東方守護執事   作:結城勇気

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 注意!!


 今回はちょっとえっちぃ(?)表現が含まれています!
 十五歳以下の人はなるべく見ないでね!


 なーんて、意味のない注意を入れつつ……。


 どうぞ!


第十話「ハーレムとは実は不幸でしかない」 Side 宗次朗・???

 夕食を終えて現在キッチン。使った食器の洗い物をしている最中。

 

 食事当番はメイド長たる咲夜と、執事長である僕とで交代交代で行っている。それだけじゃなくて、後片付け(テーブル拭いたり皿洗いしたりなどなど)も交代で行っている。つまり、片方が食事を作る場合は片方が片付け担当、というローテーションが繰り返されている、っていう訳。

 

 明日は僕が食事当番で、咲夜が片付け当番。

 

 当然だけど、咲夜が片付ける時は時間を止めて(僕達からすれば)一瞬で終わらせてくれるのでかなり早い。僕も遅いって訳じゃないけど……さすがに咲夜には敵わない。

 

 一枚、また一枚と、洗剤を染み込ませたスポンジ――どっちも外で買いだめてきた――で皿を磨き、水で洗い流す。

 

 この幻想郷にはあまり、というよりほとんど普及していない水道を引いているから、水切れになることは早々ない。紅魔館自体にも水タンクをひっそりと置いてあるので、何か問題があっても大丈夫。

 

 最後の一枚を包んだ泡を水で流し、布巾で水気を拭き取って、能力で作った障壁の上に載った同じ皿の上に重ねる。それら小さな皿の塔を一つ一つ大きな茶箪笥(だんす)の元の場所へと置いていく。

 

「ふぅ……」

 

 ――これで今日の主な仕事は終了。掃除や洗濯は昼間のうちに咲夜とついでにメイド妖精達とで終わらせているから問題ない。あとはレミリアお嬢様やフランが何も言わない限り、お風呂入って食後のお茶なりなんなりを過ごして、歯を磨いて寝るだけだ。

 

 あぁ、もちろんそれ以外の時間はフランといるけどね。

 

 水に濡れることから“守られていた”手は湿り気一つないため、タオルで手を拭くこともない。置いてあった小さな籠を持って、そのままキッチンを出て行った。

 

 視界がほとんど(あか)に包まれる廊下を進み、フランの部屋に向かう。

 もはや二人専用の部屋と化した彼女の部屋には、僕の服やその他諸々も一緒に置いてある。

 

 とはいえ、今は別にそれが目的じゃない。お風呂にはまだ入らないし。そもそも今はお嬢様とフラン、咲夜が入っている。流水? 僕の能力分かってるでしょ。

 

 さて。じゃあ何しに行くんだ、と思うだろうけど答えは単純明快。脱衣所に、正確には脱衣所の扉前にフランの下着及びバスタオルを持っていくのだ。

 

 ……まぁ、普通は男の仕事じゃないのは理解してるんだけどね。残念ながら「私が忘れたら持ってきてね!」って、“命令”されちゃってるもんでね。執事としては従わなきゃいけないわけだ。役得と言えば役得なんだけどね。さすがの僕も女性の下着を手に取るのは気が引ける。

 

「しかし……ほんと広いよね、紅魔館(ここ)

 

 今更なことを僕はつぶやいた。

 

 この紅魔館は咲夜の能力によって、外観よりもかなり広い。だから廊下も長いし部屋も大きい。えーっと……能力で空間をいじってるんだっけ? 時間を操れると空間も操れるのだったか。よく覚えてないや。

 

 数分歩き続けてようやく部屋の前にたどり着く。ノブを引いて開け、中に入る。

 

 視界に入った、お姫様用みたいなベッド。そのほかに大して物はない。というより、部屋が広すぎて、ちょっとあっても全くないように見える。

 

 ポツン、と置かれたタンスの一番下を開ける。フランの下着専用場所だ。適当に一枚取り出し閉める。下着は籠の中へ。

 

 次に別の段を開けて、バスタオル(フランお気に入りタオルたち)を一枚取り出す。もちろん籠へ。

 

 部屋から出て脱衣所前まで向かう。再び長い廊下を歩く。ここから風呂場まで五、六分かかる。広いのは良いんだけど、広すぎるのもやっぱり面倒だね。

 

