第12話 島の時間・決行の時間
潮田視点
南の島暗殺旅行まであと1週間、僕達はその訓練と計画の詰めのためにE組校舎のある山に集まり、訓練を受けていた。
「まーま、餓鬼ども。夏休みだというのに、汗水流して御苦労な事ねぇ。」
「ビッチ先生も訓練しろよー。射撃やナイフは俺等と大差ないだろうしさ。」
「大人はズルいのよ。あんた達の作戦に乗じて美味しいところだけ持っていくわ。」
余裕さを見せつけるビッチ先生の背後に見慣れた人物の影が忍び寄る。
「ほほぅ、偉いもんだなイリーナ。」
「ロ、ロブロ先生!!?」
「夏休みの特別講師で来てもらった。皆が考えた作戦にプロの視点から助言をくれる。」
「1日休めば指や腕は殺しを忘れる。落第が嫌なら、さっさと着替えろ!!」
「ヘ、ヘイ喜んで!」
「ビッチ先生もあの師匠には頭が上がらねぇな。」
慌ててE組校舎に入ったビッチ先生を見送り、皆してロブロさんについての話をする。
「あぁ、てかあの人いかにも恐いもん。」
烏間先生との話を聞くと、どうやら斡旋するつもりだった殺し屋と連絡が取れなくなった取れなくなったらしい。ちなみに殺せんせーはエベレストで避暑中なので作戦に気づかれる心配はない。ロブロさんはE組の生徒にそれぞれに最適な指導を入れ、改善を始めた。そんな指導をしている人を見て、僕はふと1つの疑問を抱く。
(殺し屋の事を知り尽くしている、この人なら分かるかもしれない。最強の殺し屋を…)
「ロブロさん。」
「…!……何だ?」
「1番優れた殺し屋ってどんな人なんですか?」
「興味があるのか、殺し屋の世界に?」
「あ、あぁいや…そう言うわけじゃ。」
「そうだな、最高の殺し屋。そう呼べるのはこの地球上にたって1人。この業界ではよくある事だが、彼の本名は誰も知らない。ただ一言の渾名で呼ばれている、曰く死神と。神出鬼没、冷酷無比、夥しい数の屍を積み上げ死そのものとすら呼ばれた男。君達がこのまま殺しあぐねているのら、いつかは奴が姿を現わすだろう。」
(そんな人が…いよいよ南の島のチャンスは逃せない!)
「では、少年よ。君には必殺技を授けてやろう。ミスター門倉、君も来たまえ。」
「必殺……」
「あい?」
「そうだ、プロの殺し屋が直接教える必殺技だ。そして、ミスター門倉、君は私が課した課題をこなせるようになったようだしな。そんな君にはファイターとして最も必要となる事をたたき込もう。」
その後数日間、僕と門倉君はロブロさんに指導してもらい、門倉君は分からないけど僕は何とか習得に至った。そして、南の島の暗殺ツアーが幕を開ける。
旅行当日、港から船に揺られる事6時間、僕等は船上で楽しんでいた。肝心の殺せんせーは乗り物酔いのせいでグロッキー状態になっている。
「ニュウゥゥ…ニュウヤァア。船はヤバイ、船はマジでヤバイィイ…先生頭の中身が全部まとめて飛び出そうです。」
「あ!起きて起きて殺せんせー、見えてきたよ!」
「東京から6時間!」
「殺せんせーを殺す場所だぜ!」
「「「「「「「島だ!」」」」」」」
皆声色が高いものの、島にたどり着く事を楽しみにしていたようである。島についてすぐに配られる飲み物に皆一様に手を出した。
「ようこそ、普久間島ホテルへ。サービスのトロピカルジュースで御座います。」
ホテルのスタッフの人からトロピカルジュースが配られる。それ以外の一流のサービスを僕等は満喫していた。
「いやー最高!」
「景色全部が鮮やかで明るいなぁ」
「ホテルから直行でビーチに行けるんですねぇ。様々なレジャーも用意してあるようです。」
「例のアレは夕飯の後にやるからさ。まずは遊ぼうぜ、殺せんせー。」
「修学旅行の時みたく、班別行動でさ。」
「ヌルフフフフフ!賛成です、よく遊びよく殺す。それでこそ暗殺教室の夏休みです!」
そういうと殺せんせーは1班と空中グライダーのアトラクションで遊び始めた。僕等はというと木で出来た波止場の上で水着に着替えて、支度をしていた。
「上手い事やってんなぁ、1班の陽動。」
