最高のオワリのために   作:クローザー

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第20話 死神の時間 その2

烏間視点

 

犬の格好をしたタコと共に、連絡が取れない生徒達を探しに俺は公園の敷地内にある地下施設の入り口に辿り着く。

 

念のためにいつでも撃てるように銃の状態を確認し構え扉を確認するが、トラップは仕掛けていないようだ。

 

「生徒を人質に取ったか……」

 

「恐らく私を誘き出し、殺すつもりなんでしょうね。しかし敵にとって計算外なのは私が試合を見ずに帰ってきた事と烏間先生と一緒に来た事。迎撃準備も万全じゃない筈、入りますよ烏間先生!」

 

普段着に着替えたタコと共に入り口から侵入し、内部を進む。進んだ先には照明が消された部屋に入り、すぐに床が動き始める。

 

「…………!?」

 

「にゅっ!?…これは?」

 

「部屋ごと降りている。………イリーナ!?」

 

部屋が下降した後、前方には拘束されたイリーナが銃を突きつけられた状態で立っていた。

 

「うぅにゅ…イリーナ先生まで…」

 

「お前が首謀者か?」

 

「聞いたことはあるかい、死神の名を?」

 

「ロブロから聞いている。」

 

「あれはわざと生かしておいたんだ。商売敵達に手を引いてもらうためには彼の口から広めてもらうのがいい。なあ、そろそろ銃を降ろしてくれないか?それとも味方を撃つ気かい?」

 

(なんて気配のぼかし方だ。)

 

目の前にいる筈なのに姿を朧げにしか感知できない。

 

「あっ!?」

 

「彼女と生徒全員の首に爆弾を仕掛けた。僕の合図1つで爆破できる。」

 

こちらに突き飛ばされたイリーナの首元には確かに爆弾が付いている。この場で解除するのは難しそうだ。

 

俺はイリーナの身の安全を確保する為に担ぎ上げ、部屋の隅に移動する。

 

「人質で脅せば私が素直に死ぬとでも?」

 

「さ、どうだろうね?」

 

「にゅやっ!?」

 

気絶した筈のイリーナは手元に隠した銃でタコに向けて発砲する。それに動揺したタコに畳み掛けるように床が開き、タコはそのまま落ちてしまう。

 

「にゅ、にゅあぁあああ!?」

 

何とか他のスペースに掴まろうとするも、死神が巧みに触手のみ狙い当てるためそのまま落下していった。

 

「殺せんせー!?」

 

「大丈夫?」

 

落ちた先から聞こえる声からどうやらタコは捕らえられた生徒達と合流したようだ。

 

「呆気なかったな。人質を使うまでもなかった。行こう、お別れの言葉を言いに。」

 

死神に言われるがままに階段を下る。

 

「どうだい、簡単だろ?」

 

死神は歩きながら得意げな顔で俺の方を見る。

 

「…………」

 

「折角暗殺が成功しそうだと言うのに、表情が浮かばないね。」

 

「貴様には関係ない。」

 

「そっか。まあロヴロから聞いたと思うけど、僕の邪魔はしない方がいいよ。なに、すぐ殺してみせるさ…君の教え子のようにね。」

 

「…誰のことを言ってるんだ?」

 

「あれ、聞いてないの?」

 

「何をだ。」

 

「僕は先週アメリカの空港で暗殺の仕事をしてね。まあ政治家の子供を殺す簡単な任務だったんだけど、その時妙な横槍が入ったんだ。ターゲットをその邪魔者が庇ったせいで殺し損ねたんだよ。まあ依頼も色々あって取り下げられたから別に良かったんだけどね。」

 

「まさか……!?」

 

「うん。君らの良く知る人物、門倉猛君さ。なんでもその時ちょうど帰国しようとしていたみたいで、偶然居合わせてしまっただけのようだね。」

 

「……………」

 

「護衛を始末して『さあ子供を片そう』と思ったら、いきなり現れて連れ去っちゃってさぁ。空港中で追いかけっこだったよ。あぁでも、口封じのために何人か殺してたら、一丁前に激昂して単独で仕掛けてきてさ。暫く相手してあげたんだけど、なかなか手強くてね。こっちも余裕がなくなったからつい奥の手を使って殺しちゃったんだよね。その後子供を探したら、既に別の飛行機に乗って逃げ去った後。結果的に、気に入らないけど彼の勝ちだね。」

 

「………そうか。」

 

「いやぁでも殺しちゃった時には驚いたよ。何処かで見たなと思ったら3年E組の名簿に載っててさ。長時間ターゲットを連れて僕から完全に逃げて仰せていたから完全に同業者か軍人かと思ったね。政府関係者との取引でなかった事にはしたけど、てっきりE組の管理を任されている君なら知っていると思ったんだけどね。」

 

(そんな事、俺は一言も聞いてないぞ………!)

