最高のオワリのために   作:クローザー

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第5話 LとRの時間・転校生の時間 その3

烏間視点

 

「あーもう、めんどくさいわ授業なんて〜」

 

書類に目を通していると、イリーナが椅子に乗りかかるように腰掛け大きく溜息をつく。

 

「その割には生徒のウケが良いようだぞ。」

 

本人のやる気はともかく、多くの生徒からは高評価の声を聞く。

 

「何の自慢にもなりゃしない。殺し屋よ、私は。あのタコを殺すために仕方なくここにいるの。その肝心のタコはといえば、私のおっぱいを景色に見たてて優雅にお茶を飲んでるし!」

 

茶人のような服装に身を包み、奴はピンク色の顔でイリーナの胸元を見つめ、お茶を飲んでいる。たしかにターゲットにここまで舐められては暗殺者としては屈辱だろう。

 

「経験を活かした実践的な授業、実にお見事。」

 

「やかましいわ!」

 

「ニュルフルルニュフフフ!」

 

ナイフで斬りつけるが全て綺麗に躱されている。頭に血が上っているようだ。

 

「焦るな、そういうターゲットだ。」

 

「Shit!やってらんないわ。」

 

ナイフを投げ出し、イリーナはそのまま職員室を出て行ってしまった。

 

「ふーむ、気が立ってますね。」

 

「全て誰かの所為だがな。」

 

「知的好奇心ですよ、ニュフゥ。」

 

「悪趣味だな。」

 

「ところで、生徒達の進捗状況はいかがですか?」

 

「今の所は問題ない。転入生達が加速剤となってこれから見る見る内に成長していく筈だ。」

 

「門倉君はいかがですか?彼は転校してから1度も殺しに来てくれないんですよ。」

 

「さあな。彼は彼なりのやり方があるのだろう。」

 

恐らく今は技術を磨いて仕掛けるタイミングを図っているのだろう。彼もそこまで馬鹿ではあるまい。

 

「1度、私も彼の実力を見てみたいですけどねぇ。ああ、そういえば、杏仁豆腐が食べたくなったので上海に行ってきますね。」

 

そう言うとすぐに奴は飛び立っていった。そのまま俺は残った書類に目を通し始めたのだが、30分ほど経った頃に廊下から妙な物音が聞こえ始める。

 

『ーーーーっ!?』

 

「何だ?」

 

職員室から出てみると、ワイヤートラップらしき物に吊るされたイリーナとその向こう側に見知らぬ男がいた。

 

「What are you doing?That's not betty lady lie.」

 

風貌から日本人ではない事は理解出来るので、まずは英語で話しかけてみる。

 

「ーーーーーー。」

 

英語ではないようだ、恐らくロシア語か何かだろうが。分からないので再度英語で意思疎通を図る。

 

「Hey,who are you?Do you even understand what I'm saying?」

 

「これは失礼、日本語で大丈夫だ。別に怪しい者ではない。イリーナ・イエラビッチを日本政府に斡旋した者、と言えばおわかりだろうか?」

 

(殺し屋ロヴロッ!)

 

腕利きの暗殺者として知られていた。現在は引退、後進の暗殺者を育てる傍、その斡旋で財を成していると聞いた。

 

(暗殺者になど縁が無かった日本政府には貴重な人脈だが…何故ここに?)

 

「例の殺せんせーは今どこだ?」

 

「上海まで杏仁豆腐を食いに行った。30分前に出たからもうじき戻るだろう。」

 

「フッ、聞いてた通りの怪物のようだ。来てよかった、答えが出たよ。今日限りで撤収しろ、イリーナ。この仕事はお前じゃ無理だ。」

 

「ッ!?」

 

「お前は正体を隠した暗殺なら比類ない。だが、1度素性が割れてしまえば一山いくらレベルの殺し屋だ。」

 

「必ずやれます先生。私の力なら、ッア…」

 

(速い…)

 

目に見えぬ速さでロブロはイリーナの後ろに回り込み、首元に指を突き当てる。

 

「相性の良し悪しは誰にでもある。こここそがお前にとってLとRじゃないのかね?」

 

「半分正しく、半分は違いますねぇ。」

 

いつの間にか戻っていた奴は、顔に丸とバツの表示をしてイリーナとロブロをそれぞれ触手で抑える。

 

「何しに来た、ウルトラクイズ。」

 

「酷い呼び方ですね〜いい加減殺せんせーと呼んで下さい。」

 

「お前が。」

 

