この第六話改に伴い、第七話、第八話もおそらく改稿、ないしは大幅か小規模の編集をするかもしれません。
主にドランの戦い方が、元の第六話とは全く違っているので、そこを考慮して、ってことです。
読者の皆様には、混乱を招くようなことをして申し訳ございません。
元の第六話に関しては、第七話、第八話などの調整が終了した後、削除させていただきます。
重ね重ね、ごめんなさい。
追伸……特に読まなければならない、とかはないので、別にいいやという方はスルーしていただいても大丈夫だと思います。
それはすでに人の領域が数百歩前の戦いだった。
人間でありながら人間ではなくなった九重宗次朗ことクライスェア・ヴァーンヘリアス。
最強の吸血鬼の一族、スカーレット家当主、ドラン・スカーレット。
彼らの戦いが始まってからまだ十分も経っていないというのに、紅魔館内はボロボロになり、床は抉れ、削れ、天井は今にも崩れそうだった。
クライスの常人から離れた身体能力からなる一撃は吸血鬼の身体を持ってしても防ぐことは出来ず、防御は全て貫通する。妖力も魔力も、はたまた霊力すら使っていない
かといってドランがやられっぱなしという訳はない。
彼の能力、『加速と停滞を操る程度の能力』により、クライスの速度を“停滞”させ、逆にドランは己の体感時間を極限まで“停滞”させて加速し、それに続けてさらに極限まで“加速”させる。音速など余裕で超え、もはや光の速さと同等。いや、クライス含める周囲一帯までも“停滞”させているため、速度差は更に何倍もの差になっているはずだ。
文字通り目に留まることなど一瞬もない。極限の疾走をする彼はしかしクライスに有効打を打ち込むことが出来ない。彼は無傷だった。
ソニックウェーブでその身を包みこまれているはずのクライスは、何事もないかのように動き回り、速度差光速以上に反応しついてくる。その動きはまるで“停滞”の影響を受けていないのかと思えるほどの物だ。
(――まさか、な)
そんなことはあり得ない。あり得るはずがない。
時の流れとは人間には逆らいようのない力だ。現在から過去へと逆走など出来ないように、この世がゆっくりと進むのならば、その時の中にいる存在もゆっくりと進まざるをえない。否、ゆっくりと進むしか出来ない。
だがこの少年はなんなのだ。
まるで時の流れに何の干渉もされていないかのように動き回る。いや、思うほど遅く感じられない。今この場の時間はほとんど
時の停止した世界と、光と同等の速さをもって疾走する吸血鬼。どちらが速いかなど見なくても明白な事実だろう。
ドランの一撃がクライスを襲う。
一撃といえど、彼にとっての一撃は一秒で一回や二回にとどまらず、数十回数百回、数千数万に至らんとするある種の数の暴力。“一撃”で地を抉り空間を砕き空を割り、この世のすべてを
時を一部でも支配下に置くが故の力。神の力の一端を手にし、それを磨き鍛えてきたが故の頂点の座。そんな超常の域にいるのがドラン・スカーレットだ。己が体の一部が欠損したことすら気づかせず、命を刈り取られたことにすら気づかせない。
そのはずなのに――目の前の少年は全てを
一瞬で文字通り三六〇度から攻撃を加えた。しかしそれらから彼は逃れる。
一瞬で視界全てを妖力弾で埋め尽くしてやった。彼は無傷だった。
一瞬で至近距離から急所全てに拳を打ち込んだ。何故か全て当たっていなかった。
あり得ない。ただ一言あり得ない。
人間に反応できる速度ではなく、ただの妖怪に反応できる速度ではなく、ドランの同族である吸血鬼に反応できる速度ではない。
それをこんなただの人間が反応して見せ、捌く。
また“一撃”を軽くあしらわれた。もう何度打ち込んだかわからない。幸いこちらも一撃も有効打を受けてはいないが、これではジリ貧だ。だが焦ることは出来ない。彼はどう考えても異常な存在だ。油断など許される相手じゃない、と直感している。
だがしかし、そんな『
「くッ……くははは……ッ!! 面白い、面白いぞヴァーンヘリアス卿! その辺の
相対する少年は、余裕な顔で薄く笑った。
「何者って言われてもね。さっき名乗った通りだよ。それ以上でもそれ以下でもない」
「それでは私は納得せんよヴァーンヘリアス卿。ちゃんと問いに答えたまえ。私が問うたのは君が
