魔法使いが来る!   作:ケモミミ愛好家

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タイトル通り、フラグが建ちます。
いつもの駄文ですが、楽しんで頂ければ幸いです。


フラグが建つ!

「……ん…ここは…?」

 

 

サヨは目を覚ますと、辺りを見回した。

 

 

「そうだ、私達雪崩に…」

 

 

タツミやイエヤスは?

道中出会ったあの2人は?みんなは無事なのか?

 

心配にくれるサヨは、重く気怠い体を起こそうとした。

すると腰に何かが当たっている、否、乗っている感触を感じたサヨは、後ろを向き絶句した。

 

そこには大木が。

その間には自分を庇ったかのように木に倒れかかるソウタの姿があった。

 

 

「ちょっと?!

 ねぇ?!大丈夫なの?!…っ?!」

 

 

ソウタを起こそうと体をを揺するサヨ。

その時、ソウタの額から血が流れ出した。

 

 

「どうしよう…」

 

 

ソウタの額に応急措置として、自身の腰に巻いていた帯を巻き付け止血したサヨは、辺りを再び見回した。

 

 

「……!

 あそこなら」

 

 

目に入ったのは小さな洞窟だった。

ソウタを抱えながら洞窟に入るサヨは、すぐに辺りの物をかき集め、火を起こした。

 

 

「よし!後は…」

 

 

ソウタに視線を移したサヨは、再び驚いた。

その唇は紫に、体も僅かに震えていた。

頭部の出血に雪で濡れた服が、彼の体温を奪っていく。

このままでは凍死しかねない、急いでサヨはソウタの体を火の側に移動させた。

 

 

「仕方ないわよね、助けて貰ったわけだし…」

 

サヨは自身の荷物から厚めの布を取り出した。

幸いにも布は濡れておらず、サヨはそれを側に置くと、おもむろに濡れた服を脱ぎ出した。

 

 

「さ、さすがに…下はいいわよね…」

 

 

下着姿になったサヨは恥ずかしそうに呟き、ソウタの服に手をかけた。

ソウタの服を脱がし終えたサヨは、側に置いた布を羽織りソウタに寄り添う。

恥ずかしさから体温が上がり、鼓動が速まるのを感じながらサヨはソウタに体を密着させようとした。

 

 

瞬間…

 

 

「……寒っ?!…え?何で俺裸?」

 

「…………ぇ?……」

 

「……は?…サヨ…?

 何でお前も裸なの…まさか…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…夜這い?」

 

 

パチンと大きな渇いた音が、洞窟に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「ホントごめん!

 マジでごめん!

 本当に悪かったごめんなさい!」

 

「…………………………」

 

 

焚き火を挟むように向かい合って座るサヨと、現在進行形でパンツ1枚姿で土下座をするソウタ。

ソウタの謝罪はサヨには届かず、そっぽを向かれていた。

 

 

「いや、ホントマジで許して…」

 

「…………たの?…」

 

「…え?」

 

「……見たの?…」

 

「あ~……はい…」

 

「…ずいぶんと正直に答えたわね」

 

「いや、あんな正面から来られた上に何で裸なのとか言っちゃてるしな…

 弁解のしょうがない」

 

「ふ~ん…

 後、夜這いとかじゃないから」

 

「あぁ、俺を助けようとしたんだろ?

 ありがとな」

 

「べっ!…別にたいしたことは…クチュンッ!」

 

 

素直な感謝が照れ臭かったのか、視線をそらしながら返答したサヨは、小さなくしゃみをした。

 

くしゃみを聞いたソウタはクスリと笑いコネクトの指輪をはめ、側に干してあるズボンを穿き、指輪をバックルにかざした。

 

 

《コネクト…プリーズ》

 

「使えよ、その布だと風邪ひいちまいぞ?」

 

「あ…ありがとう…」

 

 

魔方陣から毛布を取り出したソウタは、サヨに毛布を手渡した後、同じ物を取り出して羽織った。

 

 

「後は……ほれ。

 飲めよ、温まる」

 

 

そう言ってソウタは再び魔方陣から湯気の立ったマグカップを取り出し、サヨに手渡した。

サヨはありがとうと受け取り、渡されたカップに息を吹きかけ口にした。

 

 

「甘くて美味しい…何コレ?!」

 

「ん?

 あぁ、ココアだが…知らないのか?」

 

「し、知らないわよ!悪かったわね!」

 

 

少し頬を膨らませながらサヨはソウタを睨んだが、再びココアを口にして表情を和らげる。

 

 

「……ねぇ」

 

「ん?」

 

「気になったのだけど、その能力なんなの?  

 色んな物を取り出しり、腕が伸びたり、何も無いところから鎖生やしたり…

 貴方ホントに人間?」

 

「失礼だな、魔法だよ」

 

「魔法…?」

 

 

ソウタは頷き、冷ましたココアを口した。

 

 

「俺は魔法使いなんだよ」

 

「うそ…」

 

 

驚いた表情で固まるサヨに、ソウタはホントだと告げ再びココアを飲む。

すると固まっていたサヨが口を開いた。

 

 

「とても30才以上に見えないわ…」

 

「おいサヨテメェ何つった?!

 そっちの魔法使いじゃねぇよ!

 俺はまだ20代だ!執行猶予はまだ7年ちょっとはあるんだよ!

 何だったら、今すぐテメェ襲ってそっちへのジョブチェンジ権破棄してやろうか?!

 あ"ぁ?!」

 

「ゴメンゴメン!!

 冗談だから!本気にしないで!」

 

 

好きで童貞でいるわけじゃねぇんだよと、必死に謝るサヨをよそにソウタは、ぶつぶつとぼやきながら腰をおろした。

 

 

「てか、女の子本人を目の前にしてレイプ宣告って…

 他にはどんなのがあるの?」

 

「他?……う~ん…

 デカくなったり、小さくなったり…臭くなったり、光ったり…ムキムキになったり……とか?」

 

「何それ……使えるの?」

 

「まぁ…使い方次第だよ。

 後このコネクトの魔法はもう1つ能力がある」

 

「もう1つ?」

 

「そ」

 

《コネクト…プリーズ》

 

 

そう言ってソウタは再びバックルにリングをかざし、展開された魔法陣に腕を入れた。

その様子をまじまじと見ていたサヨの肩に、トントンとつつかれた様な音と感触が伝わる。

不思議に思ったサヨが振り返るとそこには洞窟の壁、そこから生えてきたかのように存在する腕が、サヨの目に写った。

 

 

「ヒギャアァァァァァァ?!