「確かに彼女は暗殺者としては恐るるに足りません、クソです。」

 

「誰がクソだ!!」

 

「ですが彼女という暗殺者こそ、このクラスに適任です。殺し比べてみれば分かりますよ、どちらが優れた暗殺者か。2人の勝負です、ルールは簡単烏間先生と1人の生徒を殺した方が勝ち。」

 

「おい待て。何故俺が犠牲者にされるんだ。それに、まさか生徒まで巻き込むつもりか。」

 

「ええ、確かめてみたいのですよ、烏間先生が認めた門倉君の実力をね。良い機会です。」

 

「また彼か。随分と彼に期待しているようだな?」

 

(本当に何故彼はここまで奴に期待されているんだ。何か彼にはあるのだろうか?)

 

「彼ならば暗殺者とも渡り合えますよ。それにターゲットが私じゃだーれも殺せないじゃないですか。」

 

(悔しいが、確かにその通りだ。)

 

「期間は明日1日。ただし門倉君については2人共計30分しか狙えない事にします。門倉君は勝負には直接関係なく、あくまでもオマケだと考えてくださいね。」

 

イリーナとロヴロに対奴用ナイフが渡される。

 

「成る程、要するに模擬暗殺か。良いだろう、余興としては面白そうだ。イリーナ、その門倉という生徒のデータについて後で送るように。」

 

「は、はい!」

 

ナイフの感触を確かめながら、ロヴロは何処かへと向かっていった。

 

「ふっ、勝手にしろ。彼には事前に通告しておくからな。」

 

「えぇ、構いませんよ。その方が彼の成長に繋がると思いますから。」

 

俺は彼へと連絡するためにイリーナと奴を廊下に残し、職員室に戻る事にした。

 

(彼も災難だが、これもターゲットの意向ではやってもらうしかない。)

 

考えをめぐらせながら、俺は自分のパソコンの電源をつけた。

 

 

潮田視点

 

「と言うわけだ。今日1日迷惑な話だが、君らの授業に影響を与えない。普段通り過ごしてくれ。」

 

「いや、全然過ごせませんから!?」

 

(苦労が絶えないなぁ、烏間先生も門倉君も。)

 

被害者である門倉君に全員で同情の目を向けていると、離れた所からビッチ先生が烏間先生に近づいてくる。

 

「烏間先生ぇ〜♡お疲れ様、喉乾いたでしょ?はい、冷たい飲み物!」

 

声がした方からは猫を被ったピッチ先生がどう見ても怪しげな様子で飲み物を持って烏間先生に駆け寄ってくる。どうやら今は門倉君を狙ってないようだ。

 

「ほら、グッといってグッと。美味しいわよ〜」

 

「なんか入ってる。」

 

「絶対なんか入ってるよな。」

 

「大方、筋弛緩剤だな。動けなくしてナイフを当てる。ハァ、言っておくがそもそも受け取る間合いまで近寄らせないぞ。」

 

「あ、ちょっと待って。じゃあここに置くから、あぁん!?イッターい、おぶって烏間ぁ!おんぶぅ!」

 

「やってられるか。」

 

烏間先生は呆れ果てて校舎に戻ってしまい、三村君と磯貝君がビッチ先生を起こす。

 

「ビッチ先生」

 

「さすがにそれじゃ俺らだって騙せねえよ。」

 

「し、仕方ないでしょ!顔見知りに色仕掛けとかどうやったって不自然になるわ!キャバ嬢だって客が偶然父親だったらぎこちなくなるでしょ、それと一緒よ。」

 

「「知らねーよ!?」」

 

「というか、烏間先生よか門倉を狙った方が可能性あるっしょ。」

 

「そーだな、門倉の方がまだ‥ってそういえば門倉は?」

 

話題の門倉君はさっきまでいたのだが、今はいない。

 

「タッちゃんなら、ビッチ先生が現れた瞬間に山の方にダッシュで走って行ったよ。ただ逃げるのなんて癪に触るから、もう1人の殺し屋ぶっ飛ばすって。」

 

「どんだけ逃げ足が速いんだよ…」

 

「えっ!ちょっとあいつロヴロ先生のとこ向かったの?!無謀過ぎでしょってえ?」

 

後方から鈍い着地音が聞こえ、見知らぬ男性と振り返るといなくなった筈の門倉君が向かい合っていた。

 

「「「「「いつの間に!?」」」」」

 

(というかどうやってここまで移動してきたの?)

