なんかなかなか進まなくって……。
結局七話は編集しませんでした。見たところ大丈夫かな? って思ったんですが、どうですかね。
第六話から第八話まで、何かしらの矛盾が生まれていた場合は、無責任ではありますがご報告いただけると幸いです。
今回の第八話《改》、若干戦闘シーンが急展開かも。
先に予告。 次回から本編の更新に入ります。読者さま方には謝罪を。私に勝手でご迷惑をおかけしました。
戦い方等は大幅に変更されてはいますが、結局は《改》前の第八話と内容は変わりませんので、読まれなくとも今後の展開には影響はないと思われます。
まぁ、できれば読んでみてほしいんですけどねw
では、どうぞ!
「アルゴス・ザビ・ビリーデス?」
フランが首を可愛らしく傾げながら言った。隣で愛を抑える従者が一人。
「……ビビりです?」
フランの言葉と共に、プっ、と宗次朗とレミリアが吹き出した。
なるほど、今の今までどうでもよくて記憶から浮上してくることもなかったから気づくことはなかったが、確かにその通りだ、と宗次朗は思った。くくっと再び笑い声をこぼす。
レミリアは肩を揺らしながらティーカップをテーブルに置いた。
「ふふっ……あぁ、でもぼんやり私も覚えているわ。二人の戦いを」
「どんな感じだったの?」
「……あんまり思い出したくないわね。ムカつくもの」
不機嫌そうに顔をしかめる。
分からないでもない、と宗次朗は思った。彼女にとっては最悪の思い出でしかないだろうことは容易に想像がつく。アルゴスという吸血鬼の男は、最強の吸血鬼たるドラン・スカーレットと言う存在を脅かす存在だったのだ。まぁ、彼自身は喜んでいたようだが。
フランはうーん、と首をひねりながら宗次朗へ視線を向け、
「でもほんとにそんなに凄かったの? お父様ってすっごく強かったんでしょ?」
「まぁ……そうだね。ドランは強かった。自称吸血鬼最強は伊達じゃなかったくらいにね。でもそれ以上に――ムカつくけど、確かにアルゴスは強かった」
フランは正直宗次朗にそんなことを言われても嫌味にしか聞こえない、と思った。
持っていた能力もさることながら、その実力も確かなものだった。強い能力だけで勝てるほど、ドラン・スカーレットと言う男は甘くない。だが――。
「ところでさー」
フランがつまらなそうに言う。
「宗次朗はいつ出てくるの? 話の流れからして、ビビりさんが勝つんでしょ?」
「あー、まぁ……そうなんだけどさ」
宗次朗は思わず苦笑した。
「……フラン、お父様の話はどうでもいいの?」
「どうでもよくはないけど、宗次朗の活躍する話も聞きたいんだもん」
可愛く頬を膨らませてうー、と怒った風に見せる。宗次朗の隣で真っ赤な何かを吹きだして倒れる従者が一人。
「僕はすぐに出てくるよ。確かにドランは負けてしまうんだ」
「そこに宗次朗が太助に入るんだよねっ」
「そうなると言えばそうなる、のかな?」
ふと宗次朗は二人の戦いを思い出して目を閉じた。
* * *
二つの吸血鬼が巻き起こす衝撃波で、辺りに散らばった灰が
二人の吸血鬼を囲む戦場は月のように巨大なクレーターだらけとなり、木々は数多
普通に考えればドランの圧勝で終わるはずの戦いだ。
光の速度に反応できる存在などいる訳はない。クライスが例外どころか規格外過ぎただけだ。彼の話を聞いたドランは、彼の規格外さに呆れてしまったほどだ。
事実、光速で動く彼ですら、そんな速さで動かれれば反応することなど出来ないだろう、と考えている。
だが彼の場合、『加速と停滞を操る程度の能力』が存在する。
どれだけ相手が速く動こうとも、限界まで周囲を“停滞”させてしまえばほとんど停止しているようなものだ。
それに加えて体感時間を限界まで“停滞”させて加速し、さらに“加速”させれば光速で動ける。そこへ周囲への“停滞”――。速度差は光速どころではないはずだ。相手から見れば光よりも速いだろう。巻き起こるソニックウェーブだって尋常ではない。触れれば抉り取られる威力だ。
だが実際はどうだ。
「――ッ!!」
ド――ッ! と、ドランの引き起こしたソニックウェーブと彼の“一撃”が、空爆のごとく戦場を蹂躙する。まさしく地を抉り取るそれは、アルゴス・ザビ・ビリーデスを飲み込む。