 手が!手が!手ぇぇぇぇぇぇ!「ふごっ?!」

 イヤァァァァァ!キモイキモイキモイキモイ!」

 

 

驚きの余りに羽織っていた毛布を放り投げ、タックルをかけるかの様な突進でソウタに抱き付くサヨはパニック状態で、目には涙を浮かべていた。

 

 

「苦し!ちょっ!

 サヨ落ち着け、俺の手!俺の手だから!」

 

「…スン…え?」

 

 

ソウタの言葉で我に返ったサヨは背後を見る。

そこには指輪をはめた右腕がピースをしていた。

 

 

「な?」

 

「何だ…びっくりしたぁ~…」

 

「「……………………」」

 

 

安堵した2人はため息と同時に下を向く。

そして今の自分達の姿に絶句した。

上半身裸の男に抱き付くパンツ1枚の女。

瞬間、サヨの腕は大きく振り上げられ銀色の閃光がソウタを襲った。

 

文字通り眼前。

ソウタの目から数センチの距離に、どこから取り出したのかサヨの右手に握られたダガーが迫っていた。

 

 

「ちょっと待て!

 今のは俺悪くねぇだろ?!」

 

「アンタが魔法なんか使うからよ!」

 

「お前が聞いてきたんだろが!」

 

「やり方ってのがあるでしょう…が!!」

 

「アザディスタンッ?!」

 

 

白羽取りでナイフを止めたソウタに、サヨは頭突きを入れてソウタを倒した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「服も乾いてきたし、そろそろ行くか」

 

「そうね」

 

 

ソウタがコートを触りながら話すと、サヨは賛同して立ち上がりソウタを睨んだ。

 

 

「何だよ?」

 

「あっち!向いててくれる?」

 

「ハイハイ…分かりましたよ……

 ったく、2回も間近で裸見たんだから別に今更気にしなくても…」

 

 

ビシッと外を指差すサヨ。

ソウタはぶつぶつとため息をつきながら返事を返し、乾いた服を着るとサヨに背を向けて座り込んだ。

 

 

「じゃあ俺は暇だし武器の手入れでもしようかな~……」

(何てな小娘!

 この俺がすんなりと引くわけないだろが!)

 

 

そう言ってソウタはコネクトでソードガンと布を取りだし、鼻歌混じりに手入れをしだした。

ソードガンを磨いたソウタは、その剣を色んな角度から見る、銀色のその剣はまるで鏡のようにソウタを写す。

ソレを見たソウタはゲスな笑みを浮かべ、ソードガンを傾けた。

 

 

(ソードガンの角度を調整すれば~♪

 美少女の生着替えを~♪

 覗くことが出来る気がする~♪)

 

 

ソードガンの表面を、鏡のように利用しながらソウタは覗きをはじめる。

しかし、ソードガンに写ったサヨの姿は弓を構えており、鬼の形相で今にも矢を放つ勢いだった。

 

 

「……こ、こんなもんでいいかな~…武器の手入れ…」

 

 

そう言ってソウタはソードガンを仕舞った。

 

 

「ハァ…全く、油断も隙もないんだから……ん?」

 

「聞こえたか?」

 

 

ソウタの行動に呆れながら着替えを再開したサヨは、何かを感じたのかソウタの方を向きなおす。

ソウタも何か聞こえたのか、サヨに尋ねながらソードガンを手に険しい表情で外に出て、周囲を見渡していると何かを見つけたのか、屈みながらそれを覗き見る。

サヨは着替えを止め、薄着姿で後に続きながらソウタの隣についた。

 

 

「あれは…まさかゴブリンか?」

(う~…わ、ゴブリンまでいんのかよ…)

 

 

ソウタの目に入ったのは、馬車に乗った老人と女性を襲うゴブリンの群れだった。

 

 

「多分…

 早く助けな…「はい待ちんさい」っきゃ?!」

 

 

立ち上がり助けに入ろうとするサヨの腰帯を、ソウタはため息をつきながら引っ張って止めた。

 

 

「バカかお前は。

 普通にやり合って勝てる数じゃねぇだろ。

 それに、ゴブリンってのは女を玩具にするらしいからな。

 その場で犯すか、巣に連れ込んで死ぬまで忌みものにして孕ませ続けるかの2択だ。

 あん中に女のお前が助太刀に行った所でアイツ等のお楽しみが増えるだけだよ。

 お前可愛いしスタイル良いんだから、そういう所もう少し気を付けて、女の子としての自覚を持ちなさい。

 そんな下着が見える様な格好で外に出てきたりなんかして、嫁入り前でしょうがみっともない!」

 

「なっ?!オカンかアンタは!!」

 

 

THE オカンな口調で話すソウタに、サヨは顔を赤らめながら、ゴブリンに気付かれない様小さな声で怒鳴った。

 

 

「無事に帝都に着きたいなら、あのじいさんと娘さんには悪いがここはやり過ごした方がいいな」

 

「っ?!

 でもあのままだと!」

 

「あぁ…じいさんは殺され、ゴブリン連中はあの娘相手にお楽しみタイムだろうな」

 

「アンタそれが分かってて見捨てるつもりなの?!」

 

 

ソウタはあぁと頷きながらコネクトでプレーンシュガーを取り出し、方張り始めた。

 

 

「お前が安全に帝都までの旅を御所望ならな。

 危ない橋を渡る必要がないなら、渡らないに越したことはない。

 それに俺は、“確実に勝てる戦いしかしない”。

 俺がするのは勝てるかもや負けないじゃない、100%勝利の決まった戦いだけだ。

 命がチップなら……尚更な」

 

 

冷め切った目、普段のチャラついた雰囲気とは思えないような目と声で話すソウタに、サヨは驚きながらもソウタの意見に反対を示すように睨んだ。

 

 

「最低…だったら私1人で…「だけど」…え?」

 

「俺はやり過ごした方が良いと言っただけで、助けないとは言ってない」

 

 

フフンと笑いながら最後のひと切れを口にし、指についた砂糖を舐めると、ソウタは立ち上がりながらソードガンを肩に担いだ。

それを見たサヨは呆気に取られた表情でソウタを見つめ、口を開いた。

 

 

「…何で?」

 

「あれ、言わなかったか?