「やるもんだねぇ、ちゃんと暗殺も交ぜて他の班に目がいかないようにしてる。」
「うん。」
「次はうちの班に来る番だよ。やる事やってすぐ着替えないと。」
茅野の呼びかけで僕等は波止場から海に飛び込み、暗殺のための作業を始める。遊びに見せかけて僕等は真剣だ。プラン通り暗殺が出来るかどうか、綿密に現地でチェックして廻る。殺せんせーと一緒に廻る班が引きつけておく間に各班が担当する場所をチェックするのだ。それに今回は秘密兵器が極秘裏にこの島に隠れて忍び込んでいるのだ、本気で勝ちを狙う!!そして、遊びも終わり夕方となる。
「いやぁ、遊んだ遊んだ。お陰で真っ黒に焼けました。」
「「「「「「「黒過ぎだろ!!!?」」」」」」」
「歯まで黒く焼けやがって…」
「もう表情が読み取れないよ…」
「じゃあ殺せんせー、飯の後で暗殺なんで。」
「はぁい、まずは船上レストランに行きましょう。」
「どんだけ満喫してんだあのタコ。」
「こちとら楽しむフリして準備すんの、大変だったのによぉ。」
「ま、今日殺せりゃ明日は何も考えずに楽しめるじゃん。」
「まあな。今回くらい気合い入れてやるとすっか。」
そうして、僕等は船上レストランに移動する。全員に料理が配膳された上で、磯貝君が説明を始める。
「夕食はこの貸切船上レストランで、夜の海を堪能しながらゆっくり食べましょう。」
「成る程。まずはタップリと船に酔わせて、戦力を削ごうというわけですか?」
「当然です。これも暗殺の基本の1つですから。」
「実に正しい。ですが、そう上手くいくでしょうか?暗殺を前に気合いの入った先生にとって船酔いなど恐るるに」
「「だから黒いよ!」」
「…そんなに黒いですか?」
「表情どころか前も後ろも分かんないわ…」
「ややこしいからなんとかしてよ…」
「ヌルフフフフフ!お忘れですか、皆さん、先生には脱皮がある事を?古い皮を脱ぎ捨てれば、ほら元通り。」
「あ、月一回の脱皮だ。」
「こんな使い方もあるんですよ。本来はヤバイ時の奥の手ですが…あ…あぁあああぁああ!?」
「バッカデェ、暗殺前に自分で戦力減らしてやんの。」
「どうして未だにこんなドジ殺せないんだろう…」
(この日のために夏休みに入って密かに特訓してきた。仕込みも万全、今度こそ殺せんせーにこの刃を届かせるんだ!)
そして船上での食事を終え、僕等は波止場に降りる。船に乗る前は元気だった殺せんせーもこちらの計画通りに、体調を崩していた。
「ウニュウウウウゥゥ…」
「さーて、殺せんせー。飯の後はいよいよだ。」
「会場はこちらですぜ。」
「ニュ?」
殺せんせーの視線の先にはホテルの離れにある水上チャペル、そこで僕等の計画が開始する。そのままチャペル内に移動した僕等は殺せんせーを中に誘導する。
「さ、席に着けよ殺せんせー。」
「ここなら、逃げ場はありません。」
「楽しい暗殺をさ。」
「まずは映画鑑賞から始めようぜ。」
「君達の知恵と工夫と本気の努力、それを見るのが先生の何よりの楽しみです。全力の暗殺を期待しています!さて、まずは何をしてくれるんでしょうね?」
椅子に腰掛けた殺せんせーに磯貝君が説明と確認を始める。
「まずは、三村が編集した動画を見てもらってそのあとテストで勝った8人が触手を破壊し、それを合図に皆で暗殺を始める。欠席者の分は代理が撃ちます。それで良いですね、殺せんせー?」
「ヌルフフフ、上等です。」
「セッティング御苦労さん、三村。」
「頑張ったぜ、皆が飯食ってる間もずっと編集さ。」
三村君にはこの日のための映像を準備してもらい、ここでセッティングをずっとやってもらっていた。そして、ここからは僕の出番だ。
「殺せんせー、まずはボディチェックを。いくら周囲が水とは言え、あの水着を隠し持ってたら逃げ切れるからね。」
椅子から立たせた殺せんせーの身体を触り、念入りに持ち込みがない事をチェックする。
「入念ですね、そんな野暮はしませんよ。」
(これだけ直に触っている状態からでも殺せんせーは僕の攻撃など余裕で躱す。けど、皆で、この作戦と彼なら!)