 

「…死亡は、確認したのか?」

 

「…?いや、途中で致命傷も与えたし心臓を撃ったから確認するまでもなかったかな。あれで生き残る奴はいないよ。」

 

「そうか。なら、死んでいるといいな。」

 

確信はない。だが、彼なら生きている。何故か俺の頭にはそう思えて仕方がない。

 

「…………?まあいいや、着いたよ。」

 

死神は俺の言った事を完全に理解できなかったようだ。俺らはその後会話を交わす事なく階段を下り1番下まで着く。扉を開けると巨大な檻に閉じ込められたタコとE組の生徒達がいた。どうやらタコは舐める事で檻を溶かそうとしていたようである。

 

「あのさぁ、そのペロペロ続けたら全員の首は爆破していくよ。」

 

「ええっ!?そんなぁ…」

 

「さて、急ぐか。今からここに水を流す。ここは放水路だ。上の操作室から指示を出せば、放出される毎秒200トンの水圧と檻で君はところ天状にバラバラになる。」

 

「待て!生徒ごと殺すつもりか。」

 

「当たり前さ。今更待てない。」

 

(こいつ、正気か……?)

 

「……イリーナ!お前それを知った上で。」

 

「プロとして結果優先で動いただけよ…あんたの望む通りでしょ?」

 

「…………」

 

「確かに多少手荒だが、地球を救う最大のチャンスをみすみす逃せと言うのかな?」

 

この言葉で以前上司と交わしたやりとりを思い出す。

 

『もし、生徒の命と引き換えなら殺せる時はどうするか?政府の方針を確認しておきたいのですが。』

 

『そ、それは君…ケースバイケースだよ。アレがアレした時なんかはぁ、そう言う場合もあるだろうし…げ、現場の君が判断したまえ!』

 

(要するに責任は俺が負えって事だ…ならば今は、俺の判断が。)

 

「政府の見解を伝える。」

 

俺は死神に向けて拳を振りかざす。

 

「んぐっ!?」

 

「28人の命は地球より重い。それでもお前が彼らごと殺すつもりならば、俺が止める。」

 

やるしかない、ここからは俺と奴との戦闘だ。やはり俺は彼らを見捨てる事などできない。

 

「「「烏間先生!」」」

 

「か、かっこいい…」

 

「言っておくがイリーナ。」

 

「…?」

 

「プロってのはそんな気楽なもんじゃないぞ。」

 

ぽかんとしたイリーナを他所に俺は上着を脱ぎ、いつでもやり合えるようにする。

 

「させるか!」

 

「烏間先生!トランシーバーをオンに!」

 

タコから言われた通りトランシーバーをオンにした俺は扉から逃げて行った死神を追い、そのまま通路を突き進む。

 

暫く進み、閉まった扉を開けようとするとドアノブに違和感を感じ、少し止まる。

 

(ドアノブ裏に違和感。トラップか…解除の時間はない。)

 

「まあいい、開けよう。」

 

予想通り爆発が起き、扉を盾にやり過ごす。しかし、こちらに損傷は一切無い。

 

「ちっ、思ったより強力だった。」

 

その後も多くのトラップが仕掛けられていたが、一切気にせずに進む。暫くすると大きな空間が視界に入り、同時に死神からの殺気を感じ、柱の影に咄嗟に隠れる。

 

「殺気の察知も完璧か。正直見くびっていたよ。」

 

「まるでトラップの見本市だな。大したもんだ。」

 

「人殺しのスキルを身につけたらね、片っ端から使いたくなるのが殺し屋の性さ。」

 

「……!」

 

ギリギリで避けた弾丸は俺のアタマがあった所を撃ち抜いていた。

 

