最高のオワリのために   作:クローザー

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第3話 転校生の時間その1

門倉猛視点

 

「待っていた門倉君。朝早くに済まない。」

 

「はい、本当に凄い早いですね。下手したら寝坊してました。」

 

現時刻は午前7時30分、普通の中学生ならまだ自宅で朝食を食べているであろう時間帯なのだが、俺はE組校舎の職員室にいる。修学旅行が終わり早速今日からE組に編入するのだが、編入にあたって渡したい物があるという烏間先生の要望でこの時間帯に登校している。

 

「連絡した通り、他の生徒が来る前に君に渡したい物があってね。まずは君の出した条件に関係している書類だ。本日付で椚ヶ丘中学校に今年度分の君の学費を振り込んでおいた。確認をしてくれ。」

 

「分かりました。」

 

渡された書類に目を通すと、たしかに振り込みを証明する内容が記述されており、理事長の印鑑も押されている。正直1生徒に対しての対応としては大袈裟すぎるものがある。

 

「確認しました。ありがとうございます。」

 

「いや、君達がより暗殺しやすいように環境作りをする事が私の仕事だから構わない。さて、次に暗殺の道具を渡そう。」

 

そう言うと烏間先生はエアガン、緑色のゴムナイフ、赤色で薄手の手袋を自分の机の上に並べた。

 

「この3つが君に渡す暗殺道具だ。エアガンの弾、ナイフ、手袋にそれぞれ対奴用の物質が含まれており、奴のみにダメージを与えられないようになっている。君は銃の初心者でかつボクシングの経験者だから是非ともしばらくは手袋を中心に活用してほしい。」

 

「成る程。」

 

手に取ると自分の手にナイフを突き立てても確かに一切刺さらず、まるでゴムのようにグネグネしている。手袋も至って普通のレザーグローブのようだ。

 

(装備も充実している。少しずつ銃にも慣れるように練習しなければな。それにしても‥‥)

 

周りを見渡しても、本来職員室に居る筈のターゲットが見当たらない。

 

「殺せんせーはいらっしゃらないんですか?あの人の事だからこの時間帯には居ると思ってたんですけど…」

 

「ああ、奴はアメリカの本場のハンバーガーが食べたいという理由で君が来る5分前にアメリカに向かったよ。きっと授業が始まるまでには戻るだろう。」

 

「な、成る程。」

 

(規格外過ぎだろ!?)

 

「さて、ここからは別件になるんだが」

 

「はい?」

 

椅子から立ち上がると烏間先生はスーツの上着を脱ぎ、ワイシャツの腕部分を捲り、ナイフを手に取る。

 

「今後の作戦立案のために、俺が君の実力を計るテストをこれからする事となった。上層部も君の実力を知りたくてな。これから実戦形式の訓練を受けてもらう。」

 

(‥‥‥洗礼、か。)

 

正直な所、予想は付いていた。暗殺を目的としている集団に入るのに何らかの試験が無ければ可笑しい話だ。

 

「あぁ、だから動きやすい格好で来いって連絡したんですね。分かりました、では着替えとウォーミングアップで20分程いただいても構いませんか?」

 

「ああ、問題ない。支度ができたら呼んでくれ。」

 

烏間先生に見送られ職員室を出た俺は誰も居ない教室に移動し着替え、柔軟やランニングで身体を解して20分を費やした。そして草が生い茂るグラウンドに向かうとそこに烏間先生が立っている。

 

「来たか、門倉君。準備は大丈夫か?」

 

「ええ。もう大丈夫です。それでどんな事をするんですか?」

 

「これを使ってもらう。」

 

投げ渡されたのは先程見た緑色の対先生用ナイフ。烏間先生も同じ物を持っている。

 

「そのナイフは少し特殊で、突き立てられると水性インクが出るようになっている。俺のナイフも同様だ。このナイフを使って、グラウンドの敷地内で30分間相手により多くナイフを突き立てた方の勝ちとする。」

 

ナイフを草に当てるとたしかに当たった部分にインクが付着している。これなら身体に当たった場合どこに当たったか、一目瞭然だ。

 

(というか、30分って長っ!?烏間先生って精鋭部隊出身のエリートなんだろ?そんな人相手に保つのか俺‥‥?)

