東方守護執事   作:結城勇気

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 初めての連続投稿!

 ようやく昔話から戻って日常へ!




第九話「小さいカエルは可愛いけど、大きいのはちょっと勘弁」 Side 宗次朗

 ふぅ、と僕は息を一つ吐いた。

 

 あの頃のことを話し始めてから終えるまで、一時間か二時間くらいだろうか。時計を見たわけじゃないのでそんなに経っていない可能性もあるけれど、なんとなく体感時間的に長く感じられた。

 

 アルゴス・ザビ……なんか面倒だな。若干言いにくいし。もうビビりさんでいいや。

 ビビりさんは僕が殺した。磨り潰して踏み潰してグチャグチャにして踏んで消した。ちなみに比喩は使ってないよ。

 

 別にドランをボコられたことにキレていたわけじゃない。あれは彼が自分の意志で戦い、結果として負け、ああなっただけだ。僕がそこに自分の感情を挟むのは筋違いだ。ビビりさんだって、一応は正々堂々と戦っていたのだし。

 

 怒っていたのは、レミリアお嬢様達に手を出したこと。

 

 ただあのまま帰ってしまえばよかったのに、アイツは手を出した。生憎(あいにく)僕は“友人”や“仲間”、“家族”に手を出した奴に、一滴でも情けをかけるほど甘くない。

 

 正直もっと苦しめてやっても良かったんだけど、あの時はまだ僕の『程度の能力』には気づいてなかったから……仕方なくさらっと殺した。

 

 ――っと。そんなことはどうでもいいね。主役にも脇役にもなれない奴(モブキャラ)の話をしていてもつまらないし。

 

 目の前にティーカップに入っている残りの紅茶を飲みほして、もう一度一息つく。

 

「うーん……」

 

 何やらフランが唸りながら首を右へ左へと傾けている。

 

 二人きりじゃない今、僕は執事モードで、

「どうかしたんですか? お嬢様」

「んー。どうってことじゃないんだけどねー」

 

 フランはつまらなそうな顔をした。

 

「なーんか。あんまりビビりが強く思えないんだけど」

 

 え、なんで。ていうかフランにもビビりで定着してるし。

 

「宗次朗が強すぎるんだよっ! お父様もビビりも普通ならかなり強いはずなのに、宗次朗が規格外過ぎて全然強そうに感じられないんだよっ!」

 

 そ、そんな事を言われても困るんだけどなぁ。

 

 それに、言ってもしょうがないとは思うけど、規格外は黒円卓全員じゃないだろうか。

 

 いくら妖怪でも吸血鬼でも、戦車の主砲が直撃すればただでは済まないだろう。というかさすがに一発で死ぬだろうと思う。吸血鬼はともかく。

 

 だが黒円卓の連中は僕を含めて現代兵器なんてまず効かない。胸にSの文字が書かれたヒーローのように顔面に銃弾を受けようとも動じないだろうし、例に出した戦車の主砲だって効かないだろう。下手すれば核を受けても無傷でいられるかもしれない。

 

 第一、一番の規格外は総首領二人でしょ、常識的に考えて。

 

「まぁ、そんなことを言ってもしょうがないでしょう。今に始まった話じゃないわ」

 

 褒めているのか否かイマイチ分かり辛い事を言うレミリアお嬢様は、空のティーカップをコトリ、とテーブルに置いた。それとほぼ同時、いつの間にか復活していた咲夜がティーポットから二杯目を注ぐ。お嬢様はありがとう、と一言告げ、手に取り一口。

 

 咲夜は一礼して、ふっとこの場から消えた。空になったポテトチップス器もない。

 

 そろそろ夕食の準備をするのだろう。時計をちらと見てみれば、あと十数分で四時になるところだ。食材の下ごしらえから何まで含めて六人分こなす――時間的に妥当な頃だった。夕食開始時間は六時から七時の間だろうか。いや、咲夜の事だし六時きっかりに開始できるよう終えるかもしれない。

 

「あら。もう支度の時間なのね」

 

 時間に気づいたらしいレミリアお嬢様は言う。器を咲夜が持っていく前に取ったポテトチップス一枚を口に放り、咀嚼(そしゃく)する。

 

「お嬢様方は夕食までどうなさいます?」

「そうねぇ……」

 

 レミリアお嬢様は顎に手を当てて考える素振りを見せる。

 

「私はここでしばらく紅茶を飲んでいるわ」

「じゃあ……」

「宗次朗はフランと居なさい。紅茶くらい一人でも飲めるし、いざとなったら咲夜を呼ぶから。昼間やる仕事はもう終えているのでしょう?」

「えぇ、まぁ」

「だったら休憩時間がてらそうしなさい。必要なら呼ぶから。いいわね?」

 

 断る理由もないので首肯する。

 

「じゃあ行こっ、宗次朗!」

「はい、お嬢様」

 

 腕に抱きつくフランを連れて、僕はテラスを後にした。

 

 

 

 

      *  *  *

 

 

 

 

