最高のオワリのために   作:クローザー

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第8話 才能の時間

烏間視点

 

体育の時間になり、今生徒達にはナイフを用いた近接戦闘術の訓練をさせている。

 

「視線を切らすな!ターゲットの動きを予測しろ!全員が予測すればそれだけ奴の逃げ道を塞ぐ事となる。」

 

訓練開始から4ヶ月目に入るにあたり可能性が有りそうな生徒が増えてきた。

 

磯貝悠馬と前原陽斗、運動神経が良く2人がかりなら俺にナイフを当てれるペースが増えてきた。

 

赤羽カルマ、一見のらりくらりとしているがその目には強い悪戯心が宿っている。

 

女子は、体操部出身で意表を突いた攻撃が出来る岡野ひなたと男子並みのリーチと運動量を持つ片岡メグ、この辺りがアタッカーとして非常に優秀だ。

 

そして、E組の中で最も実力を持ち、成長しているのが門倉猛。殺し屋ロブロから出された課題とE組で学んでいる事で成長が加速し、E組編入時と比べ着々と俺の実力に近づいてきている。まさにオールラウンダー、どのポジションに置いても最善の結果を出せるタイプだろう。

 

「そして、殺せんせー。彼こそが理想の教師像だ。あんな人格者を殺すなんてとんでもない。」

 

「人の思考を捏造するな!失せろ、ターゲット!」

 

思考に入り込もうとする後ろにいるターゲットを威嚇し、考えに戻る。

 

(この他には目立った生徒が居ないものの、全体を見れば能力が格段に…)

 

「………ッ!?」

 

背後から殺気、まるで大蛇に喉元に牙を突きつけられかけているような恐怖感が一瞬にして全身を襲う。

 

「くっ!?」

 

本能的につい後ろにいた生徒を投げ飛ばしてしまった。

 

「うわっ!?…いったぁ…」

 

「…すまん!ちょっと強く防ぎ過ぎた。」

 

「あぁ、平気です。」

 

我に帰り、慌てて駆け寄るが無事だったようだ。身体を痛めた様子もない。

 

「バッカでー、ちゃんと見てないからだ。」

 

(潮田渚、気のせいか…今感じた得体の知れない気配は…)

 

そんな疑念を感じながら、授業は終わり俺は職員室に向かう。

 

「いやーしかし当たらん。」

 

「隙なさすぎだぜ烏間先生。」

 

「せんせー、放課後皆でお茶してこーよ!」

 

倉橋さんからの誘われるが、仕事があるので丁重に断らせてもらう。

 

「あぁ、誘いは嬉しいがまだ仕事が残っていてな。」

 

(先程のは一体…やはり気になるな。)

 

そう考えながら石段を登っていると、不意に声をかけられる。

 

「よぉ!烏間。」

 

「鷹岡…」

 

見上げると空挺部隊時代の同期の鷹岡がそこにおり、俺とすれ違う形となりそのまま鷹岡はグラウンドにいるE組生徒達の所へ向かう。

 

「やぁ今日から烏間を補佐して働く事となった鷹岡明だ。よろしくな、E組の皆!」

 

鷹岡は荷物として担いでいたブルーシートを広げ、そこに多くのお菓子を並べていく。E組の生徒も興味を惹かれそのまま鷹岡の元へ集まっていく。

 

「な、何だ?」

 

「け、ケーキ!」

 

「ラ・ヘルメスのエクレアまで!」

 

「良いんですか、こんな高そうなの?!」

 

「おう、食え食え!俺の財布を食うつもりで遠慮なくな。」

 

「よくこんな甘いものブランド知ってますね?」

 

「ま、ぶっちゃけラブなんだよ、砂糖がよ。」

 

「デカイ図体して可愛いな…」

 

「明日からの体育の授業は鷹岡先生が?」

 

「ああ、政府からの要請でな。烏間の負担を減らすために…」

 

「はぁぁ、ケーキ…」

 

ターゲットの奴まで近づき、ケーキを食べようとするが鷹岡は笑いながらまるで家族に対するように接する。

 

「おー、あんたが殺せんせーか!食え食え!まあ、いずれ殺すけどな。ハハハハハ!」

 

「同僚なのに、烏間先生と随分違うっすね。」

 

「なんか近所の父ちゃんみたいですよ。」

 

