【東方project】SS集   作:美幸

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さみしさを解消する魔法の道具②(早苗×さとり)

 ――送信完了――

 

 そんな文字が画面に浮かぶ。

 何か変なことをしてしまったかしら――と不安になってくる。これだけ精密な機械だ。ちょっとのことで、簡単に壊れてしまうかもしれない。

 

 数秒後。

 いきなり携帯電話が震え出し、ピピピピッ、という音を繰り返し始めた。

 

「きゃあああっ! ごめんなさいごめんなさいっ」

 

 驚いて携帯を放し、ベッドの上で飛び退く。危うく心臓が飛び出しそうになったところだ。気の小さい彼女は本能的に謝罪していた。

 音はしばらくして止んだ。びくびくしながら、様子をうかがうこと三十秒。それからやっと猫のような低姿勢で動き出し、戸惑いながらも勇気を出して、枕元に落ちた携帯の画面を見てみる。

 

 ――新着メール 1件――

 

 画面には、その文字が映っていた。

 さとりの頭には「?」が浮かび続けている。

 

「――大丈夫、なのかしら」

 

 もう、わからないことだらけだ。

 とりあえず壊れていないか確認するために、画面に指で触れた。

 そして文字が表示される。

 

 ――どうして?――

 

 また、さとりが首をかしげた。

 しかし彼女はハッとなる。

 次の瞬間、彼女は大きな声で携帯に尋ねていた。

 

「あなた話せるの!?」

 

 携帯は答えない。

 

「そうか! お話するには、さっきみたいにする必要があるのね」

 

 同じ手順で文字を入れ始める。胸がドキドキして、いつになく興奮していた。

 

 ――あなた話せたのね――

 

 「送信」を押すと、しばらくしてから、携帯が音とともに震えた。

 

 ――メールをいただいたら、すぐにお話するつもりだったんですよ♪――

 

 さとりは感動して、思わず満面の笑みを浮かべていた。

 

「なんてことでしょう! 河童の技術って、すばらしいんですね!」

 

 普段とはうって変わり、さとりは大はしゃぎで携帯にメールを送った。

 

 ――ところで、どうしてさみしいんですか?――

 ――暗い場所にいるからですよ――

 ――だったら外に出ればいいじゃありませんか――

 ――それはできません――

 ――どうして?――

 ――あいふぉんさんには、わかりません――

 ――あいふぉんさん?――

 ――それが名前なのでしょう――

 

 しばらく「あいふぉんさん」は話さなくなった。

 どうしたのかしら――さとりが不安になっていたところ、やっと音が鳴った。

 

 ――ああ、なるほど。あなた、勘違いしているんですね――

 

 勘違い……?

 なにが違っているのだろう。彼について、お燐は間違いなくその名前を口にしたはずだ。

 

 ――勘違いとは、どういうことですか――

 ――わたしは「あいふぉんさん」ではありません。それは携帯電話の名前です――

 ――だから、あなたは「あいふぉんさん」なのでしょう――

 ――いいえ。違います――

 ――違うのですか?――

 ――はい。違います。この携帯電話というのは、通信機器なのです――

 ――通信機器?――

 ――遠くの人とメールのやりとりや、電話をするための道具です。

   あなたがメールをしていたのは、遠くであなたと同じ「あいふぉん」を持っている「わたし」です――

 ――それじゃあ、あなたは一体、どこの誰ですか?――

 

 さとりが息をのみながら「送信」した後、今までと同じように携帯が鳴る。今度は音が少し違っていた。気になりながらも画面を押そうとする。

 そこで、おかしなことに気がつく。

 それまでは、「新着メールを表示」と出ていたのに。だけど今は、別の文字が画面に表示されていた。疑問と一緒に、わずかな不安と期待がないまぜになって湧き上がる。

 さとりは息を飲み、決心して画面に触れた。

 

「こんにちは」

 

 携帯が――喋った。

 今度は文面ではなく、本当に声を出した。

 さとりは驚いて声もでない。

 

「申し遅れました。わたし、東風谷早苗という者です。あの……よろしかったら、わたしとお友達になっていただけませんか?」

 

 

 

    ✽

 

