最高のオワリのために   作:クローザー

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第9話 ビジョンの時間

潮田視点

 

「あつはなついなぁ、大阪の方では猛暑の時にこう言うらしいです。」

 

夏の猛暑の中、殺せんせーに先導され裏山を僕達は歩いていた。

 

「あっちぃ…なんで裏山なんかに。」

 

「プールでしたら、本校舎にあるんですよね?場所が違うようですが。」

 

「うん。」

 

「渚君、この前凄かったらしいじゃん。見ときゃよかった、渚君の暗殺。」

 

「……いや、僕は一瞬の隙を突いただけだよ。それにあの時は、門倉君の方が凄かったよ完全に鷹岡先生を圧倒していたから。それにあの時は門倉から‥」

 

僕だけだったら本気になった鷹岡先生相手に何も出来ないだろうしあの時は門倉君から少し助言を受けていた、カルマ君からの賞賛にそう考えながら答えると、頭上に軽く何かが叩かれる。

 

「阿呆、そんなに謙遜すんな。」

 

「門倉君…」

 

こちらの会話が聞こえたのか、後ろに来ていた門倉君は少し呆れ気味に話している。

 

「鷹岡の勝負に勝ったのは、お前だ。俺が何か言った所で結果は変わらなかった、お前ならどの道答えにたどり着けていたよ。」

 

「…そうだといいけどね。」

 

「それに俺はただあのデブに暴力で八つ当たりしただけだ。別に褒められる事はしてない、何もな。」

 

門倉君はそう言って少し黙ってしまい、少し先に行ってしまった。残された僕にカルマ君はさっきと変わらず笑顔のままである。

 

「まあ彼もああ言ってるんだし、良いんじゃない?」

 

「…そうだね。ありがとう。」

 

(人間相手に通じてもこの教室では意味がない。皆も毎日のように何かしら試みてるけど、あの先生には未だ決定的な暗殺が出来ていない。)

 

そんな事を考えている間に目的地にたどり着いたようで、殺せんせーが目の前の茂みを払う。

 

「ヌルフフフフ!さあ、着きましたよ、ご覧あれ!」

 

その先には自然に出来たとは思えない岩場で出来たプールがあり、夏の太陽光が反射してとても輝いていた。

 

「先生特製のE組専用プールです!」

 

「いやっほぉおおおおい!」

 

「いよっしゃ!」

 

「それっ!」

 

皆が上着を脱いでそのまま飛び込み、僕もそれに続く。飛び込んだプールはとても冷たく気持ちいい。

 

(こういうことしてくれるから、ウチの先生は殺し辛い!)

 

皆がコースを泳いだり、ビーチバレーをしたりして各々の思うように過ごしている。

 

「んー、楽しいけどちょっと憂鬱〜。泳ぎは苦手だし、水着は身体のラインがはっきり出るし。」

 

「大丈夫さ、茅野。その身体もいつか何処かで需要があるさ。」

 

二枚目顔の岡島君が浮き輪を使って浮いている茅野に励まし?の声をかける。茅野は全く心が動かなかったようだが。

 

「うん、岡島君。二枚目面して盗撮カメラ用意するのやめよっか?」

 

そして僕を見ていた中村さんと岡野さんが怪訝な顔をしている。特に中村さんが恐ろしい物でも見たような顔をしており、恐る恐る僕に声をかける。

 

「渚…あんた……男なのね?」

 

「今更!?」

 

「まあ仕方ない…」

 

(何がしょうがないのさ!?本当に僕が女だとでも思ってたの?!)

 

そんなやり取りの中、僕が見つけたのは水中トレーニング中の門倉君に近づく神崎さんの姿だ。水中をひたすら歩きながら肩の関節の動きを確認している門倉君は全く気付いていない。そこに神崎さんが背後から少しずつ近付き、飛び付いた。

 

「えい!」

 

「おわっ!?誰だっ…て有希子か。どうしたんだ急に?」

 

「と、特には何もないよ。」

 

「そうか、じゃあ離れて貰えるか?このままだと変な誤解を受けてしまうからな。」

 

「…やだ。」

 

「は?」

 

「やだって言ってるの。」

 

「はい?」

 

「別に私達ただの幼馴染なんだから、平気でしょ。普通のスキンシップです。」

 

「いや、普通じゃないでしょ。そんな駄々こねないで離れてくれ。」

 

「やーだ。」

 