「良いじゃねえか父ちゃんで。同じ教室にいるからには俺達家族みたいなもんだろ?ハハハハハ!」

 

(どうやら、無事に生徒達と馴染んでいるようだ。もしかしたら俺のやり方ではなく、鷹岡のやり方の方が正しいのかもしれないな。)

 

職員室からその様子を眺めながらそう考え窓を閉める。すると扉がゆっくりと開かれる。

 

「失礼します。烏間先生、少しお願いがあります。」

 

「門倉君か、どうした?」

 

「いえ、ロブロさんの課題を週一でですけどこなせるようになって来たので何か新しいトレーニングメニューを作って貰いたくて。」

 

(この山をフリーランニングで50㎞をこなせるようになって来ただと!?本当に彼は規格外だな…)

 

「そうか、分かった。明日までに君用にプログラムを作っておこう。」

 

鷹岡に体育の授業を代わってもらうので、別に1人分のトレーニングプログラムを考えても問題はない。

 

「ありがとうございます。そういえば、体育の授業ってもう烏間先生が指導しないんですか?」

 

「ああ、政府の決定で鷹岡が務める事になった……不満か?」

 

「ええ、まあ…不満ですね。」

 

「……ほお。」

 

少し意外だった。門倉君は普段命令された事には基本何も言わずに淡々とこなしていたからだ。そんな彼がはっきりと自分の意見を言うのは酷く珍しい。こちらの考えを察したのか、彼は補足するかのように説明を続ける。

 

「まあ家族みたいな接し方が好きな奴は多いと思いますけど、僕はプロとして対等な関係で扱ってくれる方法が好きなので。あとあの人、人としてあんまり好きになれないんですよね。」

 

そう言いながら門倉君は照れ臭そうに頬を指でかき職員室の扉を開け、出ようとするが、振り返りこちらに笑顔で言う。

 

「あ、烏間先生が戻ってくれるなら大歓迎ですよ。多分皆そう思ってます。信頼、してますからね。」

 

そう言って門倉君は職員室を後にした。俺は目元を手で隠し、天を仰ぐ。

 

「全く、優秀過ぎるのも考えものだな。こちらの迷いすらも読まれてしまっている。」

 

だが、そう言われて嬉しいと感じる自分がいる事に驚かされる。そんな思いを気にしつつも俺は門倉君から頼まれたプログラムを考えていくのだった。

 

 

潮田視点

 

鷹岡先生がやってきてから翌日、僕等はグラウンドに並び鷹岡先生から改めて説明を受けている。だけど、カルマ君はサボりで門倉君は先日の怪我の件で病院に行って遅れている。

 

「よーし、皆集まったなぁ?今日からはちょっと厳しくなると思うが終わったらまた美味いもん食わしてやるからな。」

 

「そんなこと言って自分が食いたいだけじゃないの?」

 

「まあな。お陰様でこの横幅だ。」

 

鷹岡先生が自分のお腹を撫でて、笑いが起きる。

 

「まあ最終的にはお前らがあいつを殺してビクトリーだー!さて、訓練内容の実施に伴って新たな時間割を組んだ。」

 

「嘘、だろ。」

 

「10時間目?」

 

「夜、9時まで訓練…」

 

その時間割はこれまでの物とは酷く異なり、殆どが訓練で占められている内容だった。これでは学業両立なんて、到底叶わない。

 

「このぐらいは当然さ。このカリキュラムについて来られれば、お前らの能力は飛躍的に上がる。では早速」

 

「ちょ、待ってくれよ!無理だぜこんなの!?勉強の時間これだけじゃ成績おちるよ!遊ぶ時間もねえしできるわけねえよこんなの…」

 

前原君が抗議している最中に笑顔のまま鷹岡先生は前原君の頭を掴み腹に膝蹴りを叩き込む。

 

「出来ないんじゃない、やるんだよ。」

 

そのまま前原君は腹を抱え込み、膝をついてしまう。

 

「言っただろ、俺達は家族で俺は父親だ。世の中に父親の命令を聞かない家族がどこにいる?抜けたい奴は抜けてもいいぞ。その時は俺の権限で新しい生徒を補充する。けどな、俺はそんな事したくないんだ。お前らは大事な家族だから、父親として1人も欠けて欲しくない。家族皆で地球を救おうぜ、なっ!」

