最高のオワリのために   作:クローザー

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第11話 期末の時間その2

潮田視点

 

 

学校から帰るとすぐに支度をし、母さんから渋々外泊の許可を貰った僕は茅野達と合流し、門倉君の家の前まで来ていた。住所も事前に知らされてたので、すぐに着けたのだが、今僕等はその前で立ち尽くしていた。

 

「うわー!!スッゴイ大きい!」

 

「立派なお家ですね。」

 

「………………」

 

表札に門倉と書いてある、和風モダンと称するのが最もふさわしいであろう、その家は他の家に比べて遥かに大きかった。その大きさに磯貝君が言葉すら出せずに硬直してしまっている程だ。僕等が外で喋っていると中から門倉君が現れる。

 

「来たか。さ、入ってくれ。」

 

「お、お邪魔します。」

 

「おっじゃまー!」

 

「「お邪魔します。」」

 

「………………」

 

皆全然違う言い方で中に入り靴を脱いでいると、エプロンに身を包んだ神崎さんが奥の方からやってきた。

 

「タッちゃんおかえりなさい。そして皆、いらっしゃい。」

 

「神崎さんもう完全に新妻じゃん、お熱いですねヒューヒュー!」

 

「ええっ!?……照れるよ//」

 

「からかうなからかうな。」

 

「あいた!」

 

門倉君はからかってきた中村さんに軽くチョップしてから、慣れた口調で神崎さんに話しかける。

 

「先に部屋まで案内してくるよ。皆着いてきてくれ。」

 

門倉君が玄関すぐにある階段を上がったため皆そのまま着いて行く。

 

「随分と立派な家だな。門倉の親御さんって何してるんだっけ?」

 

「父さんはスポーツトレーナーをしている。今はアメリカのプロボクサーの専属になってから向こうで住み込みで働いているよ。……母さんは、幼い頃に亡くなったから憶えてないかな。」

 

「…すまない。無神経な質問をした。」

 

「気にするな。誰だって何か抱えてるもんだ。さ、着いたぞ。」

 

門倉君が襖を開けるとそこには9畳ほどの和室が広がっており、中央部に部屋の大きめの木製の机が置いてある。全員が荷物を置いて、勉強道具を広げるとそのまま門倉君が説明を始める。

 

「さて、勉強する時はこの部屋を使ってくれ。寝る時だが、磯貝と潮田は隣にある俺の部屋、奥田と中村と茅野は有希子がいつも使っている客間を使用してくれ。布団はもう敷いてあるから好きなタイミングで寝てくれ。トイレは廊下を出て、左手に真っ直ぐ進んだ所にある。何か質問はあるか?」

 

「「「「「…特にないです。」」」」」

 

段取り良く進む話に皆驚きのあまり言葉を失っていた。そんな事も気にせず門倉君は話を変える。

 

「さて、俺と有希子はこれから夕食にするが、皆家で食べて来たか?」

 

「ううん、家に着いてすぐに来たからまだ…」

 

「私もです//」

 

「あーあたしも…」

 

「私もまだだよ。」

 

「同じく。」

 

「そうか、多めに作っておいて正解だったな。2人で食べるよりも大勢で食べた方が美味しい。良かったら食べて行ってくれ。」

 

「やったー!」

 

その後僕等は門倉君と神崎さんの特性キーマカレーを食べ、その美味しさに悶絶し、普段の倍近く食べてしまった。満腹となり部屋に戻った僕等は臨時に門倉君に家庭教師となって貰い、自習を始めていた。

 

「門倉君、この問題がわかんないんだけど…」

 

僕は数学で分からない問題を隣で本を読んでいた門倉君に尋ねる。

 

「ああ、どれどれ…ここの代入を間違えているな。そこを直せば答えが出る。あと、このタイプの問題は解き方を一度覚えれば良いわけじゃなくて、考え方を理解しなくちゃいけないから類似問題をやった方がいいぞ。」

 

僕の質問に的確に答えてくれた門倉君は自室から大量の参考書を運び込み、僕に渡す。

 

「この参考書のP.15とP.56に2問ずつある。他の参考書もあるにはあるけど、多分最初はこの2問がオススメだな。」

 

「ありがとう!」

 

指定されたページを開き問題を見てみると言われた通りの内容の問題があり、今解いていた問題とは見事に違う解き方を要求するものだった。

 

「すまない、門倉。こっちも良いか?」

 

「ああ、見せてくれ。この時に起きた事件は〇〇氏の家族関係に焦点を当てなくてはいけないんだ。」

 