 

「ちなみに…このテストって皆やったんですか?」

 

ふと頭の中に浮かぶ有希子の顔。とてもじゃないが女子生徒がこなせるとは思えない過酷さだ。その証拠に烏間先生は俺の質問にすぐ首を振った。

 

「いや、やらせてない。そもそも今の彼等では俺にナイフを当てる事自体が難しいだろうからな。」

 

「じゃあなんで僕にはやらせるんですか!?」

 

烏間先生は不敵な笑顔を浮かべ、構える。

 

「君の経歴を見た上で、このレベルの試験がちょうど良いと俺が判断した。」

 

(過大評価し過ぎだろ!?…でも、やるしかないか。)

 

「現時刻は7時55分、HRが始まるまであまり時間がないな。そろそろ始めよう。」

 

「分かりました。では遠慮なく行かせてもらいます!」

 

ナイフを逆手に持ち替えた俺はそのまま烏間先生に斬りかかっていった。

 

 

潮田渚視点

 

朝校舎に登校すると、僕が一番最後だったようで皆居る。ただ教室内がいつもより騒がしく、皆窓からグラウンドを覗いている。

 

「渚、渚!こっち来て!凄いよ!」

 

「どうしたの茅野?ってあれは!?」

 

茅野に呼ばれてグラウンドの方を見ると、そこには烏間先生とここに居ない筈の門倉君がナイフを使って戦闘してた。

 

『踏み込みが甘い!』

 

『クッソ!これでもダメかよ!』

 

『では今度はこちらから行くぞ!』

 

門倉君のナイフによる斬りつけを烏間先生が避け、すかさずナイフを振り下ろす。一方で門倉君も振り下ろされたナイフを躱し、烏間先生に斬りつけようとする。ただそれを何度も何度も秒単位で繰り返していた。ただしその度に互いの手の内を探り合うかのように少しずつ変化を加えていっている。その中でも門倉君はボクシング経験があるためナイフを逆手に持ちジャブを打つ要領で斬りつけている。

 

「…凄いな。」

 

「うん、純粋にレベルが違う…」

 

磯貝君も純粋に驚きを隠せずにいる。門倉君の動きは僕等より一個上の次元にあるようだ。ナイフを避け、斬りつける、たったそれだけでも一連の洗練された動きは素人とは思えずまるで芸術品のようでつい見入ってしまう。

 

「タッちゃん…」

 

しかし、神崎さんだけは心配そうな様子で2人を眺めている。

 

「神崎さん、どうかしたの?」

 

僕に気付いた神崎さんはスグに笑顔を作って、首を横に振る。

 

「ううん、何でもないの。」

 

「そ、そういえば、神崎さんって門倉君と幼馴染なんだよね?」

 

慌てて話題を逸らすと、神崎さんはさっき打って変わってとても嬉しそうに話し始めた。

 

「ええ。家が隣同士で、幼稚園の頃から一緒だったわ。今でも料理を作りにタッ…門倉君の家に泊まりに行くわ。」

 

「ええっ!?それって通いづ」

 

「終わったみたいだぞ!」

 

続きを言う事を遮るように告げられた言葉は僕にグラウンドへと視線を向けさせた。見てみるとそこには地面に寝そべる門倉君と、膝に手を付いて珍しく息を上げている烏間先生がいる。

 

『ハァ……ハァ、30分で10回も当てるとは見事だ。』

 

『…そんな台詞……15回当てた人に言われ…たくないです。』

 

『いやいや、素晴らしかった。最後の方は君に殆ど動きを読まれていたしな。』

 