ボディチェックを終え、席に腰掛けた殺せんせーは改めて暗殺に備えるターゲットへと表情を変える。
「準備は良いですか?遠慮は無用、どんと来なさい。」
「始めるぜ、殺せんせー。」
岡島君が部屋の照明を消し、テレビの画面内で映像が始まる。
『東京都内某所、椚ヶ丘中学3年E組。あろう事かこの学級の担任教師は暗殺のターゲットである。今宵、我々調査隊はこの謎の男の生態を収めるために』
三村君が話す映像が続く中、僕等は慎重に暗がりの中で準備をし始めた。
『我々調査隊に、極秘情報を提供して下さった方々にお越しいただきました。お話を伺う前に続きをご覧下さい。買収は失敗した。』
「失敗したぁぁあああぁああ!?」
映像の中には以前僕等が昆虫採集をしていた時に見つけた、カブト虫のコスプレをしエロ本の山に座ったままエロ本を食い入るように見つめる殺せんせーの姿である。
『最近のマイブームは熟女OL、すべてこのタコが1人で集めたエロ本である。』
「違う!?岡島君達皆に言うなとあれ程!」
『女子限定のケーキバイキングに並ぶ巨影、誰であろう?やつである。ばれないはずがない、女装以前に人間じゃないとばれなかっただけ奇跡である。』
「あーあ、エロ本に女装に恥ずかしくないの?ど変態。」
狭間さんからの罵声に言い返す言葉もなく、ただ殺せんせーは顔を覆い隠す。
『給料前、男は分身でティッシュ配りの行列に並ぶ。そんなに取ってどうするのかと思いきや、唐揚げにして食べだした。教師、いや生物としての尊厳はあるのだろうか?こんなものでは終わらない。この教師の恥ずかしい映像を1時間タップリとお見せしよう。』
「あと1時間も!!???」
そして1時間経ち、殺せんせーは精神的に完全にグロッキーであった。
「あ〜死んだ…もう先生死にました…あんなの知られてもう生きていけません…」
『さて、極秘映像にお付き合いいただいたが、何かお気付きでは無いだろうか、殺せんせー?』
そして、満潮に気付かなかった殺せんせーの触手は海水を十分に吸い込み、膨れ上がる。そこに畳み掛けるように成績1位組がたたみかけた。
まずは触手を9本破壊、次にモーターボート組がそれぞれ4方向に直進しチャペルの外枠を破壊。これで殺せんせーは無防備になる。そして僕等がフライボードを使って囲むように水圧の檻を作る。
「水圧の檻!?」
「殺せんせーは急激な環境の変化に弱い。」
「チャペルから水の檻へ。」
「弱った触手を混乱させて、反応速度を更に落とす!」
あとは下にいる律を含んだ射撃組が撃ち始める。
「殺せんせーは当たる攻撃に敏感だ。」
「だからせんせーを狙わない。」
「弾幕を張り逃げ道を減らす。」
「かーらーの。」
中村さんの声を合図にするかのように床を突き破り現れた門倉君はそのまま殺せんせーに殴りかかる。その一撃頭を3割程を削り取る。
「いよっし!」
「ニュヤ!!門倉君、そこにいたのですが?!」
「逃がすかよぉおお!」
皆が弾幕を張ることで逃げ場をなくした殺せんせーは門倉君の攻撃で慌てふためく。更にその門倉君が近接戦闘で追い込む事で、目標地点に誘導する。
(最後に止めの、2人!!陸の上のは2人の匂いが染み込んだダミー、室内で陸上を警戒させておきフィールドを水の檻に変える事で、全く別の狙撃点を作り出す。)
チャペルから離れた2点の海中から速水さんと千葉君がスナイパーライフルで狙い、とどめをさす。これが僕等の暗殺計画の全貌だ。
『ゲームオーバーです♪』
そして、弾は放たれ殺せんせーに届くか届かないか分からない所で突然僕等は爆発に包み込まれた。
「渚!」