 

「ヒィッ!?」

 

そう言って鷹岡先生は神崎さんと三村君を強引に抱き寄せる。でも2人共前原君の一件を見て顔は恐怖で歪んでいる。

 

「な、お前は父ちゃんについて来てくれるよな?」

 

「は、はい。あの…私、私は嫌です。烏間先生の授業を希望します。」

 

必死に笑顔を作りそう言った神崎さんを鷹岡先生は叩き、そのまま神崎さんが倒れ込む。

 

「神崎さん!」

 

茅野と杉野に続いて僕も駆け寄るが、とても痛そうな様子だ。叩かれた所が赤く腫れている。

 

「お前らまだ分かってないようだなぁ。はい以外は無いんだよ。文句があるなら拳と拳で語り合おうか?そっちの方が父ちゃん得意だぞぅ!」

 

「止めろ鷹岡!」

 

こちらの様子に気づいた烏間先生が神崎さんに駆け寄る。

 

「大丈夫か、首の筋に痛みはないか?」

 

「大丈夫です。」

 

「前原君は?」

 

神崎さんや前原君は苦痛に顔を歪ませながらも、精一杯笑顔を作る。

 

「へ、平気っす…」

 

「ちゃんと手加減してるさ烏間。大事な俺の家族だ、当然だろ。」

 

「いいや、貴方の家族じゃない。私の生徒です…!!」

 

「「「「「「殺せんせー!」」」」」」

 

「私が目を離した隙に何をやっている…!」

 

殺せんせーが怒りに顔を真っ赤に充血させている様子にも鷹岡先生は一切臆する事なく、笑顔を保つ。

 

「フン、文句があるのかモンスター?体育は教科担任の俺に一任されている筈だ。そして今の罰も立派に教育の範囲内だ。短時間でお前を殺す暗殺者を育てるんだぜ、厳しくなるのは当然さ。それとも何か、多少教育論が違うだけでお前に危害を加えてない男を攻撃するのか?」

 

「………………!!」

 

殺せんせーは何も言えないようで、皆沈黙するしかなくなる。

 

(本当にこのまま従うしかないのか…)

 

そう考えていると、1人、E組の校舎からグラウンドに降りて来る。

 

「すいません、遅くなりました。」

 

病院から学校に直行してきたであろう門倉君は制服姿のままグラウンドに降りてくる。その姿を見て、先程とは打って変わり態度を豹変させた鷹岡先生は大袈裟に門倉君を迎える。

 

「遅いぞ〜父ちゃん心配したんだからぞぉ!」

 

「…この状況は?」

 

「……………」

 

「…そうか。」

 

門倉君は鷹岡先生を無視して、僕に説明するように目で訴えてくる。僕はなんと言えば分からなくなりつい顔を背けてしまう。神崎さんの様子を見た門倉君は一瞬目を見開き何かに納得したようで、そのまま神崎さんのすぐ側で膝をつく。

 

「烏間先生、彼女を保健室に運ぶ許可を下さい。」

 

「おいおい、何言ってるんだよ。今は体育の時間なんだから、それは俺に決定権があるんだよ。大丈夫だって、まだやれるよ、な?」

 

「烏間先生。」

 

「………クッ!すまない。」

 

「そういう事だ門倉、大人しくお前も訓練に参加しろ。」

 

鷹岡先生の指摘に、烏間先生も悔しさで苦い顔をしている。きっとすぐに許可を出したくてしょうがないのだろう。嬉しそうな顔で鷹岡先生は門倉君の肩に触れようするけど、門倉君はそれを躱しそのまま神崎さんを自分の両腕で抱え上げる。いわゆるお姫様抱っこの状態だ。神崎さんはこの状況でのお姫様抱っこはかなり恥ずかしかったようで少し抵抗を試みている。

 

「…タッちゃん//」

 

「おい門倉、聞いてたかぁ?俺は訓練に参加しろと言ったんだぞぉ〜」

 

「煩い、どいつもこいつも黙ってろよ……!」

 