『烏間先生だって読んでいたじゃないですか。しかももう息整えてるし、今回は僕の完敗です。』

 

『何はともあれ試験は終了だ。お疲れ。これからホームルームだから、着替えて教室に向かってくれ。』

 

『あ、でも着替えを教室に置きっ放しなんですよね…なので、このまま行きます。』

 

『そうか。ではこれから教室に向かおう。とは言ってもクラスメイト達は既に君の事に気付いているようだがな。』

 

『え?』

 

門倉君がこちらに振り向いたため皆慌てて窓際から離れ視線を外す。そして、僕等は誰だか分かっている転校生を迎える準備を始めるのだった。

 

 

 

始業のチャイムがなり、殺せんせーが入り、出席を取り始める。

 

「おはようございます!今日は皆さんに重大なお知らせがあります。ななな何とぉ!転入生ですよぉ!」

 

((((((知ってるよ…))))))

 

多分クラス全員がそう思っている。

 

「それでは入って来てください!」

 

『はい。』

 

扉を開けて入って来たのは、予想通り門倉君だった。

 

「それでは門倉君!自己紹介をお願いします。」

 

「はい。門倉猛です。3年A組から来ました。修学旅行中に殺せんせーを目撃してしまい、このクラスに来る事になりました。ただ、E組に来た以上は全力で暗殺に取り組もうと思います。どうぞ、よろしく。」

 

「ニュヤッ!か、門倉君。昨日の敵は今日の友という言葉もありますし、あの時の事はなかった事に…」

 

「昨日の敵は今日の友って、そもそも僕は先生の味方になるつもりはありませんよ。暗殺者として全力で殺しに行くだけです。」

 

その瞬間、僕でも分かるぐらいの殺気が門倉君から殺せんせーに向かって放たれる。だが殺せんせーは笑顔を崩さない。

 

「ヌルフフフフフ。良い殺意です。殺せると良いですねぇ先生を。」

 

「殺しますよ、必ずね。」

 

「楽しみにしてます。席についてですが、カルマ君の隣に席を設けたので、そこに座って下さいね。それでは、授業を始めます。」

 

門倉君と殺せんせーの不敵な笑みのやり取りを見て、僕等はE組に来てスグに作られてしまった門倉君の中にある殺意に皆驚きを隠せなかった。

 

「分かりました。ところで、先生。」

 

「はぁい何ですか?」

 

「あの黒い箱何ですか?」

 

「あ……」

 

・・・・・・・・・・!

 

「「「「「「忘れてたのかよ!!?」」」」」

 

「ニュヤ!?」

 

「その事については俺が説明しよう。」

 

僕等全員からのツッコミでテンパる殺せんせーを尻目に、沈黙を貫いていた烏間先生がため息混じりに口火を切って、話し始める。

 

「彼女は暗殺のためにノルウェーから送り込まれた人工知能搭載の兵器、自律思考固定砲台だ。」

 

画面に表示された少女の顔は無機質そのものだ。

 

「はじめまして、皆さん。自律思考固定砲台です。」

 

その時僕等は知らなかった。

 

この自律思考固定砲台が原因で一悶着が起きるとは……

 

 

 

烏間視点

 

ホームルームを終え、授業が始まった。俺は職員室に戻り、書類に目を通していた。内容は今朝E組に合流した門倉猛君についての調査資料だ。

 

「ちょっと烏間〜何見てんのよ?」

 

「うるさい。仕事の邪魔をするな。」

 

「何よいきなり!?ってあぁ、今日入ったあのガキの資料ね。」

 

「おい!変な風に乗りかかるな!」

 

「良いじゃないのぉべ、つ、に♡」

 

「全く…」

 

同僚の暗殺者、イリーナ後ろから覆いかぶさってくるがそれを無視し俺は資料に目を通す。

 

「ちょっと何これ?!この数値本当なの?」

 

