東方守護執事   作:結城勇気

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 ふぅ……何とか仕上げれたか。

 もうちょっと更新速度何とかしなくちゃだなー。これじゃさすがに遅すぎる。せめて月に二話か三話くらい投稿できんと……。


 何とか頑張って、できればまた今月中に投稿できたらいいなー。って、前書きに言うことじゃないね。


 ではどうぞ!


第十五話「我が愛は破壊の情――愛するならばまずは壊そう」 Side 宗次朗・Not

 翌日。

 

 目が覚めたらどういう訳か真っ青な大空を見上げていた。

 

 肌を撫でていく風が髪を揺らし、未だ続く春の心地いい暖かさが身を包む。生憎僕は、太陽の光で眩しい、とかは思わない――というか思えない――けれど、そこそこ目覚めは良い。

 

 後頭部に伝わる柔らかな枕の感触に、思わず顔をうずめて二度寝したくなる衝動に駆られたけれど、そこは紅魔館が執事長。頭を切り替えて、速効覚醒させる。

 

 ……でも、なんで空なんて見上げてるんだろ。昨日は……まあ、フランとイロイロした後二人して寝ちゃったわけだけど。まさか外で寝るなんてことしてないし。それこそ野外プ――コホン、はしてないし。だから外で寝ている訳などないわけで。

 

 周りを見渡して見るものの、フランはいない。目に映るのは、輝く緑の草原と、その先にあるキラキラ光って元気に咲き誇る視界一面の向日葵(ひまわり)たちだけ。

 

 ていうか、向日葵? 紅魔館(うち)にそんなもの植えられてなかったような。それもこんな大量に。第一今春だよね? なんで向日葵が?

 

 と、そこまで考えが行って、理解した。

 

 続いて反射的に起き上がろうと身を起こし――、

 

「あら、まだ寝ていていいのよ?」

 

 ――肩を掴まれて無理矢理後ろに引き倒された。

 

「ほら、この私がせっかく膝枕してあげてるんだからもっと堪能しなさいよ」

 

 ギリギリギリっ、と肩が軋む。正直生身だったら骨が砕けてたかもしれない。それでも十分痛みはあるんだけど。だってほら、今もミシミシいってるし。昨日のフランより力強いんですけど。

 

 肩を掴む手の主。この聞き覚えのある女性の声、季節違いの向日葵、常人よりも濃い花の香り、そんでこの馬鹿力……。該当する人物なんて、この幻想郷には一人しかいない。

 

 もちろん友人ではあるんだけど、あまり会いたくなかった……。

 

 空に向けられた目を更に上へ向ける。映ったのは赤と白のチェック柄と、輝く緑色の髪。嗜虐的な笑みを浮かべる美人顔。フランやレミリアお嬢様のような真紅ではなく、血のような赤。

 

 戦闘狂じみた雰囲気を惜しみなく撒き散らす彼女は、しかし辺りで風に揺られる花たちに声援でも送られているらしく、風向きに矛盾した舞い方で彼女の周りを飛び回る。その様はまさしく花の女王(フラワーマスター)。幻想郷最強クラスに名を連ねる大妖怪の一人。

 

「――幽香……」

「なぁに?」

 

 にっこり、とあくまで笑顔ですと言わんばかりの笑みを浮かべる。が、どう見ても目が笑っていない。いや、いつもの事っちゃいつもの事なんだけど。

 

 風見幽香。さっきも言った通り最強クラスの大妖怪。ついでに戦闘狂。とはいえ強者限定の話なので、人間とか中級妖怪とかは眼中にない。故に何か粗相をしない限りは出会ったとしても命は保障される……と思う。

 

 まぁそれはあくまで、本当にあくまでさほど強くない人限定なだけ。

 

 つまるところ、霊夢や紫ちゃん、僕なんかは格好の獲物という訳で。

 

 ……面倒なことになった、いや、本当に。

 

 僕と彼女が出会って何事もなく終わったことなんて、一回もない。

 

「――ふふ、私としてはこのまま膝枕してあげても良いのだけれど、そんな冷や汗垂らされちゃ、本題に移りたくなっちゃうわねぇ」

「……一応、参考までに聞きたいんだけど」

「何かしら」

「僕は何故(なにゆえ)こんなところに?」

 