 人里にデートしにいくにも夕食までの時間を考えると若干時間不足だ。かといって部屋にいても仕方がないし、適当に周辺の森に散歩しに行くことにした。僕の能力があれば必要ないので、日傘は持ってきていない。

 

 ふらりふらりと森の中をフランと歩く。外で言うようなデートとは若干違うかもしれないけれど、僕に不満はない。例え廃れた遊園地にいようと、彼女となら楽しくなること間違いない。

 

 僕の隣でフランは鼻歌を歌いながら、僕の腕に自分の腕を絡め歩いている。彼女の髪が揺れるたびに、ある種の酔いを誘う女の子特有のいい匂いが嗅覚(きゅうかく)をくすぐってくる。時折僕の腕に頬ずりしてくる時も然りだった。

 

 というか、いわゆる「当ててるのよ」という奴なのか、手の甲に彼女の発展途上な、しかし確かに女性の柔らかさを持つ胸が押し当てられている。ついでにやけに艶めかしい吐息も(こぼ)している。

 

 正直理性がガリガリ削れていくので勘弁してほしい。こんなところで襲いたくない。フランのあんな姿やこんな姿は僕だけの物で良い。独占欲でもなんでもいい、妖精だろうと自我の無い下級妖怪だろうと、僕以外になど見せたくない。

 

 ま、口にはせずに我慢するんだけど。がんばれ僕の理性。このくらいでくたばるんじゃない。これ以上の誘惑なら紅魔館でいくらでも受けてきたはずだっ。

 

「ねぇ宗次朗」

 

 僕の気持ちを知ってか知らずか、機嫌よさ気な笑顔を浮かべるフランが僕に視線を向けた。

 

「よく考えたら久々だよね、この森に散歩に来るのって」

 

 妖怪の感覚で久々、というのかは分からないが――僕も妖怪並みに長生きではあるけど、種族的には一応人間だからね――、確かにここに来るのは数か月ぶりだ。デートと言えば大体人里に行ったり、太陽の畑に行ったり、迷いの竹林に行ったりと、多少の遠出をすることが多くて近場にいくことはほとんどなかった。紅魔館を囲むこの森にも。

 

「幻想郷に来て最初のデートがここだったね」

「そうそう!」

 

 あぁ、あの時は大変だったなぁ。新参者だった僕たちに興味津々な妖精たちの、イタズラという名の襲撃。数匹とかそういうレベルじゃなくて、数十数百レベルだ。いや、数百はないか。でも一〇〇匹近くいたのは確かだったと思う。

 

 まったく。妖精達ときたら数で攻めてくるもんだから対処に困ったよ。全部吹っ飛ばしても良かったんだけど、幻想郷に来て一年も経ってない時期だったからあんまり騒ぎは起こしたくなかった。

 

 あ、いや、レミリアお嬢様達が幻想郷を支配するために異変を起こしたりはしてたけど、それは置いておこう。

 

 あぁ、今思い出しても偉い、もとい、けしからん妖精達だった。フランのスカートを(めく)ってみたり、フランをびしょ濡れにしてみたり、フランの服を剥ぎ取ってみたり――。

 

 と、思い出したら鼻の奥が熱くなってきたのでやめた。危ない危ない、こんなところで愛を溢すのはちょっとカッコ悪い。

 

 あ、ちなみに何故か僕にはあんまり寄り付かなかったんだよね。ネクタイを取ってくくらいしかしてこなかったし。どっちが危険かで判断したのか、それとも何かあるのか。今でも分かってない。

 

「あ!」

 

 隣でフランが声を上げた。

 

 彼女の視線の先には、湖があった。開けた場所にあるわけじゃないからか、小さ目ではあるけど、湖と言えるくらいの大きさは確かにあった。

 

 そしてそこにいる二匹の妖精。

 

「見てなさいよ大ちゃん! えいやっ!」

 

 片方は水色の髪をした妖精。背には氷の羽を生やし(?)、水色のワンピースを着た少女の姿をしている。

 

 少女は両手を目の前にいるカエルに突き出していた。瞬間、パキン! と、カエルが氷の塊と化した。

 

 隣にいる大ちゃんと呼ばれた緑髪の妖精がそれを見てオロオロしている中、周囲にいたカエルたちが必死に逃げ惑う。ちなみに彼女たちの周りには、他にも凍ったカエルやら、失敗したらしく砕けてしまったカエルやらが散らばっている。

 

「待てーっ! 逃げるんじゃないわよぉーッ!」

「ち、チルノちゃん、もう止めようよ。カエルさんが可愛そうだよ」

「大丈夫よ別に! こら待てーっ!」

 

 水色髪の妖精、チルノはカエルを追いかけ始めた。大ちゃんこと大妖精はその場にふわふわと浮いたまま、チルノちゃぁん! と、チルノを何とか止めようとしている。

 

 はぁ……まったく。

 

「ほら、チルノ。やめなって」

 

 ペシッ、とフランを抱えてチルノの前に回りこんだ僕は、その可愛らしい額にデコピンを軽く打ってやった。が、チルノは大袈裟にいったぁ!? と、大きく仰け反り尻餅(しりもち)をついた。

 