茅野がモーターボートで駆けつける中、僕の頭は1つの考えで埋め尽くされていた。
(今までの暗殺とは明らかに違う。やった手応えがある。)
「油断するな!奴には再生能力がある、磯貝君片岡さんが中心となって水面を狙え!」
「「はい!!」」
皆が水面を探し続けていると茅野が泡を見つけ、そこに集中していると丸いガラス玉らしきモノに包まれた殺せんせーの頭部のみが現れた。
「フゥー!」
(…何あれ。)
「ヌルフフフ!これぞ、先生の奥の手中の奥の手、完全防御形態!」
「「「「「「「完全防御形態!!?」」」」」」」
「外側の部分は高密度に凝縮されたエネルギーの結晶体です。肉体を思い切り小さく縮め、その分余分になったエネルギーで肉体を周囲をガッチリ固める。この形態になった先生はまさに無敵。」
「そんな…じゃあずっとその形態でいたら、殺せないじゃん。」
「ところがそう上手くは行きません。このエネルギー結晶は約1日で自然崩壊します。その瞬間に先生は肉体を膨らませ、エネルギーを吸収して元の身体に戻る訳です。裏を返せば結晶が崩壊するまでの約1日、先生は全く身動きが取れません。これは様々なリスクが伴います。最も恐れるのはその間にロケットに詰め込まれ遥か遠くの宇宙空間に捨てられる事ですが、その点は抜かりなく調べ済みです。24時間以内にそれが可能なロケットは世界中どこにもない。」
(やられた…ここに来ての隠し技。その欠点まで計算尽くで。完敗だ。)
「何が無敵だよ。何とかすりゃ壊せんだろ、こんなもん。」
寺坂君がペンチで殴り続けるけど、殺せんせーは全く動揺せず余裕を見せている。
「ヌルプププ、無駄ですね。核爆弾でも傷1つ付きませんよ。」
「そっか、弱点無いんじゃ打つ手ないね。」
寺坂君から球体殺せんせーを受け取ったカルマ君は携帯の画面に画像を出している。どうやら殺せんせーに都合が悪い画像のようでとても動揺している。
「ニュ、ニュヤァァァ!!?やめて!手もないから顔を覆えないんです!」
「ごめんごめん、じゃあ取り敢えずそこで拾った海牛くっつけとくね。」
カルマ君は生き生きと海牛をくっつけた後を周りに何かないか見回っている。
「ウワァアァァァ!?」
「あと誰か不潔なおっさん見つけてきて!これ、パンツの中にねじ込むから!」
「やめて助けてぇ!!?!」
「…ある意味いじり放題だよね。」
「うん、そしてこういう時のカルマ君は天才的だ。」
「取り敢えず解散だ、皆。上層部とこいつの処分法を検討する。」
カルマ君から球体殺せんせーを没収した烏間先生は何か計画を立てようとしている様子だが、殺せんせーはそれすら読んでいた。
「ヌルフフフフフ、対先生物質のプールの中にでも封じ込めますか?無駄ですよ、その場合はエネルギーの一部を爆発させてさっきのように爆風で周囲を吹き飛ばしてしまいますから。ですが、君達は誇って良い。世界中の軍隊でも先生をここまで追い込めなかった。単に皆さんの計画の素晴らしさです。」
その賞賛の言葉があっても皆ににも言えない様子だ。殺せんせーはいつものように僕等の暗殺を褒めてくれたけど、かつてなく大掛かりな全員での渾身の一撃を外したショック、疲労感と共に僕等はホテルへの帰途とついた。
「よ、潮田、赤羽!ここいいか?」
「…門倉君。」
笑顔の門倉君は僕等のテーブルにつく。
今回の作戦の要の1人だった門倉君は殺せんせーに気付かれないように秘密裏に南の島に僕等とは別ルートで2日前から来ていた。
作戦の中で彼は水中から床を破り殺せんせーの不意をつき、そのままスナイパーの2人が狙い易い位置に誘導する役目だったのだ。