 それは目的云々の話じゃない。そんなものは分かり切っている。

 

 だからこれは『紅魔館で寝ていた僕が、どういう訳でこんなところ(太陽の畑)にいるんですか』、ってこと。

 

 彼女もそれは理解していたのか、クスクスと笑いながら、

 

「紅魔館の花たちに協力してもらったわ。説得にはなかなか骨を折ったけれど」

 

 さすがにメイド長が世話してるだけあるわね。などと抜かしおる。

 

 どうやら花たちに僕を攫う機会を窺わせていたらしい。で、昨夜だ。どこで調達してきたのか知らないけど、転移符なんて物を使ったみたいだ。幽香クラスの妖怪が近づいたら、フランも下手すれば勘付いただろうに。かなりの早業だったのかもしれない。まったく、紫ちゃんみたいなことを……。

 

 ていうか妖怪が符術使うってどうなのよ。昔見てきたイメージ的に対妖怪用魔術、じゃないのかな。詳しい歴史やら理論は専門外だから、細かい事言えないんだけど。

 

「質問は終わり? じゃあスタートよッ」

 

 早口で締めくくると同時、大妖怪の中でもド級の威力を持った拳が振るわれた。

 

 左肩を掴まれて膝枕のままな僕は、飛び上がっても転がっても回避は出来ない。故に受け止めるしかない。

 

 ズドン――ッ!! とおよそ手と拳がぶつかり合っては起きない音が、太陽の畑中に響いた。あまりの威力に僕と幽香のいた地面が陥没する。

 

 足大丈夫、とか言ってるヒマはない。『ありとあらゆるものから守る程度の能力』で形成できる障壁を僕と幽香の間に倒れた円柱状に展開する。幽香は障壁によって後ろに突き飛ばされたけど、普通に体制を整えて着地する。

 

 当然、ダメージを受けた様子は全くない。

 

「もう、レディは丁重に扱いなさい?」

 

 立ち上がった僕を狩人の目で睨みつけ、笑みを浮かべて彼女は言う。

 

「それなら客人も丁重に扱ってほしいなぁ」

「あら、十分扱ってるじゃない。丁重に」

 

 くるりと、どこからか取り出した日傘を指に絡めて回す。彼女愛用の日傘だ。当然だけど、彼女みたいな大妖怪が持ってる以上普通の日傘じゃない。紫外線を大幅カットするほか、雨も防げれば弾幕すらも防ぐ特注品(?)だ。

 

 でも……なんかいつもの日傘と感覚が違うような……。

 

 一閃。常人の動体視力では捉えきれない速度で間を詰めて日傘を振るう。直感的に回避を選んだ僕は、振り下ろされるそれを紙一重で(かわ)す。

 

 当然その一撃だけで終わるわけもない。正面、袈裟切り、上下左右斜めまで。当たれば痛いじゃすまない一撃が、とんでもない速度でとんでもない数繰り出される。妖怪と戦える程度になってしまっている僕からすればかなりキツイ。

 

「今日この時のためにわざわざ攻略法を考えて実装してきたのよ。今日は貰うわッ」

 

 必殺の一閃が十数、数十と振るわれる。霊夢含めて人間から見れば、一撃振るわれたと思ったらすでに目の前に二撃目と三撃目が来ている、と感じてしまうほどの速度で振るわれるそれらを避けて流しての繰り返し。でも段々それも危うい域に到達しようとしている。

 

 速度がまだ上昇してきているんだ。今でも十分速い。いや、多分近接格闘においてこれだけの威力と速度を出せる妖怪はそういないはずだ。鬼なら威力は彼女を超えるかもしれないけど、速度に置いては今の幽香程ではないだろう。

 

 それを息切れもせずに、更に速度を増しながら振るう幽香はまさしく近接戦闘最強であると言えるかもしれない。

 

 フッと幽香の姿が目の前から消えた。

 

 しゃがんだ訳でもなければ、飛んだ訳でもない。

 