 俺はフェミニストなの。

 女の子には優しく、激しく、いやらしくがモットー」

 

 

ニカッと子供の様にハニカムソウタを見たサヨは、少し嬉しそうに笑った。

 

 

「…勝てる戦いしかしないんじゃないの?」

 

「ん~…そうだがちょっと違うかな」

 

 

ソウタは担いだソードガンを降ろすと、リングを取り出した。

 

 

「確かに俺は勝てる戦いしかしない…

 つまりだ……」

 

 

取り出したリングを指にはめると、さっきの無邪気な笑顔とは違う、ゲスな笑顔を浮かべた。

 

 

「100%じゃないなら、100%にしてやればいい」

 

《バインド…プリーズ》

 

 

リングをバックルにかざすと、ゴブリン達の周囲に無数の魔法陣が展開され、そこから大量の鎖が伸び次々とゴブリン達を縛り上げる。

その様子を見ながらソウタはブツブツと呟きだしたた。

 

 

「出す鎖の数以外に長さも消費魔力と比例するのね…

 自身と出す位置の距離は関係ないと…じゃあこっちは!」

 

 

右手で鎖をコントロールしながら、左に手にしたソードガンでゴブリン達の頭や左胸、右胸撃ち抜いた。

頭と左胸を撃ち抜かれたゴブリンは力尽き、右胸を撃ち抜かれたゴブリンは、苦しみながらもバインドから脱け出そうと暴れ続けた。

 

 

「ゴブリンの脳や心臓、急所は人間と同じ場所にあるのか。

 弾丸もコウヤの時に気付いてはいたが、生成する弾の種類で消費魔力は変わると…

 今回は鉛にしたが、

 コルク<鉛<銀の順かな…

 他にも飛距離と弾のコントロール、飛距離が長ければ長いほど、コントロールも精密にすればするほど比例する。

 …ハァ~…疲れた。

 魔力の残量ギリギリだわ~…」

 

 

首をならしながら肩を回すソウタ、最初の軽い雰囲気、少し前の冷酷さ、そしてさっきの冷静さ、その切り替え具合にサヨは再び驚いた。

 

 

「すご…でも、さっきあんなに冷たい事言ってたのに、何でそこまでするの?」

 

「モテたい男は女の子の前でカッコつけるものなの」

 

 

ソウタがそう言って再び笑いかけると、あまりにもバカ過ぎる理由にサヨもつられるように笑いだした。

 

 

「フフ…不純」

 

「男なんて所詮そんな生き物さ」

 

 

そう言いながらソウタはコネクトの魔法で何かを取り出した。

 

 

「何それ?」

 

「1日1本しか出せない魔力回復アイテム」

 

 

コネクトで缶を取り出し、それを飲み干した。

 

 

「多分どっかに伏兵が…っと、言ってるそばからわんさかと」

 

 

右胸を撃たれたゴブリンや、ソウタの死角となる馬車の裏に隠れていたゴブリン達が吠えると、茂みや雪に隠れた洞穴から十数のゴブリンが姿を現せた。

 

 

「私…アンタとは会ったばかりだから、信頼も信用もない。

 してくれなくて良い…でも」

 

 

弓に矢をかけながらサヨは立ち上がり、ソウタを真っ直ぐに見つめた。

 

 

「私はアンタを信じてみたいから…

 背中は…任せて」

 

「オーライ…なら、援護頼んだ」

 

 

サヨに笑いかけると、ソウタは向かって来るゴブリンの群れにソードガンをソード形態に切り替え飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 

 

 

一方その頃、コウヤはピンチに陥っていた。

 

体はボロボロに、額から血を流しながら肩で息をするコウヤの目には、あり得ない物が写っていた。

 

 

 

「なかなかにしぶといな」

 

「ったりめぇだ…こんな事で……くたばる俺じゃ…ねぇ!!」

 

 

目の前の異形に悪態つくコウヤ。

その様子を見た異形はクスクスと笑いだした。

 

 

「そうか……だがコイツ等を相手に同じ台詞を吐けるかな」

 

 

異形はそう言った後にパチンと指をならす。

すると異形の背後の扉が重い音を響かせながら開き、中からいくつものの影が姿を表した。

 

 

「なんだぁ?

 俺をぶっ倒すならもっとスゲェのを…」

 

 

近付いてくる影の正体を知ったコウヤの表情は、次第に青くなっていった。

 

 

「ウソ…だろ?

 待て……ソレは!ソイツだけは!!」

 

 

コウヤの言葉を無視し、徐々に距離をつめる新たな異形。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「止めろ来るな!

 ピーマンは…ピーマンだけは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウワァァァァァ!!

 婆ぁぁぁちゃぁぁぁぁぁぁん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 

「いや何があったんだよっ?!「キャアッ?!」…アレ?」

 

 

馬車に揺られながら眠っていたソウタは、突然目を覚ますと天に向かって叫びだし、同じく隣で眠っていたサヨは驚きの余り跳び跳ねた。

 

 

「もぅ~…何よいきなり…」

 

「悪い…何かツッコミセンサーが反応した気がしたからさ」

 

 

転んだサヨに手を差し伸べながらソウタは謝罪した。

 

 

「アンタってホントに変ね」

 

「どうかなさいました?」

 

 

ソウタの手を取りながら起き上がり、腰かけるサヨに馬車の前から顔を覗かせる少女が声をかけた。

 

 

「いえ…すいません、騒いじゃって」

 

「構いませんよ」

 

「でも本当に助かりました。

 帝都まで乗せて貰えるだけじゃなくお金まで」

 

「こちらこそ。

 ゴブリンに襲われていた所を助けていただ上に、道中の護衛を引き受けてくれたのですから、このくらいは」

 

「しっかし御二人さん、どうして帝都に?

 それも若い男女で……あぁ、駆け落ちかね?」

 

「「ぶっ?!」」

 

 

老人の放った一言にサヨとソウタは驚き、ソウタに至っては飲んでいた水を吹き出した。

 

 

「ちっちちちちちちちち違います!違います!