イリーナが驚くのも無理はない。彼の身体能力のデータはどれを取っても基準値を遥かに超えており、俺のを少し下回っている程度だからだ。

 

「烏間のとほぼ一緒じゃないの。あいつそんなに凄いわけ?」

 

「ああ。」

 

今日行ったテストでは彼が1回だけでも俺にナイフを当てれたら合格点だった。しかし彼はこちらの予想を遥かに越え、10回も俺に当てる事に成功している。

 

(おそらく彼は現時点、そしてこれからも‥)

 

「間違いなく近接戦ならE組最強だろうな。」

 

ただ、先程の動きを見る限り身体能力だけに頼っている訳ではないのだろう。経歴を見ると彼は柔道、空手、剣道、合気道といったメジャーな武道を一通り修めているし、マイナーな格闘術にも手を出しているようだ。ボクシングの試合でも他で学んだ歩行法などを利用して相手を翻弄していたようだ。

 

(条件さえ揃えば、彼ならばもしかしたら‥‥)

 

『目標の殲滅、開始します。』

 

ズダダダダダダダダタッ!!

 

『撃ちすぎだろ!?』

 

『あ、岡島も撃たれてる!?』

 

『殺せんせー、課題を解いたのでランニング行ってきます。』

 

『ニュヤッ!門倉君、その問題大学入試レベルですよしかも合ってるし!?あああ、待って下さい!また新しい問題を作りますから!』

 

 

まだまだ問題は尽きなさそうである。どうやら俺の胃はまだまだ痛くなりそうだ。

 

 

 

門倉視点

 

ホームルームの後、自律思考固定砲台が無闇矢鱈と弾を撃って殺せんせーの触手を1本破壊したり、岡島がついでに撃たれてたり、竹林が初めて喋ったり、俺がクラスメイトと交流を深めたり、有希子と一緒に昼飯食ってる時に中村と赤羽から冷やかされたり、寺坂が自律思考固定砲台をガムテープで縛り付けたりして兎に角色々あった、うん。そして気が付いたらもう放課後になっていた。

 

「有希子、用事が特にないなら一緒に帰らないか?」

 

「うん!」

 

席を立ち有希子に声をかけるととても嬉しそうな顔をしている彼女と共に教室を出ようとしたのだが、ゲスな笑みをした2人に声をかけられる。

 

「おおっと見てくださいよ中村さん。あのお2人仲良く下校しようとしてますよ〜」

 

「ヒューヒュー熱いねお2人さん!」

 

「小学生かよ…」

 

「リア充死ぬべし!」

 

「岡島、少し黙っててくれ…」

 

「……………//」

 

この手の冗談はあまり気にしないのだが有希子が顔を赤くしてしまい、内心困り果てる。

 

「そんな疑われるような関係じゃないよって杉野近いから。」

 

赤羽達にからかわれるのも悩みだが、より悩ましいのは杉野がさっきから至近距離でずっと睨んできてる方だ。どうやら昼食の一件から俺の事をライバル視しているようだ。というか本当に鼻息がフンフン当たってきて気持ち悪い。

 

「本当か!?本当なんだろうな!本当に幼馴染なだけなんだな!?」

 

唾が頬にかかってかなり鬱陶しいから、少しこちらもムキになってしまう。

 

「本当だって!昼休みの時も言っただろ俺と有希子はただの幼馴染だって!なあ、有希子?」

 

「う、うん。私とタッ…門倉君はただの幼馴染だよ……//」

 

(おいおい、そんな言い方だと余計に誤解が…)

 

何故か顔を赤くしてしまっている、誤解がさらに誤解を生みそうだ。案の定赤羽達は嬉しそうな顔をし、杉野は顔を真っ赤にし、俺を睨み指差す。

 

「絶対お前には負けないからな!」

 

「あ、杉野!門倉君、ごめんね。杉野、待ってよ!」

 