「ちゃんと当てなよイリーナ。」

 

振り返ると銃をこちらに向けているイリーナがおり、こちらも標準を合わせる。

 

「ごめんね……次はちゃんと当てるわ。」

 

「…死ぬぞ……イリーナ。」

 

「死ぬなんて覚悟の上よ。あんたには理解できないだろうけど、彼は理解してくれた。僕とお前は同じだって。」

 

「そうだね、僕の昔話をしてあげたっけ。テロが絶えない貧困のスラムに生まれ、命なんてすぐに消えるあやふやな世界。信用できるのは金と己がスキルと殺せば人は死ぬという事だけ。だから、イリーナにら僕の気持ちを分かってくれる。」

 

「…くっ!?」

 

言い終わると共に天井が爆発し、瓦礫が落下する。咄嗟に身を翻し、下敷きになるのだけは防ぐ。

 

落下が収まった所で瓦礫を退かし、周囲を見渡すと先ほどの位置に死神がいるのが分かった。

 

「生きているとは、流石だな!でも君は追ってこれない。彼女は、君達を惑わすためだけに雇った。」

 

「…!…イリーナ。」

 

そこには瓦礫の下敷きになり、意識を失っているイリーナの姿があった。

 

「さて、最後の仕上げに入るとしよう。」

 

「くっ!待て!」

 

奥の通路に行く死神を追おうとするも先ほどの爆発で積み上げられた瓦礫が邪魔をし、進む事ができなくなっている。

 

『烏間先生、大丈夫ですか!?』

 

「何だ?」

 

『やっと繋がりました。先ほどの爆発音は?』

 

どうやら檻からでも爆発音が聞こえたようでこちらの安否を確認したいようだ。

 

「俺はいいが、イリーナは瓦礫の下敷きだ。だが構っている暇はない、死神を追う『ダメッ!どうして助けないの烏間先生!』…倉橋。」

 

「イリーナは彼女なりに結果を求めて死神と組んだ。一人前のプロならば、自己責任だ。」

 

『プロだとかどうでもいいよ!15の私が何だけど…ビッチ先生まだ21だよ!』

 

「…………」

 

『多分、安心のない環境で育ったから、ビッチ先生はさ……大人になる途中で大人のカケラを幾つか拾い忘れたんだよ。だから、助けてあげて烏間先生……私達生徒が間違えた時も許してくれるように。』

 

「……………」

 

(どうする…ここでイリーナを助けていたら死神を見失ってしまうかもしれない。だが、助けなければ…)

 

深い悩みを打ち消すように背後から声が聞こえる。

 

「たまには優しくしてあげてもいいんじゃないですか?」

 

「誰だ!!……君は!」

 

俺が来たはずの通路からゆっくりと現れたのは、先程死神が殺したと報告してきた幽霊、もとい門倉猛張本人だった。

 

「お久しぶりです。門倉猛、只今戻りました。」

 

スーツ姿で飄々と現れた彼は笑顔でイリーナの近くへゆっくりと歩み寄る。しかし五体満足というわけでは無く、左手は包帯をしっかりと巻かれている。他の所からも包帯が視界にちらつく。

 

「生きていますね。本当に良かった。」

 

「……君こそ生きて、いたのか?死神からは君を殺したと聞いたのだが…」

 

「急所は外れていましたので、何とか。死神がいなくなった後すぐに医師免許を持っていた父が迅速な応急処置をしてくれたおかげで、大事には至りませんでした。」

 

「そうか…本当に良かった。」

 

「ただ、ナイフで斬られた傷がまだ治っていないので本調子ではないですけどね。」

 

腹部を抑えている所を見ると、どうやら怪我は浅くはないようだ。

 

「何故ここに?」

 

「次のターゲットが殺せんせーであること、そして次のアジトとしてこの地下施設を使う事を僕を撃った後にその場で自分で喋っていたので分かってました。勿論皆を人質として利用する事も。だから恋人や仲間が危機にあるのに、ベットで大人しく寝ている訳にはいかなかったんです。気が付いたら身体が動いてました。」

 

その為に怪我の負ったままここまで来たのは正直命知らずさを感じる。

 

「呆れた根性だな…」

 