「なるほど――」
言いながら数万、数十万の連撃を何事もないかのように捌きあしらう。その顔に焦りなど微塵もない。
「なら僕が言えるのは真実たった一つだ」
――僕はただの狂人だよ。
“一撃”を軽く避けながら、少年はそう告げた。
「……なるほど。合点がいった」
ニヤリ、とドランは笑う。
そうか。そういう事か。なぜ気づかなかったのか。分かってしまえば非常にバカバカしいことだ。
こんなこと、
だから少年はこのドランについて来れる。
すなわち――
「そうか……それ故に、か」
疾走し“一撃”、“二撃”。だがそれらは当然のようにあしらわれる。今更驚きはしない。おそらく、いや確実に、ただ“一撃”打とうが“二撃”、“三撃”と打とうが全て捌かれるだけだ。
それがどんなカラクリをを使っているかなどこの際関係ないし、理解も出来ないだろう。この身はあくまで吸血鬼であり、
ならば――
楽しげにドランは笑みを浮かべた。
「なぁ、楽しいなぁヴァーンヘリアス卿! 君は退屈なのかもしれないが、私はこの上ないほどに歓喜に満ちている!」
疾走、疾走、ただ疾走する。
極限など知ったことかと、頭が壊れそうになるほどに能力を発動させる。身体が限界を告げ、甲高い悲鳴を上げる。吸血鬼の身をもってしても耐え切れないほどの力の圧力。
だがそれがどうした。限界など壊してしまえばいいだろう。上限など上げれば済む話だ。この私は吸血鬼最強だ。だがその上が更にあるならば登り切ってやろうではないか。最強よりも更に上へ。無敵と言う名の極点へ――。
限界などとっくに通り越して、ドランの速さは光速すらも超越する。骨が軋み肉が切れる感覚がした。それはクライスからの物ではない。ドランにとっての限界は光までだ。それ以上など身体が堪え切れるはずもない。
だがそれでも止まることはしない。切れた肉など速効で修復される。この身体はそういう代物だ。だから力は全て疾走と攻撃に回すことが出来る。
ゴガガガガガガガガガガガガガガ――――ッ!! と、床も壁もあらゆるものが抉り喰われ破壊された。“一撃”が更に増し、数百万どころか、数千億というもはや空間攻撃。主の間などもはや原形もとどめていない。
それでも彼は立っていた。当然でも言わんばかりに無傷で。
「なるほど。これが君の意地って奴か」
クライスは笑っていた。強者の嘲笑ではない。純粋に、ただ楽しげに笑みを浮かべていた。
「君に勝ち目はない。それを理解しているだろうに。それでも足掻いた結果がこれか」
無傷。だが確かに彼の攻撃は通っていた。数千億の“一撃”を捌いたクライスの手をすり抜け、彼の胸にたった一回の一撃を。直撃を与えたのだ。結果として彼の高すぎる防御力によって防がれたが、常人でありながらこの一撃。なるほど、認めざるを得ないだろう。彼は予想以上の存在だった。
それを喜び、目を細めて満身創痍のドラン・スカーレットを見つめる。限界を超越し、更に上の域へとその手をつけた彼は、体中から血を流していた。彼の顔に苦痛の色はない。むしろ歓喜に満ちていた。
「あぁ……届いたぞヴァーンヘリアス卿。まだ君の服にすら傷をつけること叶わんが……誓おう、必ず君のその身に傷を入れて見せる」
言ってゆらりと立ち上がる。
「さぁ、続けよう。そして私を負かしてくれないか。
「……面白い」
クライスは口元思い切りつり上げた。
「僕に勝てる吸血鬼は『
「愚問だ」
クライスは再び笑う。
「認めようドラン・スカーレット。君は本気を出すに値する存在だ」
彼の雰囲気が変わった、ドランはそう感じた。否、変わりだしているのだ。名状しがたいほどにどす黒いオーラが、彼の周囲を包み渦を巻いている。
これは彼の狂気の渦か。いや違う。これは――、
「――なんという……。これが君の力か。なるほど今の私では届かぬわけだ」
そこにあるのは怒り、憎しみ、悲しみ、。数多の感情が彼の周囲を渦巻いている。そしてそれはクライスの物ではなく、まったくの別人の魂が浮かべる色。だがそれは決して、それらの情念が強く数も多いから溢れ出している訳ではない。集まってきているのだ、まるで渦巻に呑まれるかのように。
それがどういうことか、彼は直感的に理解した。
喰っている。
