東方守護執事   作:結城勇気

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 ふぅ…やっと投稿できた。

 珍しくちょっと長めです。





第七話「超人において軍勢とは殲滅するもの」 Side not

 かの吸血鬼の(自称)王とは、気が付けば友人となっていた。

 

 共に力を比べ、共に食事をし、共に談笑していたら、彼を友人として“認識”していた。それの意味する事実は一つであるが、それはクライスにとって歓喜するべきことであった。

 

 クライスはここ二週間ほど紅魔館に通っている。そうしているうちに、ドランの娘らしいレミリアとも話す程度には親交を深めている。

 

 もう一人娘がいるらしいのだが……その子とはまだ一目見たことすらない。

 そんなクライスは、とある日の吸血鬼が活動時間たる夜、紅魔館の二階にあるベランダでグラスを傾けた。真っ赤に透き通る液体が喉を通り抜ける。血ではない。

 

「ふぅ……ワインなんて久々に飲んだよ」

 

 どう見ても未成年にしか見えないクライスは、しかし元々大人だったが故にそんなこと気にせずにもう一口傾ける。

 

 隣でグラスに入った血を(あお)り、クハーっ! と豪快に快楽の息を漏らすドランはそんなクライスを見て高らかに笑った。

 

「最高のワインを用意した。美味いだろう?」

「生憎だけど酒の良し悪しは分からなくてね。まぁ、美味しい事には変わりないけど」

 

 苦笑するクライスに、ドランはなるほど、と頷く。

 

「まぁ、私もほとんどワインなんぞ飲まんがな。同じ赤なら血の方が数倍美味い」

 

 近くのテーブルにあるボトルをグラスに傾ける。真っ赤な血がドロリと出てきた。彼曰くいつでも新鮮な血を、ということで、ダメになる速度を極限まで“停滞”させているらしい。ストックの血もまた然りだ。

 

 新たに注いだ血を一口喉を通し、クライスの方へと目をやる。

 

「で、実際のところどうなんだ?」

「なにが?」

 

 あえてとぼけてみせる。

 

「君が持ってきた話なんだ、分かるだろう」

 

 苦笑しながら、クライスはグラスを小さくクルクル回す。

 

(やっこ)さん本人たちに聞いたわけじゃないけど。少なくとも周辺の妖怪とか人間とかに聞く限りじゃ、確かに集結しているらしいね」

 

 四、五日前にクライスが町で聞いた話だった。

 

 『吸血鬼たちがスカーレット打倒のために結託している』と。

 

 それが真実なのか否かは定かではないが、知り合いの人間や妖怪に聞いた限り、少なくともどこかに集まりだしているのは事実らしい。

 

 それも昨日の話だ。今どれだけ集まっているのかは分からない。

 

「まったく愚かな奴らだ。所詮吸血鬼を名乗るのもおこがましい劣等でしかないというのに、スカーレットに牙をむくなど」

「そこそこ名のある吸血鬼もいるみたいだけど」

「それすらも踏み潰してこそ吸血鬼の王だろうに。気に留めることはない」

 

 はっはっは、と夜の世界に響く笑い声をあげ、残った血を一気に飲み干す。

 

「結構な軍勢らしいけど……ま、君がそこまで言うなら観戦させてもらおうかな。いざって時以外は手ださなくていいんだよね?」

「いざという時が来るかすら怪しいがな。まぁ、万が一、いや兆が一そんなことがあれば――私よりレミリアたちを頼もうか」

「親の鏡だね、その辺の下等な大人どもに聞かせてやりたい」

 

 今も昔も、子を真に想う親たちがどれだけの数いるのだろうか。

 

 少なくともクライスは元の世界にいた頃も、この世界に来てからも、出会った子を持つ親たち全てがそうであった、という経験はない。

 

 己が子を忌み嫌い、暴力を振るう者。

 

 己が家を守るため、己が私腹を肥やすために子供を使う者。

 

 ある時は子供のころから殺しの技を教え、鍛えていた者もいたか。

 

 単に彼がなかなか出会わなかっただけなのかもしれないが、二つの世界を長年渡り歩き、真に子供の事を想っていた親たちに出会ったという経験は、万を越えはしない。

 

 それはありえていい事なのだろうか。全ての親は己が子を誰よりも想わなくてはならないのではないのか。

 

 自分たちが例えどんな状況だろうと、自分の子供にとって最善で最良で最高の未来への道を。

 

 自分達から離れるまで、幸せに満ちた世界を。

 

 自分一人で、最良の道を切り開けるように。

 