「父を説得するのに苦労しましたが、病院を出ると直ぐに飛行機に乗りほんの数時間前に帰国。ついさっき椚ヶ丘市内に入り、この施設に向かいました。ここの構造は事前に調べておいたので、死神に遭遇しないように烏間先生とは別ルートでここまで侵入してきました。」

 

「事情は理解した。だが君にできる事はもうない。だから君は捕らえられているE組メンバーの元へ向かい彼らを解放するんだ。俺はこれから死神を「僕に考えがあります。」…………何?」

 

「僕は奴の手口を知っています。これから話す作戦を烏間先生に実行してもらい、僕がサポートすれば必ず死神を捕獲できます。」

 

「……断ったら?」

 

「なら1人でやります。やられっぱなしは性に合わないので。正直個人的に奴は許せないので。」

 

「…………」

 

「……………お願いします。」

 

迷いのない目、これは彼の言葉が嘘ではない事を証明している。そしてこのような人間は自分の考えを間違いなく曲げない事も俺は知っている。

 

(だが、この目の奥に潜む暗さは何だ?)

 

彼を今単独で行動させてはまずい。それだけが直感で分かってしまった。

 

「…………分かった。言う通りにしよう。ただし、君はあくまでサポートだ。」

 

「ありがとうございます。では話はビッチ先生を助けながら話します。まずビッチ先生の上に載っているこの瓦礫を退かしましょう。僕が片側を持つので烏間先生は反対側を持って下さい。」

 

「ああ。」

 

「行きますよ、せーの!」

 

2人で大きな瓦礫をイリーナの上からどかす。するとその弾みで意識が戻ったようで、イリーナはこちらを見つめていた。

 

「…あんた、何で?それに烏間も…?」

 

「さっさと、出てこい。重い物は背負ってやる。」

 

「早くして下さいビッチ先生。怪我人にこれは……傷口が開きそう…」

 

イリーナを助け出すと、俺は手頃な瓦礫に座らせ応急処置を始める。俺も門倉君も布を持ってないので仕方なく俺は自分のシャツを脱ぎ、破いた上で使う。

 

その間門倉君はトランシーバーでE組へ連絡、感動の再会は抜きにして作戦についての事前の打ち合わせを行っていた。途中向こうから猛反対を受けたようだが何とか説得に成功したようだ。

 

「左腕は骨折の可能性があるな。他に痛むところはあるか?」

 

「ぶっ!?」

 

「おい、血が!?」

 

突然口元を押さえたかと思えば、血が噴き出す。

 

(まさか内臓に怪我が…!?)

 

「いや、あんたがいい身体過ぎて興奮した…」

 

「脳に異常かと思ったが、お前の場合それが正常だな。」

 

心配して損をしたと後悔している自分がいる。

 

「烏間先生、終わりました。」

 

「…説得できたのか?」

 

「ええ。猛反対でしたが、無理を聞いてもらいました。ではこれから作戦を説明します。」

 

トランシーバーを受け取り、また装備する。そのまま作戦についての打ち合わせを行うが、とんでもない内容であった。

 

「…本当にやるつもりか?」

 

「ええ。予想通りに進めば成功率は限りなく高いと思います。それに…」

 

「それに?」

 

「信じてますから、お二人のこと。」

 

イリーナと顔を見合わせる。すぐに分かったのは彼女は完全に今の言葉に乗せられてしまったことだ。

 

(乗るしかないか。)

 

「分かった。ただし君が出るまでもなく解決しそうならば無理はしないこと、いいな?」

 

「勿論です。そうなることを願ってますから。」

 

門倉君の言葉から五分ほど経つと、背後から死神の微かな気配が再び現れた。

 

「本当に戻ってきたのか、君や生徒達の計画通りだな……イリーナ」

 

「…………?」

 

「お前が育った世界とは違うかもしれない。だが、俺と生徒がいる世界にはお前が必要だ。」

 

「行きましょう。」

 

「ああ。」

 

イリーナと合流しようとする死神に待ち伏せようと物陰に隠れる。すると隣にいた門倉君が立ち上がる。

 

「では烏間先生、打ち合わせ通りにお願いします。僕はもしもの時のためのバックアップとして離れた場所で待機しときます。」

 

「…君はもう無理をしなくてもいい。相手はプロの殺し屋の上、怪我人なんだ。」

 