 僕は消えた瞬間、反射的に飛び込む形で横に転がり込んだ。同時に、さっきまで僕のいた地面が砕けて散る。あまりの威力に巻き起こった爆音と爆風が僕の身体を数メートル吹き飛ばした。

 

 態勢を整えて着地する。見れば砕け散った地面はまさしくクレーターと化していた。半径数メートル程度の物ではない。目測十数メートル以上の規模だ。

 

 妖力で強化しての物なのか、素面(しらふ)であれなのか。どちらにしても凄まじい。鬼の方が威力に置いて勝る、なんて言ってたけど、下手したら鬼と同等かそれ以上にまでなってるんじゃないのか。

 

「あら? 聖遺物の使徒は聖遺物以外の攻撃は意味がないのだから、避ける必要なんてないんじゃなかったかしら。さっきまでのも今のも」

「知ってて言ってるよね?」

 

 幽香は意地悪気にクスリと笑みをこぼし、

「そうね。あなたが味方だと認識した相手に対しては、無意識に全能力(・・・・・・・)がセーブされる(・・・・・・・)。渇望、とかいうのが関係してるんだったかしら。それ故に、あなたの“創造”とやらを味方相手に使ってもほとんど意味がない」

 

 つまり、いつもは反動も感じない一撃も、吹き飛ばされるくらいにはなる、ってこと。さすがに拳銃を眉間に受けた程度じゃ動じないけど、デザートイーグルくらいになるとちょっと頭が揺らぐくらいか。

 

 でもまぁ、どっちにしても霊的装甲は聖遺物と特定の能力以外では大抵抜かれないし――いつもは能力で更にセーブされてるけど――、魔人的身体能力を用いればそもそも当たらない事も不可能じゃない。セーブされてるとはいえ、レオンより二、三段階上くらいはあるんだし。

 

 とはいえ――、

 

「ぅおッ……!」

 

 蹴り上げ、土煙が巻き上げられた瞬間、幽香は既に数メートルの距離を詰めていた。僕の懐に入ったころには、もう日傘が数十センチで触れんとするところまで振るわれていた。

 

Yetzirah(形成)――ッ」

 

 栄光・英雄の龍籠手(ジークフリート・グランツ)を形成した指を、日傘と体の間に滑り込ませる。バカげた衝撃が僕の全身を襲う。ギリギリ受け止めた僕は、抗う術もなくその場から空中へと投げ出される。

 

 ゾワリ、と背筋が凍った。

 

「――マスタースパーク」

 

 やけに通る声が聞こえた瞬間、虹が僕の眼前に迫った。

 

 

 

 

Side out 宗次朗

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      *  *  *

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Change Not

 

 

 

 

マスタースパーク。

 

 何やら近頃、普通の魔法使いこと霧雨魔理沙の代名詞になりかけている、この魔砲。だが実際、元祖であるのは魔理沙ではなく、フラワーマスターこと風見幽香なのである。

 

 魔理沙がマスタースパークを盗み見るなりして模倣したのか、たまたま同じ名前で、同じような技だったのかは幽香自身知りもしないし知る気もない。そもそも現状、その霧雨魔理沙とやらに興味がない。

 

 彼女が興味を引くのは、はるか昔から強者だけだ。

 

 弱者など、触れれば壊れてしまうような繊細なものに興味を持ったところで破壊しか生まない。柔肌を撫でる、などと平和な言葉に聞こえるが、大妖怪である彼女が行えば基本的に破壊へと直結してしまう。

 

 だから彼女は、柔肌を撫でても壊れない、少し触った程度で崩れない強者にのみ興味を持つようにした。それ以外には触れないようにした。それは力加減という物を覚え、弱者に触ろうと壊さないようになってからもだ。

 

 だから家族と言えるのは、友人と言えるのは――植物。その中でも、彼女の能力故か、花であった。

 

 花は自分を恐れない。

 

 それどころか、楽しげに話しかけてくれる。その辺のザコどもとは違って。触れれば壊れてしまうような連中とは違って。自分を愛し、自分を案じ、自分を支えてくれる。

 

 度々見つけた、強者らしい存在と戦う時は、いつも応援してくれた。今ほど強くはなかった頃は、それが心の支えとなって自分以上の強敵すら退けて見せた。今より二、三段階下くらいに強くなってからは、応援も更に激しくなり、勝つたびに歓声をあげてくれた。