神崎さんはそのまま後ろから手を回し、門倉君の体に思い切り抱きつく。完全に離す気がないようだ。いつもと違って神崎さんが少し子供っぽいように見えるのは気のせいなのだろうか。

 

「この前から一体どうしたんだ?少し様子が変だぞ。」

 

「別に…」

 

「まあ、有希子が構わないんだったら俺は構わないがな。このまま歩くからな。」

 

「うん!」

 

呆れ気味の門倉君は一度溜息を吐き、神崎さんに抱き着かれたまま水中歩行を始めてしまった。門倉君は満更でもなさそうだし、神崎さんもとても嬉しそうだ。その様子を僕が微笑ましく見ていると、突然水中から僕の真横に上がってきた杉野が口から水が溢れ出すのを気にせず、血の気のない目で門倉君と神崎さんを見つめる。

 

「なあ、渚、あいつ何してるの?」

 

「さ、さあ。」

 

「ナニシテルノカナ?」

 

「杉野、恐いよ…」

 

完全に人を辞めてしまって目をしている杉野を見なかった事にする。僕が2人に同情していると笛の音がプール中に鳴り響き、その音の発生源である殺せんせーに皆が注目する。

 

「木村君、プールサイドを走っちゃいけません!転んだら危ないですよ。」

 

「あ、す、すみません。」

 

「原さんに中村さん、潜水遊びは程々に!長く潜ると溺れたかと心配します。岡島君のカメラも没収!狭間さんも本ばかり読んでないで泳ぎなさい!あと門倉君、君はこんな真昼間からトレーニングしながら神崎さんといちゃつくのはやめなさい!学生らしく健全に遊ぶべきです!」

 

「いるよねー、自分が作ったフィールドの中だと王様気分になっちゃう人…」

 

皆が呆れ気味で見つめる中一通り注意を終えると満足した様子の殺せんせーは監視台の上で楽しそうに寛いでいる。

 

「ああ、ありがたいのにありがたみが薄れちゃうよなぁ…」

 

「ヌルフフフフフ、景観選びから間取りまで自然を活かした緻密な設計。皆さんには整然遊んでもらわなくては!」

 

どうやら、妙な使命感に駆られているようだ。

 

「堅いこと言わないでよ殺せんせー。水かけちゃえ!」

 

倉橋さんが水をかけると殺せんせーは女の子のような声を上げ、仰け反ってしまった。

 

「きゃあ!!」

 

「え…」

 

「…何、今の悲鳴?」

 

「えへ、ってきゃあっ!カルマ君、揺らさないで、落ちる落ちる落ちますって!?落ちますからたのんます!?」

 

カルマ君が恐いくらいの笑顔で監視台を揺らすと殺せんせーは物凄い動揺している。皆、つい凝視してしまい言葉を失ってしまう。

 

「殺せんせー、もしかして?」

 

「いやー、別に泳ぐ気分じゃないだけだしー。水中だと触手がふやけて動けなくなるとかそんなんないしー。」

 

「態度があからさま過ぎでしょ…」

 

(先生…泳げないんだ!これは今までで1番使える弱点かも…)

 

「手にビート板持ってるし、てっきり泳ぐ気満々かと。」

 

「これはビート板じゃありません、麩菓子です!」

 

たしかによく見ると茶色のビート板らしきものには噛んだ跡がついていた。

 

「おやつかよ!?」

 

思わぬ所で大きな収穫を得た僕等は殺せんせーがイジられるのを見ながら、残りの時間を使い、思いっきりプールを満喫していた。そして校舎に戻り、着替えを済ませ教室に戻ると、一台の木製バイクが置いてあった。

 

「ま、まさかこれって…」

 

吉田君が恐る恐る近付き触っていると、ヘルメットを被りライダースーツに身を包んだ殺せんせーが現れ、バイクに乗る。

 

「ええ、これは以前お話しした例のヤツです。」

 

「マジかよ殺せんせー!!まるで本物じゃあねぇか!」

 

吉田君はとても興奮し、喜んでいるのがとても分かる。そして、その声に反応するかのように教室の扉が開けられ、廊下から寺坂君が入ってくる。

 

「何してんだよ、吉田?」

 

「あ、ああ寺坂。この前こいつとバイクの話で盛り上がっちまってよ。ウチの学校こういうの興味あるヤツいねぇから。」

 

「先生は大人の上に漢字の漢と書いて男の中の男。この手の趣味も一通り齧ってます。しかもこのバイク、最高速度300㎞/h出るんですって。先生一度本物に乗ってみたいもんです。」