 脱衣所前に辿りついた。うっすらとだけど、中から楽しそうな声が聞こえる。

 

「フランドールお嬢様!」

 

 僕はそれなりに大きな声を上げる。能力で声の進行を阻害するものから“守って”いるから、綺麗に声が届いたはずだ。

 

「お忘れした物をお持ちいたしました。脱衣所の前へ置いておきます」

『うん! 分かったー!』

 

 彼女の返事を確認して(きびす)を返す。

 

 彼女たちがお風呂に入り始めたのはちょうど二十分前くらいだ。女性のお風呂は長いと言うが、まさしくその通りで、何をしているのか知らないけど一時間近く入ることもしばしばある。

 

 その間、僕は完全にヒマになる、という訳だ。することもないから、いつも美鈴(めいりん)と適当に話してる。今日もそのつもりだ。

 

 わざわざ廊下を歩いて外に出るのも時間がかかるので、窓を開けて外に出ることにする。窓枠に足をかけ、ふっと飛び出した。着地目標地点は外壁の外にある一番近い木。

 

 木に足がつく――瞬間だった。

 

 

 

 

「待ってましたぁー♪」

 

 

 

 

「え?」

 

 木が、パックリと割れた。

 

 いや、木が割れたんじゃない。木の目の前の空間が真横に切り開かれたんだ。楕円状に開かれたその先には目、目、目――目だらけの空間が垣間見えていた。

 

 逃げ……られなかった。空気を足場に逃げようにも、この割れた空間が現れた時点で足は先の空間に捕えられていた。中に空気が無いわけではないが、空間の中にいる誰かによって足を掴まれていて無理だった。

 

 誰の仕業か、なんて明白だった。

 

「ゆ、紫ちゃん!?」

「一名様、ごあんなーい♪」

 

 (まばた)きした瞬間、もう視界は嫌な目で覆われていた。

 

 

 

 

 

宗次朗 Side out

 

 

 

 

 

 

      *  *  *

 

 

 

 

 

 

Side Change 紫

 

 

 

 

 

 ついに……ついにこの時が来たのよ……っ!

 

 あんな吸血鬼の小娘に負けてなどいない事の証のために!

 

 略奪愛こそ真の愛だと証明するために!

 

 宗次朗を……私は(さら)ってきたァ――ッ!!

 

 ふ、ふふふ……私は三か月待ったのよ……。

 

 管理者としての仕事をこなしながら朝から晩まで紅魔館を観察し続ける毎日……。宗次朗の一日を研究し行動を研究し日課的なことまで研究して! 細かく細かく管理者としての仕事の傍ら研究成果を記し続けたわ。今となっては彼があのフランドールをどんな風にいじめているかとか、今穿いているであろう下着とかその他諸々まで把握しているわ。

 

 前者に関しては……まぁ、ある意味必要なことだったから一応記してあるわ。血涙を流しながら書いたせいか、血塗れだけど。

 

 そしていつ、どの時間にどこに来た瞬間にスキマを展開すれば誰にも気づかれず、確実に攫えるかを計画! 結果は見ての通り大成功! ふふ、さすがは私だわ。

 

 彼はというと、今は私の横で眠っている。スキマの中に引きずり込んだ瞬間に、彼の意識を弄って眠らせおいたの。あぁ……可愛い寝顔……食べてしまいたいくらいよ。もちろん、物理的ではなく。

 

 今ここは私の家、私の部屋。宗次朗はスキマを手足を縛る形で展開して動けなくしている。つまりいつでも襲える状態にある。

 

 でもあえて私が動かないのは、私の式である八雲(やくも)(らん)。さらに彼女の式である(ちぇん)を待っているから。実行するときは三人で――というのが私たちの約束だから。独り占めはせず三人の物としよう、これが私達八雲家で決めたことだった。

 

 さて、その私が待っている藍と橙だけど……別に大したことをしている訳じゃない。ただ念の為の仕掛けをしているだけ。主に外からの襲撃の。

 

 あぁ……気持ちの昂ぶりが止まらない。高まる興奮が抑えつけられない。思わず舌なめずりをしてしまうほどだ。周りから見たら不気味でしかないだろう笑みすら零れてくる。

 

 スっ、と庭の空間に切れ目が入った。それは滑らかに広がり、人間二人分ほどの大きさの割れ目となった。

 