 

 時が経つにつれ、強いだなんだと言われる通称強者も結局は弱者なんだろう、と思い始めた。

 

 それでも噂を聞いては機会があれば戦い叩き潰す。妖怪だろうが人間だろうが、強者だと言われるのならば戦う。花たちのために。自分のために。

 

 だからこそ、彼女は最強であり続けた。

 

 故に、その当時自身も最強を自負していた彼女は予想もしなかったのだ。

 

 心の底から壊したい(愛したい)と願う相手が現れることを――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      *  *  *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――バリバリバリッ!! と宗次朗の能力によって張られた障壁と虹が衝突する。

 

 ありとあらゆるものから守る盾を貫かんと、虹はドリルのごとく螺旋回転し、ガリガリと宗次朗を後方へと追いやっていく。

 

 セーブされる能力の中で、唯一ほとんど影響を受けていない『ありとあらゆるものから守る程度の能力』。防御力と汎用性は幻想郷一と言っても過言ではなく、八雲紫のようにトリッキーな技でも使わなければ突破は難しい。弱点である特殊攻撃(霊力・魔力・妖力など)と打撃攻撃の両方を同時に守れない、という点をついても、宗次朗のスペックがそれらをカバーしてしまう。

 

 だが、それにも例外がある。

 

 能力同士のぶつかり合いによる戦いは、地力によって勝敗は決する。

 

 八雲紫はトリッキー過ぎて宗次朗の能力とぶつかることなく、攻撃が届く。スキマから守れない故に真正面でありながらの奇襲も可能だ。

 

 フランドールは対となりうる能力故にぶつかり合うが、宗次朗は地力もセーブされているが故に拮抗する。突破するときすらある。

 

 それらは能力同士の戦い故に起こる物であり、それゆえそれ以外と能力がぶつかり合おうと、地力など関わってはこない。

 

 だがそれは絶対なのだろうか。

 

 ――否である。

 

 それは目の前の状況が示している。

 

「う……ぉッ!!」

 

 ピシリ、と宗次朗の目の前に展開された障壁に小さく亀裂が走った。

 

 最強の盾ゆえに目立つその傷は徐々に大きく、深くなっていく。

 

 能力同士のせめぎ合いではなく、能力に対してぶつかるただの力技。地力など本来ならば関係はなく、最強の盾である宗次朗の能力をぶち抜くことなど不可能であるはずだ。魔法使いであり同じ魔砲を放つ霧雨魔理沙でも、幽香との力の差はあれそんなことは不可能だった。

 

 ならば今この場に勃発する戦闘は地力同士の戦いではなく、この世界の常識的な理の中にある戦いでもない。

 

 すなわち――超人(狂人)同士の非常識な戦い。

 

「――半不老の(妖怪)でもね」

 

 虹の魔砲にそそぐバカげた妖力を更に増しながら、なお笑う幽香はますます楽しげに笑みを深めた。

 

「やれば常識()から一歩踏み出すくらい出来るのよ。私はもう頭がおかしい(狂ってる)から、同じ狂人のあなたに近づくのだって不可能じゃない」

 

 届かないならもっと前へ、上へ。

 

 傷つけられないならばもっと強く、鋭く、固く。

 

 壊せないならもっともっともっと強力で頑強でバカげた力を。

 

 求め願い渇望し、誰よりも誰よりも前へ。

 

 掴みたいなら誰よりも疾く疾走し、誰よりも高く飛翔しろ。

 

 相手は超人であり魔人。勝てる者など同じ魔人の域にある物以外にはない。それが人間だろうと妖怪だろうとそれ以外だろうと関係はない。同等の域か、指先の届く場所にあるならば勝利の道はそこにあり、ただの劣等であるならばただ蹂躙されるだけ。

 

 彼女はそんなもの容認しはしない。

 

 劣等(格下)であり続けるなど許されることではない。蹂躙するのは自分であるべきだ。それは惚れた相手だろうと関係はない。いや、愛する男だからこそそんなのは許されない。

 