低く小さいけど、凛とした声はグラウンドに響き渡り、皆を黙らせる。こちらから確認した門倉君はまるで怒りと悲しみがごっちゃ混ぜになったような顔をしており、その様子にただ周りが威圧されている。そんな彼の声を聞くだけで、神崎さんだけでなく他の皆、鷹岡先生や殺せんせーすらも大人しくなってしまう。鷹岡先生が何も言わない事を確認すると、門倉君はそのままE組校舎へ歩き出す。

 

「鷹岡先生、罰則なら後で幾らでも受けますのでここは押し通らせてもらいます。」

 

「お、おう‥‥」

 

「ビッチ先生、手当てをお願いします。女性のケアにはやはり女性がいた方が良い。」

 

「…え、ええ。分かったわ。」

 

ビッチ先生は少し怯えながらも続き、門倉君は神崎さんを抱えたままE組校舎へと入っていった。

 

「じ、じゃあ残った奴らで訓練を始めるぞぉ!まずはスクワット300回からだ!」

 

取り直したように鷹岡先生が指示を飛ばし、皆整列し訓練を始める。殺せんせーと烏間先生は門倉君の様子が気になったようでE組校舎に入っていく。その様子を僕等はただ見る事しか出来なかった。

 

 

 

烏間視点

 

E組校舎に戻った後門倉君は神崎さんを保健室に運び、手当てをイリーナに任せグラウンドに戻り鷹岡に謝罪した。そしてペナルティとして他の生徒の倍のメニューを課され、今平然とこなしている。その間彼は鷹岡への謝罪とイリーナへの頼み以外終始無言であった。

 

「あれでは生徒達が潰れてしまう。私から見れば間違っているものの、彼には彼なりの教育論がある。ですから烏間先生、貴方が同じ体育の教師として彼を否定して欲しいのです。」

 

(否定…俺が?出来るのか、今の俺に?)

 

そう考えていると鷹岡が今度は倉橋さんの目の前に立っていた。

 

「おい、烏間は俺達の家族じゃないぞ。お仕置きだな。父ちゃんだけを頼ろうとしない子は!」

 

俺の名前を出しただけで制裁と言い倉橋さんを殴ろうとした鷹岡を止めに入る。

 

「そこまでだ、暴れたいなら俺が相手を務めてやる。」

 

「烏間、横槍を入れてくる頃だろうと思っていたよ。」

 

「言ったろ?これは暴力じゃない、教育なんだ。暴力でお前とやり合うつもりはない。やるならあくまで教師としてだ。烏間、お前が育てた生徒の中で一押しの生徒を選べ。そいつが俺と戦い一度でも俺にナイフを当てれたらお前の教育は俺より優れていたのだと認めて出て行ってやる。」

 

皆が安堵している中、鷹岡はそう言いながら自分の鞄の中から何かを探している。非常に嫌な予感がする。

 

「ただし、使うのはこれじゃない。…フン!殺す相手は俺なんだ。使う刃物も、本物じゃなくっちゃな。」

 

そう言って鷹岡は対奴用ナイフに実戦用のナイフを突き立てた。

 

「本物のナイフだと…よせ!彼等は人間を殺す訓練も用意もしていない。」

 

「安心しな、寸止めでも当たった事にしてやるよ。俺は素手だし、これ以上ないハンデだろ。」

 

そう言いながら鷹岡はいつもどおり舌を出し、何かを思い出している。

 

「さあ、烏間。1人選べ、嫌なら無条件で俺に服従だ。」

 

「…………」

 

(俺はまだ迷っている。地球を救う暗殺者を育てるためには奴のような容赦のない教育こそ必要ではないのか?ここに来てから迷いばかりだ。そして、僅かに可能性のある生徒を危険に晒して良いのか迷っている。)

 

そう言って俺はその生徒の前に立つ。

 

「渚君、出来るか?」

 

「な、なんで渚!?」

 

周囲からどよめきが起こるが俺は構わず自分の考えを話す。

 

「俺は地球を救う暗殺任務を依頼した側として、君達とはプロ同士だと思っている。プロとして君達に支払うべき最低限の報酬は当たり前の中学生活を保障する事だと思っている。だから、このナイフは無理に受け取る必要はない。その時は俺が鷹岡に頼んで、報酬を維持してもらえるよう努力する。」

 

渚君はこちらを1、2分見つめ、ナイフを受け取った。

 

「やります。」

 

渚君はナイフを口に咥え柔軟を始める。

 

「潮田。」

 

