夜。神崎が居なかった事ですこしは、静かに一日を過ごす事が出来た。
携帯が鳴り、ポケットから出すと、武藤からの電話だった。
「なんだぁ?しょうもねぇ用事だったら切るぞ?」
『龍夜、とにかくニュースを見ろ!」
ニュース?何があったんだ?とりあえず、テレビをつけて、ニュースを見る。
「ハイジャックだと!?」
『そうだ。通信科が周知してな。その中にアリアの名前があったんだ』
神崎がいるだと?
「キンジはどうした?」
『それが繋がらねぇんだ。今みんなで教室に集まってんだ』
「分かった。すぐに行く」
電話を切り、仕度をして部屋を出る。能力を使って、武偵高に向かった。
「武藤状況は!?」
「龍夜。ちょうどいい。今キンジと話している」
武藤の話では、ANA600便は燃料漏れを起こし、精々あと十五分が限界らしい。
「武藤、着陸に必要な距離は?」
「エンジン2基にB737-350なら……まあ、2450mは必要だろうな」
『……そこの風速は分かるか?』
「風速?レキ、ここの風速は」
「私の体感では五分前に南南東の風・風速41.02m」
ちょうどレキがいてくれて、風速がすぐに分かった。
「武藤、それを踏まえると、何mになる?」
「……ま、あ……2050ってとこだ」
2050か、ギリギリで何とかなるな。
「キンジ、武偵高の人工浮島の空き地島だ」
『そうか。分かった』
キンジが電話を切った。
「おまえ……トンデモねぇ事を思いついてしまったな」
「それよりも、事態の収拾が先だ。みんな、聞いてくれ!」
全員の前に立つ。あまりこう言うのは得意じゃないが、今はそんな事を考えている暇はない。
「これより、武偵憲章1条を実行する。武藤、お前は車輌科のメンバーで車輌科で一番デカイモーターボートを借りて来い。他の者は、装備科の懐中電灯を持ち出せ。後の事は考えるな。責任は全て俺が取る」
「「「「「「「おう/はい!!」」」」」」」
割り振られた役割を実行するために、全員が行動を開始する。
「だが、龍夜。『空き地島』は雨で濡れえている。2050では停まらないぞ!」
「俺を信じろ。必ず成功させる」
「……分かった。失敗したら轢いてやる!」
たとえ、濡れていようと停めてみせる。俺の力を使ってな。
「進行状況は?」
『現在80%ほどです』
「分かった。作業を急がせろ」
『分かりました!』
さて、そろそろキンジが来る頃だな。
「龍夜」
「お前も心配性だなぁ。後は任せろ。キンジに場所を知らせるか」
コンテンダーに弾を装填しる。
「お前、それは!?」
「ごさっし通り、これは武偵弾だ」
俺が装填した弾は、
閃光弾を撃ち、上空に閃光が走る。これで大体の位置が分かったはずだ。
『作業、完了です!』
「よし。点灯しろ」
閃光が消えたと同時に、準備が完了し、ライトを点灯。簡易の滑走路が完成した。
「さて、仕上げと行こうか」
「龍夜。お前、目が!」
俺の目は、能力を発動させて、赤の十字の朱印が両目に浮かんでいる。両目の場合は、全力の時だ。いつもは、能力が半減しているから、片目だけだが。今回は許可を貰い、リミッターを外してもらった。
「武藤。これから見たことは、他言無用で頼む。
俺にかかっている重力をゼロにし、ボートを蹴り上げる。ある程度、高度を上げ止まる。
「さぁ、行くぜ!
空き地島全体を俺の重力支配下に置く。これにより、俺が指定した人、物の重力を操作できる。もちろんその対象は、600便だ。
ザシャアアアアアアアア―――――!!
ANA600便は、人工浮島に強行着陸を始める。俺は、それに対して、600便に重力をかける。一気にかければ、600便が血と肉片が飛び散った鉄屑になる。
「止まれぇ!」
徐々にかけていき、速度が落ちていく。よし、もうすこしだ!
ダァンッ!
「なっ!」
左肩を撃ちぬかれ、地面に落下する。どういうことだ!
600便は無事に着陸したか。だが、俺はどうする。このまま、地面に落ちれば、死亡確定だ。能力を使えば助かるが、弾が貫通していない可能性がある。そうなれば、能力は使えず死ぬ。
ふざけるな!ここで死ぬだと?ふざけんじゃねえぞ!俺はまだ……アイツを…ブラドを殺すまで――
「死ねるかよ!!」
一か八か、能力を使った。俺にかかっている重力と反対方向に重力をかけ、落下速度を落とし、着地する。弾は貫通していたようだ。
「龍夜!」
着地すると、すぐに武藤たちが駆けつけた。恐らく、あの銃声が聞こえたんだろう。
「武藤……キンジは?」
「キンジたちは無事に着陸できた。お前のお陰だ」
「ばぁか。……お前らがいなきゃ…できなかった…よ」
意識が朦朧として、頭がフラフラする。思った以上に出血が酷いなこれ。
「おっかしいな。なんで死んでないんだい?」
後ろから声が聞こえ振り向くと、そこには見知らぬ青年が立っていた。
「まあ、死んでないなら―――殺せばいいさ」
ダァンッ!