吸血鬼だろうとなんだろうと、文字通りひき肉にする嵐だ。故にこのアルゴスという吸血鬼とて無事では済まない。それが真実であり、事実今まで彼に挑んできた吸血鬼含める者たちは同じ結末を迎えていた。
だが、彼はそんな過去を覆す。
空気を引き裂く音と共に、巻き上げられた土煙が渦を巻いて霧散した。その先にあったのは、蹂躙され尽くした地面と――土埃一つつかず、服もその身も無傷のアルゴスだった。
一体何度このやり取りをこなしたことか。どちらも無傷でどちらも有効打を取っていない。まさしく神速であり、“一撃”必殺のドランでさえだ。まさか回避でもしているのか、防がれた手ごたえすらない。
ドランのその速さ故に彼自身も当たることはないが、このままではジリ貧。
圧倒どころか拮抗している。荒れ狂う衝撃波にも動じず、ドランを砕き散らさんとその拳を振るう。殴っては殴り返し、抉り取っては抉り返し、砕いては砕き返す。
常識的に考えればすでに
なるほど、とドランは思う。
この男、アルゴス・ザビ・ビリーデスもまた、吸血鬼の域から一歩踏み出さんとする者なのだ。ドランとはまた違う道を突き進み、
我が渇望こそが至高だと信じて止まず、己が道こそ真理だとただただ求め、願い、駆ける。我こそが唯一であると。
ククっ、とドランは小さく笑い声を溢した。
彼と自分は、唯一の道を求める者。他の道などいらない。自分の道こそが至高なのだから。だが彼も同じことを思っているだろう。
ならば。
「――叩き潰すまで!」
ドランは一歩、さらに一歩。限界の外へと足を踏み入れた。
限界まで発動する『加速と停滞を操る程度の能力』を、更に上の段階へとシフトさせる。クライスとの戦いで若干体が慣れたのか、前回のように血が噴き出すようなことはない。
時を司るレベル一歩手前まで発動された能力が、彼らの認識する世界を停止寸前にまで“停滞”させる。
「な……に……!?」
だというのに。
アルゴスは
ドランはあるべき速度で動かない、しかし動きが格段に鈍くなったアルゴスを一瞥しニヤリと笑った。
「やはりか。君の能力はそういうものか」
苦々しげに睨むアルゴスにラリアットをかます。が、ドランの腕はアルゴスの身体をすり抜けた。
「『貫通する程度の能力』、と言ったところか。“空間”を“貫通”しそこにあって無い存在となり、私の“停滞”を“貫通”して普段通りに動く。まったく、やってくれる」
クライスの時とは違い、かなり面倒だと言えるだろう。
能力の強さだけではない。能力と能力のぶつかりあいは、お互いの
つまり彼とアルゴスは同格。ただ“停滞”させたり“加速”したりするだけでは意味がない。地力が同格、ということは、打ち消し合うか、相性による勝敗のみ。貫通というアルゴスの能力上、ドランの『加速と停滞を操る程度の能力』は直接的に攻撃へ使用することが出来ない以上、若干不利である。
だがあくまで同格。ならば、どちらかが一歩前に踏み出せばどうなるか。
そんなことは決まっている。
「ふんッ!!」
ガギ――ッ!! と、空間の割れる音がした。ドランの腕が、そこにいながらそこにいないアルゴスの腹部を貫く。
「ガフ……ッ!?」
反射的にアルゴスは飛び退く。無理矢理引き抜いたドランの腕が傷口を広げ、溢れ出る鮮血量を増加させる。
が、腐っても吸血鬼。すぐさま風穴は修復される。
「バカな……! 空間ごと……? 貴様の能力は――!」
「時間を操る? 否だよアルゴス・ザビ・ビリーデス。私の能力はあくまで『加速と停滞を操る程度の能力』。能力名などほとんどの者に明かしていないから、そう思ってしまうのも無理はないだろうが」
アルゴスの勘違いは、ドランと戦う相手が文字通り動けない、傍から見ればそう見えるため、世間からは『時間を操る程度の能力』だと言われているが故だ。
だが、実際に時間へ干渉しているのは、体感時間のみ。その他はあくまで“加速”させたり“停滞”させているだけ。時間干渉ではない。第一、単なる時間干渉では、空間はいじれても破壊することは不可能だ。