 コイツとはそんな!」

 

「お父さん、からかっちゃダメだよ」

 

「そうだぜおっさん。

 それにコイツにはタツミって先約がいるんだ、俺の出る幕はないよ。

 だから照れ隠しで刺しに来るの止めろ、ダガーしまえ」

 

「タッ?!タツミは今関係ないでしょ?!」

 

「お~…顔赤くしちゃって若いっていいねぇ~♪」

 

「からかうな~!」

 

 

からかうソウタを押し倒し、サヨは手にしたダガーを再び構えて襲いかかった。

 

 

 

「タツミと言う方は存じ上げませんが、私はお二人共お似合いだと思いますが」

 

「この状況がそんな風に見えるのかいお嬢さん?」

 

 

冷や汗を流しながら左手でダガーを持つ腕を押さえ、右手でサヨの肩を押し距離を空けようとするソウタの言葉に、村娘はえぇと返し顔を引っ込めた。

 

 

「ん~…よし!

 じゃあハッキリさせようぜサヨ。

 俺とタツミ、彼氏にして結婚までいくならどっちがいい?」

 

「えぇっ?!」

 

「心配するな。

 タツミって即答してもからかったりしねぇからさ」

 

 

ソウタの突然の質問に、サヨは顔を反らし少し頬を赤らめながら沈黙した。

 

 

「おい、そこはタツミって断言してくれよ。

 ガチで悩むとか勘違いしちまうだろが」

 

「なッ?!ナニイッテンノ?!

 べ、別に悩んでなんか無いわよ!!

 て言うか変な事言わないで…っよ!!」

 

「はっ、同じ手を2度も食らうか!」

 

 

頭を後に動かし頭突きの体制に入ったサヨ。

ソウタはニヤリとした表情で、左手で掴んだ腕を上に上げ、膝をついているサヨの両足を自分の足で払った。

バランスを崩した以前に、ソウタの反撃に一時的に宙に浮いたサヨは、驚きの表情を浮かべる。

やったと言わんばかりの表情を浮かべたソウタ、だが……

 

 

「「…ぇ?」」

 

 

本来なら落ちてくるサヨを自身の胴体でキャッチする算段だったソウタ。

しかしソウタの予想に反して、上げた左腕がサヨの落下予測位置を変えてしまい、胸元に来るはずのサヨの顔が自分の顔と重なってしまい、2人は小さな声で驚き硬直した。

 

 

「あの~…

 騒いで貰っても構いませんが、積んである酒樽は倒さないで下さ…い」

 

「「…………ぅむ……」」

 

 

ドタンと大きな音を立てた2人に少女は再び馬車の荷台に顔を覗かせる。

そこで目にしたのは、抱き合う様な体勢で互いの唇を合わせるサヨとソウタの姿だった。

 

 

「あらあら…お邪魔でした?」

 

 

「っぷは?!

 違う!誤解だ!事故だ!なぁサヨ!

 お前も何か弁解を…」

 

「うそ……私の…はじめてが……」

 

「オィィィィィ?!

 泣くなぁぁぁぁ!悪かった!

 さっきのは事故だからノーカンだ!

 あれだ!人工呼吸と同じだと思え!

 そうすれば……な?」

 

「何がノーカンよ!!最低!!」

 

「なっ?!

 俺だってはじめてだったんだよ!

 これが人生(前世を含む)初のキスとか俺としても何か不服なんだよ!」

 

「不服って何?!

 私なんかじゃ不満だと?!

 そう言う事?!」

 

「何でそうなんだ?!」

 

「あの~…喧嘩は…」

 

「はっはっはっ…いや~初々しいのぉ…お?

 着きましたよお二方、あれが帝都ですぞ」

 

「「…ふぇ?」」

 

 

互いの頬を引っ張りながら取っ組み合う2人は、老人の言葉に喧嘩を止めて外を見た。

 

 

「あれがそうなの?…大きい~…

 ねぇソウタ!帝都ってあんなに…ソウタ?」

 

 

帝都を見たサヨはその大きさに驚き、ソウタに話しかけようと隣を見ると、そこには少し辛そうな表情を浮かべながら無言で帝都を見つめるソウタがいた。

 

 

「どうしたの?」

 

「いや……何でもない…

 それよりタツミ達だ、どうにか合流しないとな…」

 

「そうよね…

 特にイエヤス、アイツ方向音痴だから」

 

「タツミは主人公補正があるから大丈夫だろう。

 あのバカは……忘れるか。

 だから問題はイエヤスだけだな」

 

「ごめん、いろいろとツッコミを入れたいのだけど…

 何でタツミは大丈夫なの?」

 

「アイツは運に恵まれてるって事だ。

 現にお前みたいな可愛い幼馴染みとか、明らかにモテそうの無い幼馴染みの親友…どこの古臭いギャルゲだよ」

 

「…?、?、?」

 

 

羨ましくねぇがなと小言を吐きながらソウタは、プレーンシュガーを取り出し口にする。

 

 

「タツミやイエヤスを心配してくれるのは有り難いけど…

 コウヤ…弟さんは心配じゃないの?」

 

「アイツなら心配するだけ無駄だ。

 猛獣や危険種相手でも魔法で何とかするだろうし、出来なくても山賊や盗賊ぐらいなら襲われても大丈夫だ。

 はっきり言ってアイツはかなり強い。

 正直俺、アイツとの純粋な殴り合い(タイマン)で勝った試しがないんだよ。

 てか勝てる気しない」

 

「ウソ…」

 

 

最初の山賊、そして先程のゴブリンとのソウタの戦いを思い出しサヨは驚愕した。

ゴブリンや山賊、桁違いの数を相手にノーダメージで切り抜けたソウタが自分から勝てないと断言したからだ。

コウヤも強い事は山賊の時に気付いていた。

だが先程のゴブリン戦でのソウタを見たサヨには、その言葉が信じられなかった。

心臓や脳、首の動脈など生物の急所を乱戦のなか的確に撃ち抜き、切り裂き、叩き潰す彼の戦いを、実力を目にしたサヨは、驚きから呆けてしまったからだ。

それほどの実力者が勝てないと断言した、サヨはその事実にただ驚く事しか出来なかった。

 

 

「ま、小細工アリ騙し討ちアリ、何でもアリなら負けはしないが…

 アイツが負けるとしたら…弱点をつかれるか、純粋に数の暴力ぐらいだろ。

 ま…後者なら俺と同等か、それ以上の実力を持ったヤツ限定だがな。

 なんせ前世(むこう)じゃ俺に付き合って、色々な所に殴り込んだぐらいだからな…

 それこそ将軍級の実力とかでないと、多分アイツは止まらないよ」

 

「アンタ以上って…

 そう言えば、さっきの弱点って?」

 

「あぁ…弱点って言うよりか、苦手なものかな…」

 

「それって?」

 

 

サヨの質問に少し苦笑いを浮かべながら頭をかくソウタは、サヨを真っ直ぐに見据えて意を決した様に口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……お化けと生トマト…そしてピーマンだ」

 

 

「………………………………」

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

帝都の南門

 

そこを小さな犬を連れて歩く少女がいた。

 

 

「ん~!