「申し訳ありません紫様。彼女たちを止めるほどの罠となると、少々……」

「ごめんなさいー……」

 

 言って出てきたのは当然、九尾の狐たる八雲藍、そして彼女の式である化け猫、橙だった。

 

「ふふ、いいのよ。念には念を。他の女どもに邪魔などされたくないものね」

 

 くすりと藍と橙は笑うと、部屋に入り、布団に縛られて寝ている宗次朗に目をやる。小さく生唾を飲んだ音が聞こえた。

 

「――さすがです紫様。彼を攫ってくるのはかなり困難だったでしょう」

「そうね。誰にも気づかれず、彼のスペックでも逃げられないような完璧なタイミングを取らなければならないのだから」

 

 空を飛べない彼は、空気を蹴るなどと言った事をしてくるから厄介だった。普通に空を飛ぶよりも小回りの利く彼は、単純な機動性ならこの幻想郷でも五本の指に入るかもしれない。

 

 ぽーっと頬を染める橙は、眠る宗次朗を凝視したまま口を開いた。

「ゆ、ゆかりしゃま。こ、ここ、これから……」

「えぇ……橙だって、宗次朗が良いでしょう?」

 

 ポッと更に赤くなる。

 

 九重宗次朗という男を奪い取る、というのは生半可なことでは出来ない。

 

 彼はフランドール・スカーレットの恋人。溺愛でも狂愛でもどうとでも言えるほど彼女の事を愛している。もちろんフランドールも同じくだろう。下手をすれば姉に対してよりも愛は深いかもしれない。別にレミリアへの愛が浅いとか、そういう訳では決してないだろうけれど。

 

 宗次朗は完全にフランドール一筋であり、他の幻想郷の住人(彼に惚れた女含め)友人、もしくは家族にしか見れないはずだ。

 

 でも……私達彼に惚れた女たち(被害者)は、友愛や家族愛じゃ満足できるわけもない。

 

 愛は愛でも、一人の女へ向ける愛が欲しい。

 

 故に。私たちは実行した。「九重宗次朗略奪(りゃくだつ)作戦」を。

 

 一人の女として見れないのなら、見れるようにしてやればいい。私たちはれっきとした女性であり、あなたに惚れた女の一人であると、理解させてやればいい。

 

 すぐの結果など期待してはいない。大事なのはそう理解させてやること。認識させてやること。家族でも友人でもなく、女としてその目に映るようにしてやるのだ。

 

 ふふっ……、緩む顔を引き締められないわ。ちらと見てみれば、二人も口元が吊り上っていた。

 

 うぅっ……、と宗次朗が(うめ)いた。

 

「あら?」

 

 予定より目覚めるのが早い。本当ならもっとイロイロ(・・・・)してから目覚める、というのがシナリオだったのだけれど。

 

 まぁでも、これも予想の範疇。彼が目覚めてもヤることは変わりない。

 

「う……っ」

「目が覚めたみたいね、宗次朗」

 

 え、とこちらへ顔だけ向ける。いや、顔しか向けられない。当然だ、縛っているのだから。

 

「な、なな、なにこれッ!?」

「見ればわかるだろう。縛っているんだお前を」

「なんで!?」

「お、お、襲うためですっ」

「襲う!?」

 

 完全に混乱しているのか思考がうまく回っていないようだった。それでも警戒心が見られないのは、妖怪が人間を襲うという意味ではない、と直感しているからかもしれない。

 

 ニヤリ、と笑みを浮かべた私たちは、各々(おのおの)彼を囲むように膝をつき、彼の身体に手を()わせる。

 

「ち、ちょっ!」

 

 宗次朗は若干顔を赤くしながら声を上げる。

 

「大丈夫よ宗次朗……痛くなんてしないわ。それどころか――」

 

 天国に連れってってあげる――。

 

 小さく呟きながら、彼の唇に私の唇を押し当てた。想像よりも柔らかい感触が、唇から全身へと伝わっていく。

 

 んーッ!? と暴れようにも暴れられない宗次朗は、更に顔を赤くしながらもがく。私はそれを無視して、無理やり彼の口をこじ開け舌を挿入する。ぬるりと彼の舌と私の舌が触れ合った。そのまま絡めて口内を蹂躙する。

 

