これが本来の九話となります。まさかこんなミスするとは・・・
食堂へたどり着くと中からカレーのいい匂いが漂ってくる。
さて、お互いうまくやらないとなぁ、あきつ丸よ。
「提督殿、そろそろ準備し終わりますから、座って待っていて欲しいでありますよ」
「おいおい、昼間も言ったろ。準備くらい手伝うさ」
「昼間に言ったことは、一応自分の本音ではありますよ。艦娘として、提督殿に食事の準備をしてもらうとはいうのは、何かが違うであります。たぶんこれは他の艦娘達も同様に持つ感覚だと思うでありますが」
確かに、部隊のトップが部下の食事を作ったり、準備を手伝うというのは妙と言えば妙だ。
「まぁお前がそれで納得いくんならそれでもいいか。じゃ、とっとと準備しな!」
「いきなり横暴でありますな!?もう後はカレーをよそうだけでありますから」
目の前のテーブルを見ると、きれいに盛り付けられたサラダも用意されている。
わざわざおかずを増やしてくれたようだ。
食器を運ぶことくらいはしたいものだが、逆に機嫌を損ねそうだ。
今日はすべて任せるとしよう。
「出来たでありますよ。いただくとしましょう」
「ん、ありがとな。なんかこうむず痒いな。座ってるだけで食事が出てくるってのは」
「間宮さんが来られたら食堂が機能し始めますから、セルフ形式の食堂になるでありますよ」
「なるほど、それなら気楽でいいや。じゃ、頂くとしようか。」
「「いただきます」」
「なかなか、おいしいでありますな。明日になればまたうまくなるでありましょう」
「でも、3日間カレーってのはさすがに嫌だから、明日は明日で何か準備しないとだがな」
「何か希望はあるでありますか」
「言ったら作ってくれるのかい?ま、朝はパンと卵焼きくらいの軽いモーニングでいいさ」
「軽い朝食のほうがいい、と。わかったであります」
「朝カレーだと、そのまま昼も夜もカレーを食うことになりそうだからな」
「まぁ、確かにそうなってしまいそうではありますな」
「明日からは多少なりとも訓練したり、書類仕事も増える。昼や夜の食事の準備にそこまで時間をかけるのもな。それに、舞鶴からの艦娘も今日に移動開始してるとしたら明日には到着すんだろ」
「舞鶴からの距離を考えるとそうでありましょうな」
「明日の午後には到着すると考えてだ。午前中に書類仕事をやるとしよう」
「中将殿からは書類整理などはしっかりと補佐するように仰せつかっているので、大船に乗ったつもりでいるでありますよ」
その言葉好きなのか、救助活動の経験がそう言わせているのか。
今回は使い方があっている。泥船でないことを祈ろう。
「頼りにしてるぜ。それと夕食食い終わったら、やっぱ今日は終いにしようぜ。なんだかんだで疲れちまった」
「まだ今日の日報の記録が残っているでありますよ」
「げっ、それって明日じゃダメ?」
「今日の日報でありますからな。ダメに決まっているであります」
「スーパーで買い物をしてカレーを作りました。鎮守府は広かったです。妖精を初めてみました」
日報、今日の出来事を知らせるならこれで十分だ。至極わかりやすい。
「小学生の書く日記じゃないでありますよ・・・書き方などはみっちりと教え込むでありますから、早く独り立ちしてください」
「報告書だとかなんだとかってのは苦手だよ。大体口頭で済ませてきたし、昔だって形式なんてあってないようなもんだったしな」
「海軍の一部隊のトップになったでありますからね。そうはいってられないでありますよ」
「へいへい。じゃ、食い終わったあとに執務室でいいか」
「んと、2000からでも、その、いいでありましょうか」
こちらを伺うような目線でこちらを見てくる。
もうお互い夕食は食べ終わった。
洗い物をしても、いまからたっぷり一時間はある。
「夜が更けちまうぞ」
「い、色々と準備があるでありますよ」
一日中動き回りだいぶ汗もかいているであります。
今はカレーの匂いで誤魔化せているでありますが、執務室で近距離で二人きりとなると、それは絶対にダメであります。
カレー臭と汗臭さを漂わせている女など幻滅もの。
どうにか、シャワーだけでもいいから、浴びる時間を稼がねばならないであります。
目の前のあきつ丸は、何やら悩んでいる様子。
日報の書き方だけってのに、そこまで準備が必要なのか。
まぁ海軍式というのはえらく面倒なものなんだろう。
俺も食べた後は一休みしたいしな。
「分かったよ、教えてもらう側だしな」
「あ、ありがとうであります」
心底ほっとしたような、顔を見せるあきつ丸。
「じゃ、ごちそうさま。洗い物は俺がやるぜ。準備があるんだろ、してこいよ」
「そ、そんな洗い物などさせられないでありますよ。急いでやりますから、提督殿は自室で休んでいて欲しいであります」
「ちっとは融通を利かせろよ。とっとと準備をしてこいってんだ。言ったろ、俺も早く休みたいって」
近づいて軽く威圧してみる。にじりと後退するあきつ丸。
「うぅ、分かったであります。では、こちらの準備ができ次第、執務室へ向かわせてもらってもいいでありますか?」
「構わねぇよ。じゃ、いってこい」
「では、お願い致します。手早く済ませるであります」
言うや否やあきつ丸は脱兎のごとく艦娘寮のほうに走っていった。
「やれやれ、女の子ってのは大変だねぇ。別に気にしないけどな」
こちらが近づいた際にすこし離れようとするそぶり、どうにも体を気にしていた様子。
体臭が気になるのであろう。
だが、あっちじゃシャワーなんぞ浴びれないなど普通の事だった。
加えて男所帯、そのむさくるしさたるやひどいものだったのだ。
そこにきて、女一人の一日分の汗、気にも留まらない。
しかしそうはいかないのが、女の子たる所以なんだろう。
さて、俺もぱぱっとシャワーくらい浴びさせてもらおう。
提督の私室にはシャワールームがあるのだ。