「……そういう言い訳はアメリカで死神に殺されかけた時、もう捨てましたよ。」

 

「君は……」

 

 

 

「だから俺は、誰も殺させやしない。E組の仲間も、貴方も。………そのために俺は戦います。」

 

先程も感じたが、アメリカに行く前とは別人のような目をしている。戦場から帰って来た、生き死にを知った兵士の目を彷彿とさせる。

 

「安心して下さい。もう無理なんてしませんから。」

 

すぐにいつも通りの無邪気な笑顔に戻る。

 

「…ああ。」

 

「それでは、待機しておきます。」

 

門倉君がいなくなった所で死神の声が響く。どうやらイリーナの近くまで接近したようだ。

 

「イリーナ、烏間は?」

 

「気が付いた時にはもういなかったわ。酷いじゃない死神、私ごと爆破するなんて。」

 

「いやぁ、ごめんよ。ああでもしないと目的が達成できなくてね。僕らの世界は騙し騙されの世界だろ?」

 

「…ふっ。別にいいわ。私もね、すぐ男を乗り換えるビッチだから。」

 

その言葉が言い終わると共に、俺は死神の背後を取り背後から両手で拘束する。

 

「……な!?こいつ、正気か!?」

 

「…………」

 

そして後ろ向きに倒れ、そのまま死神共々最下層まで落下する。これは先程門倉君から指示された内容の1つだった。

 

『気配を消して見えなくなるのなら、見えるような場所に導いてしまいましょう。死神には予想がつかない、烏間先生にしかできない方法で。』

 

(成る程、たしかに俺以外では難しいな。)

 

「思ったんだが…お前、そんなに大した殺し屋か?」

 

死神と共に最下層の水面に着水する。十分な水が蓄えられていたせいか怪我は一切ない。先に起き上がり、まだ起き上がらない死神を見失わないようにする。

 

「1つ1つのスキルは流石だが、詰めも脇も甘すぎる。…?!」

 

「言ってくれるね…」

 

「お前!?」

 

水面に顔の皮が浮かび、死神の顔を見ると先程までとは異なる異形なものへと変化していた。血管や眼球、歯がむき出しとなっているその姿は悍ましさを感じる。

 

「顔の皮は剥いで捨てたよ。変装のスキルを極める上で邪魔でしかない。さあ、お前を殺して顔の皮を頂こうか!」

 

向こうからこちらに接近し、徒手格闘を仕掛けてくる。一旦離れると袖に隠したワイヤーや仕込みナイフを使い、こちらを揺さぶりにかかる。

 

(敢えて接近戦に持ち込んだか、何を隠しているか分からん。長引かせてはダメだ。)

 

攻めあぐねたのか、死神は突然口を開く。

 

「真実を言うよ、烏間先生。悲惨な境遇で育ったなんて作り話、あの女を引き入れるトークスキルさ。ククク。」

 

「お前…」

 

「僕の親は、殺し屋に殺された。」

 

「…!?」

 

「死んでも特に悲しくはなかった。ただ、目の前で親を瞬殺した殺し屋の動きに僕はこう思ったんだ。なんて美しいスキルだろうと。」

 

死神はナイフを捨て、花を取り出す。

 

「僕は魅了された、暗殺とは美しいスキルの集合体だ。僕が極めたスキルの極意、ご覧にいれよう。」

 

花を上空に投げ放ち、銃の形を取った右手をこちらに向ける。

 

(……まずい!?)

 

一瞬瞬きをすると、気づけば俺の視界にはあらぬ方向へ曲がった死神の指とどこからともなく現れた門倉猛の姿が映っていた。

 

「……へ?」

 

「待ってたよ、その隙を。」

 

「なっ!?ぉごぉおおお!」

 

ポカンとしていた死神も指が折られた事に気付き痛みのあまり絶叫を上げその場に蹲る。

 

しかし、俺はそんな事よりも別の事に驚きを隠せずにいた。

 

(……死神と、同じだ。いや、それ以上に門倉君の姿が全く見えなかった。)

 

門倉猛は死神と同様、それ以上の気配を消すスキルを使っていた。それは姿が朧げに見えるどころか、存在を一切感知できない。俺も死神も彼が声を発するまで一切彼の存在に気づけなかった。

 

(……末恐ろしい才能だ。)