 

「アホか、抱き抱えて飛んだ方が速えだろ!」

 

吉田君だけでなくクラス中から笑いが起きる。しかし、何を思ったのかそのバイクを寺坂君が蹴飛ばしてしまった。

 

「ニュヤァアァァァァァァ!?」

 

倒されたショックのせいか殺せんせーは泣き出してしまう。皆も可哀想だと思い殺せんせーを庇い、寺坂君を責める。

 

「なんてことすんだよ寺坂!」

 

「謝ってやんなよ、大人な上に漢字の漢と書いて男の中の男の殺せんせーが泣いてるよ!」

 

「「そーだ、そーだ!」」

 

「てめーら、虫みたいにブンブン煩えな。駆除してやんよ!」

 

寺坂君は机の中からスプレー缶らしき物を取り出し、床に叩きつける。その瞬間缶から煙が飛び出し、教室の中が真っ白になる。

 

「何これ!?」

 

「殺虫剤…?」

 

「何をしている!早く窓を開けろ、換気するぞ!」

 

いの一番に動き出した門倉君の指示で教室の窓を皆が開き、すぐに煙はなくなる。殺せんせーも流石に思う所があったらしく、寺坂君に注意する。

 

「寺坂君、ヤンチャするにも限度って物が!」

 

「触るんじゃねーよ、モンスター。気持ち悪いんだよ、テメーもモンスターに操られて仲良しこよしのテメーラも!」

 

「何がそんなに嫌なのかねぇ、気に入らないなら殺せばいいじゃん。折角それが許可されてる教室なのに。」

 

「今のお前はただのひとりぼっちのガキ大将だ。もう少し振る舞い方を考えた方が良いんじゃないか?」

 

「てめえら、喧嘩売ってんのかよぉ?上等だよ、大体てめえらは最初っから!?」

 

挑発するカルマ君と門倉君にイラついたのか、寺坂君が掴みかかろうとすると、まず門倉君が右ストレートを顔面スレスレで止め牽制し、動けなくなった所でカルマ君が寺坂君の顔面を掴む。

 

「ダメだってば、寺坂。喧嘩するなら口より先に手を出さなきゃ。」

 

「離せよっ!くだらねぇ…」

 

カルマ君の手を引き剥がすと、寺坂君は教室から出て行ってしまった。

 

「何なんだあいつ…」

 

「一緒に平和にやれないもんかなぁ。」

 

歯切れが悪いままその日は学校が終わってしまった。

 

 

 

門倉視点

 

「…う、う、うう…」

 

寺坂の騒ぎから翌日、昼ご飯を食べている最中に殺せんせーの目から多量の涙(粘液)が出ていた。

 

「何よ、さっきから意味もなく涙を流して?」

 

「いいえ、鼻なので涙ではなくて鼻水です。目はコッチ。」

 

「紛らわしい!」

 

たしかに紛らわしさを感じる程、目と鼻が近すぎて見分けがつかなかった。それにしてもまるで花粉症の様に鼻水が出ている。

 

「どうも昨日から体の調子が少し変です。」

 

そんな殺せんせーのぼやきを差し置いて、寺坂が遅めの登校をしてくる。

 

「おー、寺坂君!今日は来ないのかと心配でした!」

 

寺坂君は何も言わずに自分にかけられた粘液を殺せんせーのネクタイで拭き取る。

 

「おいタコ。そろそろ本気でぶっ殺してやんよ。放課後プールへ来い。弱点なんだってなぁ、水が。」

 

そう言うと俺等の方へ視線を向け呼びかける。

 

「てめー等も全員手伝え!俺がこいつを水の中に叩き落としてやっからよぉ!」

 

「寺坂、お前ずっと皆の暗殺に協力してこなかったよな。それをいきなりお前の都合で命令されて皆がはいやりますと言うと思うかぁ?」

 

「別にいいぜ、来なくても。そん時は賞金の100億、俺が独り占めだ。」

 

「なんなんだよアイツ…」

 

「もう正直ついていけねーわ。」

 

「なんだ、お前等いつもつるんでたから仲良いと思ってたけど、冷たいんだな?」

 

「「…………」」

 

随分と薄情だと思うが、2人も思う所があるようだから恐らく大丈夫なのだろう。だが、先ほどの説明では誰も行く気が起きないようだ。

 

「私行かなーい。」

 

「同じく。」

 

「皆行きましょうよぉ。」

 