時と空間は一種の概念的関係を持ってはいるが、それはお隣さん同士レベルの物。破壊や消滅が可能なほどの繋がりはない。後に紅魔館にやってくる十六夜咲夜が、紅魔館を広くするレベルでしか空間に干渉できないのがいい例だろう。
ならば何故――、アルゴスの疑問は読心するまでもなく分かりきったことだった。
「簡単な話だよ。
平然とそんなことを言いながら、おかげでこんな様だがね、とアルゴスの血ではなく自分の血で塗れた崩れかけの腕を見せた。が、妖力を軽く流すと共に、瞬時に再生する。
「さて、ではそろそろ終わらせよう。娘たちと友人が待っているのでな」
ドランは光速すら超えた速度でアルゴスの懐に潜り込む。発動する能力を全て右腕に回し、時空を突き破るほどの速度で――、
「ナ……めるなぁアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
ゴッ――! と、ドランの右腕が消し飛んだ。
「な――」
ドランは驚愕した。
腕が消し飛んだことがではない。完全にアルゴスの能力を圧倒し、完全ではない物の“停滞”させることに成功した。それはアルゴスにとって致命的な事実。だというのに、何故アルゴスは
――いや、簡単な話だ。
(彼もまた限界の先に足を踏み入れたというのか……!)
あり得ないとは言えない。彼と同じ境地にいたドランが出来たなら、アルゴスもやろうと思えば出来る、当然の事だろう。
ドランは心の中で笑みを浮かべた。
――ここにもまた、私を楽しませてくれる強者がいた!
妖力を流して右腕を再生する。未だ限界以上に発動する能力のせいか、妖力の周りが異常に速い。いや、それだけではなく、どうも妖力が増えているようだ。いつも以上に流れる妖力に心地よさすら覚える。
目の前のアルゴスに視線を集中させる。限界以上の能力使用に耐え切れなくなったらしい体から、血が噴き出している。
裂けた体中の傷が塞がると同時、ギッ、と睨みつけてくる。
「行くぞォッ!!」
叫ぶアルゴスは血に塗れた体で駆ける。
ドランとは比べようもないほどの速度であるが、それでも常識的に考えればあり得ないほどに速い。能力によって空気抵抗などの走るのに邪魔なもの全てを“貫通”し、音速の域に到達する。
対するドランはただ疾走する。余計な小細工など必要ない。全身が悲鳴を上げようとも能力は止めず、光速すら超越し、時空すら突き破るほどに加速する。
そのあまりにも速すぎる速度に体が耐え切れず、全身が裂けるような激痛がドランに走った。
だが止まることはない。止まる必要もない。
今はただただ目の前の
ズド――ッ!! と、両者が激突した。
* * *
二人の吸血鬼による決闘は終わりを迎えた。
重なり合った二つの影のうち、一つがゆらりと倒れる。
「はぁ……はぁ……――っ」
立っている一人は、その手にいまだ暖かさを保つ相手の心臓を持っている。手の中で脈動するそれは、徐々にではあるが弱弱しくなっていく。
「――楽しかったよ、ドラン・スカーレット……」
男――アルゴス・ザビ・ビリーデスは、崩れ落ちたドラン・スカーレットに目を向けながら呟いた。
「正直、危なかった。
ドランの敗因はただ一つ。アルゴスの能力が
彼の能力は、ドランの言った『貫通する程度の能力』――もっともアルゴスは『貫く程度の能力』と呼称しているが――、そして……。
「『未来予知する程度の能力』。頭が割れるかと思うほど痛くなるから、あまり使わないんだが」
アルゴスはドランがどこにどう攻撃してくるか、先の瞬間に知っていた。だからどこにどう腕を配置しておけば、吸血鬼の弱点たる心臓を抜けるか。それをあの瞬間に把握していた。
クラリ、とアルゴスは膝をつく。体内から強制的に口内へと送られた血液を吐き出す。
「クソ、さすがにキツイな……」
時空を突き破るほどになったドランを迎え撃つのは、さすがに無傷とはいかなかった。傷自体は何とかふさいだが、完全に磨り潰すつもりだったらしく立っているのもままならないほどだ。
アルゴスは倒れて動かなくなったドランから視線を外し、紅魔館へと目をやった。屋根の上に立つ女性と少女が二人、加えて黒い軍服を着た少年が目に入った。
――?