磯貝君の社会についての質問も一切迷いなく答えれている。こういうのを見ると門倉猛という人が、椚ヶ丘中学でトップに君臨している人は彼なんだと改めて思い知らされる。磯貝君に助言した門倉君はまた僕の隣に座り、そのまま本を読み始めた。するとその様子を観察してた中村さんが声をかける。

 

「ねーねー、門倉君ってさぁ、今回の期末試験も1位を狙ってるんでしょ?」

 

「それが殺せんせーを殺すのにも繋がるからな。」

 

「じゃあさー、生徒会長と退学を今回の成績で賭けてるって本当なの?」

 

「本当だよ。正確には浅野は負けても退学しないけどな。」

 

「それにしても、神崎さんのために生徒会長に喧嘩売るなんてクゥー妬けるねー!」

 

「はぁ!?一体誰がそんなこと言ってるんだよ…?」

 

「もう本校舎の中で持ちきりになってるらしいよ〜『あのE組に堕ちた門倉猛が女の為に生徒会長を敵に回した!』ってね。」

 

「……//」

 

「…そうなのか、門倉?」

 

「え、いや、あのそれはだな…」

 

(門倉君がここまで照れて吃ってる姿は新鮮だ…)

 

神崎さんの事が絡むと感情を出すけど、基本は温和で人柄が良い門倉君がここまで取り乱すのは滅多にない。門倉君は吃り神崎さんは赤面し中村さんがニヤけている状況で暫く沈黙が続き、見ている側として非常に居た堪れない。

 

「と、とりあえずお茶を淹れなおして来るから皆勉強を続けてといてくれ!」

 

状況に耐えられなくなったであろう門倉君はそう告げるとすぐに部屋を出て行ってしまった。残されたのは僕等と神崎さんのみ、神崎さんは顔を真っ赤に染めたまま本に顔を埋めている。そこに獲物を見つけた捕食者のように中村さんが詰め寄る。

 

「ねえねえ神崎さんはさ、門倉君をどう思ってるの?」

 

「どう…って言うと?」

 

「幼馴染じゃなくて男の子としてどう思ってるかって言う事!好きなんでしょ?」

 

「……えぇ!?」

 

「あー、それは私も気になってた。そもそも2人って付き合ってるの?」

 

とうとう傍観していた茅野すらも参加してしまい、これで二体一の状況となってしまう。

 

「つ、付き合ってないよ!大体タッちゃんはそういうのに興味ないし…」

 

「そうなんですか?でもこの前門倉さん夢中で【好きな黒髪女子に近づく方法25】という本を読んでましたよ。完全に気になる異性がいるんだと思ってました。」

 

(完全にだだ漏れだ…)

 

奥田さんの情報もあったという事で、少し気になった僕は門倉君がさっきまで読んでいた本のタイトルを確認すると、【世の男必見、ロングな髪の女の子が喜ぶプレゼント選び!】だった。これは、証拠としては完璧だった。

 

(というか、ピンポイント過ぎだよ!?どんだけ一途なの!?)

 

「へぇ〜恋愛に関しても勤勉なんだね。」

 

「知ってる?門倉君、E組になった後も本校舎の女子に凄い人気なんだよ。昨日も告白されたらしいしね。」

 

確かに門倉君は1年生の時から女子から注目を受けていた。新入生代表の挨拶などをして、目立ち続けた彼の人気はE組になった今も絶頂である。

 

「…………」

 

「あーそれ知ってる知ってる。ミス椚ヶ丘の人でしょ。門倉君、月一で色んな女子から告白される位人気だもんね。」

 

これは僕が聞いた話だけど、門倉君は神崎さんにだけは気付かれないように告白に対処してきたらしい。だから、神崎さんは初耳だったようで驚いている。

 

「…知らなかった。」

 

「成績トップ、容姿良し性格良し運動もボクシングで日本チャンピオン。逆にモテない要素が見つからないっしょ。」

 

「たしかに…でも今まで誰とも付き合ってないよね。」

 

「そう、ここまでモテテいるのに今まで噂が立った女子は1人もいない。だから難攻不落の門倉なんていう通り名まで出来ちゃったんだよ。」

 

「…そうだったんだ。」

 

「だから、あの難攻不落の門倉がここまで1人の女の子について取り乱すなんてね、普通はありえないんだよ。それがE組に入った途端急激に変わった。」

 

中村さんはいつの間にか真剣な表情となり、神崎さんを見据える。

 

「要因があるとしたら、誰がどう見ても神崎さんしかいないんだよ。」

 

「…どうして、中村さんがそれを分かるの?」

 

「わかるよ、だって私門倉君に告白した事あるから。」

 

迷いなく言った中村さんの一言で、室内の空気は一気に凍り付いてしまった。

 

 

 

 

門倉視点

 