「うおっ、粘液に固められて逃げられねぇ!?」

 

「折角寺坂君が私を殺る気になったんです。皆で一緒に暗殺して気持ちよく仲直りです。」

 

「まずあんたが気持ち悪い!」

 

床一面に広がった粘液で皆が動かなくなる中、粘液塗れになった殺せんせーが説得するが顔すら見えなくなり気持ちが悪い。

 

「ねぇ門倉君さ、どう思う?」

 

「怪しいな、寺坂の昨日の行動だけじゃなくて今日のあの自信がどうも引っかかる。」

 

スプレーをばら撒いたりしたあの行動、どうにも引っかかっていた。まるで誰かに指示されているかのようだった。赤羽は嬉しそうに同意する。

 

「だよねー、俺も気になってんだよ。だからさ、このままプールで行かないで少し離れた所から観察しない?」

 

「別に構わないが、何か起きたら俺はすぐに行くぞ。」

 

「それでいいよ。俺もそのつもりだしね。」

 

皆が殺せんせーの説得で嫌々移動する中、俺と赤羽だけはプールから少し離れた所で待機する事とした。

 

 

 

30分程経ち俺と赤羽は今2人で森の中で待機しており、暫く沈黙が続いていた。だが、それも赤羽の一言で破られた。

 

「ねぇ、門倉君はさ。神崎さんの事をどう思ってるわけ?」

 

「それはどういう意味での質問だ?戦力としてか、異性としてか?」

 

「いやだなぁ、異性に決まってんじゃん。」

 

「……好きだよ。」

 

この感情は彼女が父親からの重圧で弱っている時に自覚していた。ただ、昔から男性から良くない扱いを受けてきた彼女に今自分が告白した所で困惑させてしまうだけだと考えている。だから今は自重している、まあたまに暴走してしまうが…

 

「そんなに迷ってないなら、早く言っちゃえばいいのに。」

 

「色々あるんだよ、それに俺はまだ幼いから彼女を傷付けてしまうかもしれないだろ。今はこのままでいいんだ。」

 

「門倉君が良くても多分神崎さんはか」

 

赤羽が何か言いかけた瞬間、どこかから爆発音が響き渡る。音の方角はプールの方だ。

 

「赤羽!」

 

「分かってる!」

 

2人で一気に森を駆け抜け、プールに辿り着くとそこは昨日見た銃を握りしめた寺坂と水が抜けてしまったプールしかなかった。水を堰き止める部分が破壊されており、あの部分が爆発したのだと推察出来る。殺せんせーや他の皆はおらず、恐らく爆発で水が流れ出しそのまま流されたのだろう。

 

(有希子!?)

 

「俺は…何もしてねぇ。話が違えよ、イトナを呼んで突き落とすって聞いていたのに。」

 

(イトナ、という事はこれはシロの計画か!?)

 

「成る程ねぇ、自分で立てた計画じゃなくてまんまと操られていたって訳。」

 

寺坂は怯えながら赤羽の胸倉を掴む、まるでや失敗を誤魔化す子供のような顔をして。

 

「言っとくが、俺の所為じゃねえぞ。こんな計画やらす方が悪りぃんだ。皆が流されていったのも全部奴らが悪いッガァ!」

 

赤羽は寺坂が言い終わる前に殴り飛ばす。寺坂はただ茫然としている。

 

「流されたのは自分じゃん。人の所為にする暇があったら、自分の頭で何したいか考えたら?門倉君、行こう。」

 

「おう。」

 

そう言って走り出す赤羽に俺はそのまま続く。

 

(たしかこの川の最終地点は滝になっていたはず、ならそこに殺せんせー達はいる。待ってろ有希子!)

 

俺は有事の際に備えて持ち出した対先生用手袋を手にはめながら、目的地に向かっていた。

 

 

 

潮田視点

 

 

川に流されている所を殺せんせーに助けられた僕達はカルマ君と門倉君に連れられ滝の近くまで来ていた。上から見下ろすと殺せんせーがイトナ君からの猛攻を受けていた。

 

「マジかよ…」

 

「あの程度の水のハンデはなんとかなるんじゃ?」

 

「何か別のものがあるんだ。」

 

「その通りだ、あれは水だけの所為じゃねえ。」

 

「寺坂!」

 

「力を発揮出来ねえのはお前等を助けたからよ。見ろよ、タコの頭上。」

 

そう言われて見ると、そこには原さんが木にぶら下がっており、吉田君と村松君が崖に掴まっていた。

 