その時、アルゴスは違和感を覚えた。
どういう訳か無意識に発動した『未来予知する程度の能力』にノイズが生じるのだ。
おそらく女性と少年が少女たちの護衛なのだろう、と考えたアルゴスは、二人の取る行動を予知して先に潰してしまおう、と考えたのだが、何やら予知し辛い。
いや、それだけではなく、予知し直すと
(何が起きているんだ……)
ドランとの戦闘では生じなかったことだ。おそらくあの四人の誰かが、能力を妨害する能力を持っているのだろう、とアルゴスは考えた。となると中途半端な結果的に少女二人のどちらかだろうか。それとも他二人? 能力妨害などと言う能力は確かに強力だし、未だコントロールしきれていない可能性も捨てきることは出来ないと言えば出来ないかもしれない。
ならば、とアルゴスは結んだ拳を解く。そして一閃した。
予知された未来を一つ選び、四人とも同時に倒してしまおうという考えだった。スカーレットを一掃してしまえば、噂を聞きつけた強者が自分に挑みに来るかもしれない、そんな本音もあった。
結果として――少年の右腕を
「なッ!?」
それはあり得ないはずだった。
彼の『貫く程度の能力』はあらゆるものを貫く。それは概念だろうとなんだろうと関係はない。あらゆる防御を貫通し、どんな攻撃も突き抜ける矛盾のないまさしく最強の矛。
それが、全員の首を一瞬で刈るはずの一撃が、ただ右腕に
「まさか――僕の防御を抜いてくるとは思わなかったな」
ゾクっ、と背筋が凍った。
反射的に真横へ飛び退く。同時、先ほどまでいた場所が
「どんな能力も聖遺物の使徒の霊的装甲を貫くなんて出来ないと思っていたよ。この装甲は、聖遺物によってでしか貫通できない、ってのが常識だったんだけど――まさか
そこいたのは少年だった。先ほどまで紅魔館の屋根の上で観戦していた四人のうちの一人。
少年は漆黒の軍服と赤い腕章を揺らしながら、こちらへ体ごと視線を向けてくる。
「……なるほど。君がそうなのか」
その時にはすでにアルゴスは理解していた。
彼が吸血鬼最強たるドラン・スカーレットを打倒したという人間なのだろう。
そもそも今回吸血鬼達がスカーレット打倒、などと無謀なことを考え出したのは、スカーレットが殺されずとも人間に倒された、という噂がどこからともなく流れてきたからだった。
アルゴスは正直信じてもいなかったが、同族の中で最強を
「くッくくく……」
目の前の人間がそうなのだと思うと、思わず笑みが零れた。
頭痛を無視して彼の未来を予知しようにもノイズが走る。なるほど、彼が先の原因という訳だ。
「俺は君と……戦ってみたい。吸血鬼最強を打倒した君と」
「……なるほど、
年下に見える彼は、しかし同年代のような口ぶりで苦笑する。
「安心するといいよ。その気がなければわざわざ出てきはしないから」
瞬間、膨大な殺気が少年から溢れ出た。
身震いがした。恐怖によるものではない。これはまさしく興奮。興奮だ。自分は興奮を覚えている。この少年が強者であることを理解したからだ。それを思えば思うほど興奮が高まる。
彼はドランと同等、否、それ以上の強者だ。自分よりも各上の存在。彼がもっとも望んでいた相手。
「俺の名はアルゴス・ザビ・ビリーデス。俺は君のような存在と戦いたかったッ!」
ドッ――! と、アルゴスが地を蹴る。土煙が彼の背後に大量に舞った。
少年へ拳を叩きつける。絶対必中の一撃だ。それは確かに命中した。だがそれは貫通とまで行くことはなく、ただ彼の腕に傷をつけ軽く出血させるに止まってしまう。それだけアルゴスの興奮は更に高まった。今までの連中なら受け止めることなど出来なかったのだ。
「悪いけど……」
アルゴスの興奮に対し、少年は冷えた声で言った。
「満足するまで付き合う気はないよ」
我が剣はあらゆる全てを打ち砕く
Mein Schwert zerschlägt all aller.