杉野が走って教室を出て行き、潮田がそれに続く。

 

「じゃあ俺等も帰りますか〜」

 

「そうだね〜じゃあねお二人さん!」

 

「ばいば〜い。」

 

赤羽、中村、倉橋に続いて、皆ぞろぞろと教室から出て行き、結果残されたのは俺と有希子となった。

 

「………」

 

「……//」

 

「か、帰るか。」

 

「……うん//」

 

かなりの気まずさを残しながら俺達2人は教室を後にした。しかし、その後の帰り道でも先程の冷やかしの所為でかなり気まずさがあり、会話が生まれない。

 

「全く赤羽と中村はなんとかならないかな〜あの人をからかう癖を直してくれればなぁ。」

 

「……うん」

 

「有希子もごめんな、変な噂立てられちゃって。」

 

「いや、別にそんな事は//」

 

「ん?」

 

少し言い淀んだ表現を聞き損ねた俺が聞き直そうとしたら

 

「おやおや、これこれは。元、A組の門倉君じゃないか?」

 

「学秀君……」

 

あまりこの場に好ましくない人物が来てしまったようだ。

 

 

 

神崎視点

 

「学秀君……」

 

皆にからかわれて気まずい下校道、私は久々にタッちゃんと一緒に帰れて嬉しかった。ただその時間を邪魔するように現れたのは、椚ヶ丘中学校生徒会長の浅野学秀君だった。浅野君は名前を呼ばれた途端これまでの余裕そうな笑みから余裕の無い表情となり声を荒らげる。

 

「だからその呼び方は止めろと言っているだろ!君付けは止めろ、君付けは!」

 

「別にいいじゃん、呼び方なんてさ。一々細かいな学秀君は。」

 

「細かくない!全く貴様はいつもいつも!」

 

浅野君は赤面していたが、私からの視線に気付くとすぐに深呼吸し冷静さを取り戻す。

 

「それにしても残念だよ。君のような生徒がA組からE組へ行ってしまうなんて。是非とも僕の手で矯正したかったよ。」

 

「俺より成績が低い学秀君には無理じゃないかな、きっと。俺が君を手入れして終わるだけだと思うよ。」

 

「うるさい!全く口が減らない奴だ貴様…あぁ」

 

浅野君は私を見ると、とても下卑た笑みを浮かべる。

 

「何故かと思っていたが、まさか女のためにE組に落ちたとは、全く『A組の麒麟児』と呼ばれていた男が笑わせるよ。まあ君はそこにいる女子のような低レベルな人間と低レベル同士付き合っていたまえ。」

 

見当違いな勘違いだ。彼は私のためにE組に落ちた訳ではない。私にはそれが許せなかった。

 

「そんな…そんな言い方って!私ならともかくタッ…門倉君の事は!」

 

あまりにも酷な言い方についいつもの呼び方に戻りかけ抑えた私が文句を言おうとするとタッちゃんが私を手で止め、私の耳元で囁く。

 

〔大丈夫。問題ないよ。〕

 

そう言うとタッちゃんは私を浅野君から隠すように立つ。

 

「浅野学秀、1つ賭けをしよう。」

 

「…何だと?」

 

「今度の期末試験の順位で俺が君より順位が上だったら彼女への侮辱発言を撤回してもらう。俺が下だったら‥」

 

「君が下だったら、何をしてくれるんだ?まさか学園を辞める訳ではないだろ。馬鹿馬鹿しい、話にならないな。」

 

浅野君が勝ち誇ったように言い残し、立ち去ろうとする。そこでタッちゃんが口を開く。

 

「いいよ、負けたら俺学校辞めるよ。」

 

「なっ!?」

 

「タッちゃん!?」

 

「なんなら追加で今後一緒お前の奴隷でもやってやるよ。」

 

「貴様、正気か!?」

 