 横に目だけをやると、藍と橙はちょっとずつちょっとずつ彼の着ている執事服をはだけさせながら、男性にしては白い肌に触れたり舐めたりと楽しんでいるようだった。

 

 視線を戻して一度離れる。舌を伝って透明な糸がツーっと宗次朗の口内へつながっている。それを一瞥(いちべつ)して、再びディープなキスを再開する。今度はもっと奥へ舌を入れ、隅から隅まで絡めていく。

 

 二人の方をだんだんエスカレートしてきているようで、ピチャピチャと水音がし始めた。別の水音も聞こえる気がするが、それはあえて言わないでおく。

 

 興奮が高まる。もはや完璧に抑えられなくなっている。早く、早くと頭で(ささや)く何かが私を急かす。

 

 彼の頬を押さえていない、空いた手がスッと、私の身体へと向かう。ほとんど無意識だった。

 

 再びちらり、となんとなく目をやってみた。

 

「……ん?」

 

 おかしい。これはおかしい。

 

 何がおかしいって……彼のアレがなっているべき状態になっていないのだ。

 

 こういったことの資料(外から持ってきた本やら小説やら何やら)をいくらか読んでみたが、大体ここまでくればアレがああなっていた。

 

 だが彼はどうだ。まったく変化がない。よく考えてみれば喘ぎ声の一つも漏らしていなかった気がする。キス越しとはいえあれだけ近ければ聞こえてもおかしくないはずなのに。

 

 仕事の時と同じように回り始めた頭は、数秒で答えをはじき出した。

 

「宗次朗……あなた能力で全部カットしているでしょう」

 

 私の声が聞こえたのか、藍と橙もぴたりと止まってこちらへと目をやってきた。

 

「……フラン以外には反応しないように日ごろからやってるよ」

 

 なっ!? と、二人が驚愕の声を漏らした。

 

 迂闊だった。

 

 彼の事だ、フランドール以外の女が自分に惚れているなど考えてもみないだろう。だからおそらくは別の理由――それこそハニートラップやら、女の暗殺者などに対しての対策だろう。他の女に何されても反応さえしなければ、どうとでもなる。

 

 まぁ、その前にそんな状況になどならないだろうけど。彼は相手の自分に対する愛には敏感だ――友愛とか家族愛としか認識してないだろうけど――。自分に対して本当に愛を向けていなければ、どうでもいい石ころ以下の存在でしかない。押し倒そうとしたその瞬間に、相手は殺されているだろう。

 

 彼がもがいていたのは、フランドールに対する愛ゆえに、彼女以外にされるのはダメだと心から感じているから。私たちにすら。そう思うと少し胸が痛んだ。

 

「ね、ねぇ紫ちゃん。そろそろ解放してほしいなー、って思うんだけど……」

「ダメ」

 

 キッパリと言った。

 

 そう、ダメだ。たかだかこの程度で諦めてはならない。どっちにしろ彼に自分たちを女性だと認識させるにはこれしかいないのだ。

 

 第一、ここまで来て彼がこんな冷静に私たちに対応している時点で、まだ友人としか思っていない証拠じゃないか。どうせイタズラとか、からかっているとか考えているに違いない。そんなことが許されるわけはない。それでは永遠に私たちは――。

 

「ダメよ宗次朗。今夜は帰さない。あなたが私たちを一人の女として見るまでは……絶対に帰さないわ」

 

 理解していないだろう宗次朗は?を浮かべて狼狽している。

 

「能力に対抗するなら……能力よね?」

 

 再び私は彼にキスを開始した。舌は奥へ、奥へ。最初と同じように濃厚に絡める。

 

 私の能力、『境界を操る程度の能力』を発動させた。

 

 妖怪と人間、夜と昼、睡眠と覚醒、二次元と三次元など、あらゆる境界を操るのが私の能力。そして、彼の『ありとあらゆるものから守る程度の能力』を唯一回避できる能力ともいえる。

 

 彼の能力に“スキマから守る”という事が出来ない。それが何故かはわからないが、それでも彼の能力を唯一簡単に回避し、攻撃できる手段だと言える。

 

 ならば。

 

 彼の能力を無理矢理封じる。

 

 さすがに全てを封じるなど彼の地力からして無理かもしれないが、一部さえ、彼が彼自身にかけた、『フラン以外との行為による性的快楽、及び性的興奮から守る』なんて余計な部分さえ封じられれば――。