 今日もいい天気!

 最高のパトロール日和だね!コロ」

 

「キュウ!」

 

 

少女はセリュー・ユビキタス

帝国警備団に身を置く少女であり、隣を歩く犬型の生物、帝具ヘカトンケイルのコロは日課の見回りをしていた。

 

 

 

「な、何だあれぇ?!」

 

 

門から聞こえた叫び声にセリューは驚き、声のする監視塔に走り出した。

 

 

「どうかしたのですか?!」

 

「妙な軍勢がこっちに向かって来てやがる!」

 

 

慌てふためく衛兵が指差す方角に目を向けると、大きな土煙が上がっていた。

 

 

「貸してください!」

 

 

セリューは見張り兵から双眼鏡を借りると、その様子を見た。

 

 

「何…アレ……」

 

 

目の前に広がる光景に、セリューは言葉を失った。

 

 

じょじょに聞こえるドルンドルンという重低音と、パラリラパラリラと軽快な音を鳴らしながら土煙を上げて近付くそれは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バイクにまたがる、特攻服を着た野菜の群だった。

 

 

 

 

 

 

様々な種類のバイクにまたがる色とりどりの野菜。

そしてそのバイクに掲げられている旗には、セリュー達の見たことも無い字が書かれていた。

 

 

『高丘組』

 

『生喰上等』

 

『辺侍駄武流』

 

『天下一品』

 

『鮮度命』

 

 

驚愕する衛兵達。

セリューも例外ではなく、迫り来る意味不明(やさい)に驚いた。

そして何よりセリュー達を驚かしたのは、先頭を走るニンジンの乗るバイク、その後方に掲げられた十字架に縛り付けられたもう1人の主人公(コウヤ)の姿だった。

皆が警戒する中、突然門から少し離れた場所で野菜達は停車しバイクから降り始める。

バイクから降りた野菜は、ニンジンの乗っていたバイクにかけられた十字架からコウヤを引き剥がすと、勢い良く投げ捨てた。

うつ伏せに倒れ込むコウヤにニンジンは近付くと、その髪を掴み持ち上げた。

 

 

「今度ピーマン残したら、この程度じゃすまねぇからな?

 わ"ぁったがぁ!!」

 

 

ニンジンはそう言って頭から手を離し、コウヤの脇腹に蹴りを入れた。

 

 

「行くぜテメェ等!!」

 

 

再びバイクに股がったニンジンの叫びに、周りの野菜達は雄叫びを上げながらバイクを走らせ、その場を後にした。

数秒間の沈黙。

我に返ったセリューは血だらけのコウヤに駆け寄った。

 

 

「あ、あの!

 大丈夫ですか?!」

 

「……もん」

 

「はい?」

 

「だって……

 ピーマン…しょっぱいんだもん…」

 

 

駆け寄って来たセリューに、コウヤはまるで時代劇などの女性の様に足を崩した状態で座り込み、よよと口を押さえながら涙を堪え言葉を発した。

そしてセリューはその姿と言葉に困惑した。

 

 

「取り合えず…事情をお伺いしますので、ご同行よろしいでしょうか?」

 

 

そう言ってセリューはコウヤの手を取り、慰めながらその場を後にした。

 

 

「しかも……何でトマトも生でしかダメなんだよ…

 別に良いじゃん、焼いたって煮たって…

 あのグチャッて感触がダメなだけなのに」

 

「…………」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 

 

「次の方ー…

 あー…嬢ちゃんも入隊希望かい…

 んじゃ、この書類書いてまた持ってきな」

 

 

やる気無さげに頬杖をつきながら書類を渡す受付。

彼から渡された書類を読んだサヨは、少しながら不満そうな表情を浮かべた。

 

 

「……

 これって一兵卒からになるんですか?」

 

「当たり前でしょが…

 それにこの時期に入る新兵の大抵は辺境行きだ。

 帝都内で働きたいなら、そっから名を上げて出世するこったな」

 

 

アクビ混じりに説明をする受付にサヨは、渡された書類を勢い良く机に叩きつけ、大声で叫び始めた。

 

 

「そんな悠長な事してられないわ!!

 私、これでも弓にはかなり自信があるの!!

 見てなさい!あそこに掛けてる絵の女にヘッドショットかましてあげるわ!!」

 

 

そう言ってサヨは弓に矢をかけ、構えだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ~…

 ありゃダメだな…」

(アイツ、タツミと同じ事してらぁ)

 

ーニャー…

 

 

サヨが兵舎内で騒ぎを起こす中、ソウタは兵舎外の窓から中を覗きながら、黒猫を頭に乗せプレーンシュガーをほうばっていた。

 

 

「あっ…捕まった」

 

ーナァー

 

 

ソウタが出入り口の方を見ると、ドアが勢い良く開き、そこからサヨが放り出された。

 

 

「いきなり兵舎の中で矢をぶっ放すヤツがいるかぁ!!

 こっちとら不況のせいで希望者が殺到して、てんやわんや何だよ!!

 雇える数には限界があんだ!

 不満があんなら兵士なんざ目指さねぇで、そこらの路地裏で体でも売ってろクソガキ!!」

 

「なっ?!

 アンタ達みたいなのこっちから願い下げよ!

 バーカ!!」

 

 

バタンッ!

激しく閉められた扉に対しサヨは悪態をつくと、ソウタの居る所に戻りどんよりとした表情でため息をすると、膝を抱えながら座り込んだ。

 

 

「……お前アホだろ」

 

 

ソウタの心無い一言に、サヨは目に涙を浮かべながら顔を上げた。

 

 

「ゥゥ…だって~…」

 

「いきなり室内で矢をぶっ放す方が悪い」

 

ーナァー

 

「ほら見ろ…

 猫にもバカにされてんぞ」

 

「何よ!

