最高のオワリのために   作:クローザー

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待っててくれた人も待ってなかった人もお待たせしました!
私生活で色々あり中々時間が取れなくて…
そんな言い訳はさておいて、これからはなるべく早めに更新して行こうと思います!


12/7 文章の内容を少し変えました。。


第18話 堀部糸成の時間 その2

潮田視点

 

格子状の檻の中に閉じ込められた猛とイトナ君、暫く膠着状態が続いていた。まず先に仕掛けたのはイトナ君だった。

 

「行くぞ!」

 

「っ!?」

 

イトナ君は触手で檻の天井へ飛び上がり、上から攻撃を仕掛ける。

 

「まずフィールドを劇的に変化させる。それから攻撃。当てるよりまずは囲うがよし‥‥な!?」

 

得意げなシロさんの説明を止めたのは、檻の中の様子であった。打ち付けられた筈の触手は猛が全て掴んでいたのだ。

 

「‥‥軽いな。」

 

「何?」

 

「軽いと言ったんだ。」

 

「なっ‥‥グゥウゥウ!」

 

猛は触手を引き寄せて、目の前に来たイトナ君にボディブローを決める。

 

「…悪い、溝内に入った。」

 

「オェエエ…!」

 

決められたイトナ君は胃液を吐き、腹を抑えながら蹲る。

 

「何故だ‥何故イトナがあんな中学生如きに‥」

 

「納得できませんか?答えは簡単ですよ、シロさん。」

 

動揺するシロさんに殺せんせーが近づく。

 

「シロさん、貴方とイトナ君では私はおろか門倉君ですらも倒せませんよ。」

 

「‥何だと?」

 

「まぁ見てればわかりますよ。」

 

殺せんせーの言う通り、檻に視線を戻すと猛が伏せるイトナ君を見下ろすように立っていた。

 

「どうした、もうノックダウンか?これでは準備運動にもならないな。」

 

「………………」

 

「ギブアップしろよ。お前もう限界だろ?」

 

「ふざけるなぁ!!」

 

イトナ君は猛に飛びかかり、2人の攻防が始まる。

 

「たしかに、イトナ君は見事です。1学期までの先生や門倉君ならやられていたかもしれません。でもね、彼の攻撃パターンは単調です。」

 

「糞っ!糞っ!」

 

「遅い。」

 

イトナ君が触手を用いて攻撃しても猛は全て交わし、その分だけ拳を振るう。イトナ君は一方的にやられるだけで触れる事すら許されない。

 

「いかに速くても、いかに強くても、いかに保護者が策を積み上げても、いかにテンパりやすい先生でも、又神崎さんの事で血が頭に上りやすい門倉君でも3回目ともなれば、すぐに順応して見極めれるようになるのです。」

 

「馬鹿な!こんな筈が‥」

 

「ガァアアアア!!」

 

シロさんが驚く中、猛に殴られてボロボロになったイトナ君が触手を一点に集め一撃を放つ。それは猛の腹にもろに当たるものの、猛はその場から動く事なく受け止めてしまう。

 

「たしかに痛いけど、軽いな。」

 

「何!?」

 

「余談ですがシロさん。先生は兎も角、あの努力家の門倉君が夏休みの間何もしてこなかったと思いますか?」

 

「こんな一発、烏間先生のに比べたら軽いもんだな。」

 

言葉を裏付けるように触手を受け止める猛は平然としており、ピクリとも動かない。

 

「暗殺合宿の後、彼は暇さえあればロブロさんから出されたトレーニングに取り組み、烏間先生と過酷な環境でのサバイバル訓練を行っていました。元々常人より遥かに優れていた動体視力が数段階上まで辿り着いている。」

 

傷痕が明らかに多くなっている一方でその身体は夏の合宿の時と比べ遥かに逞しくなっていた。

 

「断言しましょう。今の彼は夏休み前とは別人です。」

 

猛が触手を離すとイトナ君は距離を取る。そんなイトナ君に猛はゆっくりと口を開く。

 

「イトナ、俺だって強くなるんだよ。標的が強くなってるのに、暗殺者の俺らが努力しない訳ないだろ。」

 

「‥‥‥‥‥‥糞ぉお、門倉ぁああ!」

 

「さあ、終わらせて下さい門倉君。」

 

「言われなくても。」

 

そう言いながら襲いかかる触手を上へと蹴り上げた猛は一瞬で近づきイトナ君の眼前に立つ。

 

「…あ、ああ……」

 

「残念だったな。またかかってこいよ。」

 

その言葉と共に猛は茫然とするイトナ君ごと檻を殴り飛ばした。

 

「おいおい‥」

 