 真に愛するなら壊す(抱きしめる)べきだろう。男の腕の中で満足するような女は、男を愛する資格などない。

 

 抱きしめられたら抱きしめ返せ。愛されているなら愛せ。

 

 ――私がそれを示してやろう。私のやり方で私の想いを貫き通す。私の愛は破壊の情。壊して壊して壊し尽くして、全て自分の物に。そして今度は壊して(愛して)もらうのだ。お返しに全てを奪わせてやる。全て授けてやる。

 

 それが、それこそが――私の愛なのだから。

 

「そうよ――私は」

 

 瞬間、マスタースパークの中から白銀の杭が穿(うが)たれた。

 

 宗次朗は反射的に首を横に反らせた。同時に亀裂を突き破った杭が頬をかすめる。ピッ、と久々に感じた鋭い痛みが頬に走った。

 

(霊的装甲を貫通した――!?)

 

 己が虹の魔砲を、無理やり突破して姿を現したボロボロの幽香の一閃が走る。そこにあるのは純粋な暴力。彼女が持つ破壊の情を叩きつける一撃。

 

 日傘と龍籠手がぶつかった。

 

「あなたを壊したい(愛したい)――ッ!!」

 

 その場に一瞬でも留まるどころか、一発で弾き飛ばされ地面に叩きつけられる。そちらのダメージは能力で相殺したものの、当然安心できるような状況じゃない。

 

 叩きつけられたのを頭が完全に認識する前に、地面を殴って体をその場から弾き飛ばした。突撃してきた日傘の一撃による爆風が体を飛ばす。

 

 飛ばされる中向けた視線の先にあるのは、日傘一本だけ(・・・・・・)

 

「……冥界の白玉楼だったかしら」

 

 空中で体を捻って背後から高速で振るわれた拳を避け、その要領でこちらも拳を振るう。手ごたえはない。

 

「そこに庭師兼主の剣術指南役がいてね。あぁ、あなたも知っているでしょう、魂魄(こんぱく)妖夢(ようむ)よ」

 

 ガトリングのように降ってくる拳と脚を捌く宗次朗を余所に、幽香は勝手に喋り続ける。

 

「彼女は楼観剣(ろうかんけん)という刀を使うのは知ってるわね。どこの妖怪に鍛えられたのか知らないけど、一撃で霊一〇人分の威力を持つ」

 

 一発防御をすり抜けて眼前に迫った。横に反らして回避するが、またかすめて頬を傷つける。

 

「そしてあなたの言う聖遺物――燃料は魂」

 

 分かるわよね? と言わんばかりの笑顔で渾身の一撃を放つ。バチバチと視覚化するほどに込められ、その圧倒的な妖力で拳周りの空気を吹き飛ばしていく。バカげた妖力に、二人を囲む空気すら戦慄している。

 

 見ただけで威力など一目瞭然。

 

 彼女はどういう訳か、白玉楼の魂魄妖夢の刀を参考に霊的装甲を貫く術を手に入れている。どういう手法かなど予想もできないが、それ故に直撃は論外だ。

 

 回避を選ぼうがまた吹き飛ばされる。そして再びこの一撃が襲い掛かり、回避し、襲いかかる。そう簡単な話で済むかはともかく、そんなジリ貧に追い詰められれば直撃は時間の問題だろう。

 

 直撃は避けねばならない。回避を選ぶことも出来ない。

 

 ドッゴォオオオオオオオオオオ――ッ!! と爆発音と轟音が太陽の畑中に轟いた。

 

「つぅ……響くなぁ」

 

 渾身の一撃は、宗次朗の龍籠手の中に納まっていた。

 

 回避も直撃も出来ないなら、受け止めてしまえばいい。聖遺物が壊れない、という自信と確証を持ってこそできた芸当だ。

 

「――それで? 妖夢の楼観剣と同じく、霊何人分とかのダメージさえ与えられるようになれば、僕の、聖遺物の使徒の霊的装甲を抜けると考えたわけだ」

「実際そうでしょう?」

「確かに――でも、そんな事自力で出来るのは、大妖怪でも君くらいだろうね」

 

 聖遺物を扱うエイヴィヒカイトは喰った魂を燃やして発動する。故に喰えば食うほど強固で頑強になり、強力な魔人と化していく。

 