ゾワリ、と周囲の空気が変質するのをアルゴスは感じた。
――なんだ……? 一体何が……。
故に 呪いを織り込まれた原初の掟を記す
Deshalb, das bleibende Seil, in dem die Regel des Ursprunges, in der der Fluch gewebt wurde, beschrieben wird
それすらも斬り裂いて見せるだろう
es, es will Schnitt, Träne und Show
彼が言葉を紡ぐのと、空気が異常な速度で変質していくのは平行していた。悪寒が走る。これは……恐怖? 俺は恐怖を覚えているのか?
呪いを警告する龍でさえ 我に恐怖を教えることは出来ない
Sogar der Drachen, der vor einem Fluch warnt, kann keine Angst zu Selbst unterrichten.
指輪が世界の支配権を授けようとも
Auch wenn ein Ring die Kontrolle in der Welt gewährt
愛さえ得れるならば 喜んであなたに譲ろう
Wenn Liebe gegeben wird, werde ich es Ihnen geben.
少年の両腕に装備された漆黒の籠手が淡く光った気がした。一見して聖なる光のごとく黄金に光るそれはしかし、邪悪な光であることは一目瞭然だった。
数多の魂で形成された邪悪で聖なる光。それは周囲を包もうとするがごとく広がっていく。
だが我を脅かし 我が愛しき者を脅かすならば
Aber es ist, wenn selbst gedroht wird, und meiner Lieblingsperson wird gedroht.
アルゴスは理解した。
これは完成させてはならない。完成させてしまえば己が敗北が決定される。未来予知でもなんでもない、まさしく直感。
ほとんど反射的に拳を振るった。だがそれはあえなく少年の手に受け止められる。と同時に邪悪な何かが自分の身体を
指輪に触れることなど許しはしない
Einen Ring zu berühren, erlaubt es nicht.
護るためならば 命も体も 捨て去って見せよう
Ich werde ein Leben und den Körper weg werfen, in zu schützen.
邪悪な黄金の光が広がる――。
神世界・勝利の剣
Asgard Victorious
少年が言い終えると同時だった。
視界がブレ、いつの間にか体が宙を浮いていた。
* * *
クライスェア・ヴァーンヘリアスは、物心ついた時から不快な感覚を感じていた。
誰かに触れられているような、何もないはずなのに何かに
嫌だった。
どこまでもどこまでもどこまでもついてきて触れてくる。次の日になろうと来年になろうとそれは変わらず、変化することはない。
彼は他人に触れらることすら不快になった。気持ちが悪いのだ。触れられただけで自分が
触るな、触れるな、何故触れる、何故纏わりつく。一人にしてくれ――。
気が狂いそうになった。
そんな時、抱きしめてくれた母親の暖かさを覚えている。
その時だけは不快など感じることはなく、ただただ安心だけを覚えていた。
気づいた。
自分を心から愛し、そして自分が愛せる人にだけは不快を感じない。今まで何度も触れられてきたが、周りの不快にばかり目が行って気づかなかった。
その時から抱いてきた渇望は今でも自分の心にあり、そしてそれはある種の狂気へと変わっている。
ある種の精神破綻者であることに自覚はあるし、ある意味自分が狂っていることなど誰かに言われるまでもない事だ。
それでも構わないと思った。愛など元々狂気的でしかないのだ。自分の“愛”が狂っているからどうと言われて気にする必要などない。言った本人ですら、その“愛”は狂っているのだから。
どこまでもどこまでも思い続けて考え続けて渇望し続けてきた。その渇望を幻想とし現実とし、理として創造する。