「嘘でしょ‥」

 

まさに圧勝であった。

 

「ニュフフフ!」

 

猛が殴った面は檻からイトナ君ごと丸ごと抜け、その反動で檻が壊れる。得意げな顔をする殺せんせー以外はその光景に言葉を失ってしまう。

 

「まさかその檻すらも壊されるとは…セラミック製の檻なんだがね。」

 

「そうなんですか、烏間先生にジャングルの中で閉じ込められた木の檻の方が遥かに硬かったですよ。最先端科学も案外大した事ないんですね。」

 

「…言ってくれるじゃないか。」

 

「事実を言ったまでです。それにしてもまさかマスコミや烏間先生の部下を利用するとは……ここまで姑息な事をするなんて、シロさんって意外と小心者なんですね。」

 

シロさんからの賞賛にも猛は表情を変える事なく、何事もなかったかのように振る舞いしまいには挑発すら始める。

 

「僕は勝利に対して貪欲なんだ。どんな手を尽くしてでも勝ちを狙いに行くさ。」

 

「どんな犠牲を払ってもですか?」

 

「そうだね。…それにしてもあそこまでボコボコにするなんて、同じターゲットを狙う者同士もう少し手加減してもいいんじゃないかい?」

 

「僕はボクサーです。全力で来た相手に全力で応じます。仲間を駒のように扱うのは無理な話です。」

 

「…………気に入らないガキだ。」

 

「ガキ以上にガキみたいな事をしている大人に言われたくありません。そもそも人と話す時はフードは取らないといけないってご両親に教わらなかったんですか?それ、凄いダサいですよ。」

 

「…………君はもっと賢いと思ったが、そうでもなさそうだ。痛い目に遭わないとわからないかな?」

 

「やってみて下さいよ。ただし、やるなら正々堂々と、そして周りを巻き込まないようにお願いしますね。」

 

「吐かせよ小童。」

 

「なめんなよ、おっさん。」

 

「……………」

 

「……………」

 

猛とシロさんは睨み合う。そう、まるで仇敵を見るかのように。

 

 

 

その瞬間僕等は理解した。

 

 

 

この2人は今初めて互いを改めて敵と認識したんだ。

 

 

 

まさに一触即発の雰囲気で僕らは動けず、ただ見守っているとイトナ君を抱き抱えた殺せんせーが間に入る。

 

「それではシロさん、彼をE組に預けて大人しく去りなさい。あ、あと私と門倉君が下着ドロじゃないという正しい情報を広めて下さい!!」

 

「私の胸も正しくはB、Bだから!!」

 

(茅野…まだ気にしてたんだ…)

 

「…………」

 

「ニュウウ…」

 

「………フム。」

 

殺せんせーとシロさんが対峙し、しばらく沈黙が流れる。

 

 

 

 

暫く続くかと思われたその沈黙は予期せぬ人物によって突然破られた。

 

「あ、あぁ……がああ!」

 

「………!?」

 

「頭が…頭が…痛い……!」

 

「イトナ君!!どうしたんですか!」

 

「……!!寺坂、イトナを取り押さえろ!」

 

「分ぁったよ畜生!」

 

猛の指示に即座に反応した寺坂君がイトナ君を上からのしかかり、押さえつける。

 

「度重なる敗北のショックで触手が精神を蝕み始めたか。」

 

「気をしっかり、イトナ君!」

 

「が…あぁあああ!」

 

「おとなしくしろって!!」

 

寺坂君に押さえつけられても暴れるイトナ君に殺せんせーが話しかけるが、全く変化はない。

 

「ここいらがこの子の限界かな。これだけの私の術策を生かせないようではね。」

 

(な、何を言ってるんだ…?)

 

僕の疑問を余所に、シロさんは話を続ける。

 

「イトナ、これだけ結果を出せなくては組織も金を出せなくなるよ。君に情がないわけじゃないが、次の素体を運用するためにもどこかで見切りをつけないとね。さよならだ、イトナ。あとは1人でやりなさい。」

 

「っ!待ちなさい!貴方、それでも保護者なんですか!」

 

「教育者ごっこしてんじゃないよモンスター。何でもかんでも壊す事しか出来ないくせに。私は許さない、お前の存在そのものを。どんな犠牲を払ってもいい、お前が死ぬ結果だけが私の望みさ。」

 

「ぬぅ……」

 

「見捨てるんですか?じゃあ遠慮なくそれを頂きます。」

 

「なっ!」

 

どこかに行こうとしたシロさんの背後にいつのまにか移動していた猛はシロさんの服の袖を掴み、引きちぎった。

 

「貴様、どういうつもりだ…!」

 