 そうでなければならない、そう思うのは所詮理想でしかないというのか。

 

 その理想を体現せんとする吸血鬼は、誇らしげに胸を張った。

 

「レミリアとフランは私の宝だ。己が名誉を捨ててでも守り抜きたい存在だ。親として当然、などとは言わん。子を持つものがその子を守る守らないは、各々の判断でしかない。守るのが最善だと思うのならば守るだろう。守らぬのが最良だと思うのならば、あえて突き放すだろう。愛に決まりも常識もない。真に想うが故に――だ」

 

 それが親だ、とドランは血の入ったボトルに栓をしながら言う。

 

「世界に存在する大人たちは……一体どれだけの数それを理解しているんだろうね」

「知らんし興味もない。私は私のレミリアたちに捧げる愛を貫くまでだ。誰かの愛など聞く必要などなかろう」

「なるほど、まさに事実だ」

 

 どこまでも真実に満ちた言葉だ。それ故に現実がどれだけ冷たいものなのかを実感する。

 

 きっとそれを理解していても、現実が実行させてくれない、などと言うのはいくらでもあるのだろう。理想の中でこうしたい、こうしてやりたいと思っていても、現実と相反した時点で、それは最良であって最善ではなくなる。

 

 最善がどこまでもどこまでも下に堕ちていく……それでも出来る限りのことを。それが出来るのなら……彼はきっと、親として認めるだろう。

 

「ん?」

 

 と、クライスが紅魔館の周りを包む森に目をやる。

 

 光だ。

 

 赤い光がこちらを見つめている。それも一つ二つではなく数十数百。

 

 彼は瞬時に理解した。

 

「あぁ――どうやら実行日は今日だったようだね」

 

 

 

 

 

      *  *  *

 

 

 

 

 

 なぜだ、何故だ何故だ何故だ。

 

 そんなものはありえてはならない事だった。

 

 彼ら吸血鬼たちは初めて手を取り合い結託し、吸血鬼の頂点に立つスカーレット家を打ち倒すはずだった。

 

 計画だって完璧だったはずだ。

 

 この大陸に存在するほとんどの吸血鬼たち――約八〇〇人が集結し、かの吸血鬼が居城である紅魔館を完全包囲。闇にまぎれて襲撃し、当主であるドラン・スカーレットの娘たちを人質にとり、討ち取るはずだった。

 

 だが何故だ。

 

 なぜこちらの殲滅戦になるはずが、その立場が逆転している!?

 

 ブォウ! と風を切る音と共に、再び数十の同志たちの首と心臓が命と共に刈り取られる。

 

 目になど見えはしない。光の速さで疾走するただ一人の目標に、八〇〇の吸血鬼が圧倒されているのだ。

 

「ゆ、誘拐班は何をしているッ!!」

 

 そう叫んだ吸血鬼の男の首と心臓が跡形もなく吹き飛ばされた。それに続くようにまた数人、数十人と駆逐されていく。

 

 まさに殲滅戦。たった一人しかいないはずの敵に、これだけの数が圧倒され、一歩たりとも優勢へと近づけない。予定ではすでに目標の娘たちは奪取しているはずなのに――。

 

「わが娘たちには信頼できる護衛が付いている。人質になどできないと思え」

 

 空間ごと砕くのではないかという轟音と共に、空気が割れる。

 

 彼らの目には見えないだろうが、目標――ドラン・スカーレットは、ただ走っただけだ。それだけだというのにに、その進路上に存在した吸血鬼たちは、磨り潰されるように血煙と化した。

 

 数多居る吸血鬼たちから、恐怖の悲鳴が聞こえた。

 

 心地よく聞こえたそれは、次の瞬間には断末魔すら出せずに塵芥となる。

 

 浴びる血が自分の物であるなどあり得ない。

 

 真っ白のに輝くその肌を染める血は、全て紅魔館を囲む吸血鬼どもだけのものだ。例外は許さない。この手の届く範囲全ての吸血鬼の血をこの身に――。

 

 ちらと紅魔館を見れば、屋根の上から門番の(ほん)美鈴(めいりん)と娘たちが――いや、妹の方は護衛の腕の中で眠っているから一人でしかないが――笑顔で手を振り応援してくれている。普通ならばこんな状況で何をしている、と怒鳴り散らすのだろうが、そんな考えなど微塵も持つ必要はない。

 

 妖力弾が娘たちの方へと空気を突き破って向かう。

 

 しかしドランはそんなもの見向きもしない。否、する必要もない。

 