 ならば、その魂を切り裂く言葉出来るならば。

 

 その魂を打ち貫くことが出来るならば。

 

「霊的装甲は燃焼される魂、もしくはあなたを含め内にある全ての魂で形成されているんでしょう? なら話は簡単。その魂をぶち壊せばいい。貫いてしまえばいい。それで一瞬でも空いた穴に突っ込む。ただそれだけ」

 

 それだけ――などと簡単に言ってのけた彼女に、思わず宗次朗は苦笑した。

 

 そんなやり方聞いたこともない――外の世界だろうと、元の世界だろうと、そんなことを考え付くのは幽香ただ一人だけだろう。妖怪でもなんでも、今までそんな事考えたこともないのだから。

 

「それ、やるのは僕だけにしといた方がいいよ。みんなは僕と違って自身の能力をセーブなんてされてないから」

「さぁ? それはその時になってみなければ判断できないわね」

 

 再び振るう拳を、宗次朗は掴んで止める。

 

「じゃあ言い方を変えよう――」

 

 ドゴッ、と幽香の視界がブレた。同時に訪れる腹部への激痛。

 

 十数メートル吹き飛ばされた幽香はそのまま地面に激突し、それでも止まらずに土煙を立てながら数メートル滑る。

 

 幽香はすぐさま起き上がり、その場から退いた。同時に巻き上がる大量の土砂と、耳をいたぶる程の爆発音。

 

 今の彼女ほどではないがふざけた速度で近づく気配を一瞬で察知し、反射的に妖力を込めた拳を放つ。瞬間、龍籠手と幽香の必殺の拳がぶつかった。あまりの衝撃に周囲の地面や空気が吹き飛ぶ。

 

愛しきモノ(友人)同士で戦って欲しくない。僕は我が儘だから」

「束縛する男は嫌われるわよ?」

「大丈夫。我が儘を通す術は知ってる」

 

 嫌な予感がした。

 

 直感に従い、宗次朗の腹を蹴り飛ばしてその場から退く。

 

「昔から、古の昔から決まっている事だろ? 我を通したいなら――」

 

 見事な弧を描いて回し蹴りが炸裂した。バギィッ、と骨に亀裂が走る音が耳に届く。だがそれだけ。折れる音など一向に聞こえない。

 

「――障害を叩き潰す。戦争と同じ理屈だ」

 

 そのまま脚を押し込んで真上へ飛ぶ。何かが空を切る音が聞こえた。

 

 頭上から踵を落とす。骨の砕ける心地よくて嫌な音がした。頭に直撃した。霊的装甲すら叩き潰して、頭蓋(ずがい)を割ったはずだ。事実幽香の物ではない鮮血が目の前を走った。

 

 だと言うのに。

 

 宗次朗は踵落としを決めた足の首を(わし)掴んだ。そのまま己の方へと引っ張り込む。当然、幽香は抵抗したが、いつの間にか周囲を囲む最強の盾が飛び去ることを許さない。

 

「くッ、このッ!!」

 

 残った片足を思い切り掴む手とは逆の肩に叩きこむ。真っ赤な血が噴き出した。肩を蹴り落としたのだ。だが怯むことはない。

 

 幽香はこの時、あることを失念していたことに気づいた。いや、初めて宗次朗に傷をつけることが出来た歓喜で忘却の彼方に追いやってしまっていた。

 

 聖遺物の使徒は――宗次朗はこの程度で苦痛に顔を歪めるほど弱くはない。

 

 躊躇することもなく、一撃必殺で宗次朗の命を絶つべきだった。それが敗因。

 

 次の瞬間、幽香は非常識な威力で地面に叩きつけられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      *  *  *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー……早く帰らないと」

 

 足元の動かなくなった幽香を余所に、宗次朗は明後日の方角を見ていた。

 

 カチ割られた頭と蹴り落とされた肩は、既に半ば再生し終わっている。少し気合を入れれば一瞬で治すなど造作もないことだが、朝からのトンデモイベントにそんな気力は失せていた。

 

 それに……今はそんなこと考えている暇はない。

 