 

 

「霖之助さん。これ、お店に置いていただけませんか」

 

 さとりが携帯電話を手にする前日。

 早苗は香霖堂を訪れて、店主にそのiPhoneを渡したのだった。

 

「……委託販売ってことかな?」

「それを香霖堂にきたひとに、差し上げてください」

「無料で?」

 

 早苗は「はいっ」と笑顔でうなずいた。

 彼女はこの幻想郷にきてからというものの、外でいたような友達がいなかった。

 信者は友達って雰囲気じゃないし。山の妖怪は以前の異変のこともあって、早苗たちを畏怖すらしている。そして博麗神社の巫女との仲に至っては、むしろ険悪。

 だから今回。早苗は自分のさみしさを解消しようとして、誰かに携帯を渡そうと、すぐに行動したのだった。

 

「……まあ、君のことだし変なものじゃないんだろう。よし、わかった。これを店に置いておこう」

「わぁ、ありがとうございます。それじゃあ、使い方をまとめた説明書を渡しておきますね」

「ところで、これは一体何なんだ?」

 

 霖之助が早苗に質問した。

 早苗は笑顔でこう答える。

 

「さみしさを解消する魔法の道具、です」

「へぇ。それはすごいな」

 

 霖之助は興味深そうに手元の機械を見つめ、客の目につきやすい場所を見繕い、適当なものに立てかけておいた。

 こうして無事、携帯電話は香霖堂の店内に並べられることになったのである。そしてその次の日、携帯を持っていったのがお燐だったってわけ。

 ……ただし。せっかちなお燐は無料でもらえると聞いた瞬間、店を飛んで出ていってしまったのだった――早苗が作った説明書も持たずに――早苗は誰が携帯を手にするか、期待に胸を膨らませるばかりだった。

 

 早苗が自分のさみしさを解消しようとしていたはずが。むしろ相手のさみしさを解消してしまうなんて、思いもしなかったのだけれど。

 

 

 

   ✽

 

 

 

 時間は正午、地霊殿の食卓。

 机に着いているのは、お燐にお空にさとりの三人。

いつもはお燐とお空の二人が漫才をやって、さとりは基本的に始終口をきかず、黙って出された食事を消化するだけだった。三人というか二人で食べているみたいで、日頃からお燐とお空は、そんなさとりが気がかりだった。

 だけど。

 

「あら、今日のお味噌汁はおいしいわ。お燐は料理が上手ね」

「え……あ、ありがとうございます」

「お空、ちゃんと食べてる? 今日はおかわりしないの?」

「します、けど……」

 

 お燐とお空は、仕草や口調にぎこちなさが目立っていた。あまり直視しないように、横目でちらちらと、さとりの様子をうかがう。

 笑ってる。世にも愛くるしい表情で、さとりさまが笑ってる。

 微妙な沈黙。お燐とお空は額に汗を浮かべながら、ニコニコしている彼女を見つめた。

 さとりが笑顔のまま、かわいらしく小首をかしげる。

 

「どうかしましたか?」

「い、いえっ。な、ななな何でもありませんっ」

「ごちそうさまでした。それじゃ、わたしは部屋に行きますので」

 

 そうして席を立ち、手に愛用の携帯を持ちながら部屋を出ていく。

 お燐とお空は、心を読まれてしまうから、なるべくそれを考えないようにしていた。

 さとりの足音が遠くなったとき、二人は顔を見合わせ、そして同じことを考える。

 ……家の中に、知らないひとがいた。

 

「ねえ、お燐っ! 今のは一体誰なの!?」

「さとりさま……でしょ?」

 

 答えたお燐の方も、やっぱり疑わしい。だって、あんなさとりさま、今まで見たことがないんだもの。笑った彼女はとっても可愛らしいけれど、どこか不気味だ。

 

「お燐!」

「な、なんだい」

「さとりさま、あの小さいのと結婚しちゃうの?」

 

 ゲホゴホガホッ!

 お燐は盛大にむせて、口の中のものを吐き出しそうになった。

 

「め、滅多なこと、いうもんじゃないよっ」

 

 と叫びながら、お燐も不安が募る一方だった。

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