 

 能力と能力者の境界に介入する。やったことはないしやる必要もなかった能力の封印。でもやるしかない。成功させるしかない。でなければ私たちは一生勝てない。

 

 ガキン!! と、頭の中で何かがぶつかり合う音がした。彼の能力と私の能力がせめぎ合っている。

 行ける、と私は思った。こうして直接的、粘膜的接触により可能となるさらに深く深い干渉。それに私は知っている。彼が“愛しきモノ(家族・仲間・友人)”に対して、強制的に全力になれない事を私は知っている――。

 

 パキン、と何かが割れる音がした。

 

「ッ!?」

 

 と、宗次朗がビクッ、と体を小さく震わせる。

 

 ……勝った。

 

 自然と笑みが、満面の笑みが浮かぶのが分かった。

 

「私の……勝ちよ」

 

 勝利を宣言した私が見た宗次朗は、少しだけ怒気を浮かべていた。

 

「紫ちゃん……からかうにしてもこれは度が過ぎて――」

「からかってなんかいないわ」

 

 それでも怯むことはなく。ピシャリと、彼の声を遮るように言った。

 

「私も、もちろん藍も橙も。からかってなんかいない。本気よ? でなければこんなこと出来ないわ」

 

 遊びでこんなこと出来る訳がない。

 

 からかってこんなこと出来る訳がない。

 

 イタズラでこんなこと出来る訳がない。

 

 心の底から彼を愛しているからこそ――。

 

「私たちは……本気よ」

 

 宗次朗は何を思っただろう。まだ冗談だと思っているのだろうか。

 

 だとしたらきっとこれは徒労に終わってしまう。ここまでして何も変わらないのだとしたら、きっと誰にも変えられない。永遠に勝てない。

 

「ゆ、紫ちゃん……」

 

 宗次朗はしかし、面食らったような顔をした。

 

 私は再び顔を近づける。まさしく目と鼻の先だ。

 

「女として見てよ宗次朗……いいえ、クライス……」

「え……?」

 

 目があった。彼の瞳は小さな驚きと小さな困惑で染まっていた。

 

 思わず小さく笑った。

 

「好きよ……クライス……」

 

 そっと、キスを落とした。舌は入れない。ただ重ねるだけのキス。

 

 やっと……一歩進めた。そう実感した。

 

 

 

 

 瞬間、ドッゴォオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!! と、遠くで爆炎と黒煙と共に爆音が響いた。

 

 

 

 

「!? な、何!?」

 

 宗次朗がビクッ、と体を震わせて言った。

 

「紫様! 罠が発動して――ッ!」

「ソォオオオオオオオオオオオオオジロオオオオオオオオ――ッ!!」

 

 遠くでフランドールの声がした。いや、続いてレミリアにメイド長、ついでに門番まで来てるようだ。

 

 ま、まさかもう気づいたの!? 宗次朗がいなくたって、私が攫ったなんて可能性に気づくのはもっと先だと思っていたのに!

 

「宗次朗を返せスキマのクソババアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!」

 

 再びフランドールの声。

 

 バギッ! と、私の中で何かが折れるような音がした。

 

「……誰が」

 

 声が震えるのが分かった。

 

「ゆ、紫ちゃん(様)(しゃま)……?」

 

 何やら周りの三人が言っているが、耳には届かなかった。

 

 

 

 

「誰が……誰が……誰がクソババアですってクソガキどもぉ……ッ!」

 

 

 

 

「ひぃッ!?」

 

 背後で誰かの悲鳴が聞こえるのを無視して、罠が発動している地点へと全速で向かった。

 

 

 

 

 その日。

 

 霊夢の仲裁が入るまで、私とスカーレット一家は本気の殺し合いをしていた。

 

 ……霊夢の夢想封印が痛すぎる件について。

 

 

 

 

 

 




 ……これ、消されないだろうな?

 私は結構ギリギリな気がする。ダメ? これダメ? ものすっごい不安なんですけど!

 これくらいならまだ大丈夫だろうか。私にはわからないよ。



 さて。初の紫さん登場回です。それなのにこんな役回り……ごめんなさい紫さんと紫さんは俺の嫁の方々。

 ついでに頼むからスキマ送りはやめて欲しい。あくまでババアっ言ったのはスカーレット家だから許してほしい。



 ではまた次回。
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