【東方project】SS集   作:美幸

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さみしさを解消する魔法の道具③(早苗×さとり)

 さとりの自室にて。

 彼女は昼ごはんを終えてから、早苗さんと電話していた。

 

『今日のごはんはお味噌汁でした。早苗さんは?』

『わたしのところは、ビーフストロガノフです。これから作るところなんですよ』

『それは美味しいのですか?』

『はいっ。わたしの得意料理なんです。よければ今度いらしてください、ご馳走しますから』

 

 さとりは思わず口をつぐんだ。

 いけない。早々に話題を転換しなくては。

 

『あっ、しまった。わたしももう少し、後に食べるべきでした!』

『どうしてですか?』

『だって。全然違う場所に住んでいるのに、同じ時間に同じことをするって、なんだか素敵じゃありませんか』

 

 打ってから気がついた。今の、ちょっと恥ずかしかったかも。

 でも早苗さんには、自分の心の中を包み隠さず打ち明けたい。それで早苗さんが同意してくれたり、嬉しく思ってくれたりするのは、なんて幸せなんだろう。

 そんな幸せの真っただ中だった。

 終わりを予告する不吉な音が、携帯電話から発せられたのは。

 

『早苗さん。今の音、なんでしょう?』

『音?』

『はい。なんだか、さっきからずっと鳴っているんですが。わたしの方だけみたいですね』

『もしかして――充電?』

『どういうことですか』

『おそらく、電池が切れかけています』

『電池?』

『この機械を動かすには電池が必要です。

 電池は、太陽の光を当てることによって蓄えられます。

 それが切れると、もう会話することはできなくなります』

 

 えっ、とさとりの声が漏れた。

 早苗さんと話せなくなる。今まで胸を満たしていたものが丸ごと抜け落ちて、今まで以上の空虚が胸に残ってしまう。

 そんな想像をして、底知れない恐怖が湧き上がってきた。

 

『いやです! いやです! 

 早苗さんとせっかくお友達になれたのに、こんな形でお別れなんて!』

 

 さとりは何度も、どこかにいる誰かの名前を呼んだ。上ってくる嗚咽は抑えることができなかった。

 

『あなたは暗い場所に住んでいるといいました。

 もしかして、そちらには太陽がないんですか?』

『ない、ですけれど』

『そこはもしかして――地底、ではありませんか』

 

 ドクン――

 さとりの胸が大きく打った。

 地底。それは、忌み嫌われた妖怪たちが住まう場所。

 でも、やっぱり嘘はつきたくない。

 

『ごめんなさい。わたし、ずっと隠してました』

 

 打ち明けてしまった。決して教えてはならないことを。

 

『さとりさん』声が返ってきた。『会いにきてください』

 

 さとりの目が大きく見開かれた。

 どうして?――携帯を持つ手が震える。

 

『わたし、さとりさんに会いたい』

『いけません』

 

 声には強い意志がこめられていた。

 

『わたしは、本来地上に出てはならない妖怪です』

『でもそれは昔のことでしょう?』

『あなたに嫌われたくないのです』

 

 彼女の言葉どおり、お燐やお空は何度も地上に出ている。

 が、それは彼女たちが、地上で受け入れられているから可能なのであって。

 サトリという、他人の心を見透かしてしまう妖怪が歩いていたとしたら、人々は嫌悪を露にして彼女を見るだろう。しかも彼女の場合、他人の嫌悪が直に伝わってくる。

 もし早苗さんに『気持ち悪い』なんて思われでもしたら。

 そんなの、耐えられるわけない。

 

『早苗さんだけには嫌われたくないんです。わたしはサトリ。人の心を読む妖怪です。今までわたしなんかの話し相手をしてくださって、ありがとうございます。もうお別れですね』

 

 虚しくて、心細くて、涙が溢れてきた。

 ――普通に「会いに行きます」って、どうしていえないの? 