引きちぎられた腕を庇うシロさんに睨みつけられる猛は少し嬉しそうな顔をしている。

 

「その服、対先生物質で出来てるんですよね。ならこの服を利用すれば、イトナの触手を抑えられるんじゃないかと思いまして。今回の迷惑料として少し頂戴しました。」

 

「成る程!門倉君、それをこちらに!」

 

猛からちぎり取った部分を受け取った殺せんせーは高速でいじり始める。

 

そんな先生とは別にシロさんは猛を睨みつける。

 

「随分と機転が利くねぇ。まさか君は何か知っているかい?」

 

「…いいえ、ただの推測ですよ。」

 

「まあいい。今回はここで引き上げるとしよう。」

 

シロさんが立ち去ろうとすると、猛はわざとらしく自身の発言に付け足す。

 

「そういえば、街中に仕掛けている貴方の部下、恐らく捕まってますからね。」

 

「…何?」

 

「今頃烏間先生と他のE組メンバーが捕まえていると思いますよ。どうだ村松?」

 

『大量大量!変な装置まで仕掛けていやがったが楽勝だぜ!』

 

『勘違いしないでよね。シロの奴にムカついていただけなんだから、門倉に言われなかったら私達だって黙ってたし。』

 

『速水が勘違いしないでよねって言ったぞ!』

 

『生ツンデレはいいものだね。』

 

『…………』

 

猛の携帯から聞こえる他のE組メンバーの声。どうやら僕等以外は猛の指示で動いていたらしい。

 

「ご理解いただけましたか?貴方のような姑息な人間の考えなんて僕でも読めますよ。僕等を巻き込めば僕等が敵になる。当然の事にそろそろ気づいた方がいいですよ。」

 

「…モンスターに小蝿達が群がるクラスか。大層うざったいね。だが、たしかに私の計画には根本的な見直しが必要なのは認めよう。くれてやるよそんな子は。どの道2、3日の命、皆で仲良く過ごすんだな。」

 

そう言い残してシロさんはいつも通りどこかへと向かっていった。

 

 

 

するとうなされていたイトナ君が突然声を上げる。

 

「……綺麗事も、遠回りもいらない。負け惜しみの強さなんて…反吐が出る!勝ちたい…勝てる強さが欲しい…!!」

 

「やっと人間らしい顔が見れました、イトナ君。」

 

「兄さん…」

 

「殺せんせーと呼んで下さい。私は君の担任ですから。」

 

そう言うと殺せんせーは無理矢理イトナを眠らせる。それとともに触手が暴れる事もなくなった。

 

「さて、今後の話をしましょう。」

 

殺せんせーの一言で僕等は気分を引き締めるのだった。

 

 

門倉視点

 

シロの部下を捕らえたE組メンバーと合流して俺らは人通りの少ない場所で話し合いの最中にあった。

 

「イトナ君に力や勝利への病的な執着がある限り、触手細胞は強く癒着して離れません。」

 

「なんとか切り離せないのかな。」

 

「彼の執着を消さなければ…そのためにはそうなった原因をもっと知らねばなりません。」

 

「でもなぁ …」

 

「身の上話なんて素直にするとは思えないよなぁ。」

 

「その事なんだけどさ、気になってたのよ。どうしてイトナ君はあそこまで強さや力に執着したんだろう?多分そこが原因に繋がると思うんだよね。」

 

「けっ、どうでもいいぜそんなもん。」

 

そう言った寺坂はイトナの首根っこを掴む。

 

「皆それぞれ悩みあんだよ、重い軽いはあんだろうが。俺らんとこでこいつの面倒見させろや、それで死んだらそれまでだろ?」

 

「だけど…」

 

確かに、その方法が妥当である。ここは、イトナのようなタイプに対しては磯貝のような優等生ではなく、寺坂のようなタイプが向いているのだ。それは殺せんせーが嬉しそうにしているから自信を持てる。ただ、周りは納得して居ないようで、少し風向きが悪いように映る。

 

(仕方ない、手を貸してやるか。)

 

「いいんじゃないの?元超問題児の寺坂なら分かる事も多いだろ。」

 

「んだと…!」

 

「たしかに、寺坂になら任せても良さそうだな。皆も、それでいいよな?」

 

磯貝が賛同した事で他の奴らは賛同し、流れが出来た。これで文句を言う奴は出ないだろう。

 

「では、寺坂君。これをイトナ君の頭に巻いておいて下さい。」

 

「あん、これなんだよ?」

 

「対触手ネットを再利用したバンダナです。気休めに近いかもしれませんがそれがあれば一時的にですが、触手の暴走を抑えられます。」

 