 

状況は僕等の理解を大幅に上回るけど、門倉君とロヴロ先生と呼ばれた男性構わずに話を進める。

 

「少年、私の位置を突き止めただけでなく奇襲をかけてくるなど、なかなかやるな。伊達にボクシングで日本一になった事はあるな。」

 

「元、ですけどね。まあ褒めていただき光栄です。」

 

「だが、ターゲットがわざわざ暗殺者の前に姿を現すなど論外だな。勝負を捨てたか?」

 

「まさか。俺らが狙うのは世界で1番殺せないターゲット、ここで貴方如きに遅れを取ってはあの人を一生殺れない。」

 

今の門倉君はいつもの門倉君と違って少し荒っぽい印象だけど、何故か頼もしい感じがする。

 

「では、殺し屋の恐ろしさというものを味合わせてあげよう。」

 

そう言うとロヴロさんはもの凄い速さで門倉君に迫る。

 

「速い!」

 

「舐めんな!」

 

「何っ!?フンッ!」

 

門倉君はロヴロさんのナイフを持つ手を右脚で蹴り上げ、そのままロヴロさんの頭に踵落としを決めにかかる。しかし、ロヴロさんも両腕でガードする。

 

「まさか脚を使ってくるとはな…」

 

「別に元ボクサーが脚を使っちゃいけないなんてルールはありませんから。」

 

2人は一旦互いから距離を置く。ロヴロさんは蹴られた腕を右腕を庇っている、どうやらさっきの一撃が効いたようだ。

 

「いやあ、ここまで実戦は久々です。お陰で日本チャンピオンになった頃の感覚が取り戻せそうですよ。」

 

「こちらも現役の頃の感覚が蘇ってきたようだ。」

 

ロヴロさんも門倉君もこんな油断が許されない戦いの最中なのに楽しそうな顔をしている。そんな中、ロヴロさんが手首を確認しもう一度門倉君を見る。

 

「しかし、残念だ。」

 

「何がですか?」

 

門倉君も拍子抜けしたような顔をしている。。

 

「どうやら、時間切れのようだ。」

 

「えぇ、そうですね。ロヴロさんに与えられた30分は過ぎちゃいました。」

 

殺せんせーがいつの間にか門倉君の前に現れる。それに気付いた門倉君は僕等が気付く程に殺気を込めた笑顔で殺せんせーに微笑みかける。

 

「あぁ、殺せんせー。約束の準備は出来ましたか?ちなみに僕は1発でも当てれば貴方にかなりの損傷を与えれますよ、楽しみですね。」

 

「ヒイィイイイイイイ!?イ、イリーナ先生!頑張って下さい!」

 

「ロヴロ先生と互角にやりあう奴を殺すなんて私に出来る訳ないでしょ!」

 

ビッチ先生が殺せんせーに斬りかかっている間、門倉君とロブロさんはさっきまでの殺伐とした雰囲気ではなく平和に握手をしていた。

 

「ミスターカドクラ、良い勝負だったよ。君はボクサーとしてだけでなく暗殺者としても素晴らしい素質を持っている。良かったら俺の所で鍛えるがどうだ?」

 

「貴重なお誘いありがとうございます。ですが、今の僕には全部を犠牲にしても守りたい人がいますので。先程は失礼を言ってしまいすみませんでした。」

 

「構わない、気にするな。そうか、残念だが仕方がない。私の連絡先だ。困った時はいつでも連絡するといい、相談に乗ろう。では次のターゲットを狙うとしよう。」

 

ロヴロさんは小さな紙を門倉君に渡し、校舎へと入っていった。見送った笑顔のまま門倉君はビッチ先生に近づき、真正面に立つ。

 

「さて、ではビッチ先生。」

 

「ヒィッ!」

 

「やりますか?」

 

「いえ、とんでもないです…」

 

ビッチ先生は泣きながら降参し、門倉君は無事ターゲットから解放される事となった。ただしその代わり、門倉君の言う報酬はなくなったらしい。

 

 

 

 

門倉視点

 

ビッチ先生が烏間先生の模擬暗殺に成功し、E組残留を決めた後ロブロさんにトレーニングメニューを組んでもらった俺は早速放課後から山の中で取り組んでいた。

 

「ゼェ…山の中をフリーランニングで50㎞とか…殺す気かよ…フルマラソンより長い……」

 

正直烏間先生と訓練した時より疲れた。ロヴロさんからもらった紙には《これをこなせれば暗殺に必要なスタミナと平衡感覚、充分な筋力が全て身につく》と書いてある。

 