 てか、その猫どうしたの?」

 

「なつかれた」

 

ーニャー♪

 

 

ソウタが頭の上に乗せた黒猫の頭を撫でると、黒猫は気持ちよさげに鳴いた。

 

 

「そぅ…これからどうしよう」

 

「どうもこうも…

 あんな騒ぎを起こせば、入隊は無理だな」

 

「そんな~…」

 

 

頭を抱えながら項垂れるサヨの肩に手を置いたソウタは、サヨの正面で同じ目線まで屈んだ。

 

 

「入隊という未来の門は固く閉ざされたんだ。

 こうなりゃやるしかないだろ。

 テメェの力で、テメェの意思で…

 開くしかねぇだろ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …テメェの股を「不潔!」サイサリスッ?!」

 

 

真面目な表情と声で下ネタをぶっこむソウタのアゴに、サヨはアッパーカット打ち込んだ。

 

 

「アンタそれ身売りしろって事?!

 帝都に着いて早々何させるつもりよ?!」

 

「じょ、冗談だよ冗談…

 本気にするな、軽いジョークだ」

 

「笑えないわよ~…」

 

 

再び項垂れながら座り込むサヨ。

痛むアゴを擦りながらソウタは再びサヨの前に立つと、手を差しだし口を開いた。

 

 

「ま、気晴らしに町ん中見て回ろうぜ。

 運が良けりゃ、何か見つかるかもしれねぇしな」

 

「…うん」

 

 

その手を取ったサヨは服に付いた汚れを落とし始めた。

その様子を見ていたソウタは、足下の猫に視線をやった。

 

 

「んじゃ、お前とはここでお別れだ…またな」

 

 

ソウタは猫に別れの言葉をかけると、猫も一声鳴いて去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

「……もう一度言ってくれませんか?」

 

「だ~か~ら~、ピーマン残したらアイツらにリンチされたんだよ」

 

 

帝国警備団屯所

 

そこの一室に置かれた小さなテーブルを挟む様に、コウヤとセリューは向かい合いながら話していた。

 

 

 

「アイツらとは…あの野菜の群れですか?」

 

「あぁ…

 ちっくしょニンジンの野郎…今度会ったら細切りにしてリンゴと一緒にレモン汁に浸けてからマヨネーズかけて食ってやる」

 

「「…………」」

 

 

困ったと言わんばかりな表情を浮かべるセリューは、後ろのテーブルで調書を記録している衛兵をみる。

衛兵も似た表情を浮かべながら肩をすかした。

 

 

「なぁそろそろいいだろ?

 俺、兄ちゃん達探しに行きたいんだが」

 

 

しびれを切らしたのか、少し不機嫌気味に尋ねるコウヤの言葉にセリューは席から立ち上がった。

 

 

「人探しですか?!

 でしたらお手伝いします!

 いえ、させてください!!」

 

「マジか!」

 

「はい!

 人探しも世のため、人のため、正義の行いです!

 あ!自己紹介がまだでしたね、自分はセリューと言います!

 こっちは相棒のコロです!」

 

「キュイッ!」

 

「マジでぇぇぇぇぇぇぇぇぇ?!」

 

 

自己紹介の後、同時に敬礼をするセリュー達の名を聞いたコウヤは青ざめた表情で叫んだ。

 

 

「どっ、どうかしましたか?!」

 

「いや、あぁ…俺はコウヤだ」

(マジか?マジで?マジかよウソだ~…

 ど~りでどっか見たことある訳だわ)

 

 

互いに自己紹介をした2人。

セリューは衛兵からペンとスケッチブックを借りると、コウヤに質問をし始めた。

 

 

「ではその方の特長を教えてください」

 

「おぉ、特長なぁ…」

 

 

腕を組ながら考え込むコウヤは、真っ先に思い付いたソウタの特徴を口にした。

 

 

「エロい」

 

「…は?」

 

「人畜有害、歩くエロス、存在そのものが18禁。

 サディストもマゾヒストも泣きながら逃げ出させるド変態。

 そんで人を騙すのが得意な鬼畜詐欺師。

 おそらく全世界が相手にしたくないヤツランキングで、1位をとるだろう女いじりが好きな自称フェミニスト」

 

「いえ…あの、内面的な特徴ではなくて、外見の特徴を…「あ~あ~…みなまで言うな、分かってるよ」…でしたらいいのですが」

 

 

コウヤの述べたソウタの特徴にツッコミを入れたいセリューは、会話を進めるために自身の気持ち(ツッコミ)を抑えながらコウヤに再度問いかけようとした。

だがそれを理解しているのかコウヤがセリューの話しを遮ると、セリューはため息をつきながら再びスケッチブックに目をやった。

 

 

「伸長は俺と同じくらいで中肉中背。  

 髪は黒、後黒いコート着てる」

 

 

頷きながらセリューは、スケッチブックに似顔絵を描き始めた。

 

 

「…以上!」

 

 

コウヤの言葉にセリューと衛兵はずっこけた。

 

 

「他に無いんですか?!」

 

「他って言われてもなぁ…」

 

「顔の特徴とかは?」

 

「顔ね~…目付き悪い」

 

 

どうすればいいのよとぼやきながら、セリューはそれっぽい絵を描いてはコウヤに見せ、コウヤが首を横に傾けては描き直し、再びみせる。

そうこうしている内に、すでに小一時間が過ぎていた。

 

 

(にしても参ったなぁ~…

 兄ちゃんはぐれるとは…

 アイツの行きそうな所……風俗街?

 いや、兄ちゃんアレで以外とヘタレだしな…

 まぁあの変態はほっといても大丈夫だろ。

 つか帝都到着してから即行でセリューちゃんと遭遇って。

 せめてナイトレイドに入れればタツミとは合流出来るんだが…)

 

「…そうだ」

 

 

考え込むコウヤ。

瞬間何か閃いたのか、パンッと両手を叩くとセリューを見つめて口を開いた。

 

 

 

「なぁセリューちゃん、聞きたいことあるんだけど」

 

「今度は何ですか?」

 

 

疲れている様にため息を交えながら応えるセリューに、コウヤは満面の笑みで口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ナイトレイドって、どうやったら入れんの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 

 

「すご~い!

 これが帝都か~、ねぇねぇ!

 あれ何かな!

 あ!あれって服屋かな!」

 

 

帝都内の商店街

人と活気が集まる賑やかなそこに、サヨとソウタは訪れていた。

 

 

「ずいぶんと回復早いな…

 落ち着けおのぼりさん。

 あんまし騒ぐと、周りの迷惑になるぞ」

 

「うぅ…ごめん」

 

「分かれば良いんだよ。

 とにかく、あんましウロチョロするな。

 まだ何があるか分かったもんじゃ……って言ってるそばから!」

 

 

ソウタがため息をつく一瞬で、再びサヨは姿を消した。

愚痴りながら辺りを見渡していると、装飾品店を眺めるサヨが視界に入る。

ソウタは再びため息をつくと、サヨの隣に足を運んだ。

サヨの見つめる先には、透き通った淡い水色の宝石が填められた、銀のネックレスが置かれていた。

 

 

「欲しいのか?」

 

「ぜ、全然?!