「正気さ、お前がその言葉で汚したのは俺にとっては全てを賭けてまで守る物だったという事だ。ただし俺が勝った暁には必ず約束を守ってくれよ、学秀君。」

 

「……クッ!良いだろう、では中間試験を楽しみに待つとしよう。貴様が僕に敗北する瞬間が楽しみだ。これで失敬する。」

 

そう言うと浅野君はそそくさと帰って行ってしまい、その場には私とタッちゃんだけ残される。ずっと浅野君を睨み続けたタッちゃんはホッと一息つき、私の方に振り返り、いつも通りの笑顔で言う。

 

「さ、帰ろう。」

 

差し出された手に私は何もわかってないこの人に腹が立ち、応えず事なくむしろ叩き落とす。

 

「馬鹿っ!!」

 

5月の夕方はよく声が響き渡る。

 

 

 

 

門倉視点

 

有希子が涙を流してから怒ってから、3時間弱。一切口を聞いてくれなくなった彼女と八百屋や精肉店に寄り、一旦家に帰らせ、私服に着替えた彼女が俺の家に来て料理をし始めて今に至る。

 

「なあ、有希子。」

 

「……………」

 

(凄い、きまずい…)

 

無言の食卓、それは作ってもらった男からしてみれば精神的な苦痛の無限地獄。

 

「あー、今日の料理美味しいな。また腕を上げたんじゃないか?」

 

「……………ん//」

 

まあ出される料理はオムライスで書かれている文字も「タッちゃん」で、味もとても美味しいからそこまで怒ってはないと思う。褒めたらちょっと喜んでいたし。

そもそもこれは幼い頃から有希子が俺に本気で怒っている時のアピールなのだ。なかなか怒らない彼女だが1度怒らせると頬を膨らませてひたすら無言の状態を続ける。

以前は小1の時に俺がバレンタインのチョコを他の女子からもらったり、6年の時に有希子に言いがかりをつけてきた女子を論破して泣かせた時にこうなった。どちらも機嫌が直るまで1日以上はかかっている。俺としては正直早急に解決したい限りだ。

 

「なあ、機嫌、直してくれないか?」

 

「……………」

 

(クソッ!何でこんな時に父さんは居ないんだよ!?)

 

こういう時にいつも家を留守にしがちにする父を恨めしく思う。しかしそうこうしている間に、俺も有希子も料理を食べ終え、片付けが始まる。

 

「…………」

 

「…………」

 

洗い場で2人並んで皿を洗っていても全くの無言。いつもなら『タッちゃんあのね〜』と何気ない話題を振ってくれるのだが、とても気まずい。しまった、もう片付けが終わってしまった、あとは有希子を家に送るだけだ。

 

「もう帰るね。課題を今日中に終わらせなきゃいけないから。」

 

そう言い残し、そそくさと玄関に向かう有希子の腕を掴んで俺は引き止める。

 

「待てって。さすがに近所でも1人はヤバイって明日学校で「学校を辞めたら明日なんて無いんだよ!!」…有希子。」

 

振り向いた彼女は目に涙を浮かべていた。

 

「タッちゃん考えなかったの?学校を辞めちゃったらもう一緒に思い出を作れないんだよ、一緒に授業を受けれないんだよ、もう一緒に学校でお昼ご飯を食べれないんだよ!!私そんなの嫌だよ!」

 

「有希子……」

 

「タッちゃんはいつもそう。自分の事は考えないで、いつも人の為に喧嘩してその度私がどんな気持ちでいたか分かる?自分の所為で大切な人が傷付く姿を心配して見てる人の事も考えてよ!」

 

「有希子ちょっと待てって!」

 

俺は慌てて有希子の後を追いかけ、家を飛び出した。

 

 

 

殺せんせー視点

 

「いや〜今日は北海道のジンギスカンを堪能しました。やっぱり本場の味が最高ですね〜おや、あれは?」

 

北海道で食事を済ませた私は校舎へ向かって音速で移動している最中、私の目にとまったのは本日付けでクラス移動した門倉猛君の家だった。

 

(通りかかった事ですし、門倉君の課題の進捗状況の確認を兼ねて遊びに行きましょうかね。)

 

そう思い、門倉君の家の屋根に着陸するとふと声が聞こえてきた。

 

「ニュヤ!あれは!」

 

(私のレーダーにビンビンに反応している!これはまさか!)