 数十と放たれたそれを、隣にいた少年、黒円卓が第零位、クライスェア・ヴァーンヘリアスが腕の一振りで粉砕する。その手には傷一つない。

 

 ドランが空気をものともせず光速で足を真横に振るう。あまりの速さに真空波と化し、直線状に飛ぶ。進路所にいた吸血鬼たちは真空波のあまりの切れ味に、斬られたことすら気づかずに体の大半を抉られて絶命する。

 

「な、何してるッ、たかだか一人だろうが! これだけの吸血鬼が集まって――」

 

 パァン、と呆気ない音と共に騒いでいた吸血鬼が、目にもとまらぬ速さと力で放たれた蹴りにより破裂させられる。臓器の大半は血煙と化し、残った物たちはビチャビチャと地面を汚す。

 

 情けない悲鳴が周りから聞こえた。蹴りによって生み出されたソニックウェーブで吹き飛ばされた者や、逃げ出そうとする吸血鬼さえいた。

 

 だがそれらに情けを与えるほどドランは優しくはない。

 

 逃げ出そうとする者を()き殺し、戦意を喪失した者を磨り潰す。

 

 家族に手を出そうとした物にかける情けなど持ち合わせてはいない。ただぶち殺しぶち殺し、ぶち殺してぶち殺す。

 

 この場にいるスカーレット以外の吸血鬼に生きる資格などない。

 

 誰一人逃すものか。

 

 吸血鬼が王たる私に手を出したことを死の世界まで後悔させてやろう。

 

 殲滅。殲滅だ。一人残らずぶっ殺せ。逃すことは許さない。この紅魔館を囲む地を吸血鬼の血で染めてやれ。

 

 一度走れば数十の吸血鬼が死に、一度手足を振るえばまた数十の吸血鬼どもが死んでいく。

 尋常ではない再生能力など知ったことではない。それごと踏み潰せずして何が吸血鬼の王だ。劣等たる他種族の物など捻るように殺せてこそ、恐怖の象徴だ。

 

 などと考え、劣等であるはずの存在で捻れなかった少年を視界に入れ、苦笑する。あれは種族自体はただの劣等だろうが、しかしその実そんなものでは決してない。

 

 群れることなく超常の強さを持つ少年――まさしく真の吸血鬼と同等ではないか。

 

 あれと肩を並べたい。

 

 吸血鬼の王として、あの最強の存在の横にいても霞まない存在となりたい。

 

 彼が人間最強ならば、私は吸血鬼最強。それをこの世界に知らしめてやろう。

 

 ドッ――! と地を蹴り、再び疾走する――。

 

 

 

 

 

 紅魔館の屋根の上、そこにクライスと美鈴、そしてレミリアとその妹、フランドールはいた。

 

 レミリアはクライスの横で子供らしく笑いながら戦う父の応援をし、妹のフランドールはクライスの腕の中ですやすやと眠っている。

 

「うぅ……私も戦いたいのに……」

 

 レミリアの反対側にいる美鈴は、しょんぼりと呟く。

 

「しょうがないよ美鈴。君があの中に行ったら絶対死んじゃうし」

 

 実際ドランが強すぎるだけで、先ほどから瞬殺されている吸血鬼たちが弱いわけではない。吸血鬼という種族は妖怪の中でも強者に位置づけられるはずだ。

 

「それに――」

 

 ポイ、と美鈴に抱えたレミリアの妹、フランドールを投げる。あわわ、と美鈴が慌ててキャッチする。

 

 それを一瞥もせず、ゴ――ッ! と背後から襲いかかる吸血鬼の一人を、裏拳(うらけん)で吹き飛ばす。尋常ならざる一撃で放たれたそれは、吸血鬼の頭を吹き飛ばした。

 

「ここだって十分来ると思うけど」

 

 本当なら紅魔館の中に引きこもっていようとクライスは考えていたのだが、レミリアと美鈴がドランの戦いを見たい、などと言うものだからこうして外にいる。

 

 屋根の上なのはベランダよりも遠くが見えるし、何よりレミリアたちを誘拐しようとしていた吸血鬼連中になるべく紅魔館内を荒らされないようにするためだ。

 

 それがどの程度の効果があるかは分からないが、少なくとも結構な数の吸血鬼がこちらに来る。これでもドランによってかなり削られてはいるが。

 

 吸血鬼が、戦隊ものの悪役よろしく数十人で一斉に飛び掛かってくる。

 

Yetzirah(形成)――」

 

 クライスの両腕に漆黒の籠手が光と共に現れる。

 