 村にはあんなのが無いから、珍しかっただけよ!」

 

「はいはい…」

 

 

否定こそしても、サヨの目はネックレスから離れる事はなく、その様子を見たソウタは頭をかきながら大きなため息をつくと、店の中へと足を運んだ。

 

 

「すいませーん、あれっていくらですか?」

 

「金貨2枚と銀貨6枚です」

 

 

店員の告げた値段にソウタは唸った。

金に関しては、山で出会ったマッチョの親切なオッサン達がくれたので何とかなる。

問題は値段だ。

市場に着いてから様々な店を見渡し、そこに置かれてある物とその値段、それらの物価からすでにある程度の帝都内での為替相場、単価を理解していたソウタは苦い表情を浮かべた。

 

 

「結構するな…まぁワビにはちょうど良いか」

 

「毎度あり~。

 頑張ってくださいね♪」

 

「………」

 

 

何を勘違いしているのか、ニヤケ顔で見送りをする店主にため息をつき、ソウタは商品の入った紙袋を持って店を出た。 

 

 

「あっ…」

 

「ほらよ」

 

「え?」

 

「あ~…あれだ。

 裸見ちまったのと、馬車でのアレのワビ」

 

「ゥゥ…何か変な気分だけど、ありがとう!」

 

 

唸りはしたものの、明るい笑顔で素直に喜ぶサヨはソウタに礼を言うと、紙袋を開けた。

 

 

(どこに行っても、女ってのは変わらないんだな…

 アイツもプレゼントやった時に同じような表情(かお)したっけかな…)

 

 

サヨの喜ぶ姿を見たソウタは、前世(過去)を懐かしむ感情から表情を緩め、目をつむった。

しばらくしてサヨに目をやると、首を傾げながらネックレスを凝視している姿が目に写った。

 

 

「どうかしたか?」

 

「これ…どうやって着けるの?」

 

「…貸せ」

 

 

予想外なサヨの一言にソウタはため息をつくと、額を押さえながらサヨからネックレス受け取った。

 

 

「…ほらよ」

 

「ありがと」

 

 

礼を告げ、くるりとソウタの方に向き直すサヨは、少し顔を赤らめながら笑った。

 

 

「似合うかしら?」

 

「ッ?!」

 

 

その笑顔に不意を突かれたソウタは少し顔を赤くし、とっさにサヨから目をそらした。

 

 

「…ソウタ?」

 

「アー…ニアウニアウ」

 

「ちょっと?! 

 何で空を見上げながら言うの?!」

 

「良いだろ別に…似合ってるから安心しろ」

 

「説得力皆無よ…もう」

 

 

そう言ってサヨは頬を膨らませながら歩いていった。

 

 

微笑ましいの光景の中、ソウタはこれから起きる悲劇の1つを案じ、暗い表情を浮かべた。

 

 

(何でこんな娘が死ななくちゃいけないんだ…)

 

 

これから先の事を考えるなら、サヨは死ぬべきだ…

 

サヨの死は、タツミの起爆剤になる。

サヨの死で、タツミの物語の始まる。

サヨの死が、タツミを強くする。

 

(でも…)

 

サヨが死ななかったら?

タツミはどうなる?

ナイトレイドはどうなる?

未来は?物語はどう進む?

 

 

未来を、物語を知るからこその葛藤がソウタを襲った。

 

 

(やっぱし、サヨは死ぬべきなのか?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈また見捨てるのね〉

 

(…違う)

 

〈犠牲が必要なんだろ?〉

 

(違う)

 

〈今までそうして来たんだ…

 今更何が違うんだ〉

 

(違う俺は、もう…)

 

〈お前は変われ無いよ。

 お前はお前のままだ…〉

 

(それでも俺は、アイツと…)

 

〈貴方は彼とは違う、だからあの娘も私たちみたいに…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …“殺すんでしょ?”〉

 

 

「ッ?!」

 

 

自問自答。

頭をかきながらため息をついたソウタは、側に置かれた木箱に腰かけて空を見上げた。

 

 

「“あん時”までの俺なら、こんなことで悩んだりしないんだろな…

 てかゆりっぺのヤツ、俺の事知ってこの世界に送るのだったら、記憶消して欲しかったな…ま、この記憶消してたら何の役にも立たず、前任達の二の舞だろうけどな」

 

 

昔を思い出しながら自虐的に笑うソウタ、すると足元に何かが当たる感触を感じ、下を見た。

 

 

ーニャー?

 

 

「何だまたお前か…」

 

 

ーニャー♪

 

「……だな…悩むのはやめだ。

 俺はフェミニストだ。

 女の子には優しく、激しく、いやらしく…

 そんでその幸せを守る…だったよな、相棒…」

 

 

何かを懐かしむように再び空を見上げるソウタは、何処と無く寂しげな表情を浮かべていた。

 

 

「俺達がいる時点でとっくにに物語が壊れてんだ、ならやりたいようにやるとするさ」

 

 

足下の猫の頭をワシワシと掴みながら撫でると、猫はウニャと短く鳴くと体を擦り寄せる。

 

 

「なってやるよ、今度こそ…

 テメェが言ってた、“最後の希望”(ヒーロー)ってやつに…」

 

 

足元の猫を撫でるソウタの表情は、さっきまでとはうって変わって強い覚悟を感じさせるような笑みを浮かべながら呟いた。

 

 

「ねぇソウタ!

 この人達、私達を雇ってくれるって!

 使用人兼衛兵としてしかも住み込みで!

 これで宿も職も解決よ!

 それにお給料も色つき、これで少しは村の皆に楽させてあげられるわ」

 

「よかったなぁサヨ。

 …ん?待て、私“達”だと?」

 

 

嬉しそうに戻って来たサヨの言葉に疑問を抱いたソウタが質問しようとした瞬間、サヨの後ろから数人の衛兵と共に1人の少女がやって来た。

 

 

「はじめまして。

 貴方がサヨさんのお連れの方ね?