場を取り繕うためにお茶を淹れに行った俺は部屋に入ろうとすると室内から話し声が聞こえてきたから、つい聞き耳を立ててしまった。内容は奥田が俺の読んでいた本をバラしたり潮田が俺が読んでいた本を発見してしまったモノだった。もう顔から火が出る位恥ずかしい。続けて聞き耳を立てていると中村が気になる一言を発する。

 

『わかるよ、私門倉君に告白した事あるから。』

 

(嗚呼…とうとうバレてしまった。)

 

俺は続きを聞く前に1階の台所に降りキッチンにお盆を置いた後、そのまま庭へ出る。こちらの気分とは違い夜空はとても澄んでいる。

 

 

中村莉央とは2年生の夏から知り合った。小学生の頃は神童と言われていた彼女も当時は成績を落とし、不良紛いの事までしていた。その時期、大会を控えていた俺は街までロードワークに出ており、そこで偶然不良に絡まれていた彼女に遭遇し、穏便に(武力的に)事態を解決した。その時に中村から告白されたが、俺はその時には既に有希子の事を意識していたから丁重にお断りした。その時に中村とは恋人ではなく友人となり、今に至る。

 

「出来るだけ隠してきたんだけどなぁ…」

 

入学してから様々な女子に告白されてきた、自分がそういう人間だというのは理解している。ただ、好きな人がいるからという理由で断ってきたから周りから様々な憶測を立てられてきた。その時、幼馴染だった有希子が注目され始める。

 

元から男子から注目の的だった事もあり、俺の幼馴染として注目を集めてしまった彼女は当時父親との軋轢があり少し荒れていた。

 

そんな彼女を余計な事に巻き込みたくないと考えた俺は噂が広まる前に異性との関わりを極力減らした。

 

お陰で噂自体は殆ど無くなったが、有希子とは学校内で話せなくなるという最悪の付録が付いてしまった。

 

さらに有希子からは、俺が彼女をただの幼馴染だとしか思ってないと勘違いされてしまい、俺にとっては理想的であり最悪な結末を迎えた。

 

「E組に入ったら何か変わると思ってたんだけどなぁ…」

 

(仕方ない、部屋に戻ってまた上手く誤魔化すしかないな。)

 

そう思い、家に戻ろうとすると庭に誰かが現れた。まさかとは思ったが、

 

 

 

 

 

 

 

 

その人物が有希子かと思ったらそれは黒髪ストレートのカツラを被った殺せんせーであった。恥ずかしい事に一瞬勘違いしてしまった。

 

「引っかかりましたね!!」

 

「あんたかよ!!?!」

 

「良い反応です、先生このために渋谷でエクステを付けてもらったですから。」

 

「何ていう労力だ…」

 

「ところで、青春真っ盛りな門倉君に少し先生が助言をしようと思いましてね。」

 

「……何ですか?」

 

「自分の感情から逃げてはいけません、もっと素直になりなさい。そんな回りくどい逃げを取っても根本的な問題は解決しませんよぉ。」

 

「そんなの分かってますよ。でもングッ!」

 

そうする訳にはいかない、そう言い返そうとすると殺せんせーに口を塞がれる。

 

「君は人として強過ぎる。そんな君だから、周りを信頼し切れないのは理解できます。自分でやれば速いですからね。でもねぇ門倉君、君はもう少し自分が好きな女の子を信じてみても良いと先生は思いますよ。」

 

殺せんせーは俺の口から触手を離すと、話を続ける。

 

「君はまだまだ若い、これから先も多くの事を学ぶでしょう。ただ、先生は傷つく事や傷つける事を恐れて、大切なモノを大切だと言えない人に君らにはなって欲しくないんですよ…」

 

少し哀しそうな顔をしている殺せんせーに俺は何も言えない。さっきまで浮かんでいた言葉もどこかへ飛んで行ってしまった。

 

「別に今すぐ直しなさいと言っている訳ではありません。ただ少しずつ前に踏み出してみてはどうですか?と先生は思いますよ。それでは、君のこれからを楽しみにしてますからねヌルフフフフフ!」

 

殺せんせーはこちらに背を向けると最後にそう言い残し、飛んで行った。するとその音を聞きつけたのか、勉強部屋にいた面子が慌ただしく降りてくる。もちろん有希子も一緒にだ。

 

「どうしたの門倉君?もしかして殺せんせーが来てたの?」

 

「ああ、余計なお説教だけしてまた何処かに行ったよ。」

 

潮田の問いに答えた俺はそのまま有希子の元へ向かう。そして彼女の手を掴む。

 

「え、た、タッちゃん!?」

 

「話がある、少し時間を俺にくれ。すまないが、皆は部屋に戻ってくれ。」

 