 

彼の中にもある殺しの才能は渚君と同等の潜在性を秘めているかもしれない。

 

「その気配を消すスキル、覚えた。あの人から教わった事がこんな形で生かされるとは思わなかった……それにしても、『死神の見えない鎌。僅か10口径、極小の弾丸を筋肉と骨の間隔に通し大動脈に裂け目を入れる。大動脈は自らの血流圧で裂け目を広げ、大量出血で死に至る。それこそ、死神にしかできない総合芸術。』だったっけ?嬉しそうに大きな声で話すから嫌でも耳に入っていたよ。暗殺者が己の手口を素直に話すなんて、手品師が手品のタネをバラすのと同じくらい愚策だ。」

 

「なぜ、お前が生きて…あの時確かにお前は僕が…」

 

「殺した筈なのに…か?残念、あの時あんたが撃った弾丸は胸ポケットに入っていたこれに当たったんだよ。他の切り傷で血が出ていたから、死んだと勘違いしたみたいだけどね。」

 

取り出されたのは十字架のネックレス、十字架の部分には言う通り弾がめり込んでいた。

 

「なにぃ…?そんな、馬鹿な……」

 

「アメリカ行きへのお守りとして有希子から渡されていたペンダント、本当に…持っていてよかった。本当に漫画のような展開だけど、あんたが心臓だけ狙ってくれたおかげで助かったよ。当たった時は痛かったけどね。その致命的なミスで、三流のあんたはこの場で負ける。」

 

「くそぉおおおおお!!」

 

呻き声をあげる死神から用済みであるかのように離れた門倉君が今度はこちらに近づく。

 

「……すみません。お騒がせしました。」

 

「無理はするなと、言ったはずだが…?」

 

彼なら必ず動くと分かっていた。だが、分かっていてもそれを止められなかった俺の責任でもある。

 

「殺し屋としての彼を殺したかったんです、確実に自分の手で。指を元に戻らないように徹底的に折りました。もう使い物にはならない筈です。だから離れて大人しくしておきます。またトランシーバーをお借りしても?」

 

「ああ。」

 

「ありがとうございます……ああ、殺せんせー?門倉です。ええ、これから烏間先生が拘束します。有希子に代わってもらってもーーーーー」

 

離れる門倉君を見送り、俺は折れた指を庇いながら立ち上がる死神へ近づく。

 

「覚悟はいいな、死神。俺の大事な生徒と同僚に手を出したんだ。」

 

「ま、待てぇ!あいつらに手を出したのは謝る!!だが、僕以外に誰が奴をやれると!」

 

「スキルなら、ウチの教室に全て揃っている。」

 

握り拳を力を込めて作り、奴の顔面めがけて思い切り振りかぶる。

 

「ぐがっ!」

 

そのまま勢いあまり床とぶつかり、奴は意識を失う。

 

「殺し屋なんて辞めたらどうだ?職安に行けば、そのスキルも役に立つぞ。」

 

 

 

 

完全に気絶した死神を拘束した俺は、イリーナと門倉君を連れ、檻から生徒達とタコを開放する。

 

着いた途端久しぶりに姿を見せた門倉君にクラス全員とタコが非常に驚き、ざわついた。クラスメイトの顔を見て安心したのか、力が抜けその場で倒れてしまう。少し休めば動けるという言うので少し離れた所で寝かせ、付き添いは周りが気を使ったせいか神崎さんのみとなった。

 

「少し休めばまた動けるようになるから、そんなに心配しなくていいよ。怪我もほとんど治りかけだしさ。」

 

「……………」

 

「……あ〜言い忘れてたけど、ただいま。」

 

「………………」

 

「心配かけてごめん。会いたかったよ。」

 

「………」

 

「お願いだから何か喋ってくれよ……」

 

胸に顔を埋め無言で涙を流す神崎さんにお手上げ状態の門倉君を放置し、他の全員は拘束された状態で気絶している死神の様子を伺っていた。

 

「驚異的なスキルを持った男だったが、過信しすぎていた。」

 

「影響を与えた男が愚かだったのです。本来もっと正しい道でスキルを使えた筈なのに。」

 

「人間を生かすも殺すも周囲の世界と人間次第か。」

 

「そういう事です。ねえ、イリーナ先生?」

 