これまで沈黙を保っていた門倉君が渚君の近くに行き、耳元で囁いている。どうやら聞かれたら困る内容のようだ。話が終わると渚君は少し笑い、答える。

 

「うん、分かった。任せといてよ。」

 

門倉君が離れると俺も彼に助言する。

 

「いいか、鷹岡にとってこの勝負は見せしめのための戦闘だ。対して、君は暗殺。強さを示す必要もなく、ただ一回当てれば良い。そこに君の勝機はある。」

 

実際その通りだ。軍人の鷹岡相手に長期戦は分が悪い、ならば確実に一瞬の隙を突いて倒すしかない。内容を告げると渚君は頷き、鷹岡との勝負に臨む。対峙した鷹岡は上着を投げ捨て、構える。

 

「さあ、来い!」

 

暫くの無言の後、渚君は何かに気付いたようで笑ってそのまま鷹岡に歩み寄る。鷹岡も何も気付いてないようであり、渚君が鷹岡の身体にぶつかる。そして、ナイフを振り被る。鷹岡はここでようやく殺意に気づき体勢を崩す。渚君は隙を見逃さず鷹岡の服を引き鷹岡を押し倒し、背後に回り首元にナイフを峰打ちで当てた。

 

「捕まえた。」

 

(なんて事だ。予想を遥かに上回った。普通の生活では絶対に発掘される事のない才能、殺気を隠して近づく才能、殺気で相手を怯ませる才能、本番に物怖じしない才能。俺が訓練で感じた寒気はアレが本当の暗殺だったら?戦闘の才能でも暴力の才能でもない、暗殺の才能。これは、咲かせても良い才能なのか…?)

 

「あれ、峰打じゃダメなんでしたっけ?」

 

「そこまでです。」

 

「勝負ありですね、烏間先生。全く、本物のナイフを生徒に持たせるなど正気の沙汰ではありません。怪我でもしたらどうするんですか。」

 

奴はナイフを食べながら言う。

 

(フッ…怪我でもしそうならマッハで助けに入っただろうが。それにしても…)

 

「よくあそこで本気でナイフを振れたよな?」

 

「いや、烏間先生に言われた通りにやっただけで。鷹岡先生強いから。…?っいた!?なんで叩くの?!」

 

反射的に渚君を叩いてしまった前原君は渚君に素早く謝る。

 

「あぁ、いや悪い。ちょっと信じられなくて。でもサンキュー、今の暗殺はスッキリしたわ!」

 

「笑顔でナイフを突きつけて捕まえたなんてね!」

 

「今回は随分悩んでばかりいますねぇ。烏間先生。」

 

「悪いか…」

 

「いえいえ…ニュ?」

 

「このガキ…父親も同然の俺に歯向かってマグレの勝ちがそんなに嬉しいか…!もう一回だ、心も体も全部残らずへし折ってやる!」

 

「止めろよ、見苦しい。そんなに暴力での対決がお望みなら俺が相手してやるよ。ただし、ボクシングでだ。」

 

渚君は何かを言おうとするが遮られてしまう。復活した鷹岡は全身の毛を逆立て襲いかかろうとするが、渚君を庇うように立ったのは、門倉君である。いつの間にか対奴用グローブを装着しているため準備万端のようだ。

 

「あんたは1発ぶん殴んないと俺の気がすまないからな。かかってこいよ、あんたの教育を全否定してやる。」

 

「……糞ぉっ!?」

 

周りにいた生徒は一歩引き下がり、門倉君と鷹岡を中心とした空間が出来上がる。ちょうどボクシングのリングのスペースに近い。鷹岡はなりふり構わず門倉君に襲いかかり組もうとするが、門倉君は攻撃を仕掛ける事なく素早く避け間合いに入らせない。

 

「…ッちょこまかと逃げやがって!」

 

鷹岡が痺れを切らし思い切り飛びつこうとするが、そこで何もしかけなかった門倉君は油断しきっていた鷹岡の顎に下から左アッパーを当てる。ここから門倉君の怒涛の攻撃が始まる。

 

「………グゥ!」

 

「あんたが何処でどんなキャリアを積んで強くなってきたかは知らないし興味もない。」

 