「ぽっちゃりが売りの原さんが今にも落ちそうだ。」

 

「殺せんせー、原さん達を守る為に…」

 

「アイツヘビーでふとましいから危ねえぞ。」

 

「助けないと!」

 

「どうやって?」

 

「…お前ひょっとして今回の事奴等に操られていたのか?」

 

磯貝君がそう言うと皆が見つめその中で、寺坂君は鼻で笑い、肯定する。

 

「ふっ、ああそうだよ。目的もビジョンもねえ短絡的な奴は頭の良い奴等に操られる運命なんだよ。」

 

寺坂君は自嘲気味に話すが、途中から声色が変わる。

 

「だがよ、操られる相手くらいは選びてぇ。奴等は懲り懲りだ、賞金持って行かれんのもやっぱ気に入らねえ。だからカルマ、テメエが俺を操ってみせろや。」

 

「ハァ?」

 

「その狡猾なお頭で俺に作戦を与えてみろ、完璧に実行してあそこにいるのを助けてやらぁ!」

 

「良いけど、実行出来んの?俺の作戦…死ぬかもよ?」

 

「やってやんよ、こちとら実績持ってる実行犯だぜ。」

 

カルマ君にシャツのボタンを千切られ前がはだけたものの、寺坂君は一切気にせず作戦を引き受ける。

 

「じゃあ門倉君、さっき頼んだ通り手伝ってもらって良い?」

 

「‥分かった。3分は稼げる。」

 

そう言うと詳しい事を聞かずに門倉君はすぐに殺せんせーのトコまで飛び降り、着地する。

 

「ニュヤ!門倉君、こんな所に来てはいけません!」

 

「黙ってて下さい。おいイトナ!この前の決着つけようぜ。」

 

そう言うとイトナ君は標的を殺せんせーから門倉君に変え襲いかかる。門倉君は反撃する事なく、ガードの体勢でただ触手の攻撃を受け続ける。

 

「貴様、どういうつもりだ?早く攻撃してこい。」

 

「これでいいんだよ。打たれ強いのがボクサーの長所なんでね。それに、今回のメインは俺じゃない。」

 

そう言ってイトナ君の攻撃を受け続ける門倉君は何かを待っているように見える。

 

「オッケー、大丈夫だよ。準備完了だからね。寺坂!」

 

「応!」

 

すると寺坂君も飛び降り、着地する。

 

「寺坂君…」

 

「よくも俺を騙してくれたなぁ。」

 

「まあそう怒るなよ。ちょっとクラスメイトを巻き込んだだけじゃないか。E組で浮いてた君にとっちゃ丁度良いだろう?」

 

「うるせえ!てめえ等はゆるさねぇ。イトナ、テメエ俺とタイマンはれや!」

 

「やめなさい寺坂君。君が勝てる相手じゃない!」

 

「すっこんでろ膨れタコ!」

 

「はっ!健気だねぇ、黙らせろ、イトナ。」

 

シロさんからの指示により、イトナ君は標的を門倉君から寺坂君に移す。これはマズイ!

 

「カルマ君!」

 

「良いんだよ、あのシロは俺達生徒を殺すのが目的じゃない。生きているからこそ殺せんせーの注意力を削げるんだ。原さんも一見危険だけど、イトナの攻撃の的になる事はないだろう。だから寺坂君にも言っといたよ。気絶する程度の触手は食らうけど、逆に言えばスピードもパワーもその程度。死ぬ気で食らい付けって。」

 

寺坂君は自分のシャツで触手を挟むようにイトナ君の触手攻撃を受け止める。

 

「よく耐えたねぇ。イトナ、もう1発あげなさい。」

 

イトナ君がまた攻撃をしようとした途端、突然くしゃみをする。これにはシロさんも驚いた様子だ。

 

「え…?」

 

「寺坂の奴、昨日と同じシャツのままなんだ。」

 

(成る程!)