「…!?……………」

 

「てめえビッチ!」

 

「なに逃げようとしてるんだこの野郎!」

 

「ヒィイイ〜!」

 

こっそりと逃げようとするイリーナを生徒達が追いかけ、取り押さえる。

 

「イッタ…あぁもう好きなようにすればいいわ!男子は溜まりまくった日頃の獣欲を、女子は私の美貌への日頃の嫉妬を!思う存分性的な暴力で発散させればいいじゃない!」

 

(何を話しているんだ…)

 

「発想が荒んでんな…」

 

「いいから普段通り来いよ学校。何日もばっくれてねーでよ。」

 

「続き、気になってたんだよね。アラブの王族誑かして戦争寸前だった話。」

 

「来ないなら、先生に借りてた花男のフランス語版、借りパクしちゃうよ。」

 

「…殺す寸前までいったのよ、あんた達の事。」

 

「何か問題でも?裏切ったりやばい事したり、それでこそのビッチじゃないか。」

 

「たかがビッチと学校生活楽しめないで、ウチら何の為に殺し屋兼中学生やってんのよ?」

 

「考えてもみろよ、死神なんつー殺し屋に殺されかけても生き残ってわざわざアメリカから仕返しに来るような不死身馬鹿がいるようなクラスなんだぜ。あんたの裏切りなんてそいつの登場で完全に忘れてたわ。」

 

「おいバカ坂、誰が不死身馬鹿だ誰が。」

 

「お前だよバァーカ。怪我人のくせに調子に乗ってわざわざアメリカから来るからそんなとこで無様に寝てんだろーが。てゆーかなんでわざわざスーツ何だよ!?完全ヤ◯ザじゃねーか。」

 

「これしかなかったんだよ。好きでこんな格好してるんじゃないわ!!」

 

「たしかに夏休みの時も思ったけど、その格好の門倉は完全にヤ◯ザだな。」

 

イリーナの事をそっちのけで門倉君へのイジリが始まる。中心的人物、門倉猛が戻る事でクラス全体に笑顔が戻る。これで、ようやく全員が揃ったのだ。

 

「そういう事だ。」

 

「あっ!」

 

先程死神から奪った花を俺はイリーナに渡す。

 

「あはぁー!?」

 

「この花は、生徒達からの借り物じゃない。自分の意思で敵を倒して得た物だ。誕生日は、それならいいか?」

 

「……はい。」

 

すると生徒達から歓声が上がり、タコがパパラッチのように分身を始める。

 

「おぉー、可能性出てきたねこりゃ!」

 

「ツバつけてたのにぃ〜」

 

「よしよし。」

 

「烏間先生、いやらしい展開に入る前に一言あります。」

 

「断じて入らんが言ってみろ。」

 

(そんな展開に入る気は一切ない!)

 

「今後、このような危険に生徒達を決して巻き込みたくない。安心して殺し殺される事ができる環境づくりを貴方方に強く要求します。そして生徒達の身の保証も。」

 

その声だけでどれだけの怒気を含んでいるかはよくわかってしまう。恐らく門倉君の件も大きく含んでいるのだろう。

 

「分かっている。」

 

 

 

ここから先は俺の戦いだ。

 

『暗殺によって生徒を巻き添えにした場合賞金は支払われないものとする、か。随分と子供好きになったものだな、烏間。』

 

『生徒が安全を求めるのは当然の権利かと。それに門倉猛の件について、政府は生徒側から信頼を失って当然かと。あなた方は自分達のために1人の生徒を見捨てたのだから。』

 

『ぐ……まあいい、条件を飲もう。どのみちもう終わりだ。個人レベルのフリーの殺し屋に頼る時期はな。』

 

「………」

 

『各国共同で進めている、最終暗殺プロジェクトだ。そして万全のために新たな天才技術者も加入した。これでもうあのタコは終わりだ。』

 

 

そんなやりとりを昨日上司と交わした、俺は今日E組校舎の前に立っていた。

 

「………」

 

(この教室が、どんな結果を迎えるか…俺には分からない。)

 

「腕は?」

 

「平気。」

 

(だが、この場所は良い世界だ。今は心の底からそう思う。)

 

 

 

 

そう思いながら俺はイリーナと共に進んでいく。

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