門倉君は喋りながら、ガードする鷹岡の横腹や首元や背中にパンチやジャブを加え続ける。最後に門倉君が、顔を完全にガードしていた鷹岡の腕を先程同じ下からすくい上げる左アッパーで崩し、鷹岡は無防備な状態となる。

 

「ま、待て!」

 

「ただ、俺が女子供を殴れる拳に俺の拳は砕けないよ。そして何より貴方のメニューは俺には緩すぎる。」

 

そう言って綺麗に顔面を右ストレートで撃ち抜く。鼻と歯が折れ、顔面が血塗れになってしまった鷹岡は地面に倒れこむ。

 

「カウントをお願いします。」

 

そう言うとレフェリーの格好となった奴が鷹岡に駆け寄りカウントを取る。

 

「…………7,8,9,10!ウィナー!」

 

門倉君は両腕を上げ、ガッツポーズをする。それに合わせ生徒達が歓声を上げる。その中渚君は倒れた鷹岡を見下ろし、話を続ける。

 

「鷹岡先生‥たしかに、次やったら絶対僕が負けます。でもはっきりしたのは僕等の担任は殺せんせーで、僕等の教官は烏間先生です。これは絶対譲れません。父親を押し付ける鷹岡先生より、プロに徹する烏間先生の方が僕は暖かく感じます。」

 

「ッ!?」

 

ふと、昨日門倉君に言われた台詞を思い出してしまった。

 

「本気で僕等を強くしてくれようとしてたのは感謝します。でもごめんなさい、出て行って下さい。」

 

「…………」

 

「じゃあ私は?」

 

「僕等のビッチです!」

 

「殺す!」

 

「教師として1番嬉しい瞬間は迷いながら自分が与えた教えに生徒がはっきりと答えを出してくれた時です。そして、烏間先生、生徒が出してくれた答えには先生もはっきり答えなくてはなりませんねぇ。」

 

「黙って聞いてりゃいい気になりやがってぇ!」

 

懐から別のナイフを取り出した鷹岡が門倉君と渚君に斬りかかろうとした瞬間、それが読めていた俺は先回りし顔面に肘を打ち込む。鷹岡はようやく倒れ、完全にノックダウンとなる。

 

「身内が迷惑をかけてすまなかった。あとの事は心配するな。今まで通り俺が教官を務められるよう、上と交渉する。」

 

「「「「「烏間先生!」」」」」

 

「いや…やらせるか、そんな事。俺が先に掛け合って!」

 

「交渉の必要はありません。」

 

「理事長!」

 

のらりと現れたのは浅野理事長であり、そのまま鷹岡に近づき、顎を掴み上げる。

 

「新任教師の手腕に興味がありました て、全て拝見させてもらいました。鷹岡先生、貴方の授業はつまらなかった。教育に恐怖は必要ですが、暴力でしか恐怖を与える事が出来ないなら、その教師は三流以下だ。」

 

「…グガガ…オレは…」

 

理事長は鷹岡の口の中に書類を入れ、突き放す。

 

「解雇通知です。ここの教師の任命権は貴方方防衛省にはない。全て私の支配下だという事をお忘れなく。」

 

「くそくそくそくそくそくそくそぉおぉぉぉぉ!!」

 

理事長が立ち去り、鷹岡も逃げるようにして後にする。

 

「鷹岡クビ…」

 

「って事は今まで通り烏間先生が?」

 

「「「「「「やったー!」」」」」」

 

生徒達が喜ぶ中、俺は離れた所で奴と見守る。

 

「相変わらずであの人の教育は迷いがないですねぇ。」

 

「例えばお前は、将来は殺し屋になりたいと彼が言ったらそれでも迷わずに育てるのか?」

 

渚君の才能は暗殺者として向いている。だが、それをどう育てればいいのか俺には決めかねる。

 

「彼自身は気付いていないが、その才能がある。」

 

「答えに迷うでしょうね。ですが、迷わぬ教師などいない。本当に自分がベストの答えを教えているのか、内心は散々迷いながら生徒の前では毅然として教えなくてはならない。決して迷いを悟られぬよう堂々とね。だからこそ、カッコいいんです、先生っていう職業は!」

 

「………フム」

 

「烏間先生!」

 

「生徒の努力で体育教師に返り咲けたしぃ、なんか臨時報酬あってもいいんじゃない?」

 