 私はアリアって言うの。

 これからよろしくね」

 

「あぁいや、俺は別…に……」

 

「どうかしたの?」

 

「お~い、ソウタ~?」

 

 

衛兵を連れた金髪の少女、アリアが自己紹介をすると、ソウタはまるで蛇に睨まれたカエルのように固まった。

サヨが顔を覗き込ませたり、ソウタの目の前で手を振ったりとしたが反応は無く、ただダラダラと妙な汗をかきながらソウタは小刻みに震えていた。

 

 

(……は?…えっ?

 ……sadistic princess?

 サド貴族のアリア様がご光臨なされましたが…

 もしかしてコイツが召喚したのか?

 この小娘、自分を殺す事になる相手連れて来やがったぞオイ…

 鴨が鍋と食材一式揃えてプロの料理人連れて来ちゃったよ。

 どうすんのコレ…

 俺がわざわざ中二病を再発させてまで、シリアスな雰囲気の中カッコ良くフラグブレイクの案を考えてる間に、なぁにコイツ自分でフラグ回収してんの?

 バカなの?死ぬの?

 ホントどうすんだよ~…もぅ~……アレ?

 でもサヨの時も思ったが…実際に実物を見るとアレだな。

 アリア様かわいいわ~…結構好みかも。

 これでも~少し胸が大きければな~…

 いや待てよ…むしろ今のアリア様はこの体型だから完成しているのではないだろうか。

 素直で無垢な表面にちょっと?Sっ気を帯びた内面。

 明るいその笑みの裏で内心、

 へへ…また良いおもちゃゲッ~ト♪

 どう遊んで上げましょうか、フヒヒヒヒ~…

 とか思ってるんでしょ?

 そういうの見てると…こう…… 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……調教したい…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうです、私もそっち側です。

 ちなみに私、Mの方よりこういったSっ気を帯びた子をいじる方が好きなんです。

 Sの方は弄って恥辱と屈辱を与え、

 Mの方には逆に私を責めて頂くのが、私のplay styleです。 

 Sは自分のしたい事を奪われ、Mは自分がされたい事をやらされるなんて、屈辱以外何物でもないでしょ?

 でも私は貴女みたいに非人道的な事はしませんよ?

 そんな焼いたり、切ったり、抉ったりしませんよもったいない。

 まぁあ?傷物にする…って意味合いなら手は出しますが。

 それでも向こうから求めて来ない限り、手は出しませんよ絶対。

 互いの合意が、愛があってこそでしょそういうのは。

 そんなかわいい女の子の心や体に痕が残るような酷い事はしません。

 私はサディストである前にフェミニストなのです。

 女の子は優しく、激しく、いやらしくいじるのが好きなんです。

 比喩的にも、物理的にも。

 そうです私はSです。

 SOUTAのSはサドのSなのです、はい。

 そう考えると、ホントにアリア様は私のツボ心得てますわ~。

 ちょっと背伸びした感じの振る舞いに年齢相応の乙女感、最高じゃ無いですか。

 正直、ドストライクです。

 あ、でも私はロリコンではありませんよ?

 しつこいかも知れませんが、私はフェミニストなのです。

 見た感じ14~16くらいかな…

 この娘の5年後ぐらいが楽しみだ。

 では想像してみてください。

 このアリア様が恥辱に顔を赤くしながら自分に屈伏して言いなりになる姿。

 そして最後にはデレてなついて、昼は眩しい笑顔で後ろから「お兄さま~♡」や、「ご主人様~♡」と抱き付いて来たり、夜は淫乱になって物欲しそうな表情でよがって来る光景。

 興奮しません?

 共感して貰えるそこの貴方、握手をしましょう。

 Nice to meet you 私はソウタ。 

 貴方の魂の友人です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …って、ふざけてる場合じゃ無かったぁ!

 あまりの緊急事態に気が動転して煩悩覚醒してからの野獣解放するところだったぁ!)

 

 

「あ~……ソウタです…」

 

「よろしくねソウタ。

 そこに馬車を待たせてあるわ。

 時間も時間ですし、夕食を御一緒しましょう?

 ご馳走するわね」

 

「いや、だから俺は…「ありがとうございます!」…っておまっ…」

 

「じゃあ行きましょ」

 

 

そう言ってアリアは馬車を停めている場所へと歩き始めた。

サヨと共に続くように歩み出すと、ソウタは頭を掻きながらため息混じりにぼやき始めた。

 

 

「たっくよ…

 原作のタツミみたく、ナイトレイドの襲撃からの転職ですか?

 ここに居るの、タツミじゃなくサヨだよ?

 おい作者、寝ぼけてんの?

 まだレオーネに会って無いぞ?

 あの素晴らしきオッパイを見ずに、いきなりペッタンコアリア様ですか?

 まぁタツミみたいにとって食われる訳じゃないなら、豪勢なタダ飯食らってから考え…」

 

 

サヨには聞こえないよう少し離れて歩いていたソウタは、急に足を止めた。

 

 

(……ん?待て飯だって?

 これって…もしかしてタツミのじゃなくてぇ…

 サヨ達が捕まったイベントじゃね?

 ……あれ?イエヤスがいないよ?

 イエヤスがいないって事は~…

 俺が~…

 イエヤスの代わりに~…

 奥様の日記に載るの?

 俺…ルボラend?

 何それちょーウケる)

 

 

 

「ほ~ら!何ボケッとしてるの、行くよ!」

 

 

立ち止まっていたソウタに気付いたサヨは、楽しそうにウキウキとソウタの手を引いて歩く。

サヨの笑顔を見たソウタは、何かを悟ったかのような柔らかい笑みを浮かべ歩き出す。

 

(しかもコイツあれだ、ポンコツだ…

 なんてこった、サヨさんポンコツでしたか。

 てかどこで死亡フラグ立てたんだ?俺……)

 

地獄行きの馬車に乗る際、穏やかな表情をしたソウタの目から一筋の雫がこぼれていた事は、置いていかれた黒猫以外、誰も…知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

走り出す馬車に揺られながら、遠い目で空を見続けるソウタ。

無数の衛兵に囲まれ緊迫した空気の中、事態が理解できないコウヤ。

 

 

((ひょっとしなくても、今のこの状況…ヤバくね?))

 

 

転生を果たした魔法使い(バカ)2人は、偶然にも同じ事を思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

魔法使い

    残り 2人(WARNING)

 

         

 

 

 

 

 




はい、フラグ(色々)が建ちました。

誤字脱字があればご報告お願いします。

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