「そうか、じゃあ使わせてもらうわ。状況は携帯で報告すっから付いてくんなよ。」

 

寺坂君はそう言うとイトナの頭にバンダナを巻きつけ、何処かへと連れて行った。

 

 

その後、報告によると寺坂組に連れられたイトナは村松のラーメン屋で不味いラーメンを食べ、吉田の実家でバイクに乗せられ、狭間に復讐小説を勧められたりしていた。

 

「何にも計画ないみたいだね…」

 

「うん…」

 

「ま、あいつら基本馬鹿だから仕方ないよ。」

 

遠目から見てそんなやりとりを交わしていると、どうやらイトナの触手が暴走を始めたようで寺坂組が慌てだしている。

 

(まあ、寺坂なら大丈夫だな…)

 

流石にこの考えに確信はない。ただの直感である。

 

 

というか正直こっちが余裕ない。隠してきたが、最近はゴタゴタがありここ2日間一睡もしておらず、今激しく睡魔が襲いかかっている。視界も安定せず、もうこの場で寝てしまいたいくらいだ。

 

「門倉君。」

 

睡魔に耐えていると、気遣うように肩に先生の触手が乗せられる。相変わらず、この人には全てお見通しのようである。

 

「君は今回本当に頑張ってくれました。最大の功績者と言っても間違いはないでしょう。疲れもあるでしょうし、そろそろ帰っても構いませんよ。」

 

「そうですね。ではお先に失礼します。」

 

「タッちゃん!」

 

振り返ると由希子が腕に抱きついてくる。どうやら幼馴染兼恋人の彼女には誤魔化しきれないようだ。殺せんせーも察してくれたようで咳込みしながら、俺らに助け舟を出す。

 

「んんっ!最近は物騒ですからね。皆さん、集団下校を心がけて下さいね。あぁ、神崎さんは門倉君のご近所でしたよね?では門倉君、丁度いいですからそのまま神崎を送ってあげて下さい。」

 

「………分かりました。」

 

「…!分かりました!」

 

殺せんせーからの気遣いに気づいた由希子は嬉しそうに俺の手を引っ張る。

 

「行こう!」

 

「ああ。」

 

(まあ、これも悪くない…)

 

他の奴らの邪推な視線を無視し、柔らかい彼女の手の感触を楽しみながら彼女と共に帰路に着く。

 

 

 

眠さの余り立っていただけの俺は由希子に道中を、引っ張られるように歩いていた。突然俺を引っ張り続けこちらを見ていなかった由希子は立ち止まり、振り返る。

 

「タッちゃん。」

 

「ん、どうした?」

 

「無理してたの?」

 

「いや、してないよ。」

 

嘘は言ってない。本当に無理をした訳ではないのだ。

イトナからの攻撃は大した事はなかった。烏間の一撃に比べたらあんなの痒い部類に入る。

 

むしろシロの企みを読み、作戦を考え磯貝達への指示を飛ばすという普段赤羽がやりそうな事をした所為で気疲れしたのだ。

 

(でもそれを説明しようしたら、長くなりそうで正直面倒なんだよなぁ…)

 

由希子は怪訝な顔で何も言わない俺を見ていた。俺は彼女の頭の上に手を置き、優しく撫でる。

 

「ん……」

 

できるだけ優しく撫でる度に彼女の身体が震え、頬が赤く染まって行く。

 

「本当に大丈夫だよ。少し眠いだけ。」

 

「本当に?」

 

「ああ、俺が嘘を言うと思う?」

 

「うん、タッちゃんは嘘つきだから。」

 

「あ、あははは……」

 

「そんな綺麗な笑顔で言われても…」

 

満面の笑みで言われた一言は俺の心に割と深く突き刺さる。

 

「だから、私が嘘を分かってあげないとね。」

 

「…そっか。」

 

「じゃないと、タッちゃんの恋人は務まりませんから。」

 

……どうやら俺が好きになった子は思ったよりも手強いようである。

 

「俺さ。」

 

「うん…」

 

彼女は俺の話をいつものように聞く。

 

「今回の一件で思い知ったよ。俺はまだまだ甘いって。」

 

今回は俺が被害を被っただけ、でももし次俺以外の人間が標的にされたら俺には守れるのか、自信はない。

 

「………」

 

「赤羽みたいな作戦を立てるのも得意じゃないのにやってみて、気疲れ半端なかったよ。」

 

「タッちゃんは、赤羽君とは違うよ…」

 

彼女は困ったように笑う。

 

「そうだけどさ、まあ憧れるじゃん。」

 

正直な話、前線で指示に従って働いていた方が遥かに楽である。だが、できない事をできないまま終わらせるのは性に合わないのだ。

 