 朝食の準備だとかフランの世話だとか家事だとか、いろいろとやることはあるし確かにそれも焦らせる要因でもありはする。が、今日は、今日ばかりは一日紅魔館にいなければならないのだ。

 

 そのためにやりたくもない事(幽香との戦闘)をやって、早々に終わらせたかった。罰としてのケガはもう受けたし、ひとまずとっとと帰ろう。

 

 と、一歩踏み出した瞬間、ガシッ、と右足を何かに掴まれた。

 

「……幽香」

 

 所々から流血する幽香は、しかし苦痛に顔を歪ませる訳でもなく微笑みでもって口を開いた。

 

「あら、こんなにした女性を放ってどこに行くのかしら」

「帰るんだよ。今日は、今日ばかりは一日紅魔館にいなきゃいけない」

「どうして」

「どうしても」

「どうして?」

「どうしてもっ」

「どうして??」

「どうしてもッ!」

「どうし――」

「あーっ、もう。今日が満月の日だからだよっ!」

「……満月?」

 

 あぁそういえばそうだった、と幽香は頷く。

 

 しかしだからなんだ、と言外に問うてきた。

 

 満月――見た者を狂気に陥れるという時。

 

 特に妖怪にはよく効くとか。

 

 まさか月見をするからその準備に(狂気に対する能力行使とか)――なんてことじゃないでしょうね。と宗次朗を睨みつけるが、そんな事気にしていられない、とでも言うよう首を横に振る。

 

「じゃあ何でよ」

 

 焦る宗次朗は、やむなしとばかりに短くため息をついた。

 

「フランが……になるんだよ」

「? 何?」

 

 

 

 

 

「だから……フランが大人バージョンになるんだよ!」

 

 

 

 

 

「――はぁ?」

 

 思わず口から出た情けない声は、静まり返った太陽の畑にはよく通った。

 

 




 久々の戦闘シーン。うまく書けてたらいいな。

 あと、戦闘シーンとかシリアスシーンとか。その辺になるとやけにルビ多くなってすみません。みなさんから指摘等は現状されてはいませんが、万が一読みにくかったりしたらあれですから。

 なんていうか、そういうシーンになるとテンションあがって調子のっちゃうというか何と言いますか……。まぁそんな感じで、いつの間にか多くなるんです。

 読みにくかったらご指摘いただけると幸いです。

 と言っても、「減らすことを頑張る」くらいしかできないんですけど。

・幽香さん

 幽香さんはきっと頭はいいと思うんですよね。だからイノシシみたいにただ猪突猛進じゃなくて、勝つための方法は考えれる人だと思うんです。人じゃないですけど。

 ぶっちゃけ霊的装甲と月に関してはニワカ知識をかき集めて書きました。

 霊的装甲ってやっぱ魂で形成されてるん? って思ったが故の今回。一応調べたりはしたんですけど、魂の総量によって霊的装甲が展開されるとか書いてあったんで、やっぱ魂で展開されてるのかな、って。
 そのあたり、違ってたら教えていただけるとありがたいです。

まぁそういう訳で。楼観剣は幽霊十人分の威力だって書いてあったから、幽香さん的攻略法をやってみました。まぁ実際効くのか知らんけど。

 ちなみに、楼観剣は幽霊十人分の殺傷力、とか言ってるけど、幽霊殺傷できない。だから、一振りで霊を十人消滅させるのか、ただの誇張表現なのかわからないそうで。

 という訳で、都合よかったし私は前者を取りました。

 あ、妖夢はもう一本、白楼剣ていうのも使ってるけど、そっちは人間の迷いを断ち切る剣だとか。つまり……成仏させる、ってことなのかね?

・月
 月なんですけど……満月が狂気云々言ってた気がしたんでこんな感じで書きました。
 まぁ調べてもよくわからんかったし? 狂気がどうとか書いてあったりはしてたけど、東方の中でどういう扱いだったかはよくわからなかった。でも多分こんな感じでしょ。




 はて、第二話でおぜうさまがサラッと流す感じで言ってた「子供じゃないフラン」。十三話分飛んでようやく出てきました。
 次は「子供じゃないフラン」が出てくる……かな? 




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