 

遠距離を見るモードになると、2人の男女が映る。

 

「いや!離して!」

 

「待てって!頼むから話を聞いてくれよ!」

 

そこには逃げようとする神崎さんを必死に繋ぎとめようとする門倉君の姿が。

 

「こ、これは…修羅場ですね。」

 

この時私は確信しました、恐らく門倉君と神崎さんの痴情の縺れによる修羅場であると。

 

(ここはクラスの和を乱さないためにも、きちんと情報を仕入れるべきですね。グフフフフ!)

 

そう考えた私はそのまま2人の近くまで静かに近づきました。上空から改めて確認すると、あの後門倉君が神崎さんを後ろから無理矢理抱きしめたようで、それに神崎さんが抵抗している様子です。

 

「離して!」

 

「聞けって!ああもう!」

 

すると痺れを切らした門倉君が神崎さんをまたもや無理矢理振り向かせて真正面から抱きしめました。完全門倉君の分厚い胸板に沈んだ神崎さんが怒りとは別に真っ赤になっているのが、手に取るように分かりました。

 

(おおっとなんていうラブロマンス!こ、これはカメラで撮らなければ!!)

 

茂みに隠れ隙間から写真に収めていると、神崎さんは先程より落ち着いたようでもう暴れなくなってました。それに気付いた門倉君が口を開きます。

 

「有希子の思いを考えなかったのは俺の落ち度だ、悪かった。ただ今回の勝負については俺は勝つ気しかなかったら、ふっかけたんだ。それに、大切な幼馴染が低レベルだなんて馬鹿にされて俺には耐えていられなかったんだよ。」

 

「……でも、私のせいでタッちゃんが学校を辞めたらってふぁ!?」

 

門倉君がより一層抱きしめる力を込めたらしく、それに比例して神崎さんの顔が赤くなる。

 

「安心しろよ、俺はお前を残して辞める訳がないだろ。勝負には必ず勝ってお前の元に帰る、約束を破るつもりはないよ。」

 

「…………ズルい。そんな事言われたら信じない訳には行かないよ。」

 

(おお〜、シャッターチャンスシャッターチャンス!!)

 

まだ私のカメラに残量があり、シャッターボタンを押し続ける。そうこうしてる内に1、2分程沈黙が続き、門倉君が沈黙を破る。

 

「……許してくれた?」

 

「……もう少しこのままだったら、いいよ。」

 

「お望みなだけ。」

 

そう言って2人とも10分程抱き合った後、門倉君は神崎さんを家に送りそのまま自分の家に戻りました。気付かれないように上空へと移動した私はその場でカメラの中の画像をチェックする。カメラに映る写真は完璧な出来である。2人の表情がよく撮れている。

 

「いやぁ〜青春してますねぇ。良いもの見せてもらいました。彼等が残りの生活を謳歌できるといいですね、ねぇあぐり。」

 

あの仲睦まじい2人を見るとつい彼女の事を思い出してしまう。ただ、彼女との日々と共にあの時の光景、そして自分の感情もまた脳裏で鮮明によぎる。

 

『‥‥ねえ‥○○さん。お願い‥が‥あるんだ‥』

 

「大丈夫ですよ。あの子達は私が守りますから‥」

 

写真を撮り終えた私は新たな発見に胸を躍らせながら、彼女、自立思考固定砲台さんと話すために学校へ向かうのでした。

 




すみません!遅くなりました!
次の更新は夏休みに入るので、比較的早くなると思います。
では未来でお会いしましょう!
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