「そーそー、鷹岡先生そういうのだけは充実してたよねぇ。」

 

「…フン、甘い物など俺は知らん。これで食いたいもの」

 

財布を取り出すとイリーナにあっという間に盗まれてしまい、そのまま生徒達は喜ぶ。

 

「「「「「「やったー!!」」」」」」

 

「ニュヤ、先生にもその報酬を。」

 

「えー、殺せんせーはどうなの?」

 

「今回はろくな活躍なかったよなぁ。」

 

「いやいやいや!烏間先生に教師のやりがいを知ってもらうためや敢えて静観していたんです!」

 

「ほっといて、行こ行こ烏間先生!」

 

「ねぇ、先生は何がいい?私はねぇ」

 

倉橋さんに引っ張られ、生徒達に連れられながら俺はふと思う。

 

(俺もこの教室ではまってしまっているのかもな…迷いながら人を育てる面白さに。)

 

 

イリーナ視点

 

烏間の奢りによる教室でのパーティーの中、私ははしゃぐ生徒の中で盛り上がっておらず、1人窓際にいる子に話しかける。

 

「有希子。」

 

「ビッチ先生…」

 

「あんた、さっきの事…」

 

門倉君が有希子を保健室に運び、それについて行った私は凄いものを見てしまった時の事を思い出す。

 

〜〜〜〜〜〜

 

『入るわよー。』

 

『タッタッちゃん!?』

 

門倉君は有希子をベットに座らせたまま抱きしめており、全く動かない。

 

『ちょ、ちょっと。あんた達…』

 

思っていたよりも門倉は力を込めてなく、無理矢理引き剝がす事に成功し門倉の顔を見ると私も有希子も驚愕する。

 

『………』

 

泣いていたのだ、声を出さずにもうボロボロと大きな涙を零して。普段は気丈でどのような事があっても動じないあの門倉がである。全く信じられず目の前の光景を疑ってしまった。門倉は袖で涙を無理矢理拭き取り、俯きながらポツリポツリと言葉を紡ぎ出す。

 

『無事で…よかった。頬の腫れはそこまで酷くなさそうだし、今日はもう無理はしないでくれ。さっきの事は忘れて欲しい。』

 

『ちょっ!あんたあそこまでしといてそれで終わりは…』

 

そう言い残し、こちらの話など聞かず門倉は保健室を飛び出してしまった。

 

『ちょっ……有希子。』

 

『…………//』

 

有希子は有希子で頭がショートしてしまっているようで、収拾がつかない様子。なので、私は傷への処置をして保健室を後にした。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜

 

「あん時の門倉凄かったわね。あいついつもあんなに情熱的なの?」

 

「…抱きしめる時はありますけど、あんな無理矢理なのは殆どありません。」

 

たどたどしく紡がれる言葉は有希子が困惑している事を証明している。ただあいつの態度も問題である、あそこまでの行動に踏み出せといて何も関係を進展させていないのはただ根性がないだけだ。単純にイライラさせる。

 

「大変わよ、ああいった男と付き合うのは。」

 

私はああいう鈍感タイプとはあまりないけど、難しさなら簡単に分かる。

 

「いえ、あの、私とタッちゃんはそういう関係じゃあ…//」

 

「好きなんでしょ?」

 

「…はい//」

 

慌てて否定したものの、気持ちは肯定させてしまう。少し面白くなってきた。

 

「ああいう男は言わざるをえない状況になるまで何もしないわよ。」

 

「…そうなんですか!?」

 

乗り気になった有希子に益々面白さを覚えた私は1つ決心する。

 

「あんたの恋、助けてあげるわよ!」

 

「ええっ!?」

 

有希子は驚いているけど、もう構わない。こんな付かず離れずの腹ただしい曖昧な関係、とっととくっ付けてやる。

有希子が赤らめ慌てているのを心配そうに横目で見ている門倉を睨みつける。

 

 

 

待ってなさいよ、この■■■■野郎!!




ビッチが…動く!
という事で2人の関係にとうとう第三者が介入します!
まあそこまで決め手にはならない人なので、大丈夫だと踏んでいます泣

回想の所ですが、”〜”を使って文章を区切り、その時の会話は”『』”で表示したいと思います。
もし見やすい他の表示法などがあったら教えていただけると、嬉しいです!
それでは!
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