「週一で構わないって言ったけど、こんなの月一で限界だな。もう身体中痛いし。」

 

周りは完全に暗くなっており、林の中から変な音も聞こえ始めている。良い子は完全にお家へ帰る時間だ。

 

(時刻は20時を過ぎている。有希子が先に帰る時に風呂飯の準備をしといてくれると言っていたから早めに戻ろう。)

 

そう思いながら、着替えを含めた荷物が入っているスポーツバックに手をかけようとしたら、不意に背後から声をかけられる。

 

「こんな時間までトレーニングなんて、素晴らしいね門倉猛君。」

 

「誰ですか?」

 

声の方向を見ると見知らぬ全身白装束の長身の人物がいた。

 

「はじめまして、シロとでも呼んでくれ。一応政府の関係者だよ。ところで、門倉君。今日は君に提案があって来たんだ。」

 

顔すら見えないためシロがどんな表情をしているかわからないが、何故か嫌な感じがする。

 

「君さ、明日だけ学校を休んでくれない?」

 

「は?」

 

不意を突いた一言に訳が分からず考えを巡らせていると、察したようで向こうから話し始める。

 

「あぁいきなりこんな事いっても驚かない訳ないよね。明日はね、僕が管轄している暗殺者の初登校日なんだ。ただ彼が君を攻撃してしまうと恐れがあって、怪我人を出さないためにも君には出て欲しくないんだよ。」

 

「そこまでするなんて、僕と関係のある人物なんですか?その”彼”は?」

 

「いや、君のような強すぎる人間がいるとつい本能で殺そうとしてしまうんだよ。考えてくれないかい?」

 

(本能で殺そうとする?どういう事だ?)

 

「すみません、僕こう見えても優等生なんで、学校を仮病で休む訳にはいかないんですよ。それにそんな危険な人物があのクラスに行こうとしているなら、全力で邪魔をさせてもらいます。」

 

「どうしてもダメかい?」

 

「ええ、譲れませんね。」

 

「仕方がない。穏便に話を終わらせたかったが、イトナ!」

 

名前が呼ばれると共に左腕にまるで丸太で殴られたような鈍い痛みが走り、身体が横に飛ばされる。

 

「カハッ!」

 

木に叩きつけられる直前に受け身を取ったが、打ち付けられた衝撃で肺から空気が全て飛び出す。倒れた状態から持ち直すが、身体から力が抜け辛うじて木にもたれかかった状態で立つ。

 

(何をされたのか一切理解できなかった。そもそも敵はどこにいるんだ?)

 

シロではないとすると、イトナと呼ばれたもう1人がこの場にいる筈だが、見回しても姿を掴めない。そんな様子を見て、シロが呟く。

 

「だから言っただろ?彼は本能で攻撃してしまうんだよ。」

 

「ふざけんなよ…あんたが名前を呼ぶ前まで攻撃がなかったという事は……あんたが攻撃の是非を決めてるっていう証拠だろ…」

 

会話を続ける事で虚勢を張り続けるが、意識が朦朧とし始める。

 

(あー、やばい。視界が安定しないわ。何とかして隙をついて逃げないとな。)

 

「門倉猛、逃走は不可能だ。諦めるんだな?」

 

「なっ!?」

 

(触手!?)

 

シロの隣に現れたのは、数本の触手を頭から生やした背の小さな少年だった。少年はこちらを観察するかのように凝視しながら、話し続ける。

 

「E組の生徒で1番強いのは貴様だと聞いていてつい本能で攻撃してしまったが、この程度とは。拍子抜けだな。」

 

「こらイトナ、彼は充分な強い方だよ。木に当たる時に受け身を取って衝撃を緩和したんだから。」

 

イトナを嗜み、シロは改めてこちらを見る。

 

「さて、これで分かってもらえたかな門倉君?この状況で君がイトナに勝つ事はまず不可能だ。諦めて大人しく明日は学校は休みたまえ。」

 

「嫌…だね。」

 

「何だと?」

 

「嫌だと、言ったんだよこの下郎が。」

 

その瞬間、首元に縄のように触手が絡めつき締め上げる。

 

「待てイトナ。」

 

シロが静止には入り、締め付けが少しだけ和らぐ。

 

「君は利口な人間だ。この状況で反抗したらただでは済まない事は理解できる筈だ。何故抵抗するんだ?」

 

「あんた達を…このまま放っといたら……E組の皆に害が及ぶ。」

 

頭の中に有希子の笑顔が浮かぶ。

 

(恥ずかしながら、いつも有希子の事しか頭にないな…)

 

「それは…俺が許せないでしょ……」

 

(この触手が殺せんせーのと同じなら、アレが有効だ!)