僕等が島に到着してから暗殺に乗り出すまで門倉君はずっと水中に留まり続け神経を尖らせていたのだ。恐らくE組で最も疲労も溜まっている筈である、今すぐ部屋に帰って寝たいだろう。それなのに、彼は今E組の中で1番明るく振る舞っている。今も僕の目の前で笑顔を振りまいているのだ。
「いやぁ、それにしても。まさかあんな隠し玉を持っていたとはな〜1杯食わされたな。」
「…う、うん。」
(どうしよう…周りの空気と門倉君の雰囲気が今凄い合ってない。)
「なにヘラヘラしてんだよ、お前。」
「あん?」
「こっちは丹精込めて考えた計画崩されてんだぞ!そんな状況でヘラヘラすんなよ!悔しくねえのかよ!」
門倉君の態度に腹を立てた千葉君が食ってかかる。そんな態度に門倉君は笑顔を全く崩さない。
「悔しいよ。でもまだ俺等は負けてない。」
「…は?」
「俺等が負ける条件は来年の3月までに殺せんせーの暗殺を達成しない、この1つだけだろ?期限までまだ半年以上ある。そして、この段階でターゲットに最終手段まで出させた。これで手の内は全て明かさせたって事だ。相手の手の内が分かりきっている勝負程楽なものはない。」
いつの間にか門倉君の話に、声に皆が魅入られる。
「ここで失敗した事を悔いるよりも得たモノを考えたら、俺は今回の暗殺には十分な価値があると思う。それにさ、皆手を抜いた訳じゃないだろ?」
「……」
「皆で全力でやった事の結果なら、後悔する必要はない筈だ。後悔するのは努力が足りなかった時だけだ。」
「………」
「……………」
「誰かが手を抜いてたなんて俺は思わないし、皆思わない。だから、胸を張ろうぜ。」
その声に皆引き込まれ、少し後ろ向きだった顔が前向きな物へと変わった気がした。千葉君はあまり変化がないように見えたけど。
(次こそは必ず決める!!)
僕がそんな決意を胸にしまっていると、周りの皆の様子から少しおかしさを感じる。
「しっかし、疲れたわぁ。」
「部屋戻って休もうか…もう何もする気ねぇ。」
「んだよ、てめえら。1回外したぐらいでだれやがって。門倉が言った通り、やる事やったんだから明日1日遊べんだろが?」
「そーそー、明日こそじっくり水着ギャルを見んだ!どんなに疲れてても全力で鼻血出すぜぃ!」
「そんな元気ねえよ…」
「ハハ…?」
(なんか変だ、いくら何でも皆疲れすぎじゃあ…)
そう思い僕が立つと、突然中村さんがもたれかかってくる。
「渚君よ、肩貸しちゃくれんかね?」
「中村さん!!」
倒れこんでしまった中村さんに駆け寄ると、顔が紅潮している。
「部屋に戻ってとっとと着替えたいんだけどさ。ちっとも身体が動かんのよ。」
熱の有無の確認のために額に手を当てるとかなり熱い。
「いや想像しただけで、もう鼻血ブハァ!」
「岡島君!」
岡島君から尋常じゃない勢いで血が飛び出す。
「有希子!おいしっかりしろ!有希子!」
「タッ……ちゃん。」
門倉君も神崎さんに駆け寄ると中村さん同様高熱にうなされているようだ。周りをよく見てみるとクラスの半分近くが、体調を激しく崩している。そこに烏間先生が駆けつけ、近くにいる係りの人に詰め寄る。
「君、この島の病院は何処だ?」
「え、いやなにぶん小さな島なので…」
「クッ…!」
「ニュヤァ……」
収拾がつかず、皆困惑する中烏間先生の携帯に着信が入る。
「何者だ。まさかこれはお前の仕業か?」
「律。」
「分かりました。」
門倉君が律に頼み、相手の逆探知を始める。そのデータは僕に回され、僕は烏間先生の所へ向かう。烏間先生は画面を確認すると、殺せんせーを持ち上げ確認する。恐らく相手の狙いは殺せんせーなのだろう。電話が切られると烏間先生は殺せんせーをテーブルに叩きつける。