『愛しきモノ以外に
それを体現する。それが彼の渇望の結末――。
彼を縛る何もかも、すでに彼を縛り付けることは出来ない。
神世界・勝利の剣
Asgard Victorious
聖槍十三騎士団、黒円卓第零位、大隊長。
クライスェア・ヴァーンヘリアス=
黒円卓最弱。故に最強たる第零位。
裏切り者を断罪する、総首領二人と肩を並べると言われる黒円卓の裏だけの存在。
「“敵”で僕に勝てる奴はいない。君は僕の
その瞬間。
アルゴスはクライスの未来を完全に予知出来なくなった。
それと同時に、彼がこの世から文字どおり消滅しなければならない未来が確定したのも、その瞬間だった。
* * *
ドラン・スカーレットは奇跡的に生きていた。
心臓を潰されてなお、なけなしの妖力で能力を使い、己が時間を“停滞”させ、死へ向かう時間を緩くしていたようだ。再生時間だけは加速させ心臓を再生させようと試みていたようだが、自分の時間に対する“停滞”と“加速”、同時に干渉したせいで、再生が一瞬で済む、という事はなかった。
彼は確かに生きて帰った。
だが確かに傷は深かったようで、衰えはその日を境に急激に進行した。
自分の死を予見しての事なのだろうか、クライスをスカーレット家が執事長に任命した。そして執事としての名も。
スカーレットの最高の盾――九重宗次朗、と。
クライスが九重宗次朗となった翌年。
ドラン・スカーレットはこの世を去った。
時空を突き破るほど加速、ってどんだけ速いのかな。光速は超えてるよね、多分。
光のドップラー効果って、青白い光だか線だかが見えるって物理の先生言ってた気がするから、某星戦争シリーズのワープは光より速く飛んでたんだろうか。
とりあえずそれで速くなれば時空を突き破れるんじゃね、って思ったんだけど。
てかそのくらいしないとドランがアルゴスにボコられちゃうし。能力的な相性多分悪いからね。
ってわけで、次回は……第十四話? 投稿します。
ではまた次回!
あとがき 《改》前の第八話より
正直、最初アルゴス・ザビ・ビリーデス、通称ビビりさんのこと転生者にでもしちゃおっかなー、って考えてたんですよね。
神様製の能力なら、霊的装甲貫いても不思議じゃないかな、って。
でもここで転生者だすと、後々何人かそんな感じで出さなきゃかな、って思ってやめました。オリキャラはただオリキャラで終わっておけばいいかなって。
クライスの昔思ってたことを考えると、途中までかの第六天波旬と若干の共通点があるのかなー、って個人的に思ってます。途中から変わってはいますけど、一人になりたい、って思っていたんだし。
渇望からして、愛しきモノがこの世に存在しなければ、若干の違いはあるでしょうがある意味波旬と同じような感じだったんじゃないかな。
細かいところを挙げれば全然違うんでしょうけど、自分以外に何かがあるのが嫌だ、って確かにクライスは途中まで思っていたんですから。
度合いは違うのかもしれませんけどねw
サブタイで言ってるとおり、ぶっちゃけDies iraeとか神咒神威神楽とか知ってしまうと、今まで強いと思ってたものがそうでもなく思えてきました。
タグに「チート」ってついてても、「そうでもないんだろ」とか思ってしまう私はおかしいんですかね。それとも神様シリーズと比べること自体あれなのかな。チートのインフレですもんね、アレ。
だって某剣だらけの固有結界だって、剣いっぱいあるだけだし。アーサー王の剣だ英雄王の宝具だなんだって言ったって……ねぇ?
それで水銀の蛇とか黄金の獣レベルの戦闘繰り広げられますか、って聞かれたら、少なくとも私は無理だと答えると思うかな。
あっちは宇宙が壊れるとか並行宇宙だか並行世界だかが巻き込まれて壊れるだとか、そういうレベルだしね。
英雄王のグルグル剣なら頑張れば世界の一個くらい壊せそうな気はするけど……せいぜいそれ止まりだよね。
あ、何語ってんだろうね。私。あとがきじゃないしw
なんかあとがき長くなっちゃってごめんなさい!
ではまた次回!