ダァンッ!
「へぇ、それが不可視の弾丸か―――」
ダァンッ!
「―――案外、簡単だね」
「!?」
たった一回見ただけで、不可視の弾丸を見破って、使いやがった。ぎりぎりで、左腕に直撃して、撃ちぬかれた。
「おい!お前、何者だよ!?」
「何者?ハハ、これから死ぬ奴らに名乗る名なんてないよ」
「この野郎!?」
十二人が襲撃者を囲い、銃を向ける。
「それで、僕を殺せるとでも?雑魚が何匹集まろうと、僕には勝てないさ」
そいつが、二丁目のデザートイーグルを取り出した。
「お前の相手は俺だろうが。この三下ぁ!!」
新たに出したデザートイーグルを、切り裂く。
「お前らは下がってろ。こいつは俺の得物だ」
「得物?違うよ。得物は君のほうさ!」
三発の弾丸を切り落とす。その中の一発は、銀弾だった。
「へえ、なかなかの動体視力だね」
「ほざいてろ。ドカス」
たまたま持って来ていた刀を抜刀する。そして、刃を返して、軽く親指を切る。傷から血が流れ、刀身に彫られている溝に流れていく。
「咲け。紅桜」
刀身が血の色に染まった。これは、『八重桜』のもう一つの姿。持ち主の血を吸うことで、力を高める。
「面白い刀だけど、それじゃ僕を倒せないよ?」
「…………」
能力を使っての加速。能力を使っての防御が出来ないなら、補助に使えばいい。
ガキンッ!
隠し持っていたナイフで受け止められる。
「肩の調子は、どうだい!?」
ダァンッ!
「あ゛あ゛あ゛ああぁぁッ!」
撃ちぬかれた左肩に、また一発を喰らった。
「さぁ、立ってよ!立ってくれないと、殺し甲斐がないじゃないか!」
ザシュッ!
「へ?」
奴を袈裟に斬った。能力で隙を突いて、斬る事ができたが、見た限りではそんなに深くはなさそうだ。
「フフフ。最高だよ!本当に君は最高だよ!油断していたとはいえ、僕に傷を負わせたんだからさぁ!」
狂った笑い声を上げる。油断していた時に仕留められなかったのは痛いが、次で息の根を止めてやる。
「あれ?もしかして、次で仕留める。って思ってる?残念――」
ガキンッ!
「――もう、君に希望はないよ」
バキンッ!
「!?」
迫ってきたナイフを紅桜で受け止め、鍔迫り合いになった瞬間に紅桜が折れた。
「ああ。イイね、イイねぇ。希望が絶望に変わる瞬間の表情はさぁ!」
グサッ!
「さようなら。漆ヶ谷 龍夜君」
グサッ!
「だれが…さようならだ……ぼけぇ」
刺された瞬間に、折れた紅桜で刺し返した。意識が朦朧としているせいで、即死ではないが、致命傷は避けられないはず。
ここには、狙撃科Sのレキや、強襲科Sの神崎と元Sのキンジが居る。あの三人と、武藤たちでなんとか追い払うことぐらいはできるはずだ。
「僕に二度も傷つけたご褒美に、正体を明かそう。僕はファントムという組織のクローバーのジャックだよ。冥土の土産に持って行くといいよ」
クソッ……意識が薄れていきやがる。
「これで、本当にさようならだ。いい夢を見るといいよ」
ダァンッ!
一発の銃声が鳴り響き、それと同時に意識を失った。
「誰だい?」
「やっと姿を見せたね。ファントム」
「これはこれは。誰かと思えば零課の課長さんではないですか」
ジャックが龍夜を撃つ前に、課長がそれを止めた。
「この子は
並みの人間では出せない殺気を飛ばす。その殺気に耐えられずに、何人もの生徒が気絶する。
「
「怖い怖い。じゃあ、僕はここでお暇させてもらいます」
「逃がすと思うか?」
べレッタ 92Fの銃口を、ジャックに向ける。
「いやー。貴方とも殺りたかったんですが。ジャーカーの命令で零課課長とは殺るなといわれてまして」
デザートイーグルのマガジンを入れ替え撃つ。ものの数秒で閃光が走る。
「また何れ会いましょう。近藤 生馬さん」
閃光が消えると、そこにジャックの姿はなかった。
「龍夜はとんでもない奴らに狙われてしまったか」
ファントムとのファーストコンタクトは、龍夜の惨敗で終わった。