僕等は烏間先生に対応を任せ、周りの病人のケアに向かった。烏間先生はどうやら防衛省から指定されたホテルについて連絡を取るつもりのようだ。少し経つと、ホテルの中から烏間先生の部下らしき女性が駆け寄ってくる。
「烏間さん、案の定ダメです。政府としてあのホテルに問い合わせてもプライバシーの保護を繰り返すばかりで。」
「やはりか。」
「やはり?」
「あの山頂のホテルは政府からもマークされている違法な商談場所らしくてな。」
「南海の孤島っていうロケーションが御誂え向きって事ね。」
「政府のお偉いさんともパイプがあり、迂闊に警察も手を出せん。」
「ふーん、そんなホテルがこっちに味方する訳ないね。」
「どーすんすか?このままじゃいっぱい死んじまう!!殺されるためにこの島来たんじゃねえよ!」
「落ち着いて吉田君。こんな事で簡単に死なない死なない。じっくり対策考えてよ。」
「わ、悪い原。」
思わず動揺してしまった吉田君も原さんからの指摘で冷静さを取り戻す。
「言う事聞くのも危険過ぎんぜ。1番小さい2人で来いだぁ?このチンチクリン共だぞ!人質増やすようなもんだろ!」
「……」
何も言い返せない…
「第一よ、こんなやり方する奴らにムカついてしょうがねえ。人の連れにまで手ぇ出しやがって!」
「単細胞が…」
「キシシ…」
「今回ばかりは寺坂に同感だな。俺の大切な幼馴染に手を出しといてタダで済ますつもりなどない、必ず落とし前は付けさせる……!」
「タッちゃん……//」
狭間さんと村松君は少し嬉しそうにしているが、門倉君の怒りで神崎さんは熱ではない方でも頬を赤く染めている。
「要求なんざ、全シカトだ!今すぐ全員都会の病院運んで!」
「賛成しないな。もし本当に人工的に作った未知のウイルスなら、対応出来る抗ウイルス薬はどの病院にも置いてない。いざ運んで無駄足になれば患者のリスクを増やすだけだ。」
「んだと!」
そう言うと竹林君は氷水の入った桶を狭間さんと村松君の近くに置き、袋に詰め込み始める。
「対症療法で処置はしとくから急いで取引に行った方がいい。」
「竹林…」
(打つ手なしだ…殺せんせーが動けるなら手の打ちようがあるのに。僕等の暗殺が下手に良いところまで行ったせいで。)
「敵の目的はこいつだが…」
「渡しに行った生徒を素直に返してくれるかしら。」
「……………」
「答えは決まっている。律!」
悩む烏間先生に歩み寄った門倉君、彼のの呼びかけに応えるように律が携帯の画面に現れる。
「門倉さん、オッケーです。」
「ニュヤ!出番を取られました!」
「律に頼んどいた下調べも終わったようです。動ける生徒は集まってくれ、動き易く多少汚れても構わない格好でな。」
動ける生徒は皆門倉君の指示に従い、防衛省が用意した車に乗り込み例のホテルの裏手に向かう。裏手は断崖絶壁となっており、登るのはなかなか難しそうだ。すると皆の携帯にモバイル律が現れ地図を指差している。
「あのホテルのコンピューターに侵入して、内部の図面を入手しました。警備の配置図も。正面玄関と敷地一帯には大量の警備が置かれています。フロントを通らずに中に入るのはまず不可能。しかし、ただ1つこちら側の崖を登った所に出入り口があります。まず侵入不可能な地形故、警備も配置されていないようです。」
「敵の意のままになりたくないならしゅ」
「手段は1つしかない。ホテルに残った奴らを除いた動ける生徒全員でここから侵入、最上階に殴り込んで薬を奪いとればいい。」
「門倉君!いい加減先生の台詞取らないで下さい!!?」
そして、命が懸かった僕等E組の潜入ミッションが始まった。