 栄光・英雄の龍籠手(ジークフリート・グランツ)の肘から手首にかけてつけられた刃が巨大なものへと変形する。漆黒の籠手に対し、こちらは白銀の刃。今まで吸ってきた血の跡すらないギラリと輝く銀だ。

 

 空気を抉るような音がした。

 

 数メートルほどの刃と化したそれは、吸血鬼数十人を一瞬で磨り潰す。

 

「でも私に処理させてくれないじゃないですか」

 

 美鈴がふくれっ面で言う。

 

「だってこっちの方が手っ取り早いし。第一、レミリアちゃんたちに危険な状況になんていさせられないだろ?」

 

 納得いかな気な表情を見せはするが、引き下がり再び戦場の方へと目をやる。

 

 先ほどまでここに来る吸血鬼たちもかなりの数だったものだが、もう数人数十人時々くる程度となっていた。

 

 紅魔館の周りにはドランに始末された吸血鬼たち数百人。

 立ち向かっていった者、恐怖で動けなくなった者、逃げ出そうとした者など様々だろうが、それら等しくドランに命を刈り取られている。

 

「……ん?」

 

 と、クライスはふとドランの戦う戦場から少し離れた位置に、誰か一人立っているのが見えた。

 

 ――吸血鬼だ。

 

 真紅に輝く瞳に真っ白な肌。そして人ならざる者の気配。その男はまさしく吸血鬼だ。それもこの吸血鬼の軍勢の中でも抜きん出た強さのようだ。下手するとドランと同等かもしれない。

 

「……こりゃ、兆が一が起こる可能性もある、かな」

 

 クライスは飛び掛かってくる最後の吸血鬼を粉砕しながら、その男を見つめていた。

 

 

      *  *  *

 

 

 ぐしゃり、と敵の身体を心臓ごと踏み潰す。頭はもうないから絶命は確実だろう。

 

「さて――」

 

 包囲していた吸血鬼は全て排除した。その身は赤黒い吸血鬼の血で染まっている――訳でもなかった。正直なところ、走っているだけで血が吹き飛んでしまっていた。だから髪などに薄く跡は残っていても、彼自身はほとんど綺麗なままだ。

 

 ドランは手をパンパンと叩き、戦場と化していたこの場より少し離れた位置に立っている男に目を向ける。

 

「同胞が戦っていても手を出さずにいたようが――どうやら指揮官とかではなさそうだな」

 

 大声ではなかったが、この静寂の中ではよく通る。男はフッと笑いながらこちらに歩き始めた。散らばる同胞の死体の成れの果て……灰を妖力で吹き飛ばし、ドランへの道を作る。

 

「同胞なんて大層なものじゃあない。アンタの強さを確かめるうえでの生贄(いけにえ)にしただけさ」

「なるほど、決闘を所望か」

「そんなお利口な精神も持ち合わせちゃいないが――一対一でやりたいって意味じゃ、同じことか」

 

 男はニヤリと笑いながらドランの前に立つ。

 

「アルゴス、アルゴス・ザビ・ビリーデス。田舎もんだ」

「ガキとはいえ戦の作法は心得ているようだ」

 

 ジリっ、とドランは身構え、

 

「ドラン・スカーレットだ、知っているだろうがな。楽しく行こうではないか」

 

 ドランの言葉が引き金になったかのように。

 

 両者は血に染まった地を蹴りだした。

 




 最近ちょっとずつ文章がDies iraeに影響されてきている気がする。気のせいかもだけど、なんとなくそんな気がする。

 少なくとも今回は頑張ってそれっぽく書けるように努力はしてみました。モノホンと同じく! なーんてふざけたこと言うつもりはないけど、小指の爪の先くらいはそれっぽかったら幸いです。

 まぁ、まったくそれっぽくなくても別にいいんですけどね。私は私の文章を!

 というか前回の話のバトルでおぜうさま達の父親たるドランさんと、宗次朗ことクライスが戦ってたわけですが……。

 ぶっちゃけドランさんの強さがどんなもんか書けてなくって全然満足できてなかったんですよねー。
 でも今回は結構な無双ぶりを発揮させられたかなーって思います。ちょっと満足。

 ッてなわけで今回はほとんどバトルでした。なんだかんだでスムーズでビックリです。

 あ、スムーズだったのに時間かかったのは……まぁ、いろいろとゲームしたり勉強したり忙しくって……。のんきなんです、基本。

 さて、昔話は次かその次で終わり……になるといいな。そろそろ日常的な話書きたい。

 では、また次回!
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