かつてこの紅魔館にやってきて死んだ者たちの魂を。永遠に安らぎの与えられぬであろう
「はっはっは! 聞いたことが無いぞヴァーンヘリアス卿! 魂を食うなど。何たる非道、何たる凶行! なるほど君は確かに狂人だよ。こんな所業、神にケンカを売っているとしか思えん!」
「神様だってロクなのがいないよ。第一、
「――今日は良い夜になりそうだ」
瞬間、ドランは走り出した。もはや能力で疾走するだけの力は残っていない。だが足掻くだけはしよう。私はドラン・スカーレット。誇り高きスカーレットの一族なのだから。
対するクライスは構えることもせず、ただ一言つぶやくだけだ。
「
彼が呟くと同時、その両腕が一瞬光に包まれた。眩しい光だ、とドランは思った。だが同様に邪悪な光であることを彼は理解している。それは数多の魂を喰って喰って喰らい尽くしてきた、この世で最悪のマジックアイテム。
「――
光が消えた瞬間、それはあった。
肘から手までを覆う漆黒の籠手。肘から手首にかけて小さな刃が取り付けられており、指は付け根から先が出ている。腕にフィットするほどスマートだ。動くを阻害することなく、動きやすいだろう。
だが纏う雰囲気は普通の籠手が持つようなそれではない。まるで先ほどの渦が凝縮されたような。そんな感覚すらする。
ふっ、と彼が少し身を低くした。来る――。
ドゴォッ!! と腹から聞こえた音と共に、ドランの意識は暗転していった。
* * *
腹に決めた拳を軽く押し出し、その上に乗っているドランを放り投げる。ドサリ、と彼の身体は床だった地面に落ちた。
「まぁ、さすがに反応できないか」
彼は吸血鬼と言う、少なくともクライスの世界ではファンタジーの部類に入る存在だ。だがそれでも彼らはクライスのような
だが彼は認めると言った。それはその何年、何十年。下手すれば何千万年何億年という長い年月を待ち続けよう、という誓いであり約束だ。
なるほど、とクライスは思う。案外最初からこうなる気がしていたような感じがする。だから退屈なこの戦いに身を投じていたのかもしれない。
『栄光・英雄の龍籠手』がふっ、と消える。戦いは終わりだ。とりあえずこのまま放置しておくわけにもいかない。(無事かは分からないが)気絶している
と、最初から感じていながらも無視していた気配が、唐突に動き出した。
あれだけの激戦の中にありながらも壊れることのなかったドアが、勢いよく開いた。と同時に何か小さいものが、こけそうになりながらもドランに近づいていく。
それは少女だった。
ドランのような明るめの青い髪。吸血鬼を示す真紅の瞳。小さな薄桃色のドレスを着て、身長は今のクライスよりも少しばかり小さいくらいか。
「お父様っ」
少女は膝をついて父親を揺すり始めた。その瞳からは、今まさに涙が零れんとしている。
と、今度はクライスに視線を写し、キッと睨みつけてきた。が、子供だからか、まったくもって怖さを感じない。
両手を大きく開いて、ドランを庇うように立った。今にも泣きそうな彼女の身体はプルプル震えていて、今にも倒れそうだ。
「お、お父様はっ、こ、殺させないんだからぁっ!」
やはりドランの娘だったか、とクライスは思った。この部屋に入った時から気配は感じていたし、幼い感じもした為、一応戦闘の影響を受けないように配慮しておいたが、どうも正解だったようだ。
ただし、どうもいらない誤解を招いているらしい。
「別に殺しやしないよ」
クライスは親指を立て、背後を指差した。その先には廊下があり、そこには転がる赤髪の女性。
「ところで。彼女を起こしてきてくれない?」
あとがき 《改》前の第六話より
ドランの能力が練炭と似たようなものな件について。
ぶっちゃけ頭の中でイメージしてた戦いはそれはもう壮絶な物だったんですけどねーwww
文章にするとなるとなかなか難しい。
そして、クライスこと宗次朗の聖遺物、「栄光・英雄の龍籠手」。読み方はルビ通り『ジークフリート・グランツ』。
まぁ北欧神話系のがいろいろ多かったんで、ジークフリートとか使ってみました。
シグルズっていうのが『ヴォルスング・サガ』に出てた名前みたいですけど、ドイツ語ではジークフリートだし、黒円卓はナチスドイツだし、いっかなー、みたいな。
昔話はもうちょっと続く!