 

シロとイトナの隙をつき、制服の内側にある内ポケットから対先生用のナイフを取り出し、触手に思い切り突き刺す。

 

「ぐぁあ、ああぁぁあああ!」

 

「しまった!」

 

予想通り触手にナイフが効いた。イトナは激しい痛みを感じたようで、触手が完全に弛み身体が自由になる。俺はその隙に右手で自分のバックを担ぎ、左腕を庇いながら、トレーニングで痛み切った足を動かし走り出す。

 

「あぁぁあああぁぁあ!!」

 

イトナの絶叫と共に背後から背中に投げられる幾つかの拳ほどの大きさの石に耐えながら俺は無我夢中で自宅へ走り出す。

 

 

 

 

もうその後どうやって帰ったが覚えていないが、気が付いたら自宅の扉の前にいた。痛みに耐えながら右手でチャイムを押す。

 

「はーい!」

 

扉を開けると、いつも通りに彼女の笑顔がありとても安心する。

 

「…ただいま。」

 

「タッちゃんおかえり、トレーニングお疲れ様!ご飯とお風呂の準備は出来てるよ。」

 

(できるだけ平静を装え。彼女に悟られるな。部屋に戻って烏間先生に連絡を入れるんだ。)

 

左腕と背中から響く痛みで意識が朦朧とし始め、もう視界がグラつき始める。

 

「一旦…部屋に戻ろうかな、荷物を置きたいし。」

 

「じゃあ」

 

(あ、だめだ…力が抜け)

 

前のめりに有希子に覆いかぶさるように倒れてしまう。もう動けないし、思考がまともに働かない。

 

「え、タッちゃん、タッちゃん!」

 

「ご…めん…また…守れ……ない」

 

有希子が何かを言っているが、もう聞こえない。

 

 

 

 

その瞬間俺は意識を手放した。

 

 

 

潮田視点

 

「はい、皆さん。ホームルームを始めます、席に着いてください。」

 

ホームルームを始める殺せんせーはいつもより頭が大きく膨らんでいた。

 

(なんか大きいぞ。)

 

「殺せんせー、33%程巨大化した頭部についてご説明を。」

 

「あー、水分を吸ってふやけました。湿度が高いのでんんーん!」

 

自分で自分の顔を絞り、水を搾り取る様にすかさずツッコミが入る。

 

「生米みたいだな!?」

 

しばらくして元に戻った殺せんせーが話を再開する。

 

「さぁて、烏間先生から転校生が来ると聞いていますね?」

 

「あー、ぶっちゃけ殺し屋だろうね。」

 

「門倉君はともかく、律さんの時は甘く見て痛い目を見ましたからね。先生も今回は油断しませんよ。」

 

「ンフフ!」

 

「いずれにせよ、皆さんに仲間が出来ることは嬉しい事です。」

 

「そういえば律、何か聞いてないの同じ転校生暗殺者として?」

 

原さんが後ろにいる律に聞くと律は笑顔で答える。だが次第に声色が深刻なものへと変わっていった。

 

「はい、少しだけ。初期命令では、私の彼の同時豆乳の予定でした。私が遠距離射撃、彼が肉迫攻撃。連携して殺せんせーを追いつめると。ですが、2つの理由でその命令はキャンセルされました。」

 

「へぇー、理由って?」

 

「1つは彼の調整に予定より時間がかかったから、もう1つは私の性能では彼のサポートに力不足、私が彼より暗殺者として圧倒的に劣っていたから。」

 

「……んんぬ。」

 

(殺せんせーの腕を飛ばした律がその扱い、一体どんな怪物なんだ?…そういえば今日門倉君と神崎さんの姿がないな。)

 

「ねぇー殺せんせー、一個聞きたい事があるんだけど。」

 

「何ですか、カルマ君?」

 

「何で今日門倉君と神崎さんは欠席してんの?2人そろって風邪って訳じゃないよね?」

 

「あ、ああ…少し言い辛いのですが、あの2人は」

 

殺せんせーの言葉を遮るように突然教室の扉が開かれる。現れたのは全身白装束の人物、顔も隠れている性別すら判別出来ない。

 

「何、あの格好?」

 

「あれが、転校生?」

 

皆が怪訝な顔をする中、突然その人は手品で手に鳩を出した。

 