 

「て事は変なスプレーの成分を至近距離でタップリと浴びたシャツだって事だ。イトナだってただで済むはずがない。で、イトナに一瞬で隙を作れば原さんはタコが勝手に助けてくれる。そして、我慢強く殴られて時間稼ぎした彼も仕返しを、ね。」

 

たしかにあっという間に殺せんせーは間一髪の所で原さんを助けて、門倉君は触手を2本千切りとっていた。

 

「吉田、村松!デケエの頼むぜ!」

 

「マジかよ。」

 

「殺せんせーと弱点一緒なんだよねぇ?じゃあ同じ事やり返せば良いわけだ。」

 

寺坂君の指示で吉田君と村松君が、カルマ君の指示で他の皆が飛び降り大きく水しぶきを上げる。そして、全員でイトナ君に水をかけ続ける。イトナ君の残り1本の触手も殺せんせーのと同じように膨れ上がり、動きが鈍くなる。

 

「大分吸っちゃったね。あんた等のハンデが少なくなったー♫」

 

「…………」

 

「で、どうすんの?俺等も賞金持ってかれるの嫌だし、そもそも皆あんたの作戦で死にかけてるし、ウチのエースとついでに寺坂もボコられてるし。まだ続けるなら、こっちも全力で水遊びさせてもらうけど?」

 

皆イトナ君に水をかける準備をし、イトナ君は完全に逃げ場をなくしてしまった。しばらく黙っていたシロさんもようやく口を開く。

 

「してやられたな。ここは引こう。この子等を皆殺しにしようものなら反物質蔵がどう暴走するかわからん。帰るよイトナ。」

 

「くっ……」

 

「どうです、皆で楽しそうな学級でしょう?そろそろちゃんとクラスに来ませんか?」

 

殺せんせーに声をかけられたイトナ君は門倉君を睨みつけている。

 

「………」

 

「イトナ。」

 

シロさんの呼びかけに応じ、イトナ君はそのままどこかへ向かって行ってしまった。

 

「なんとか追っ払えたな。」

 

「良かったね、殺せんせ。私達のお陰で命拾いして。」

 

「ヌルフフフフフ、勿論感謝してます。まだまだ奥の手はありましたがね。」

 

「そういえば寺坂君、さっき私の事散々言ってたね。ヘビーだとかふとましいとか?」

 

「い、いやいやいや、あれは状況を客観的に分析してだな。」

 

「言い訳無用!動きがデブで遅いって見せてあげるわよ!」

 

「あーあ、本当無神経だな。寺坂はそんなんだから人の掌で転がされるんだよ。」

 

原さんを怒らせた寺坂君が詰め寄られているのをカルマ君が高みの見物をしている。なんか、すごい縮図だ…

 

「うるせーカルマ!テメーも高い所から見てんじゃねえ!」

 

「わっぷ!ハァーー!何すんだよ上司に向かって!」

 

カルマ君は岩場から水辺に落とされ完全に水浸しになってしまう。

 

「誰が上司だぁ!触手を生身で受けさせる上司が何処にいる!」

 

「門倉君だってやれてたんだから、お前なら出来て当然でしょ!」

 

「あんな化け物人間と一緒にすんなよな!普通あんなもん何発も受けたら即死だぞ!」

 

「おい待て、それは聞きづてならないんだが…」

 

「タッちゃん。」

 

「ああ、有希子。お前からも何か言って」

 

「正座。」

 

「…え?」

 

「正座。」

 

「…はい。」

 

門倉君は化け物扱いに抗議しようとするが、神崎さんの気迫に押され正座する事になる。

 

「大体テメーはサボり魔の癖に美味しい場面は持って行きやがって!」

 

「あーそれ私も思ってた。」

 

「この機会に泥水もタップリ飲ませようか。」

 

「全くタッちゃんは何でいつもそんなに無茶をするのかな!」

 

「いや、だって時間稼ぎをするようにっていう作戦だったし…」

 

「別に避ければよかったでしょ。いつも意地張って受けなくていい攻撃を受けるんだから、そんな生傷がいつも絶えないんだよ!」

 

「はい…反省します。」

 

そう言うとカルマ君は皆に押さえつけられ水をかけられ始める。その横では修羅となった神崎さんに説教される門倉君を皆が笑っている。

 

「寺坂君は高い所から計画を練るのに向いていない。彼の良さは現場でこそ発揮されます。体力と実行力で自身も輝き現場の皆も輝かせる。門倉君という高い目標によってさらに実行部隊として成長が楽しみなアサシンです。そして門倉君は前線だけでなく全体の指揮を執りながら作戦を実行出来る、正直今後の成長が恐ろしいアサシンです。」

 

僕は殺せんせーと一緒にその光景を微笑ましく見つめる。寺坂君はかなり乱暴だけどクラスに馴染んできた。僕もカルマ君もその事が内心では嬉しくて、クラス全員が見落としてたんだ。

 

 

 

 

水なんかよりもっと大きな、殺せんせーの弱点を。

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