「え、ええっ!?」

 

慌てる彼女や周りの目に構うことなく、俺は潮田達を部屋に戻るように頼む。

 

「しょうがない、皆部屋に戻って勉強しよう。」

 

「そうだね、そろそろ再開しないとマズイからね。戻ろう。」

 

「ええー…」

 

「しょうがないですよ茅野さん、戻りましょう。」

 

潮田と磯貝が協力してくれ女子達も渋々部屋に戻る。そして、俺と有希子は庭に取り残された。誰もいない事を確認すると俺は有希子の手を離す。

 

(今回だけはあんたの考えに従ってやるよ、殺せんせー。)

 

俺は有希子と向かい合い、改めて彼女を見つめる。

 

「強引な事して、ゴメン。大事な話があるんだ。」

 

「………何?」

 

不思議そうな顔をする彼女に先程の決心した事を紡ぎだす。

 

「俺は、意識している異性がいる。」

 

「………………」

 

彼女は俯いてしまい、こちらからは表情がわからなくなってしまう。でもここまで来たら、言うしかない。手だけでなく足も震え、全国大会の決勝戦よりも緊張しているのが自分でもわかる。そして掠れ掠れだが、声を振り絞る。

 

「俺は…神崎有希子を異性として意識している。出来れば恋人になりたいと考えている。」

 

「………//」

 

「ただ、今すぐ結論を出して欲しい訳じゃない。これから8月最後の夏祭りまでの間に答えを出して欲しいんだ。」

 

「…………」

 

「自分勝手な事だとは分かってるけど、俺を幼馴染としてじゃなく1人の異性として考えて欲しい。」

 

これまで俯いていた彼女は顔を上げ、俺に笑顔を向けながら答える。

 

「………うん!」

 

 

その日は俺と有希子が幼馴染から新しい段階へ一歩前進した日となり、夜空に浮かぶ月は彼女に似合いとても輝いていた。

 

 

 

潮田視点

 

後日談をしようと思う。

 

期末試験は無事E組はA組に勝てた、E組の生徒から学年1位が全教科出たため完勝だったのだ。これは学園全体を揺るがした、E組の生徒が全教科学年トップを独占するなんて前代未聞らしい。まあ浅野君と個人的な賭けをしていた門倉君が全教科トップだったので、退学の話は無くなったらしい。

 

A組との賭けで僕等が要求したのは、殺せんせーが提案した通りA組専用の南の島での二泊三日の夏季合宿への参加権利であった。触手の破壊権もそこ期間中に使おうという話になり、殺せんせーにも伝えた。

 

門倉君と神崎さんについてだけど、僕等が部屋に戻り勉強を始めてから10分ほど経ったらすぐに戻ってきた。その時の2人はとても清々しい顔をしていて、悩みが解消されたんだと思う。

 

そして、今日は終業式。僕等は本校舎の体育館へ来ていた。

 

『夏休みも始まる訳だが、あ、ああ、んっ!あ、E組のようにはならないように…』

 

いつものE組弄りが受けが悪い。エンドのE組がトップ争いをしちゃったから。今日ここに殺せんせーはいないけど、僕らは前を向いて立っていられた。

 

そして終業式も終わり、E組に戻ると殺せんせーが物凄く分厚い本を用意して待っていた。

 

「1人1冊です。」

 

「出たよ、恒例過剰しおり…」

 

「アコーディオンみてーだな…」

 

抱き抱えないと持てないそのしおりは確かにアコーディオンと例えても問題ないくらい分厚かった。

 

「これでも足りないくらいです。夏の誘惑は枚挙に暇ないですから。」

 

「先生、触手の破壊権はお伝えした通り合宿中に使います。」

 

「触手9本の大ハンデでも満足せず、四方を先生の苦手な水で固められた島で使い、万全に貪欲に命を狙う。正直に認めましょう、君達は侮れない生徒になりました。親御さんに見せる通知表は先程渡しました。これは先生から貴方達への通知表です。」

 

そう言うと目に見えないすぴーどで紙に何かを書き込んだ殺せんせーは、そのまま紙をばらまく。そこには先生の顔を模した二重丸が描かれていた。

 

(教室一杯の二重丸、ターゲットからのこの3ヶ月の嬉しい評価だ。)

 

「1学期で培った基礎、十分に生かし夏休みも沢山遊び沢山学び、そして沢山殺しましょう。椚ヶ丘中学3年E組、暗殺教室。基礎の1学期、これにて終了!!」

 

殺せんせーに見送られ、学校から帰る僕等は晴れやかな気持ちで明日からの夏休みへの期待に胸を躍らせるのだった。

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