 目の前に出てやっと僕達に気づいたらしい大ちゃんが、「宗次朗さん! フランちゃん!」と嬉しそうに近づいてきた。

 

 フランを下ろすと、チルノが僕達の足元で騒ぐ。

 

「ちょっと宗次朗! 何すんのよぉっ!!」

 

 キッと睨んでくるけど、まったく怯まない。ていうか逆に可愛いだけだし。

 

「前に好き放題カエルを凍らせちゃダメだ、って言ったろ? 忘れたの?」

「うっ……わ、忘れてないわよっ」

「じゃあその辺に散乱してる氷の塊はなんだろうね? カエルが凍ってたり砕けてたりしてるみたいだけど」

「うぅっ……」

 

 笑顔で言う僕の顔は、どうも怖かったらしい。チルノも顔色を真っ青にして涙目になっているし、矛先を向けていない大ちゃんも若干震えている。

 

 はぁっ、僕はため息を一つ漏らした。

 

「チルノ、次はお仕置きだからね。いつもの」

「えぇッ!? い、嫌よ! 宗次朗のおしり叩き痛いもんっ!」

「だって何度も約束を守る子にはちゃんと(しつ)けないとダメだろ?」

 

 正直好き勝手に命を奪うな、などと僕が言えた義理ではないことくらいは理解しているが、それでれも彼女はまだまだ子供っぽい。ちゃんと躾けておかないと大変なことになるかもしれない。

 

 その時、僕の真横から殺気が飛んできた。

 

「……宗次朗、チルノにそんなことしてたの?」

 

 真紅の瞳をギラリと光らせながら、目を細めてフランは言う。森がざわつく程濃厚な殺気が僕に集中して向けられている。

 

 ゾクリと、僕の背筋に冷たいものが走った。

 

「あ、いや、ぼ、僕だって好きでやっては――」

「うぅうううううううううううううう……!」

 

 や、ヤバい。これはヤバい……ッ。フランの怒気がオーラに見えるほどに膨れ上がっているッ!

 

 僕は反射的に土下座していた。プライドなんて知ったことか。フランが不機嫌だとすっごく怖いんだっ! それはもう蛇ににらまれたカエルとなってしまうくらいに!

 

「ど、どうかそのお怒りをお沈めくださいフラン様……! なんでも言う事聞きますから!」

 

 あぁ、もはやこのセリフ何度言っただろう。フランが不機嫌になるたびに言ってるから、もう十数回なんてレベルじゃない気がする。少なくとも一年に五回は言ってるはずだ。

 

「うぅううう……! 絶対だよ!」

「はいっ、絶対です!」

 

 チルノが爆笑しているのが聞こえるけど、今は無視無視。

 

「じゃあ……許してあげる」

 

 きゅっ、と抱きついてくるフランを抱きしめ返す。柔らかい彼女の感触が体中に染み渡ってくるのが分かった。

 

「うわぁ~……相変わらずラブラブですねー」

 

 大ちゃんが頬を染めながら言う。

 

「だって恋人どうしだもんっ」

 

 機嫌が直ったらしいフランは、笑顔で大ちゃんに返した。

 

 ……いやはや、女性の感情の起伏と言うか動きと言うか。そういうのってきっと、男には一生分からない事なんだろうなぁ。男の一生抱える謎だよ、女性っていうのは。

 

「あ、宗次朗」

 

 と、フラン。

 

「そろそろ帰らないとご飯に間に合わないかも」

「あ、ほんとだ」

 

 見ればもう黄昏時も過ぎようとしている。気が付かないうちに結構時間が経っていたみたいだ。湖に移る去り際の夕陽が暗くなってきている。

 

「じゃ、チルノ、大ちゃん。久しぶりに会ってすぐで悪いんだけど、もう帰るね」

「えーっ! もう帰るの!?」

 

 チルノが不満そうな顔をする。そんな顔されてもしょうがないものはしょうがない。

 

「チルノちゃんダメだよ、無理に引き留めたら宗次朗さん達に迷惑掛かっちゃうよっ」

「うぅうう……しょうがないわね。また来なさいよっ!」

 

 ごめんねー、とフランが申し訳なさそうに言った。

 

 名残惜しくも、僕らは湖を後にした。

 

 

 

 




 正直、大妖精こと大ちゃんがどんな口調なのかわからん。

 別の方が書いている東方モノで考えて、チルノ以外には大体敬語なのかなー、って思って、一応宗次朗たちには敬語使わせてますけど……どうなのかな。



 今更の愚痴ではあるけれど、オリジナルの詠唱作るの大変だよ。特にDies iraeみたいなのだと特に。

 二つ名がニーベルングだから、それ系統で探してやっと元になるのを見つけたけど、中々面倒だった……。

 そういえば、少佐ことエレオノーレと同じところに元があったことにびっくりした。ジークフリートの出てくる話、でいいのかな。「神々の黄昏」っていう作品から元を取らせて貰ったんだけど、探してる中で『焦熱世界・激痛の剣』の詠唱の元があったんだよね。

 いやー、びっくりした。

 では、また次回!
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