「あっはっはっは。ごめんごめん、驚かせたね。転校生は私じゃないよ、私は保護者。まあ白いし、シロとでも呼んでくれ。」

 

「いきなり白装束で来て手品やったらビビるよね〜」

 

「うん、殺せんせーでもなきゃ誰だって」

 

言いかけて殺せんせーの方を見ると、奥の手の液化まで使って天井の隅に避難していた。

 

「ビビってんじゃねーよ殺せんせー!」

 

「奥の手の液化まで使ってよぉー!」

 

慌てつつ液化を解除をしながら殺せんせーは言い訳をし始める。

 

「ニュヤァ、律さんがおっかない話をするもんで!?は、はじめましてシロさん。それで、肝心の転校生は?」

 

「はじめまして、殺せんせー。ちょっと性格とかが色々特殊な子でねぇ。私が直で紹介させてもらおうと思いまして。」

 

そのままシロさんは教室の中を移動し始める。その姿を見ながら、僕は疑問を感じていた。

 

(摑みどころのない人だな…)

 

その時一瞬こちらを見ているような気がした。

 

「何か?」

 

「いや、皆良い子そうですなぁ。これならあの子も馴染みやすそうだ。では、紹介します。おーい、イトナ、入っておあで。」

 

次の瞬間、教室の後ろの壁が吹き飛び入ってきた少年が寺坂君とカルマ君の間の席に座る。

 

「俺は勝った。この教室の壁より強い事が証明された。」

 

「「「「「「いや、ドアから入れよ!?!?」」」」」」

 

「それだけでいい。それだけでいい。」

 

(殺せんせーもリアクションに困っている。)

 

そのせいか顔も妙なものへと変わっていた。

 

「堀部糸成だ。名前で呼んであげて下さい。」

 

白づくめの保護者と話が読めない転校生

。今まで以上に一波乱ありそうだ。

 

「ねぇイトナ君。ちょっと気になったんだけど、今外から手ぶらで入ってきたよね。外土砂降りの雨なのに、何でイトナ君一滴たりとも濡れてないの?」

 

たしかにカルマ君の言う通り、今外は強めの雨が降り続けている状況、傘をさしたとしてもどこか濡れなければおかしい。それにもかかわらず一滴も濡れてないの。指摘されたイトナ君は椅子から立ち上がり、カルマ君の頭を撫で始める。

 

「お前は多分このクラスで2番目に強い。けど、安心しろ。俺より弱いから、俺はお前を殺さない。俺が殺したいと思うのは、俺より強いかもしれない奴だけ。この教室では殺せんせー、あんたとあいつ、門倉だけだ。」

 

「強い弱いとはケンカの事ですかイトナ君?力比べでは先生と同じ次元には立てませんよ。」

 

殺せんせーの近くまで行き、懐から殺せんせーが食べているのと同じ羊羹を取り出したイトナ君は包装紙をかじり取り、羊羹食べ始める。

 

「立てるさ。だって俺達、血を分けた兄弟なんだから。」

 

「「「「「「ええぇえ?!き、き、き、き、き、兄弟いぃいい」」」」」」

 

周囲が驚く中、イトナ君は淡々と殺せんせーに宣言する。

 

「負けた方が死亡な、兄さん。」

 

「ンニュウ…」

 

「兄弟同士小細工はいらない。兄さん、お前を殺して俺の強さを証明する。放課後、この教室で勝負だ。」

 

そう言い残してイトナ君は出て行った。少しの間沈黙が流れ、皆立ち上がって殺せんせーに質問の嵐が飛ぶ。

 

「ちょっと先生!兄弟ってどういう事!?」

 

「そもそも人とタコで全然違うじゃん!」

 

「全く心当たりありません!先生、生まれも育ちも一人っ子ですからぁ!昔両親に弟が欲しいーってねだったら家庭内が気まずくなりました!」

 

慌てながらも殺せんせーはよくわからない昔話を出して弁明する。それに対してまたツッコミが煌めく。

 

「そろそろ親とかいるのか!?」

 

新しい転校生の登場により、僕等はこの時門倉君の事を完全に忘れてしまっていた。彼が入院している事すら知らずに。

 




えー、初のオリ主敗北という事態でした!
やっぱり門倉君は最強ではありませんからね。
こういう圧倒的な力の差では工夫はするんですけど、勝てはしないんですよね。
内容をすごく気持ち悪い感じで切ってしまったので、今日明日中に続きを投稿しますので、チェックお願いします!
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