「お疲れ様。タッちゃんは今回頑張ったもんね。」

 

「もう寝てもいい?」

 

「まだだーめ。私を家まで送ってくれるんでしょ?」

 

意地悪そうな笑みで彼女は言う。

 

「そうだな。……なあ、有希子。」

 

「なぁに?」

 

「俺、アメリカに行ってくるよ。」

 

「……そっか。」

 

「驚かないの?」

「この前、タッちゃんの部屋を掃除した時にパスポートと飛行機のチケットが置いてあったから、もしかしたらって思ってたの。」

 

(仕舞い忘れてたのか…ちゃんとしまっとけよ、俺のおっちょこちょい!)

 

「それは、叔父さんの用事?」

 

「うん。父さんが今仕事先で知り合った世界チャンピオンに俺の話をしたらしくてさ。興味を持ったチャンピオンが俺の試合の映像を見て、俺とスパーをしたくなったんだと。防衛戦前の調整相手を日本の若きサムライに頼みたいんだって。中学生相手に何をどう調整するんだと思うけど、まあ折角だから引き受けたよ。」

 

「…叔父さんは何て?」

 

「『僕が仲介しているとは言え、世界チャンピオンから直々の誘い、君の夢のためにも良い機会だと思う。まぁ父親としても久々に君と直接話したいから来てくれると嬉しいよ。学校への申請といったメンドくさい事は自分でやっておくようにね。』ってさ。」

 

1週間前に来たメールを見て何度パソコンに向けてマウスを投げつけたくなったことか…

 

ダメ元で理事長に話をしてみたら、短期留学という名目でいとも簡単に話が通ってしまい、その代わりとして理事長から渡された膨大な課題や書類を処理するのにここ2日間費やされていた。今日2人でいる時殺せんせーに説明したら、向こうでの日々の感想文を提出するようにも言われてしまった。

 

(あの性悪狸が…人の弱みを握って勝ち誇ったような顔しやがって…!)

 

あの時の理事長の哀れみの視線が忘れられない…

 

「叔父さんらしいね。」

 

「巻き込まれるこっちの身にもなってほしいよ。」

 

「…大丈夫なの?」

 

「……うん。」

 

向けられる視線、理由はよく分かる。最近の俺は幾らか無謀なやり方をしてきた。その度に有希子に心配をかけてきたから、不安なのだろう。

 

「向こうも俺が中学生のガキだって知ってるだろうし、多分加減はしてくれるよ。」

 

(本音を言うと、どうせなら本気で手合わせしたいんだけど…)

 

そう言ってしまうと有希子が益々心配してしまうので、本音は胸の内にしまっておく。すると有希子は俯いて黙ってしまい、俺の手を握る力が次第に強くなっていく。

 

「……………」

 

「…有希子?」

 

「いつ、出発するの?」

 

「今週末の朝の便で。体育祭までには戻るつもりだよ。」

 

「…無理、しないでね。タッちゃんは1人になるとすぐに無茶をしちゃうから。」

 

心配してくれる彼女を見て、不謹慎だけど俺はむしろ安心してしまう。彼女がいる限り、俺は迷わない。

 

「うん。暗殺に支障を来すような怪我をするつもりないから安心して。もちろん、有希子を心配させるつもりはないよ。」

 

「…浮気は、ダメだからね。」

 

(か、可愛い!!)

 

上目遣いでこちらを覗き込む彼女の姿に魂が揺さぶられかけるのを堪え、俺は片方の手で彼女の頬を撫でる。

 

「心配しなくても、俺の目には有希子しか映ってないよ。君に会ってからこの想いは一度も変わってない。」

 

「…バカ//」

 

「本当の事だからさ、しょうがないでしょ。」

 

返事はないが、握る手の力は少し強くなる。

 

(頰を染めている俺の彼女はやっぱり世界一可愛い。)

 

そんな結論を頭の中で出し、俺は彼女の手を握り直す。

 

「帰ろう。」

 

「うん…//」

 

俺らは歩き出す。

 

 

「そういえば有希子。アメリカお土産、何がいい?どうせ2週間も行くんだから買ってくるよ。」

 

「私はーーーーー」

 

「そっか、じゃあーーーーーー」

 

 

………………

 

 

 

2人でたわいもない雑談しながら月明かりに照らされた道を歩く。そして俺は2週間という彼女がいない日々を過ごすために、彼女の柔らかい笑顔を目に焼けつけていた。

 

 

 

そうして、俺達の夜は更けていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

潮田視点

 

その数週間後、アメリカに行った門倉猛は

 

 

 

 

 

突如消息を消した

 

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