 

『さよならはいいません。わたしは守矢神社で、さとりさんを――』

 

 そこで声は途切れた。

 

 

 

   ✽

 

 

 

「あれ、早苗。あんたご飯は?」

 

 守矢神社。

 夕食の時間、席についた神奈子と諏訪子は、早苗の分の食事が用意されていないことを不思議そうに尋ねた。

 

「お二方で召し上がってください」

「どうしてさ?」

「ちょっとした私用で」

 

 早苗の分の食事は冷蔵庫に入っていた。それと。実はもうひとり分、冷蔵庫の中には用意されている。

 彼女が来るまで、早苗は待つつもりだった。

 

 

 

   ✽

 

 

 朝、早苗は目を覚ます。携帯が鳴っていた。

 

「――あ」

 

 画面に表示されていた名前は。

 古明地さとり、だった。

 

「充電できたんだ」

 

 早苗は電話に出ようとして、手を止めた。

 ――電話してくるということは、外に出て充電だけして、地底に戻ったのだろう。守矢神社にくるなら、直接会いにくればいい。状況を察した早苗は肩を落とした。

 結局、さとりさんとは会えなかったな。

 早苗が残念がったそのときだった。

 

「出ないのですか」

「ええ、今でますよ……って」

 

 え――と早苗が振り向けば。

 そこには、気の弱そうな女の子が立っていた。胸のあたりには不機嫌そうな大きな目がついている。

 

「きていただけたんですね」

「きちゃいました」

「信じてました。思ってたより早かったですけど。それって、余程わたしに会いたかったと解釈していいんですよね?」

「それは……」

 

 わたしは会いたかった。

 さとりさんに。会いたかった。

 

「聞こえましたか、わたしの声?」

「ええ。――ですが、早苗さん」

「はい?」

「大事なことは口でいってほしいです」

「いいじゃありませんか。――よく地上に出ると決心できましたね」

「実のところ、地上に行くのは怖くありませんでした。ですが、あなたに会うのが怖かった。わたしはサトリですから、無意識に心を読んでしまいます。心の中を覗かれるなんて、誰でもいい気はしないでしょう。直接会えば必ず嫌われる。ですが、早苗さんが『会いたい』と強く願ってくださったから、わたしはここにくる決心ができたのです」

「電話越しでは、心は読めないのでは?」

「――はい。でも聞こえてきたんです。電池が尽きる間際、大きな声が。早苗さんの感情が流れ込んできて、わたし、初めてサトリでよかったと思いました。こんなわたしを、大切に想ってくださるということ。だから、どうしても会いたくなっていたんです。例え嫌われてしまうとしても」

 

 早苗は少し不機嫌そうな顔だった。

 

「わたしの心、読めてるんですよね? どうしてそんなこと、いうんですか」

「え……そ、それは……」

「わたしの頭の中、さとりさんで一杯でしょう?」

 

 心を読まれるということに、抵抗がないといえば嘘になる。

 でも、心を読まれてしまうことと、さとりに会えなくなることを天秤にかけたら、どちらに傾くかは自明なのだ。それに、〝好き〟って気持ちがそのまま伝わることは、気恥ずかしくも嬉しいことであって。

 

「さとりさんが嫌われているなんてことは、奇跡でどうにでもしてみせます。わたしは東風谷早苗。奇跡を起こす巫女です」

「えっ」

 

 早苗はピッとさとりに指をつきつけて、

 

「わたしが奇跡をご覧に入れましょう。これから先、さとりさんにたくさん友達ができます。そしてずっと、わたしに幸せにされるのです」

「……っ!」

 

 真っ赤になったさとりが、恥ずかしそうに慌てふためいた。

 

「な……なんてことおっしゃるんですか……っ」

 

 といいつつも、さとりはどこか嬉しそうで。

 

「さ、ご飯にしましょう。冷蔵庫の中にあるんです」

 

 早苗がさとりの手を取った。そしてやわらかに微笑み、じっと見つめる。そんなふうに見つめられて、さとりの目から大粒の涙がこぼれてきた。

 

 さなえが、そんなさとりの体を抱きしめる。さとりは早苗の腕の中で、堰を切ったように泣いた。それは誰にも見せることのなかった涙。彼女の頭を、やっと巡り合えた友達が、いつまでもなで続けてくれていた。

 

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