しぶりであるため多少は手間取ったのだ。
カレーを温めて待ってくれているであろうあきつ丸のもとへと急ぐ。
こんなことをしているが、関係性は良好に保っていきたいのである。
今回の話ではどちらのキャラにも裏面があることを描きました。
傭兵は、必要と思ったことはためらいなくやる男です。決して女性の私生活を覗き見て快楽を得るタイプの人種ではありません。今回の件であきつ丸のことを単純にスパイととして見ているわけではなく、中将自身の立場からすれば何らかの手段でこちらの内情を把握するのは当然、その尖兵にあきつ丸が使われている、と考えています。作中の通りの保身の意味合いもあります。
あきつ丸は、中将の部下ではあるものの、艦娘であるため提督の存在は大きいのです。救出作戦などで他鎮守府に寄港した際は、提督のいる艦娘をうらやましく思ったりしていた一面があります。